10月29日は世界脳卒中デー。脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりして起こる病気で、血管が詰まって起こる脳梗塞と血管が破れて発症する脳出血に大きく分けられます。とくに血管が詰まって起こる脳梗塞は増えており、脳血管疾患全体の2/3を超え*1、男女とも高齢になるほど多く、注意が必要です。
身体の中でもとくに重要な臓器である脳と心臓は、加齢にともなって血管の病気が起こりやすく、皆さんにはなじみが薄いかもしれませんが、心臓の病気が脳梗塞を引き起こすこともあります。年を重ねた人や見守る家族が知っておくと、いざというときの助けになることについて、専門医おふたりに話をうかがいました。

矢坂 正弘 先生
国立病院機構 九州医療センター 脳血管・神経内科 臨床研究センター 臨床研究推進部長
1982年熊本大学医学部卒業。メルボルン大学オースチン病院神経内科、国立循環器病センター内科脳血管部門医長などを経て現職。

末廣 栄一 先生
国際医療福祉大学医学部 脳神経外科 教授
1996年山口大学医学部医学科卒業。バージニア医科大学解剖学・神経生物学リサーチフェロー、山口大学医学部附属病院先進救急医療センター/脳神経外科診療准教授などを経て現職。

ノックアウト型脳梗塞? 心臓が原因の脳梗塞とは

「心原性脳塞栓症」は、心房細動によってできた血栓が脳の血管に詰まって起こる

Q:脳梗塞はなぜ起こるのでしょうか。

矢坂先生:脳梗塞は大きく分けて、「アテローム血栓性脳梗塞」「ラクナ梗塞」「心原性脳塞栓症」の3種類があります。共通の危険因子には、高齢、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満などがあります。これらにより血管が傷ついて血栓を作ったり、血管に動脈硬化が起こり血管の壁が内側に向かって厚くなったり、心房細動に伴う心内血栓が頭の血管へ運ばれたりすることで、脳の血管が詰まり、その先の脳組織が壊死して脳梗塞が起こります。

それぞれを簡単に説明しますと、「ラクナ梗塞」とは、おもに高血圧による動脈硬化で、脳の深い部分にある細い血管が狭くなって詰まることで起こります。「アテローム血栓性脳梗塞」は、脳の比較的太い血管や首の頚動脈で動脈硬化が進み、血栓で血管が詰まって起こります。「心原性脳塞栓症」は、心房細動という不整脈が原因で心臓の中に血栓ができ、それが血流に乗って脳の血管に詰まって起こります。

「アテローム血栓性脳梗塞」や「ラクナ梗塞」は、高血圧や高血糖、脂質異常、肥満などの生活習慣病の進行により、動脈硬化が徐々に悪化して起こります。そのため、脳梗塞を起こしたときに、症状が比較的軽かったり、階段状に悪化したりすることもあります。一方で「心原性脳塞栓症」では、大きな血栓が脳の大きな血管で突然詰まって発症するため、前触れなく突然起こり、梗塞(壊死)の範囲が広く、重症化しやすいのが特徴です。

Q:脳梗塞の中でも重症化しやすいのが「心原性脳塞栓症」なのですね。原因は何でしょうか。

矢坂先生:「心原性脳塞栓症」の最も多い原因は、心房細動という心臓の病気です。心房細動は不整脈の一種で、心臓の「心房」と呼ばれる部屋全体がけいれんするように小刻みにふるえ、規則正しい拡張と収縮ができなくなった状態です。そのような状態になると血液が心房の中で淀んでしまい、血栓ができやすくなります。心房細動によってできた血栓は比較的大きく、それが血流に乗って脳の大きな血管を突然詰まらせることが多いため、急激に症状が現れ、重症化することが多いのです。その特徴から、俗に「ノックアウト型脳梗塞」と呼ばれることもあります。日本では心房細動の患者数が年々増えていますが、それに比例するように「心原性脳塞栓症」も近年増えてきています。心房細動は高齢者に多いので、超高齢社会の日本では、「心原性脳塞栓症」の最大の危険因子と言えます。

「心原性脳塞栓症」を起こさないためにも不整脈の予防、管理をしっかりと

矢坂 正弘 先生

Q:「心原性脳塞栓症」にならないためには、どうしたらいいでしょうか。

矢坂先生:繰り返しますが、一番の危険因子は高齢です。60歳を過ぎると心房細動の罹患率が上昇します*2。ですから、心房細動を未然に防ぐことや、その発症に早く気付くことは、「心原性脳塞栓症」の予防として重要です。

Q:心房細動の予防や早期発見はどのようにすべきでしょうか。

矢坂先生:心房細動の発症に高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、肥満、アルコール多飲、ストレスなどが関係しますので、食事、運動、睡眠といった生活習慣を見直すことや病院でのリスク管理が大切です。心房細動の症状は、胸がドキドキする動悸、息切れ、めまい、疲労感、などがありますが、無症状のことも多いので、脈が規則正しいかどうか脈をとってみることや健康診断で心電図検査を受けることが重要です。また、すでに心房細動と診断され、血栓ができるのを防ぐための薬が処方されている方は、それをきちんと服用することを心がけてください。

Q:脳梗塞の発症予防のために飲む、血液が過度に固まらないように血液をサラサラにする薬について教えてください。

矢坂先生:血液サラサラの薬は正式には「抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬。合わせて抗血栓薬)」と呼ばれます。抗血栓薬を飲むと決まったら、きちっと毎日飲むことが肝心です。飲み忘れないように、勝手にやめてしまうことのないようにしていただきたいと思います。一方で抗血栓薬はひとたび出血すると止まり難い特徴を持っていますので、転倒や頭部打撲などのケガに注意します。薬について不安なことや疑問があれば、ぜひ主治医に相談してください。

脳梗塞の発症予防で血液サラサラにする薬を飲んでいたら

末廣 栄一 先生

Q:「心原性脳塞栓症」に限らず、脳梗塞などの発症予防のために血液をサラサラにする薬を普段飲んでいる人に気をつけてほしいことはありますか。

末廣先生:矢坂先生もおっしゃっているように、まずは「必ず医師の指示通りに服用する」ことが大切です。「ラクナ梗塞」と「アテローム血栓性脳梗塞」は抗血小板薬、「心原性脳塞栓症 」は抗凝固薬を服用しますが、これらの薬を飲んでいるということは、脳梗塞を起こさないことが第一に重要なことだからです。
その上で気をつけていただきたいことは、薬の服用中は、通常より体のさまざまな箇所で出血しやすくなっていることです。とくに注意が必要なのは、脳(頭蓋内)の出血です。ご高齢の方はとくにつまずいたときに、反射的に防御態勢がとれず、脱力したまま転倒して頭を打ってしまうことが多くあります。頭を打ったあと、頭痛や吐き気といった症状を訴えたらもちろん救急外来に行っていただきたいのですが、そのような症状がない場合も、周りの人に「ゴツン」という音が聞こえるほどの強さで頭を打っていたら、念のため病院に連れて行ってください。

Q:血液サラサラの薬を飲んでいない人より、出血に注意が必要なのですね。

末廣先生:そうです。出血を起こしたとき、血がなかなか止まらなくなり、命にかかわる大出血につながることがあります。それが脳で起これば脳出血となり、重症化や命の危険をともなうこともあるからです。

矢坂先生:胃や腸といった消化管も、抗凝固薬による出血が起こる頻度の高い部位です。急性脳梗塞後に消化管出血を起こすと、生存率が低下するとの報告もあります*3。
抗凝固薬を飲んでいる方は、便の色に注意してください。胃などの上部消化管から出血がある場合は、黒っぽい、タール便が出てきます。血便であれば、大腸などの下部消化管からの出血です。これらがみられたら、主治医に相談しましょう。
こうした消化器の出血は、抗凝固薬を飲み始めて3カ月以内に起こりやすいことがわかっています。そのため、3カ月間は月に1回程度、血液検査でヘモグロビン値を測ります。1カ月前より下がっていたら、出血の可能性がある、ということです。

事故は突然起こる――そのときどうすれば?

Q:脳梗塞予防のために必要とはいえ、患者や家族はどうやって出血しやすい薬と付き合っていけばいいのでしょうか。

末廣先生:抗凝固薬の「血液サラサラ効果」を一時的に止める薬があり、中和薬と呼ばれています。血液サラサラの薬はいろいろな種類がありますが、中和薬もその薬に合ったものが必要です。つまり、飲んでいる薬によって中和薬も異なるのです。そのため、たとえばご高齢の方が転倒して救急外来に運ばれてきたときに、医師は真っ先に「血液サラサラの薬を飲んでいますか?」と、ご本人やご家族にたずねます。飲んでいる抗凝固薬の種類がわからないと、適切な中和薬を投与できないからです。中和薬は、病院に運ばれてきた当日に投与するのが望ましいのですが、現状では搬送されてきた当日に服用薬がわかる人はほんの一部です(円グラフ参照。中和薬に限らず、飲んでいる薬がすぐにわからないことが多いことを示している)。

Q:治療を受ける際には、飲んでいる薬の名前を伝えることができるようにしておく必要があるのですね。

末廣先生:その通りです。そのため、抗凝固薬を飲んでいる方にお願いしたいことがあります。まずはご自身がその薬の名前を覚えておくようにしてください。また忘れてしまってもわかるように、病院・クリニックや薬局などで配られている「服用カード」や、薬剤の名前をメモした紙を財布の中に入れておくことも、とても有効です。可能であれば、お薬手帳を常に携帯していただけるといいですね。
またご家族は、患者さんの飲んでいる薬の名前と薬効について、ご本人の代わりに知っておくことも大切です。あるいは、患者さんが転倒して病院に運ばれたときに、ご本人に意識がなければご家族に医師が薬の名前をうかがいますので、わからなくても「財布の中にカードがあります」などと言っていただけると、とても助かります。電話機の横など、すぐにわかるところにメモを貼っておくこともおすすめです。

Q:血液サラサラの薬の名前を言えるように覚えておいたほうがよいということですね。

矢坂先生:もちろんそれが望ましいのですが、飲んでいる抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬。合わせて抗血栓薬)は1剤とは限りません。血管の詰まりを抑えるためのステント治療(血管の内部を広げて、ステントという金属のチューブ状のもので補強する治療)を行った場合は、種類の違う2剤を服用します。また脳梗塞の急性期も、2剤を服用します。患者さんによっては3剤服用している人もいますので、服用カードやお薬手帳などを携帯することをおすすめします
とはいえ、こうした薬2剤あるいは3剤を漫然と飲んでいると出血のリスクが高くなりますので、医療側でも可能な限り、3剤を2剤に、2剤を1剤に減らすように、見直しが始まっているところです。

血液サラサラの薬をご家族が服用していたら。さっそく、やってみよう

家族ができることについて、以下にまとめてみました。

・ご両親が定期健診にいっているか確認しよう
・血液サラサラの薬を飲んでいるか確認しよう
・飲んでいる薬の名前を言えるようにしよう
・飲んでいる薬をメモして、スマホの待ち受け画面に設定したり、自宅の電話機の横に貼ったりしよう
・お薬手帳や服用カードを持ち歩いているか確認しよう

服用カードは病院・クリニックや薬局などで配布している

Q:そのほかに、血液サラサラの薬を飲んでいる患者さんやご家族が気づきにくいけれど注意してほしい大切なことはありますか。

矢坂先生:血液サラサラの薬は、出血したら止まりにくいという性質をもっています。しかしそのことを勘案しても、脳梗塞や心筋梗塞の予防に有用な薬です。何度も申し上げますが、処方されている人は勝手にやめたりせず、飲み忘れることのないよう、しっかり飲んでいただきたいと思います。
歯医者さんで抜歯をしたり、白内障の手術をしたり、皮膚科で小さな処置をするときには、血液サラサラの薬を止めずに行う方針になっていることを覚えておきましょう。しかし、より大きな手術を受けるときは血液サラサラの薬を止めざるを得ませんが、その場合も勝手に休薬せず、主治医に必ず相談して決めましょう。

末廣先生:血液サラサラの薬をきちんと飲んで、脳梗塞などを予防することは患者さん本人はもちろん、ご家族にとっても重要なことです。もし、こうした薬を服用しているご家族がいたら、服用で気をつけることとともに、転倒した際など、出血するかもしれないときにすべきことを一度、話し合ってみてください。

*1 厚生労働省:平成 29 年 患者調査 5 主な傷病の総患者数
*2 Akao M, et al: J Cardiol 2013; 61: 260 266
*3 O'Donnell MJ, et al: Neurology.2008; 71(9): 650-655.

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