夏の風物詩ともいえる蚊取り線香、火をつけるだけで蚊を駆除する優れものです。
この蚊取り線香、実は当初は渦巻型ではなく棒状だったのをご存知でしょうか?ではどのようにして蚊取り線香が渦巻型になったのか、今回はその知られざるドラマに迫ります。
開発当初は渦巻型ではなかった!?
蚊取り線香の開発の歴史は、1880年代にさかのぼります。金鳥の創業者であり、蚊取り線香の生みの親である上山英一郎氏は、除虫菊を粉状にし、ノミ取り粉として製品化していました。
水田に発生する蚊を駆除するのに除虫菊を使えないだろうか……? |
稲作の盛んな日本では、多くの農家が蚊に悩まされていました。
英一郎は試しに除虫菊の粉を火鉢の火にくべてみました。効果はありましたが煙は出るし、暑い夏場に火鉢を使うのも現実的ではありませんでした。
そんなとき、目に留まったのが、仏壇に供えられていた線香です。
これだ! |
線香に除虫菊の粉を練りこむことをひらめいた英一郎は、早速試作に取りかかりました。
一応線香らしきものは完成したのですが、大量生産するには手間がかかる……。
状況を打開するために、英一郎は手を打ちます。
線香づくりのノウハウを得るために、線香職人を雇い入れよう! |
線香職人を直接雇い入れ、二人三脚で製品化に着手。
試行錯誤の末、1890年、世界初の蚊取り線香が完成したのです。
蔵で見た“ある生物”が渦巻型のヒントに!
ようやく製品化した蚊取り線香は、蚊に対して効き目を発揮しました。その一方で、課題も浮き彫りに。
40分ほどで燃え尽きてしまって、寝る前に焚くと朝まで効果が続かない。それに、細いから煙の量が少なく、一度に3本ほどをまとめて焚く必要がある。 もっと効果があって、長時間使える蚊取り線香にしたい! |
欠点の克服には蚊取り線香をもっと太く長くする必要がありました。しかし棒状のままで長くすれば折れやすくなり、うまくいきません。
この課題を突破したのは、英一郎の妻・ゆきのアイデアでした。ゆきは、自宅の蔵で“ある生物”を見かけ、こう提案したのです。
“ヘビ”のとぐろのように、線香を渦巻型にしてみたらいかがでしょう? |
渦巻型なら棒状線香の欠点を克服できそうです。英一郎はさっそく試作にとりかかりました。しかし、渦巻型の木型を使うなど様々な製法を試したがうまくいきませんでした。
では、手で巻いてみよう! |
この方法はうまくいきました。さらに木で作った芯を中心に、一定の長さで切ったうどん状の線香を2本ずつまとめて巻く「ダブルコイル製法」を開発。効率的な生産ができるようになりました。
製造工程にはもうひとつ問題がありました、それは乾燥です。乾燥台の上で乾かすと板にくっ付くし、吊るすと形が崩れてしまいます。
どう乾燥すればいいものだろうか……? |
苦悩する英一郎に手を差し伸べたのは、またしても妻のゆきでした。
金網の上で乾燥させてみてはいかがでしょう?金網で魚を焼くとくっ付かないんですよ。 |
ゆきに言われたとおりに金網を用いてみると、くっ付かず、乾燥工程の問題点は見事に解消されました。ちなみに現在でも、蚊取り線香の乾燥は金網の上で行われています。
時間はかかったが、ついに完成したぞ! |
実に、構想7年。さまざまな難題をクリアし、1902年に渦巻型の蚊取り線香が誕生しました。
左巻の蚊取り線香は金鳥だけ!
今では各社から渦巻型の蚊取り線香が発売されていますが、金鳥の蚊取り線香だけが左巻なのをご存知でしょうか?
そもそもは職人が手で巻いていた蚊取り線香。右利きの職人が多く、金鳥の蚊取り線香も最初は右巻でした。それが左巻に変わったのは、1957年頃、機械による打ち抜きに製法に変わったことがきっかけ。手巻時代と同様、右巻に打ち抜いていた他社との区別をはっきりさせるため、あえて左巻にしました。「左巻の蚊取り線香は金鳥の渦巻」。一目で分かるようにした背景には、蚊取り線香の元祖として譲れないプライドがにじみ出ています。
その自負は、見た目の違いだけに留まりません。効果はもちろん、香りにもこだわっています。除虫菊など厳選した天然原料を用い、今も変わらぬ香りを守り抜いているのが“金鳥流”です。
左巻の蚊取り線香は、長い歴史の中で培われた品質の証と言えるでしょう。
夏の風物詩として何気なく使っている蚊取り線香には、試行錯誤を繰り返した創業者の知恵と工夫が詰まっています。この夏は、左巻の「金鳥の渦巻」の香りに思いを馳せ、快適にお過ごしください。
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