2023年7月末、日本中が猛暑にあえぐ中、石川県加賀市ではひときわ熱い「ドローンエンジニア会議」が開催されました。この2日間にわたる週末イベントには、日本全国から集まった50人以上のドローン業界のリーダーたちが、ドローンの製作、カスタマイズ、自動制御プログラミングなどについて熱く語り合いました。
ドローンエンジニアたちの心をくすぐるプログラムも満載。カスタマイズ機を活用したデモンストレーション飛行や、早朝に行われた有名旅館内での屋内ドローン飛行撮影イベントは、技術者たちは自らのスキルとアイディアを証明しました。これらの活動は、SNS上で大きな反響を呼んでおり、ハッシュタグドローンエンジニア会議で検索すれば、興奮の模様を垣間見ることができます。
本記事では、そんなイベントに忍び込んだ筆者が「ドローンエンジニア会議」の舞台裏にある加賀市の未来に向けた挑戦の秘密に焦点を当ててみたいと思います。
▲並行して行われたイベントの一つ、初心者向け「ドローン基礎講座」の模様
「消滅可能性都市」と言われて
福井県との県境に近い石川県の南端に位置するこの小さな街は、人口約6万人という静かな環境に包まれています。しかし、2014年に日本創成会議が発表した「消滅可能性都市」の認定を受けるなど、その未来は厳しいものでした。いずれ消滅してしまう「消滅可能性都市」というラベルは決して名誉とは言えませんが、それはこの街の現状を端的に示すものです。
しかし、この状況を打開するために市長を始めとした市職員は挑戦の意志を示し、未来への反転攻勢を開始します。覚悟をもって、前例のないことに取り組む決意を固め、2022年には国家戦略特区にも指定を得ました。「消滅可能性都市」の宣告を受けたのは加賀市だけではありません。日本国内には896もの自治体が同様の状況にあります。加賀市が挑む取り組みは日本全体の再興の兆しとなるかもしれないと期待されています。
デジタルカレッジKAGAと「ドローンコンプレックスKAGA」
人口施策が短期的に効果をもたらすことはなく、多くの場合は、一歩ずつ着実なステップを辿る必要があります。そのため加賀市の取り組みに共感した市外の事業家により、2022年には株式会社デジタルカレッジKAGA(DCK)が市内に設立されました。この組織は、市とは完全に独立した組織ですが、市の意欲を取り入れ、挑戦的なアイディアを長期的に実現する事を目指しています。
デジタルカレッジKAGAは、加賀市との間に依存関係がないため非常に機敏な行動ができるという大きな利点を備えています。市外資本を元にした法人のため、市と対等な立場で事業を進めることができ、また、市側としても、デジタルカレッジKAGAが民間企業ならではの迅速な行動力をもって行う事業の中から成果や価値を検証し、有効な施策を取り入れて展開できるのです。
そのデジタルカレッジKAGAは、2022年に市内におけるドローンの活用可能な場所や遊休資産を調査し「ドローンコンプレックスKAGA」の概念を発表しました。これは、市全体を実証実験の舞台とみなし、ドローン産業の誘致推進を市と協力して展開するという事業モデルです。この取り組みの一環として市上空をパラグライダーで飛行する「空飛ぶクルマの航路実証」や、「無人航空機操縦士試験」試験会場の誘致、外資系企業による模擬血液輸送の実証実験誘致などが展開されるに至りました。
そして、今回の「ドローンエンジニア会議」も、「ドローンコンプレックスKAGA」の一環として行われたものでした。このような取り組みを通じて、加賀市は次世代モビリティ分野での地位を築き、未来に向けて積極的に展望を広げています。
▲「ドローンエンジニア会議」の参加者達、業界では有名な方々が集います。
加賀市がドローン・エンジニアにフォーカスする理由
加賀市は、未来のモビリティにおける新たな展開を見据え、特にドローン技術や空飛ぶクルマの分野に注力しています。この動きは、他の自治体でも見受けられるもので、新たな産業を誘致し、地域経済を刷新する可能性を秘めています。ただし、この取り組みが地域に本当に根付き、持続可能な成果をもたらすかという疑問が加賀市役所内で常に議論されていました。
当然ながら、補助金や助成金の提供によって、ドローンによる点検や輸送の実証実験を行うことは可能です。しかし、このような取り組みによって企業や専門家を呼び寄せるだけでは、一定の期間が経過すると彼らは別の地へ移ってしまいます。また、運用技術のデモンストレーションだけでは新たな産業の確立には至らないという点も指摘がありました。
そこで加賀市は、次世代モビリティへの注力が地域に定着する性質を持っていることに着目しました。幸い市内には多くの工場があり、「ものづくり」の土壌が存在しています。また、特にモビリティの分野では、製品を試験する広いスペースが必要であり、ソフトウェア開発や素材などの幅広い要素が含まれるため、多岐にわたる産業が形成される可能性があります。
新たな産業分野では、専門人材のクラスター形成が重要です。企業誘致が成功した場合でも、既存の地域産業から優れた人材を引き抜いてしまうリスクを回避しなければなりません。優秀なエンジニアのプールが存在することは新産業の成長に欠かせず、彼らが地域に定着するためには住環境や教育の水準が整っていることが不可欠です。
つまり、加賀市は、次世代モビリティという将来的な成長分野の地域定着を追求し、エンジニア環境の整備から始め、戦略的に進展しています。そして、その一環として「ドローンエンジニア会議」を開催することで、将来を見越した取り組みを着実に進めています。
▲「ドローンエンジニア養成講座」で実践的な自律制御の仕組みを学ぶ熱い参加者達。
加賀市と「ドローンコンプレックスKAGA」の今後
加賀市は、今後も積極的にドローンエンジニアの育成を推進する予定です。今回の取り組みを来年以降にも拡大し、市内外のエンジニア同士の交流を促進することで、市内の人材を高度なレベルに引き上げることを目指します。同時に、中高生に向けても広く公開し、将来の産業を担うエンジニアを市内で養成することを計画しています。
また、市内全域をドローン実証実験の場と位置付ける「ドローンコンプレックスKAGA」の取り組みについても、デジタルカレッジKAGAが主導して様々な実証実験を進めていく予定です。前述した通り、デジタルカレッジKAGAは民間のスピード感で取り組むことができるため、他の自治体にはない迅速な進捗が期待されます。
加賀市とデジタルカレッジKAGAは、今後も「ドローンエンジニア会議」を拡大し、継続して進める計画のようです。このような持続的な取り組みによって、加賀市は次世代モビリティ分野におけるリーダーシップを築き、地域の発展を推し進めることが期待されるでしょう。
▲市販のドローンはない。特殊なドローンや改造機がデモされていた。
参加者たちは?
最後に参加者たちの声を紹介しておきたいと思います。
加賀市職員も関係者も参加者も全員が同じビジネスチャットの中にいる! こんな自治体があったか?
子供の夏休みだったので家族連れで参加しました。パパはドローンを楽しみ、ママと子供達は温泉と旅館と食事を楽しみました!
いろんな方と繋がれたし、もう凄すぎて運営には感謝しかない。来年の今頃もあるらしいので興味がある人は行くべき
会いたかった人にも会えて、ご無沙汰していた人にも会えて、凄く美味しかったです(笑)、加賀市ってホント凄いですね!
エンジニア養成講座から懇親会、体験会、実地デモ、と盛り沢山でした。最後はシンポジウム。市長の挨拶から始まり、ワクワクする内容でしたよ。加賀市に来たれ! エンジニア! ですね
これらの声からわかるように、参加者たちは加賀市の取り組みに非常に興奮しており、その内容と充実感に感動している様子が伝わります。「ドローンエンジニア会議」はエンジニアでなくても参加可能なイベントとして、今後も幅広い関心を集めることでしょう。興味のある方は、ぜひイベントに参加してみてはいかがでしょうか。
▲朝6時からホテルのロビーで行われた「ドローン朝活」
[PR]提供:株式会社デジタルカレッジKAGA