工学院大学の新宿アトリウムに設置されている、常設では日本初となる動く壁 キネティックウォールを使って、デジタルアートに挑戦する「壁フェス Kinetic Wall Festival 2022(以下壁フェス)」の最終審査が12月11日(日)に開催された。壁フェスは、全国の中高生・大学生が参加するコンペティション形式の中高大社接続型イベントである。
ここでは壁フェスで発揮された若き才能の輝きをレポートしていく。また後半では、壁フェスの受賞者や審査員に心境をインタビューしたのでそちらも合わせて紹介しよう。
動く壁を舞台にアート作品で競う
工学院大学は今年で創立135年の歴史を持つ工科系の私立大学だ。28階建の高層ビルキャンパスとなっている新宿キャンパス。1階にある新宿アトリウムは2020年にリニューアルした。建築デザイン学科西森教授が設計を担当し、映像クリエイティブカンパニーである株式会社ピクスのプロデュースで、動く壁「キネティックウォール」が設置された。
キネティックウォールが設置されている壁は全体で幅16m、高さ12.8mの巨大なスクリーンとなり、4K解像度でのプロジェクションマッピングが可能。そして中央部には40cm四方のLED内蔵ユニットを12マス×15マス、幅4.8m×高さ6mに組み合わせ、それぞれのユニットが凹凸に可動する。さらに立体音響や、人の動きを認識するAzure Kinectなどが用意されており、これらがパソコンで制御できるようになっている。こうしてアトリウム全体が、工学・建築・情報の3つの要素を含んだ空間で、デジタルで表現する巨大な実験の場になっているわけだ。
このキネティックウォールを使い、工科系分野の学生や、この分野に興味のある中高生を対象に、アイデアを可視化させるコンペティション形式のイベントとして開催されたのが「壁フェス Kinetic Wall Festival 2022」だ。
「動く壁:キネティックウォールをデータとつなぎ、あらたな世界を描こう」をテーマとし、8月に開催された一次予選では、応募作品のアイデアが書類選考され、15組が審査を通過した。そして予選を通過したチームには、壁フェスのテクノロジーパートナーであるインテル株式会社から、クリエイターサポートプロジェクト「インテル Blue Carpet Project」の協力のもと、最終審査用の作品制作用に最新の「インテル Evoプラットフォーム」準拠のノートPCが貸与されている。
今回最終審査に残ったチームに貸与された「インテル Evoプラットフォーム」準拠のノートPCは、第12世代インテル Coreプロセッサーを搭載。 電源を問わず高いレスポンスを実現し、9時間以上のバッテリー駆動時間、30分の充電で4時間駆動する高速充電、1秒以内でスリープからの復帰、Wi-Fi 6とThunderbolt 4の実装などの要件が規定された、インテルお墨付きの高性能ノートPCだ。このプラットフォームに準拠していれば、動画編集や開発ツールといった負荷の高い処理を同時に実行しても快適に利用できるわけだ。これからノートPCを買い替えるなら、ビジネスでもプライベートでも、さまざまな用途を軽快にこなせる「インテル Evoプラットフォーム」のバッジを目印にするのがおすすめだ。
最終審査に残った12チーム&作品を紹介
12月11日に開催された最終審査に参加したのは以下の12チーム。作品の発表順に紹介しよう。
武蔵野美術大学 造形構想学部 真島 一樹さん&高知県立山田高等学校の3名
高校生3人とその先輩である大学生の4人チーム。過疎化が進む高知県の現状をデータとビジュアル、音声で表現しつつ、人口減少が進む地元香美市からどのような未来も描けるという静かな希望をこめた、アート色の強い作品に仕上げてきた。
工学院大学 情報学部 3年 田上 雄悟さんほか3名
新宿駅の運行状況をTwitterなどから取得し、キネティックウォール上に電車の往来を壁の動きとして表現してみせた。Twitter APIとの連動など、テクニカルな面での完成度が高い。
鎌倉女学院高等学校 2年 守 真結子さん
12x15マスのキネティックウォールをフルに使い、2×2~8×8までの美しい幾何学模様を描く時計に仕立て上げたジェネラティブアート作品。模様を生成するコードはすべてプログラミング言語Pythonで書かれているとのこと。
工学院大学 工学部4年 小野 健太郎さん
美しい3Dグラフィックで描かれた海と砂浜の映像をバックに、中央部に工学院大学のキャンパスがある新宿と八王子の気象情報などが表示される実用的な作品。背景の映像は現実の時間帯に合わせて昼~夜へと変化する。
東京経済大学 経営学部 4年 柳下 愛菜さん
キネティックウォールいっぱいに季節の花とその花言葉などを次々に表示する作品。作品としての美しさもさることながら、情報を見せた後のアトリウムに集まる人々の動きなどを解析すれば、マーケティングに活用できるのではないかという、経営学部ならではの視点も面白い。
工学院大学 情報学部 3年 苗村 香菜子さん
アトリウムにいる人の声に反応するベルーガ(シロイルカ)、アトリウムにいる人の数で飛ぶ速度が変わる鳥、そしてアトリウムを歩く人を追尾して覗き込んでくるキリンという3種の動物たちをキネティックウォールに投影する作品。立体音響も活用して臨場感あふれる作品となった。
工学院大学 情報学部 4年 戸田 壮駿さん
新宿キャンパスと八王子キャンパスを繋ぐシャトルバスや、JR線、京王線の運行情報を、現地の時間や天気を反映しながら表示する実用的な作品。工学院大生からはこうした実用系ツールの作品が多く登場したが、それだけこのアトリウムが学生生活に根付いているということだろう。
工学院大学 情報学部 3年 杉田 寛美さんほか2名
工学院大学のキャラクターの「コーガくん」を使い、Kinectでプレイヤーの動きを識別して、落ちてくる星をタッチして隕石を破壊するというゲームに仕上げてきた。
工学院大学大学院 情報学専攻 修士1年 田上 慶治さん
海をテーマに、キネティックウォールを使ってアーティストが描いた海の絵をリアルに動く波模様として表現した作品。周囲の音が波を生成する際のパラメーターとなっており、アトリウムに集まる人々がアートに参加する形となっている。技術力とアート性が高度に融合し、高い完成度を見せた。
東京都立多摩科学技術高等学校 2年 後藤 紡さんほか2名
キネティックウォールに実際に出っ張りを作って、CGのキャラクターをNintendo SwitchのJOY-CONで操作しながらウォールクライミングさせるゲーム仕立ての作品。難易度がかなり高く登頂できなかったのが残念だが、注目度は非常に高かった。
工学院大学 情報学部 1年 小田島 亜由さん、電気通信大学 Ⅱ類 1年 竹内 綱良さん、ほか1名
新宿区にまつわる数字をさまざまな形でビジュアライズした作品。新宿を「視」覚的に知ろうということで「視る」と書いて「しる」と読ませる。動態認識なども活用してアトリウム全体をアート作品に組み込む工夫も見せた。
多摩美術大学 美術学部 1年 鈴木 快さんほか2名
タッチデバイスに表示された8つの感情から4つを選択すると、内なる感情を音と光で表現してくれるアート作品。音楽とビジュアルが高度に融合されており、高い完成度を見せた。
最終審査の結果発表
最終審査で発表された12作品は、約3カ月という限られた制作期間のなか、慣れない開発ツールに苦労しながらも、いずれもきちんとプレゼンテーションできる完成度に仕上げてきた。優劣を付けるのが惜しまれるところだが、厳正な審査の結果、以下の受賞作品が決まった。
■審査員特別賞(賞金5万円+副賞)3組
- 「花暦emotions」(柳下 愛菜さん)
- 「Kinetic Climbing Wall」(代表者:後藤 紡さん)
- 「INSIDE」(代表者:鈴木 快さん)
■21世紀工手賞(賞金10万円+副賞)2組
- 「In Nature ~新宿から大自然へ~」(苗村 香菜子さん)
- 「ユークリッド分裂時計」(守 真結子さん)
■最優秀賞(賞金20万円+副賞)1組
- 「アートと技術の海」(田上 慶治さん)
最終審査に残った作品はいずれも力作揃いで、技術面で各チームにそこまで大きな差はなかったと感じられた。最終的にはやはりアートとしてビジュアルやサウンド面にも力の入った作品が高い評価を集めていたように思う。
また、受賞作品はいずれも動く壁、キネティックウォールの扱い方が上手かった。やはり最初のアイデアと、それをどう実際の作品に落とし込んでいくかがポイントだったのだろう。 最優秀賞を受賞した田上さんにお話を伺った。
―――受賞したお気持ちをお聞かせください。
本当に光栄です。壁フェスの募集前からアーティストの方と「アートを動かす」という研究をしていたのですが、ふとこの壁を見た時に、高さを合わせたら立体的な作品になって面白いのではないかと思いつき、応募しました。
―――どんなところに苦労されましたか?
アーティストが描くパターンをうまく学習させる点ですね。白い波の部分が奥深く、まだまだ課題が大きいです。学習したパターンを動画にするのも難しい部分です。今後はもっと繊細な海の表現を実現できるようにしたいです。
―――今後の目標をお聞かせください。
アーティストの方と共同研究しているので、今後は作品を展示してもらうこと。アートフェスティバルなどへの出典にも挑戦してみたいです。
ITパワーで新しいことへのチャレンジを応援
今回の「壁フェス Kinetic Wall Festival 2022」の協賛企業であり、機材提供も行ったインテル社は、「Blue Carpet Project」というアーティスト支援活動を行っており、今回の協賛もその一貫となる。インテル株式会社でBlue Carpet Projectを担当しており、今回の審査員としても参加されたインテル株式会社第二技術本部 安生 健一朗氏にお話を伺った。
―――今回のイベントに審査員として参加された感想はいかがでしたか?
参加者の方々から、「Blenderを初めて触りました」「Unityを使ってみました」など、新しいことを始めてみたということをたくさん聞けました。それだけで、我々としてはやってみてよかった、という思いです。今回の壁フェスを通じて、高校生や工科系以外の学生の参加などがあり、全体として、工学系イベントの枠を超えた感じがあったのはよかったと思います。
―――Blue Carpet Projectについてお聞かせください。なぜインテルがこうしたアート支援活動を行っているのでしょうか。
1人でも多くのユーザーさんに、制作や開発など、新しいことにチャレンジしてもらいたいということです。最近はTikTokやInstagramなどでも、クリエイターの方がスマートフォンで作品を制作していくことも増えているなか、パソコンをなぜ使うのか、という動機づけが重要だとインテルは思っています。そこで、本当にいいものを作るなら、パソコンを使えばこんなにすごいものができるよ、ということを世の中に発信していきたい、というのがBlue Carpet Projectのコンセプトです。
Blue Carpet Projectには50社を超える賛同企業がいらっしゃいますので、インテルがクリエイティブマーケットに直接働きかけるのではなく、賛同企業と一緒に制作のノウハウや過程、技術を発信していくことが重要です。
今回は学生を対象としたコンテストでしたが、そこにはピクス社というBlue Carpet Projectの賛同企業の存在が大きく関わっています。ピクス社は学生に技術やノウハウを展開していくという役目がありました。今後は、一度やったイベントは今後も継続し、さらなる賛同企業と活動の場を広げていきたいと考えています。
また、最後に壁フェスを主催した工学院大学の伊藤慎一郎学長にもお話を伺った。
―――審査を終えて、いかがでしたか?
みなさん技術が高いと感じました。わずか半年でゼロからここまで、さまざまな技術を習得しながら仕上げてきたのは驚くべきことです。壁を動かすことと、プロジェクションマッピングを融合させるのが難しいところ、よく習得されたと思います。
1番びっくりしたのは「ユークリッド分裂時計」で、高校生でこのような高度な作品を1人で仕上げてきたというのには驚かされました。若い世代の台頭も嬉しいですね。
―――「壁フェス」の今後の予定についてお聞かせください。
今後も壁フェスは続けていきたいと考えていますので、皆さんが切磋琢磨して技術を高めていって、次の機会には新たなアイデアで挑戦してほしいです。本学の特徴であるプロジェクションマッピングと「キネティックウォール」で、素晴らしい作品を発表していただくことを期待します。
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巨大な壁を相手にさまざまな表現を試みる「壁フェス」は、若い世代ならではの感性でITとアートを融合させた、熱気あるイベントとなった。
今後も同様のイベントは開催される予定のようなので、我こそはと思う腕自慢の学生諸君は、今からアイデアと技術を練っておいてはいかがだろうか。また、壁フェスの協賛プロジェクトであるインテルのBlue Carpet Projectの今後にも注目してほしい。
[PR]提供:インテル株式会社