地中海に面するスペインの東海岸は世界的な海浜リゾート。その地でカシオのダーモカメラ「DZ-D100」(以下、ダーモカメラ)とダーモスコープ「DZ-S50」を愛用する皮膚科専門医パオラ・パスカリ先生に、スペインの皮膚科事情とカシオ製品の評価や活用方法を聞いた。
平均寿命の高いスペインでは皮膚科医療の効率化が課題
スペイン東部の地中海沿岸はコスタ・ドラダ(Costa Daurada:黄金海岸)と呼ばれ、20世紀半ばから海浜リゾート化が進む人口増加の著しい地域だ。パオラ先生が診療科の責任者を務めるピーウス病院(Pius Hospital)のあるバルス(Valls)の街や、経営するクリニックのあるカンブリス(CamBrils)の街は、コスタ・ドラダの中心の港町タラゴナ(Tarragona)にほど近い。
――パオラ先生のご所属やご担当についてお教えください。
パオラ先生:「ピーウス病院の診療科の責任者で、カンブリスでもクリニックを経営しています。クリニックは皮膚科以外も診る医療センターで複数の病院と提携しており、様々な専門分野の20人以上のスペシャリストを雇っています。この地に移って19年、そのうち16年間はピーウス病院に勤務しています。
このほか、ヨーロッパ皮膚科・性病科学会(EADV)の理事、EADVの遠隔皮膚科タスクフォースのメンバー、アメリカ皮膚科学会(Sulzberger Dermatologic Institute & Education Grants Committee)の国際問題委員会メンバー、ラテンアメリカ皮膚科学会(CILAD)の科学担当なども務めており、多忙な日々を送っています。
――スペインの皮膚がんの罹患率は日本よりやや高いと聞きました。全世界の中ではどのような位置づけでしょうか。
パオラ先生:「スペインにおける人口あたりの皮膚がんの罹患率はヨーロッパの中では標準的ですが、全世界で比べるとアメリカよりは低く、オーストラリアとほぼ同等です。そのスペインの中でも、私が診療している地中海沿岸の地域は船乗りや農家などが多く、皮膚がんの罹患率が高い傾向にあります。その理由は、色白の人が多く、太陽の下で日照時間が長いためです。
皮膚がんは増加傾向にありながら、皮膚科医の数はそれに応じた増え方をしていません。また、スペインの平均寿命は世界で最も高い日本と同等で、長寿になればなるほど皮膚がんの罹患者の数が増えるため、(スペインの)皮膚科医は慢性的に多くの仕事を抱えています。だからこそ、人体に傷をつけない非侵襲的な診断技術であるダーモスコピーによって、専門的な治療が必要かどうかを判断できるのはとても重要なことです。
スクリーニングに適した遠隔皮膚科は医師にも患者にもメリット
――1日の診察数は何人くらいですか。また、遠隔診療と対面診療の割合はどれくらいですか。
パオラ先生:「1日に診察する患者は約60人です。このうち、40%が遠隔診療(telemedicine)、60%が対面診療になります。私の専門は腫瘍学(oncology)ですので、ダーモスコピーを行うことが必須であり、すべての病変をダーモスコープで観察、チェックしています。
遠隔皮膚科はスクリーニングに最適です。スペインではプライマリーケアのネットワークが発達しており、地域の家庭の健康に従事するかかりつけの家庭医(family physician)がいて、すべての科の外来診療を担っています。人々は自分や家族の体調がすぐれないときや、気になる症状があるときはまず家庭医を訪れ、家庭医は患者を診察して自分の手におえない場合はどの専門医に紹介するかを決めます。
私の病院ではすべての紹介は遠隔で行われ、家庭医から患者の臨床画像と皮膚鏡画像、それに簡単な病歴が提供されます。この仕組みの一番の利点は優先順位付け(トリアージ)です。急がなくて良い患者や遠隔での診察で十分な患者は来院する必要がありません。この割合は全体の70~75%にもなります。これは患者と病院の双方にとって、時間とお金が節約できる良い施策なのです。
こうした背景から、私が診察する患者は遠隔診療が増えてきています。なお、遠隔診療には患者が専門医の診断を受けた後、家庭医がその画像を再び見ることで学びが得られるというメリットもあります」
――遠隔皮膚科の診断に利用する画像はどのようにして送られてきますか。
パオラ先生:「遠隔で正しく診断するには、ホワイトバランスや病変までの距離・ピントがきちんと調節された質の高い画像であることが重要で、カメラに詳しくなくても適切な画像が得られるよう、自動的に調節してくれるカメラは大変貴重です。
私たちは約40人の家庭医から紹介を受けています。スペインでは紹介状を数時間以内、遅くとも数日以内には回答することが重要です。そのため、家庭医は全員がダーモスコープを持ち、スマートフォンで撮影して画像を送ってきます。
スマートフォンのカメラが高性能化するにつれ、画像の質は上がってきていますが、それでも未だに送られてくる画像の5~10%は診断に利用できる画質ではないため、皮膚の撮影に適した使いやすいカメラは現場で待ち望まれているのです」
――臨床画像はスマートフォンのカメラで撮れますが、家庭医はダーモスコピー画像もスマートフォンのカメラで撮影するのですか。
パオラ先生:「私に紹介の連絡をしてくる家庭医は、全員がダーモスコピー用のユニバーサル・スマートフォン・アダプターを持っています。そのアダプタは独自の光源を備えており、病変までの距離やピント調節が容易なため、撮影できる画像は臨床画像よりも優れている傾向にあります」
――タラゴナ地方での遠隔皮膚科の普及にもご尽力されましたね。どのようにして導入されたのでしょうか。
パオラ先生:「私が着任したとき、非常に多くの患者が順番待ちになっていました。そこで、診察が必要な人に優先順位を付け、ありふれた病気はかかりつけの家庭医に任せ、すべての人を診察する方法を考えました。これが、遠隔皮膚科の始まりです。
ダーモスコピーのトレーニングコースを開催し、最初は数名の家庭医から始め、最終的にはすべての家庭医にダーモスコープを配布しました。現在までに、2万件以上の遠隔皮膚科の相談に応じました。これはこの地域で最も成功した例です。
コロナ禍でロックダウンしたときは、こうした遠隔皮膚科のシステムは地域の人々にとって既に馴染みのあるものとなっていました」
臨床画像とダーモスコピー画像を1台で撮影できることは大きな強み
――ダーモカメラとダーモスコープを日々の治療でどのように活用していますか。
パオラ先生:「ダーモカメラは医師がその瞬間にどう見えたのかが記録でき、後からの比較で状態の変化を見つけられます。患者自身が状態の変化を確認できるのもメリットです。
医療画像は同僚の医師や医療従事者、非医療従事者にいたるまで後学のために共有され、また研修医など後学の育成にも役立ちます。医療画像なしで皮膚科学の教育を行うことは、もはや考えられません。
あとは前述の通り、遠隔皮膚科では離れた場所にいる患者をバーチャルな方法で診療や診断を行うために臨床画像を利用しています。ダーモカメラはそこでも活躍できると思います」
――カシオのダーモカメラとダーモスコープをどのように評価していますか。
パオラ先生:「私がカシオのダーモカメラを気に入って使っている理由のひとつは、コンパクトなサイズにありながらバッテリーも長持ちすることです。私は優秀なデジタル一眼レフカメラを持っていますが、大きくて重く、臨床画像しか撮れません。
ダーモカメラなら臨床画像と偏光・非偏光のダーモスコピー画像を、1台で撮影できます。画像を患者のカルテに保存したり、検査結果を患者に見せることができるのは素晴らしいことです。
臨床画像の画質は、デジタル一眼レフカメラのシャープな画像と比較すると向上の余地がありそうですが、カシオのダーモスコピー画像は素晴らしいです。他社製品と品質を比較しましたが、私はやはりカシオのダーモカメラの画像の方が好ましいと思っています。
カシオのダーモスコープは、非常に明るく、シャープで鮮明に病変を観察できるため、とても気に入っています。
私は沢山のダーモスコープをコレクションのように持っていますが、カシオのダーモスコープを毎日使っています」
――皮膚科の領域において、今後カシオに期待することは何ですか?
パオラ先生:「私にとってこれからの画像診断の理想は“1台完結型”です。1台のカメラで、臨床画像、ダーモスコピー画像、ビデオ、マイクロスコープが撮影できれば素晴らしいです。
SFのように聞こえますが、いつの日か1台でダーモカメラ、ダーモスコープ、超音波、共焦点の4役がこなせるのではないでしょうか。まさにオールインワンカメラです」
ダーモカメラは未来を予感させる
パオラ先生の活躍するスペインでは、皮膚科の専門医ではないかかりつけの家庭医でも、ダーモスコープとスマートフォンで撮影していることもわかり、今後は臨床写真の撮影も可能なダーモカメラを持ち歩く家庭医が増えてくるのかもしれない。そんな中でカシオのダーモカメラとダーモスコープは高い評価を得ていた。
パオラ先生からは、カシオのダーモカメラに画質の向上の余地があるとの厳しい指摘もあったが、臨床画像と偏光・非偏光のダーモスコープ画像をこの1台で撮影できることを大いに評価されていた。超音波や共焦点の搭載といった、理想が高い希望まで飛び出したが、技術の進化は日進月歩。かつてSFの中だけの話だった技術が、今日実現された例は少なくない。10年先、20年先、あるいはもっと先までも夢想させる、カシオのダーモカメラの持つ可能性の高さに、改めて気付かされる取材だった。
[PR]提供:カシオ計算機