東京都墨田区にある「たばこと塩の博物館」はその名の通り、日本ではかつて専売品であった「たばこ」と「塩」の歴史と文化をテーマとする博物館です。今回はたばこの文化についてフォーカスして紹介します。ちょっと一服して、2人とともに私たちも大人の社会見学をしてみましょう。

 アサヒ(30)会社員。
 趣味はカフェ巡り。 


  にちか(30)アサヒの彼女。
  趣味は音楽鑑賞。

▼「たばこと塩の博物館」ってどんなところ?

たばこと塩の博物館はなんと入場料100円! 休日には多くの人で賑わうスポット。常設展示に加えたばこと塩にとどまらない、幅広いテーマの特別展も開催しています。4/29からは狂歌の名人であり、現代でも落語や時代小説などにも登場する大田南畝(おおたなんぽ)を紹介する「没後200年 江戸の知の巨星 大田南畝の世界」が開かれます。とりわけ彼と深い関わりを持ったたばこ屋の平秩東作(へずつとうさく)と蘭奢亭薫(らんじゃていかおる)についても紹介されるそう。

今回はたばこと塩の博物館のなかでも常設展の「たばこの歴史と文化」について紹介します。

▼「たばこ」は神々に捧げるための聖なる品だった……!

たばこと塩の博物館では当時使用されていた、さまざまなパイプを見ることができます。 粉状のたばこを鼻から嗅ぐ嗅ぎたばこは、南アメリカの先住民によって古くから行われ、ヨーロッパではフランスを中心に広まりました。特に、18世紀のブルボン王朝時代に大流行し、金銀やエナメル装飾のスナッフボックス(嗅ぎたばこ入れ)が作られ、18世紀のヨーロッパで広く親しまれていました。細部まで装飾が施されたスナッフボックスは芸術品としての価値を感じさせます。

▼日本では江戸時代から親しまれ、明治・大正期に「紙巻たばこ」が普及

日本にたばこが伝来した16世紀の末以降、喫煙の風習が広がり、国内でもたばこの栽培が始まりました。また、喫煙が広まるとともに、たばこを栽培する農家が増加しました。これを受け、幕府は当初、農家がたばこを栽培することを防ぐ禁令を出したのです。しかし、禁令にも関わらず、たばこを楽しむ人々は増え続けたため禁令は形骸化し、元禄期(1688~1709年)ごろを境に新しい禁令も出されなくなりました。こうして、たばこは、江戸時代の庶民を中心に、嗜好品として広く親しまれながら、独自の文化を形作っていきました。

江戸時代に形成されたたばこ文化の特徴のひとつに、「細刻み(ほそきざみ)をきせるで吸う」ことがあげられます。葉たばこを毛髪のように細く刻むという例は、外国には見られません。諸説ありますが、細く刻むとたばこの味がマイルドになることから、日本人の味の好みや文化的な風土から生まれたのではないかと言われています。また、精巧な刀(包丁)を作る技術があったため、細く刻むことができたものと考えられます。細刻みの技術の発達につれて、きせるは火皿が小さくなり、持ち運びが便利なよう、短くなりました。

刻みたばこの需要が増加するにつれて、能率のよい機械が考案されました。俗にゼンマイと呼ばれた「ぜんまい刻み機」は1〜4個の歯車を巧みに使い、包丁の上下運動と葉たばこの送り出しを同時に行えます。ぜんまい刻み機でつくられた製品の質は高く、上級製品の製造に使われました。

たばこと塩の博物館では浮世絵やたばこ盆、江戸中期のたばこ屋の再現、ぜんまい刻み機などの展示を見ることができます。

明治時代に日本に登場した新しい喫煙風俗の代表は、紙巻たばこ(当時の紙巻たばこは口付と両切りの2種類)です。19世紀後半から欧米で本格的に作られるようになった紙巻たばこは、ハイカラな風俗のシンボルとして日本人の興味を引きました。都市を中心に手軽な紙巻たばこが普及するにつれ、日本のたばこ文化は大きく変わっていきました。一方、国の制度も新しくなるなかで、「煙草専売法」(1904年)により、原料葉たばこの買い上げから製造販売まで国の管理(製造専売)で行われることになりました。

たばこの製造が民営から専売になると、しばらくの間、たばこのポスターは作られなくなりました。しかし、商品としての顔であるパッケージのデザインや名称は、そのイメージを左右する重要なものとして工夫が凝らされました。また、大正から昭和にかけて、日本の商業美術は、飛躍的に発達。たばこも、ポスター製作が再開され、当時活躍していた商業デザイナーのさきがけ・杉浦非水(ひすい)がデザインを手がけたパッケージやポスターなども登場しました。

▼昭和期にはさまざまな銘柄が誕生

戦争中、物資は軍需用優先であったためたばこは、銘柄の削減と包装の簡易化がすすみ、印刷も一色刷りに。加えて軍事費確保のため通常の税金のほかに戦時負担金が付加されたり、英語の使用禁止により名称の変更も行われました。

日本の敗戦という形で戦争は終結し、戦災で半数の工場を焼失。極端な品不足が続いたことで、配給のたばこも終戦直後には一日三本という状況でしたが、戦後の混乱のなかにも、復興の足音は確実に聞こえてきました。

たばこ産業も立て直しが進んで、新しい銘柄が次々に登場し、復興と高度成長を支える人々に親しまれました。自由経済に向かう世界的な流れのなかで、たばこも民営の会社が扱う商品として新たな一歩を踏み出したのです。

たばこと塩の博物館では、過去のたばこのパッケージやポスターを見ることができます。「たばこメディアウォール」はパネルに触ると時代背景やエピソードが表示され、懐かしい広告にも出会えます。

なお、2階には常設展示室「塩の世界」があり、世界の塩資源、日本の塩づくりの歴史、塩の科学などを実物や写真、模型で解説しています。そのほか21種類の塩の生産国や製法、結晶の形などが調べられる「いろいろ塩図鑑」もあって、とっても興味深いです。

嗜好品である「たばこ」そして、日常に欠かせない「塩」。それぞれが人類と関わってきた長い歴史と文化に触れることで、新たな発見や学びに気付かされるのではないでしょうか。そうして気づいた視点を誰かと共有してみるのも、楽しいかもしれません。

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[PR]提供:JT