カシオ計算機から「2023年 FROGMAN/DW-6300レストアサービス」の実施要項が発表された。詳しくは別記事にゆずるが、その骨子は”G-SHOCKのダイバーズモデルFROGMAN(フロッグマン)「DW-6300」の外装(ベゼルやバンド)をできる限り復元して、再び腕に着けられる状態にする”もの。料金は22,000円(税別・以下同)で、受付期間は2023年11月30日までとなる。 ちなみに、レストアサービスは2018年11月、G-SHOCK初号機「DW-5000C」を対象に実施された第1回(https://news.mynavi.jp/article/20181031-casio/ )、 2021年10月、DW-5000系の8モデルを対象に実施された第2回 (https://news.mynavi.jp/kikaku/20211213-2226559/ )に続き、今回で3回目となる。
この企画と実施を統轄する部署は品質統轄部。普段はG-SHOCKをはじめ、カシオ全時計製品の品質管理や品質保証業務を担っている。そこで今回は、品質統轄部 統轄部長の小山睦氏にレストアサービスと品質保証の関連性について伺った。
※お申し込み多数の場合、早期に終了する場合がございます。
―今回レストアの対象となるモデルは、表題の通りG-SHOCKのダイバーズFROGMAN(フロッグマン)の初期モデル「DW-6300」だ。なぜFROGMANが選ばれたのか、その理由を聞いてみた。
小山氏「まず、お客様からのアンケートの『レストア企画で扱ってほしいモデル』として「DW-6300」が上位であったこと。そして、この「DW-6300」が発売されたのが1993年で、今年はちょうどFROGMAN発売30周年のアニバーサリイヤーにあたること。この2つです」
つまり、ニーズとタイミングが上手く合致したというわけだ。
小山氏「もし、この機会を逃してしまうと、次のチャンスはいつになるかわかりませんでした。だから、これは今しかないと思ったのです」
なお、レストアの申し込みは専用サイトから行う。後日、ユーザーはレストアする「DW-6300」をリペアセンターに送付、そこでレストア作業が終了次第、返送されるという流れ。作業の内容は、基本作業としてベゼル/バンド/電池のセット交換。ベゼル固定ネジ、ばね棒、Oリング交換など。汚れの除去やボタンの軋みなどのチェックも行われるが完全な回復を約束するものではないという。
小山氏「我々も可能な限り復元したいと思って作業していますが、送られてくる時計の状態がまちまちで、中にはかなり使い込まれているものもある。ですから、一律で必ずここまで復元しますと断言できないのが実状です」
そう小山氏は言うが、まずはレストア後の仕上がりサンプルをご覧いただこう。
小山氏「これは、想定される中でもいい仕上がりの例だと思います」
―レストアサービスを実施するモデルは、もう金型も保守パーツもない古いG-SHOCKだ。そこで第1回では、実物の「DW-5000」から型取りした光造形の樹脂型で注型、第2回では簡易金型を起こして射出成形で交換用のベゼルを製作した。今回はどのような手法でベゼルを再現したのだろうか。
小山氏「第1回と第2回の対象モデルだった『DW-5000』は形がシンプルで、それでも対応できました。が、今回の『DW-6300』は非常に複雑な形状をしていて、今までのようにオス・メスの型を合わせただけでは形状が再現できませんでした。そこで、残っていた図面からCADデータを作り、さらに実物を3Dスキャンして、この2つのデータを組み合わせることで、より実物に近い金型データを作りました。 というのも昔の製品は図面通りではない部分があって、金型職人さんの解釈や微調整が入ってまとめられていたりするんです。だから、図面だけを参考に金型を起こすと、仕上がったものがどこか雰囲気が違ってしまうんです。しかし、お客様にとってはレストアサービスをご利用いただくほど愛着のあるモデルなので、なるべく印象が変わらないようにしたかったのです」
小山氏「なお、この金型は量産用と同じ鋼材製で、複雑な立体を成形できる、いわゆる『スライド金型』です。また、バンドも新規に金型を起こしました。実は、このコストのためにサービスの料金も上がってしまいまして」
小山氏「『DW-5000』系はバンドの金型がまだ残っていて、それが使えたのです。今回は新規金型となりましたが、そのぶん、特徴的なドットモールドも美しい、FROGMAN純正バンドになりました。ベゼルを固定するネジも交換しますが、すでに生産を終了してしまっていたので、これはメーカーさんにお願いして、新たに作ってもらいました」
なんと、ネジまで再生産は驚く。これも、普段から厳しい品質管理を行っている部署ゆえの視点だろう。ベゼルもバンドも新金型で製作されたとなると、外観はまるで「DW-6300」シリーズの新製品。造形に加え材質も進化しており、外装はむしろバージョンアップしているといっていい。これが22,000円(送料別途)で、しかもメンテナンスされた状態で手に入るとなると、対象ユーザーの目には魅力的に映るだろう。長年使い込んだ「DW-6300」を捨てずに持っておいてよかったと思う人も多いはずだ。
小山氏「そう思っていただけたら嬉しいですね。ただ、性能はすべて発売当時の通りとはいきませんでした。中でも防水性能。FROGMANは本来ISO準拠の200m防水性能を持っていますが、レストア後は一般的なG-SHOCKと同じ20気圧防水の保証となります。その理由はISO準拠200m防水のための検査を行うと、もしその個体の防水性能が低下していた場合、中のモジュールが浸水してしまう危険性があるからです」
もちろん、ダイビングさえしなければ普通のG-SHOCKと同様に扱える。しかし、ISO準拠の200m防水性能はダイバーズウォッチであるFROGMANのアイデンティティでもある。それを諦めてまで、レストアをする意義はあるのだろうか。
小山氏「やっぱり本当はダイビングできるようにするのがいいよね、っていう話は、関連部門とも議論を尽くしました。先にお話した通り、お客様からのリクエストも多くFROGMANは30周年でもある。20気圧防水になってしまうからやめよう、ではちょっともったいないね、と。その結果、『やる』か『やらない』かだけじゃなく『こういう形でやりましょう』という柔軟な選択があってもでもいいのではないか、という意見にまとまりました。品質保証というサービスに、我々の思いを乗せられたらいいなと思いまして」
小山氏はこれを「攻めの品質保証」と語る。なるほど、一般的な品質保証の考え方は、製品に規定された品質を「守る」ものだ。これに対して、保証期間やパーツの保持期限という規定を超え、お客様に喜んでいただけるサービスを積極的に提案していく姿勢は、一歩進んだ「攻めの品質保証」といえるかもしれない。
「今後はレストアサービスの内容を拡充していきたい」と語る小山氏。
小山氏「機種を限定せず、いつでもお受けできるようにしたり、外装部分だけでなく中身(モジュール)の復元にも挑戦したいですね。このレストアサービスは小規模のお客様のニーズにもタイムリーに対応できる可能性があり、通常の品質保証ではカバーできないお客様ニーズも拾い上げやすいと考えています」
小山氏「ですから、お客様とのコミュニケーションの距離も近い。レストアして返送した製品を受け取ったお客様が、SNSに写真をアップしてくださるんですよ。みなさん非常に喜ばれている。そして、その写真を我々が拝見してさらに喜んでいるという(笑)。これは非常にいい循環なんです」
従来の厳しい「守りの品質保証」と、レストアサービスに代表される「攻めの品質保証」の姿勢。この2つの品質保証を推進する品質統轄部のサービスで、我々ユーザーはますます安心感と期待を持ってG-SHOCKを、いやすべてのカシオ製品に触れることができるだろう。
最後に「DW-6300」ファンの方へメッセージをいただいた。
小山氏「FROGMANが大好きで、今でも持っていてくださる方に感謝しています。ぜひレストアサービスをご利用いただき、綺麗に生まれ変わった『DW-6300』を腕に着けていただけたら、我々も技術者冥利に尽きます。今後もユーザーの皆さんに喜んでいただけるサービスを行っていきますので、どうかご期待ください」
レストアサービスは、単なる外装交換サービスではない。製品開発にも負けない、技術者の品質への熱い思いが込められているのだ。
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