みなさん、デジタルテクノロジーと聞いて何を思い浮かべますか? 日々の生活で「デジタル」「テクノロジー」はよく聞くことがあるのでは。今や人間にとって欠かせないものになってきていると感じるものの、関わる人によってそれぞれイメージが違うのではないでしょうか。
そこで、先日開催されたデジタルテクノロジーの理解をより深められる「Rare Disease Day 2023 シンポジウム」へ参戦! このシンポジウムでは、デジタルテクノロジーが希少疾患(※1)の当事者(※2)、医療現場、支援企業のそれぞれの立場でどのように活用されているかが紹介されました。それでは早速、希少疾患とデジタルテクノロジーの関係、また希少疾患についての理解を深めていきましょう。
※1 希少疾患:患者数が極めて少ない疾患を指す。
※2 当事者:本記事での当事者とは、希少疾患の患者さんを指す。
実は意外とシラナイ……
デジタルテクノロジーは何に活用されているイメージがあるのか調査!
まず、デジタルテクノロジーがどのようなことに活用されているイメージがあるのか知るべく、20~50代のマイナビニュース会員504名にアンケートを実施しました。
「最新のデジタルテクノロジーが何に活用されているイメージがありますか?」と質問したところ、1位「スマートフォンやPCなどのIT関連機器」、2位「医療関連」、3位「家電製品」という結果に。1位のIT関連機器は日々使っているものなのでイメージが湧きやすいですが、2位の「医療関連」と答えた方に、なぜそのイメージがあるか伺いました。
「なんとなくAI化が進んでいて、最新のデジタルテクノロジー感がある」(46歳・男性・IT関連技術職)
「医療技術が発展している感じがするから」(31歳・女性・その他)
「なんとなくそんなイメージがする」(30歳・女性・販売&サービス関連)
抽象的なコメントが多く聞かれました。デジタルテクノロジーが医療関連に使われているイメージがあるものの、具体的にどのように使われているかはわからない方が多いようです。
そこで、デジタルテクノロジーと医療がどのようにかかわっているのかを知るために、「Rare Disease Day 2023 シンポジウム」に参加してきました。
デジタルテクノロジー×医療関連のつながりとは?
"Rare Disease Day(世界希少・難治性疾患の日)2023 シンポジウム"へ突撃!
2023年2月12日(日)、Rare Disease Day 2023のイベントのひとつである武田薬品工業株式会社とRDD Japan事務局の共催による「Rare Disease Day 2023 シンポジウム -つなげる! 希少疾患とデジタルテクノロジー:当事者・医療現場・支援企業の立場から-」が開催されました。
シンポジウムでは3名のスピーカーが登壇し、それぞれの立場からデジタルテクノロジーと希少疾患の関係について講演されました。
武藤将胤さん/一般社団法人WITH ALS代表
難病ALSの当事者であり、ALSの課題解決を起点に、すべての人が自分らしく挑戦できるボーダーレスな社会を創造することを目指して活動する一般社団法人WITH ALSの代表。EYE VDJ MASA名義で、視線で制御する「アイトラッキングDJ」として楽曲をデジタル配信し、活動の幅を広げている。
笠原群生さん/国立成育医療研究センターの病院長
受精・妊娠から胎児、新生児、小児、思春期、成人へと成長する、すべてのライフサイクルにおいて総合的・継続的に診る医療=成育医療を行う。世界トップレベルの技術力で、再生医療や遺伝子治療・移植医療・AIホスピタルなど最前線の成育医療に取り組む。
高山哲也さん/エムスリー株式会社の業務執行役員
医療界の課題や問題点解決に向け、製薬・医療機器企業への情報提供支援(メディカルプラットフォーム事業)や臨床開発支援、先端医療関連事業などを行う。インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を一人でも増やし、不要な医療コストを一円でも減らすことを目指す。
「Rare Disease」とは、患者数が少ないことや病気のメカニズムが複雑なことなどから、治療・創薬の研究が進まない疾患のことで、希少・難治性疾患を指します。患者さんとその家族のQOL(生活の質)の向上を目指し、2008年2月29日(うるう年で希少なため)にスウェーデンにて初の「Rare Disease Day(RDD)」が開催されました。それ以来、2月28日を「世界希少・難治性疾患の日」と定め、世界各国でイベントを開催しています。日本でも2月はRDD月間として様々な講演会やオンライン配信、パネルや写真の展示などの企画、全国のイベントを支援するためのクラウドファンディングが行われています。今年の2月28日(18時~24時)には、東京タワーがRDDのロゴマークカラーである、グリーン、ピンク、ブルーの3色にライトアップされました。
まさか自分が!? 27歳で難病ALSを発症
デジタルテクノロジーで紡ぐコミュニケーションとは
アイトラッキング(視線入力)で楽曲づくりを行っているEYE VDJ MASAこと、難病ALSの当事者である武藤将胤さんによるDJパフォーマンスで開幕したシンポジウム。武藤さんは株式会社博報堂で広告プランナーとして働いていた2014年、27歳の時にALSを発症しました。そして、ALS発症をきっかけに「クリエイティブの力でALSに明るい未来を」との思いから、2016年には一般社団法人WITH ALSを立ち上げました。
その活動はエンターテインメント、テクノロジー、ヒューマンケア(介護)の3領域に渡り、自身の困難や制約から得られる気づきをアドバンテージに変え、さまざまなテクノロジーの力を駆使して、課題を解決するアイディアを形にしています。そんな武藤さんの活動の原動力はどこからくるのでしょうか。
もしALSになっていなかったら、今ほど有限な時間の中で生きているんだという危機感を持っていなかったように思います。ネガティブな思考に費やす時間があるなら、少しでも時間を、未来を明るくするために使いたい。ALSの困難からイノベーションを生むというマインドで日々、挑戦を続けています。
これまで武藤さんが、自分たちの可能性を広げるために活動してきたデジタルテクノロジー開発の挑戦についてご紹介します。
1つ目が、自分の声を失ってしまうALS当事者の“声”を救う「ALS SAVE VOICE」プロジェクトです。音声合成技術「コエステーション」と目を使った意思伝達装置「OriHime eye」を連携させ、自分の声で発話することができるサービスの研究・開発です。ALSの当事者が声を失う前に自分の声を録音し、合成音声を作成しておくことで、声を失ってしまった後でも視線による文字入力で自分の声で発話できるというものです。
2つ目は、今回のシンポジウムのスタートを飾った視線入力装置を使った音楽活動です。昨年はフランス、トルコ、ハンガリーで世界初のライブパフォーマンスに挑戦し、フランスで活躍するALSアーティストのPONEとのセッションも実現しました。
そして3つ目が、脳波を使って意志を伝え、分身ロボットでコミュニケーションを取りお客様を接客するという01アパレルストア公開実験店オープンの取り組みです。ALSが進行すると随意運動が消失し、視線による意思疎通も難しくなるTLS(Totally Locked-in State)という状態になりますが、その場合でも脳波でコミュニケーションが続けられる未来を目指す希望のひとつです。
デジタルテクノロジーを有効活用して、さらに進化していけるのは、日々、さまざまな困難な制約に直面し、そのテクノロジーを本当に必要としている僕らのような障害当事者だと思います。これからも研究開発パートナーとともに、失った身体機能の補完に留まらず進化していける、誰もがワクワクできる未来を目指して挑戦していきたいです。
武藤さんの挑戦は、これからもまだまだ続きます。
医療現場の方が語る、これからの未来
――「効率良くAIを活用することで、当事者とより深く向き合える」
希少疾患や難病の当事者を支える医療現場でも、デジタルテクノロジーが活用されています。笠原さんが病院長を務める国立成育医療研究センターでは、生殖医療から成人に至るまでのさまざまなフェーズでAIが活躍するAIホスピタル(※4) を実現しています。例えば、遠隔で行う妊婦健診やAIを使った正確な小児がんの診断、人型ロボットなどを使った癒し効果などが挙げられます。
笠原さんは、小児希少・難病AI診断補助システムの開発により、遺伝子診断をする前に症状や画像だけで効率的に診断ができるようになり、早期治療へとつなげることが可能になった事例や、電子カルテの音声入力が医療の効率化に役立っている事例を紹介されました。
※4 AIホスピタル:国が進めるプロジェクトで、医療AIやIoTを開発・活用することによって、高度で先進的・最適化された医療サービスを、広く医療現場で提供できるようにする構想を指す。
AIと聞くと、"ロボット"、"冷たい"、"もっと医師との距離ができてしまうのではないか"と懸念されるかもしれませんが、効率化されることでできた時間を当事者や当事者家族の方に向けられるというメリットがあります。
AIを活用することにより、どこにいても同じレベルの医療が受けられ、さらなる安心・安全・思いやりの医療の実現が期待できます。
「家族との願いを、病床VR旅行で叶えました」
――思うように動けない、そんな当事者の願いを医療・人・ITで叶える「CaNow」
医師の約9割がユーザーだという、医療現場を支援するm3.comを運営する株式会社エムスリーの高山さんは、インターネットの力で疾患の認知、治療から支援に至るまで貢献したいとおっしゃいました。そこで、同社が当事者、医療者に向けて提供しているという4つのサービスについてご紹介します。
医師相談サービス「AskDoctors」
困った時に健康や医療の悩みを24時間365日リアルタイムで医師に相談できるサービスです。最短5分で複数の医師から回答がもらえる上、他の人の相談が見られたり、疾患啓発記事を読んで自分も該当するかもしれないとセルフチェックできるツールがあったりします。希少疾患をはじめ、知識が少ないと医師に正確な症状を伝えることは困難ですが、チェックツールを使うことで診断に必要な項目が網羅されています。これにより、受診が遅れてしまうことが多い希少疾患の確定診断を1日でも短縮することに活かされています。
疾患検索システム「Docpedia CaseSearch」
希少疾患を含む疾患情報収集のための医師版の検索サイトで、症状から検索することで疑われる疾患に関する情報が得られ、診断に役立てることができます。
希少疾患当事者のためのコミュニティ
昨年には、希少疾患の当事者同士がつながれるオンラインコミュニティが誕生しました。相互にアドバイスし合えることにより、より専門的な治療に進んだ事例もあります。
当事者の願いを叶えるプロジェクト「CaNow」(カナウ)
病気や障がいを持っている当事者があきらめていた願いを医療・人・ITの力で叶える取り組みです。
高山さんが紹介された、ALSの当事者である60代女性の事例では、願いであった家族旅行を叶えるために、病床にいながらVRを用いた家族旅行を計画しました。ジェットコースターに乗ったり、生まれ育った家を見に行ったり……。最後、バラ園での散歩を終えてVRヘッドセットを外すと、旦那さんがバラの花束をプレゼントするという、バーチャルリアリティーとリアルを融合させた体験をされたそうです。かけがえのない体験をすることができたのではないでしょうか。
「CaNow」プロジェクトは、YouTubeでも公開されています。このような活動を広く世の中に知ってもらうことが、希少疾患への認知を広げていくことにつながっていくのではないかと思っています。
まさに、デジタルテクノロジーの進化があらゆる人の笑顔と希望につながっていると実感できる事例だと言えます。
登壇者3名でパネルディスカッション
今後のデジタルテクノロジーとの関わり方とは
ファシリテーター RDD Japan事務局 西村 由希子さんが立場の違う3名へ、それぞれが思い描く今後の展望について伺いました。医療現場の立場から笠原さんは、このようにおっしゃいました。
今まで、希少疾患の臓器移植の専門医として希少疾患の当事者、またそのご家族の気持ちを理解するように努めてきましたが、まだまだ勉強しないといけないなと改めて感じました。デジタルテクノロジーを活用することで、もっと医療従事者と当事者、その家族が身近にいられる時間が増えるようになっていくと思います。
これからも広く医療情報を提供していきたいという高山さんは、支援企業の立場から実現可能な未来について語ってくれました。
デジタルテクノロジーがさらに進むと、「情報を取りに行く時代から、必要な情報がやってくる時代」をつくれるのではないかと思います。そんな新しい流れが生まれれば、希少疾患の診断確定、早期治療がより可能になってくるのではないでしょうか。
1年以上、病院探しに苦労した経験があるという武藤さんも、「日々の生活で困っていることは医療情報が少ないこと。あの頃、エムスリーの疾患検索システムがあればよかった」とおっしゃいました。
最後に、武藤さんが目指す道とは?
デジタルテクノロジーを活用することの意味は、医療や希少疾患の世界で、これまで不可能と言われていたことを可能にしていく、そしてその実現スピードを加速していくことだと考えています。できない理由を考える前に、使えるデジタルテクノロジーを探すという発想で、これからもALSの課題解決に取り組んでいきたいと思います。その解決策は、これから超高齢化社会を向かえる日本において、一般の人にも有効なものが必ずあると思います。そういう視点で、希少疾患の支援にもっと関心を持って応援していただけたらなと思います。
誰もがALSなどの難病・希少疾患の当事者になってもおかしくない状況下で、すべての人が過ごしやすい未来のために、当事者・医療現場・支援企業の方々がデジタルテクノロジーの発展を進んで行ったり、希少疾患の当事者の方を支援したりすることは、いつ自分の身に何が起きるか分からない可能性を秘めている高齢化社会において非常に有意義なことですよね。
デジタルテクノロジー、医療、希少疾患のつながりについて、ぼんやりしていた輪郭が少しは見えてきたのではないでしょうか?
進行性難病ALSを発症して約9年経つ武藤さんより、恐怖との向き合い方として、自身もALS当事者であったスティーブン・ホーキング博士の言葉を教えてくださいました。
"人生とはできないことを悲しむことではなく、できることに集中することである"
この言葉を胸に、今の自分にできること、今の自分だからできることに、毎日没頭するようにしているそうです。
ALSを含む希少疾患の当事者・医療現場・支援企業が、デジタルテクノロジーの最先端を生み出していることが分かりました。これを機会に、希少疾患についても知識を深めていけたら、よりよいボーダーレスな社会になっていくのではないでしょうか。
[PR]提供:武田薬品工業株式会社