カシオ製品全般に対して、「安心して使える」イメージをお持ちの方は多いだろう。しかし、その根拠を聞かれて、即答できる人はどれだけいるだろう。もしかするとそれは、G-SHOCKのタフな設計や過酷な試験から連想する単なる先入観なのではないだろうか? 本当に各製品とも耐久性が強く安心して長く使えるのだろうか?という疑問があるのもやぶさかではない。
そこでその疑問を解決すべく、我々マイナビニュース取材班はカシオ羽村技術センターを訪問し、看板製品である「電卓」のなかでもプロユースに対応した「本格実務電卓」にも行われている品質試験を見学した。その内容をレポートしていこう。
今回は、実際に行われる製品試験から特徴的な5項目「静電気試験」「ねじれ強度試験」「打鍵(入力ボタン)の耐久試験」「部分加圧試験」「自由落下衝撃試験」について、案内と解説をしていただいた。対応してくださったのは、技術本部 品質統轄部の會田彰大氏だ。
ちなみに、電卓から電子辞書、楽器、G-SHOCKなどの時計製品も含め、多ジャンルに渡るカシオ製品の品質試験は、すべて品質統轄部が行っている。もちろん、求められる品質および試験方法はその製品の使用シーンに応じて厳しく設定しており、各試験は主に新製品の試作品に対して行われるとのこと。
試作の段階で設計や耐久性などを確認。もし何らかの問題があった場合はその原因を突き止めて修正、再度試験を行い改善されたことを確認する。なお、製品化した後の抜き取り検査は生産工場で行われる。
では、さっそく品質試験の具体的な内容を見ていこう。まずは「静電気試験」から。
會田氏「高圧の電気を放つ放電ガンを、電卓本体各所に当てます。冬など乾燥した環境で発生する静電気を想定した試験であり、高圧電流に触れても正常に動くのかを確認するのが目的。同様の試験は、G-SHOCKの品質試験でも行われています」
※上記の記事はG-SHOCKのものであり、電卓の試験基準とは異なります。
---しかし、とくに何も起こりませんね。
會田氏「画面表示が正常なので、静電気への耐久性が確保されている証拠です。内部の回路が静電気の影響を受けてしまっている場合は、画面が消えて動かなくなってしまったり、表示されている数字がゼロに戻ってしまったりするんですよ」
---青白い電流が見えたりはしないんですね。
會田氏「電卓は多くの外装部品が樹脂なので、G-SHOCKのメタルケースに触れたときのような電流は見えづらいので見た目が地味で恐縮です(笑)。ただ、海外では耐静電気の規格をクリアしないと販売できない国もあるくらい、重要な試験なんですよ」
続いて、「ねじれ強度試験」だ。規定の抵抗を設定した回転台に電卓をセットして、本体を手で左右にねじる(規定位置まで回す)。意外とアナログな方法だ。
會田氏「ねじれ強度試験では、例えば鞄やポケットのなかに入っている電卓に対して、特定方向へ強い力がかかるような場面を想定しています。試験によってケースが歪んだり、亀裂が入ったり、操作に問題が生じたりしないかといったポイントをチェックします。」
そして、「打鍵の耐久試験」。これには、2つの要素がある。1つは研磨材でキートップを繰り返し擦って、印刷などの耐摩耗性を確認する試験のこと。もう1つは、キーを叩き続けても基部が損傷、あるいは押したままにならないかを確認する試験のことだ。
會田氏「一般家庭で使用する電卓や税理士・会計士の方々が使用する電卓など、使う場面によって打ち方に特徴があります。それぞれの環境でも問題なく動作することが大切なんです」
---たとえば「+」や「=」のように使用頻度の高いキーもありますよね。それに、プロユースに対応した本格実務電卓と一般的なコンシューマ向け電卓では求められる耐久性も違うのでは?
會田氏「使用頻度の高いキーに合わせて、擦る回数や押下する回数を設定しています。もちろんモデルによって、試験回数は異なります。マージンが多すぎると、コストの増加や構造の制限にも繋がってしまいますので、お客さまの使用環境を想定し、適切な品質基準を設定しています
また、同じ電卓のなかでもキーの形状が異なるもの(キーの形状が凹状や凸状のもの、中心にドットのモールドがあるものなど)があるので、これらすべての形状からキーを選んで試験しています」
そして「部分加圧試験」。これはねじれ強度試験のように特定方向ではなく「特定の位置」にポイント的に圧力がかかった場合、たとえば鞄のなかで突起物のあるものに押された場合などを想定しているという。
會田氏「電卓を固定して、任意のポイントを機械のシャフトで場所を変えながら押していきます。液晶窓の風防や、ソーラーパネル部分に対しても行いますよ。ほかに比べてデリケートな部分ですが、形状的に物に当たりやすいのも事実なので避けるわけにはいきません」
最後に紹介するのは「自由落下衝撃試験」。試験に使用する機械も、G-SHOCKの自由落下試験で見たものと同じだ。
會田氏「電卓を両側からアームで挟み込み、持ち上げてリリースする(落下させる)という内容は、G-SHOCKと同様です。例えば、『机の上から誤って床に落下』というような状況を想定し、様々な高さで試験を行っています」
※上記の記事はG-SHOCKのものであり、電卓の試験基準とは異なります。
とはいえ、コンクリートの床に落ちればそれなりの衝撃だ。落下した電卓は床に弾かれ、跳ねて転がり、カタカタッ! と乾いた音が試験室に響いた。もちろん、電卓は正常に動作している。
先にも書いた通り、今回紹介した試験はあくまでほんの一部。使用状況を想定した試験はもちろん、商品運送時の振動に対する試験など、実際にはさらに多くの試験が行われている。また、新製品開発の上流工程である商品企画の段階から関わり、品質の作り込みを行っている。加えて、生産時の検査やアフターサービス、修理内容の解析まで、長期に渡って幅広く関わる仕事なのだ。
會田氏「計算機の役割がスマホのアプリで代用されることも多いこの時代、わざわざ当社の計算機を選んでくださるのは非常に嬉しいことです。特に、プロユースに対応した本格実務電卓は企業の経理に関わるきわめて重要な道具。ノーブランドの安価なものではダメだとこだわりをもって使ってくださるお客様のご期待には、製品の品質で応えなければならないと考えています」
なお、記事中幾度となく「G-SHOCKの試験と同じ」的なことを書いたが、実はG-SHOCKの品質試験は電卓のそれから転用したものが少なくないとのこと。さすがは「カシオ計算機株式会社」。品質面においても電卓はその源流であり、アイデンティティとしての役割も担っているのだ。
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