2019年に「働き方改革関連法」が施行されて以降、世の中には「働き方改革」という言葉は浸透してきました。

そこで今回は、様々な企業に働き方改革コンサルティングを提供されている小室淑恵さんにインタビューを実施し、働き方改革を実践するために「勤務間インターバル制度」という制度についてお話しいただきました。この制度、実は企業にも労働者にもいいことばかりの制度なのだとか!

小室淑恵さん

株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長。
2006年に起業以降、約3,000社の企業や自治体などに働き方改革コンサルティングを提供。講演依頼も多く、全国各地で年200回以上の講演活動を行っている。

働き方改革を実践!「勤務間インターバル制度」とは?

――小室さんがこれまでに働き方改革コンサルティングをされてきたのは、どのような企業ですか?

小室: 大企業から、中小企業、従業員数10~20人の小規模事業者まで様々な規模の企業を約3,000社支援してきました。業種も、建設業、運輸業、メディアや金融業、製造業、飲食業、エネルギー系の企業など、とても幅広いですね。企業によって抱える課題は異なりますが、近年は「勤務間インターバル制度」の導入支援を行うことで、効果的な働き方改革が実現することを実感しています。

――「勤務間インターバル制度」とは、どのような制度なのでしょうか?

小室: 1日の勤務を終えて、翌日出社するまでの間に、一定時間以上の休息時間を設けましょうという制度です。たとえば11時間の場合、その内訳例としては、睡眠に7時間、前後の1時間は食事やお風呂などの生活時間、そして通勤時間となります。

私としては、これらの時間を合計し、最低でも11時間のインターバルをすべての人に保障することを推奨しています。

~勤務間インターバル制度を導入すると……?~

勤務終了後、翌日の出勤までに一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く人の生活時間や睡眠時間を確保する制度。この制度の導入により、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることが可能と考えられている。

――現在の日本では、勤務間インターバル制度の導入率はどのぐらいなのでしょうか?

小室: 2019年から努力義務になっていますが、導入率は5.8%(2022年1月1日時点)に留まっています。「2025年までに15%」という目標には程遠い状態です。

――なぜ、今「勤務間インターバル制度」が必要なのでしょうか?

小室: 日本の企業には、かつて「寝ずに働く企業が勝つ」という価値観がありました。その価値観には人口の構造が大きく影響しています。1960年代から1990年代の日本は高度経済成長期で「人口ボーナス期(1)」だったのです。生産年齢の人口比率が高く、高齢者の比率は少ない。人口が経済にボーナスをくれるような美味しい時期でした。

この時期は①男性ばかりで②長時間労働をして③均一な人材で意思決定をすると、大量生産社会で勝つことができる、国が爆発的に経済発展できるという時期なのです。しかし、今はもうボーナス期は終わりました。新しい働き方に転換することが必要であり、そのカギが「勤務間インターバル制度」なのです。

※1 人口ボーナス期について詳しくはこちら

――「人口ボーナス期」に比べると、今はどのような状態なのですか?

小室: 現代は「人口オーナス期(2)」です(オーナスとは主に「負担」という意味)。高齢者の比率が高い社会になり、人口構造がその国の経済に重荷になる時期です。このオーナス期に勝つ働き方は、ボーナス期の真逆のルールになります。

①男女問わず働ける人材をいかにフル活用するかが問われます。②人口ボーナス期と違って育児や介護をしながら働く人が大半なので、限られた労働時間の中で成果を出すことが求められます。③今までにない、イノベーティブで付加価値の高い商品・サービスを生み出さないと勝てないので、多様な人材でフラットに議論することが必須となります。

出典元:株式会社ワーク・ライフバランス資料
※2 人口オーナス期について詳しくはこちら

――しかし多くの経営者は人口ボーナス期に強い成功体験を持っており、人事担当者が「勤務間インターバル制度」を導入したいと伝えても中々意義を理解しないのではないでしょうか?

小室: そうなのです。従業員がしっかり睡眠なんか取っていたら競争に負けるのではないかと思っています。だから経営者層にこそ人口ボーナス期とオーナス期の戦い方の違いを研修し、「働き方を変えなければ我が社は勝てないのだ」ということを腹落ちさせることが重要です。

小室: このとき、政府の方針書『骨太の方針2023』『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画』『女性活躍・男女共同参画の重点方針2023』も「勤務間インターバル制度の普及を図ることとされていることを伝え、「政府でも導入の促進をしている制度ですので、この波に乗らないと我が社が取り残されます」と報告することもお勧めします。経営者は法改正を先取りしなくてはという点に敏感です。

実際の働き方にどんな影響が? 導入事例をご紹介

――制度の魅力についてもっと伺いたいのですが、「勤務間インターバル制度」を実際に取り入れると労働者にはどのような良い影響があるのですか?

小室: 労働者の満足度が上がる施策といえば、基本給や賞与のアップだと思いがちですよね。しかし、調査をした結果「勤務間インターバル制度」の導入により労働時間が減ったことに対する満足度が最も高いとわかりました。基本給や賞与のアップは一時的な喜びであるのに対して、労働時間の減少は長期的に喜びを感じられるためですね。

――小室さんがコンサルティングを担当された企業のなかで、「勤務間インターバル制度」の導入により働き方が改善した事例を教えてください。

小室:

関東を中心に展開している寿司チェーン店『銚子丸』さんの事例をご紹介します。『銚子丸』さんでは、以前は離職率の高さが大きな問題になっていました。しかし、弊社が働き方改革に一緒に取り組んでからは売り上げも働きやすさも向上し、課題だった離職率の高さは大幅に改善しています。

――具体的には、どのような改革を行われたのですか?

小室: 営業終了の時間を、22時から21時に変更し、翌朝の出勤時間までに11時間のインターバルを設けるようにしました。当初「営業時間が減ると売り上げもさがるのでは?」と懸念されましたが、結果的に「過去最低の残業時間で過去最高の売り上げ」となりました。
具体的な取り組みとしては、私たちが提供するコンサルティング手法の「カエル会議」を何度も行いました。「仕事を振り返る」「働き方を変える」「早く帰る」「人生を変える」ために職場の人同士が役職や肩書を気にせずフラットに意見を出し合える会議の手法です。

~カエル会議とは?~

小室: 『銚子丸』さんの場合はこの会議の結果、パートさんも含めた現場からの闊達なアイデア出しが実現し、聖域なく今までのやり方を見直していきました。

その結果、お土産の売り上げを向上させたり、魚の買い付けや研修をオンライン化させ労働時間を大幅に短縮させたりすることで、増益と働きやすさの向上に成功したのです。何より毎日7時間きちんと睡眠をとって接客することが、接客の質の向上につながり、お客様満足度もあがる結果となりました。

――労働時間が減ると売り上げが減ると言う思い込みに囚われずにやってみることが大切なのですね。他にも、働き方の改善に成功した事例を教えてください。

小室: 新潟県にある『サカタ製作所』さんの事例をご紹介します。こちらでは、現在の業務内容を徹底的に棚卸しをして「その人にしかできない」状態である“仕事の属人化”を解消しました。

これによって「誰が休んでも回る職場づくり」を実現することができました。取組以降は、ずっと月間の平均残業時間はひとり1~2時間になりました。日割り計算をすると、1日3分間の残業というわずかな時間です。

小室: 男性従業員の育児休業取得率は5年連続で100%達成しています。直近では、男性の育休の取得日数は平均150日、つまり5か月にも上っている状態です。夫がしっかりと育児・家事に参画できる時間に継続して帰宅できる環境をつくった結果、従業員のご家庭に生まれた子どもの数が増えたとの報告も受けています。

――ここまでのお話を聞くと、ぜひ導入したい素晴らしい制度ですね! では、導入に踏み切れない企業にはどのような事情があるのでしょうか?

小室: 導入できない主な要因は“仕事の属人化”にあります。特定の仕事をひとりの人が抱え込んだ状態で勤務間インターバルを導入すると、どうしても立ち行かなくなってしまうのです。この状況を打破するために何よりも必要なのは、従業員一人ひとりの業務内容を“見える化”することです。弊社がおすすめしているのは、30分単位で業務を“見える化”させて、周囲と共有する方法です。そして、その人にしかできない仕事がある場合は社内で勉強会を行い、チームメンバーに作業を割り振れる状態を作ることが重要です。

会議が長すぎる、課長がいつまでも帰らないから帰りにくい、など本音を言いづらい内容が原因となっていることもあります。そういった場合は、オンラインでの意見出しも推奨しています。私たちはオンライン上で匿名の意見を出すことができ、匿名でそれに「いいね」ボタンを押せる仕組みを良く使っています。すると忖度のない意見を集めて、職場の真の問題解決に向けた話し合いができます。

コンサルタントへの相談や助成金の申請で、真の働き方改革を始めよう!

――改めてになりますが、コンサルタントの立場から見た「勤務間インターバル制度」の魅力を教えてください。

小室: せっかく働き方改革をするのであれば、従業員の健康と職場の生産性向上に直結するやりかたをしていただきたいのです。2019年に施行された働き方改革関連法では、「月間の残業時間は45時間まで」という法令が注目を集めました。しかし、月間の労働時間管理をする働き方改革では月の前半は何日も残業をし、月末に急に「早く帰れよ!」といわれるだけです。これでは一日毎の睡眠時間が継続して7時間取れるような生活にはならないので、集中力・生産性の向上には寄与しません。メンタル疾患の予防にもなりません。

それに対して「勤務間インターバル制度」は、1日ごとに7時間の睡眠がとれる環境を守るので、脳と心の健全性を担保することができます。また、毎日業務間を11時間空けることで、それまで属人化していた業務が見える化・共有化されて、職場全体で仕事のパス回しがスムーズになり、生産性があがる。こうしたことから、従業員にも企業にもメリットばかりなんです。ここが一番の魅力ですね。

――最後に、小室さんのようなコンサルタントに相談するメリットと、相談方法について教えていただけますか?

小室: 「勤務間インターバル制度」は、就業規則にただ記入するだけでは、機能しません。社会保険労務士の方や、私たちのようなコンサルタントと一緒に、問題の根本から解決していくことで実質的な改善ができるのです。

小室: また、厚生労働省でも勤務間インターバル制度の導入に関するアウトリーチ型コンサルティングも行っていますし、都道府県労働局に配置されている「働き方・休み方改善コンサルタント」による支援もありますので、こちらを活用されるのもよいと思います。

「働き方・休み方改善コンサルタント」に
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さらに、働き方改革推進支援助成金の「勤務間インターバル導入コース」というものもあります。支給対象となるのは中小企業事業主で、労務管理担当者や労働者に対する研修、外部専門家によるコンサルティング、就業規則の作成など、勤務間インターバル制度を導入するための取り組みに対して上限100万円(3)の助成金が支給されます。

交付申請期限は2023年の11月30日ですので、このコースにぜひ申し込みをなさって、組織の働き方改革を始めていただければと思います。

※3 11時間以上の勤務間インターバル制度を導入した場合の上限額です。9時間以上11時間未満の勤務間インターバル制度を導入した場合は、80万円が上限額です。

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もっと学びたい方のためのセミナー動画&サービスをご紹介

労働者にも企業にもメリットが盛りだくさんの「勤務間インターバル制度」。すぐにでもコンサルタントに相談していただきたいところですが、もう少し自分で学んでみたいと思われた方もいらっしゃるはず。そんな方には、無料で視聴できる『勤務間インターバル制度導入促進シンポジウム』がおすすめです。下記リンクから過去のシンポジウムをご視聴いただけますので、ぜひクリックしてみてくださいね!

「勤務間インターバル制度」について
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さらに、日本能率協会マネジメントセンターによる、社労士派遣も実施しております。「勤務間インターバル制度についてもっと知りたい」「導入に向けてアドバイスが欲しい」という方はぜひこちらのメールアドレス(interval@jmam.co.jp)に連絡してみてくださいね。

[PR]提供:日本能率協会マネジメントセンター