買い替えや故障のために処分した家電。その一部が、実は新たな家電に生まれ変わっています。
一歩先行く家電リサイクル技術にいち早く着目し、牽引しているのが家電メーカーのシャープ。関連会社の関西リサイクルシステムズと共に、金属と比較してもとりわけ高い技術が求められるプラスチックの取り出しや再資源化に取り組んでいます。
今回は、大阪府枚方市にある関西リサイクルシステムズの本社工場で、家電リサイクルに携わる両社のスタッフに話を伺いました。
解体・回収を経て再生。「自己循環型マテリアルリサイクル」とは?
取材を受けてくださったのは、関西リサイクルシステムズの山田順一さんと岡内大輔さん、シャープのSmart Appliances & Solutions事業本部 要素技術開発部に所属する荒井辰哉さんの3名です。
山田さんと岡内さんが働く関西リサイクルシステムズは、家電リサイクル法が施行された2001年に操業を開始しました。
関西2府3県(大阪府、京都府、奈良県、滋賀県の大津市、新宮市を除く和歌山県)を担当し、家庭用のエアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機といった4品目を回収。これまでに引き取った家電の台数は約1,800万台に上り(2001~2021年度実績)、徹底した素材回収で再商品化率は法定義務率を4品目ともクリアしています。
そんな関西リサイクルシステムズとシャープが手がけているのが「自己循環型マテリアルリサイクル」です。自己循環型マテリアルリサイクルとは、使用済み家電から回収したプラスチックを新しい家電の部材として何度も繰り返し再生利用することを指します。
家電以外の日用雑貨などに再利用された後に焼却・埋め立て処理される一般的なマテリアルリサイクルと異なり、何度も家電に再利用することで、化石資源の利用量抑制とCO2排出を遅らせるのが自己循環型マテリアルリサイクルのポイント。4回目の再利用を迎えた洗濯機水槽もあるそうです。
この自己循環型マテリアルリサイクルは、両社の技術力によって支えられています。関西リサイクルシステムズが使用済み家電を解体し、高品位のプラスチックを回収。その後、シャープが新たに使えるリサイクル材料に再生するのです。
特筆すべきは、単に汎用プラスチックに水平リサイクルするだけではなく、付加価値を与えて機能性プラスチックに仕立て上げる「アップグレードリサイクル」にも果敢に挑んでいること。例えば、汎用プラスチックから難燃プラスチックに再生化すれば、機能を必要とする部品などへの用途が広がります。
ちなみに、アップグレードリサイクルのための技術開発を主に任されているのが荒井さんです。荒井さんは、特性を改善する技術や、開発したリサイクル材を安定して運用するために品質を管理する技術を開発しています。
自己循環型マテリアルリサイクルやアップグレードリサイクルの発想には、シャープらしい「誠意と創意」が強く感じられました。
高品位のプラスチック回収は手解体で丁寧に。品質向上と効率化を両立
自己循環型マテリアルリサイクルの実現は、当然のことながら容易ではありません。まずは使用済みの家電から高品位なプラスチックを取り出さなければなりませんが、なんと手解体が基本。なるべく単一素材で、綺麗な状態で回収することが重要だからだそうです。洗濯機の場合は、主に以下のような工程で処理をしていました。
洗濯機の上蓋を細かく分解したり、水槽内の汚れをブラシで洗ったりしていますが、すべては高品位なプラスチックを回収するために欠かせない工程です。 あとは、いかに効率良く解体・回収できるかということにもこだわり、素材の品質向上と効率化の両立を追求しています。 |
関西リサイクルシステムズは、独自な設備として水槽ユニット解体装置はシャープと共同で開発。他、パルセーター芯抜き装置といった設備を開発。これらの設備で手解体に加えて半自動機による分離回収を行い、取り出すプラスチックの高品位を維持しています。
また、省力化・自動化についても全社一丸となって知恵を絞っているそうです。工程ごとの流れ作業を導入したのも現場からの意見がきっかけでした。
どういう方法であれば効率良く安全に作業ができるのか、現場の意見に耳を傾けながら負担軽減に努めています。 |
全社員が参加する定例の勉強会では、さまざまなアイデアが提案されるのだとか。「社員の意識の高まりを感じる」と山田さんと岡内さんは胸を張りました。
アップグレードリサイクルは、理念を共有する両社連携の賜物
一方で、プラスチックを再生する段階においても苦労が尽きないといいます。荒井さんが明かしてくれました。
使用済み家電から回収したプラスチックは長期間の使用で傷んでしまっていたりするので、修復する必要があります。そのときに使用するのが添加剤です。 いわゆる病気を治す“薬”のようなものですが、数え切れないほど種類がたくさんあり、なおかつ家電の使用状況によって傷み具合はさまざま。どの添加剤をどの程度加えるかを吟味しながら処方を開発するのはなかなか大変です。 |
ただ、こうした処方開発の試行錯誤が、新たな機能を付加するアップグレードリサイクルにつながっているのは間違いありません。
これは一例ですが、薄型テレビの背面に使用されている難燃性と耐衝撃性が高いバックキャビネットと、冷蔵庫の庫内に使用されている剛性の高いトレイを掛け合わせて特性を改善・付与することで、電源ボックスに使う素材が完成しました。双方の良いとこ取りをした、難燃性と耐衝撃性、剛性を兼ね備える素材です。 バランスの取れた条件を見つけ出すのは難しいですが、商品として世の中に送り出すことができるのは家電メーカーのシャープならではの強みですし、やりがいがあります。 |
現在、非難燃の素材を難燃化しようとトライ&エラーを重ねているそうですが、解体・回収を担う関西リサイクルシステムズの協力が不可欠と荒井さんは断言します。
綺麗な状態で回収することにこだわっていただいて、とても助かっています。そういった素材には添加剤の種類や量が少なくて済み、リサイクルしやすいので。 |
理念を共有する両社が連携しているからこそ、自己循環型マテリアルリサイクルを成し得ているのでしょう。
なお、関西リサイクルシステムズでは、シャープ主催で特に家電4品目の設計者・企画部門・デザイン部門などを対象にリサイクル設計研修を年1回実施※。関西リサイクルシステムズで解体を体験しながら、自部門の製品へのフィードバックを考えてもらう場としており、商品設計にも影響を与えているそうです。
解体しやすい設計であれば、高品位のプラスチックをより回収できるようになり、さらなるリサイクルの発展が期待されます。実際、ネジの使用本数が減ったり、解体が困難であったガラス扉からデザイン変更をしてメタル扉の冷蔵庫が誕生したりしています。
※現在はコロナ禍で集合研修を中断中
20年以上前から技術開発に着手。家電メーカーとして、世界に責任を果たしたい
そもそもシャープが自己循環型マテリアルリサイクルの技術開発に着手したのは、1999年のことで、経済産業省が策定した「1999年循環経済ビジョン」※を受けてのこと。
循環経済ビジョンとは、我が国の循環経済政策の目指すべき基本的な方向性を提示したものです。シャープは、大量の廃棄物による最終処理場のひっ迫や化石資源の供給不安といった地球環境問題の顕在化を鑑み、『天然資源に依存しない資源の調達や分散化を目指す』というコンセプトを掲げました。そのひとつの手段が、廃プラスチックの自己循環型マテリアルリサイクルだったのです。
※「1999年循環経済ビジョン」では大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システムから、環境と経済が統合する循環経済システムに転換することを目指し、廃棄物の発生抑制(リデュース)と廃棄物の部品等としての再使用(リユース)、素材としての再生利用(リサイクル)の「3R」の本格的な導入が提言されました。
2015年には国連サミットでSDGsが採択され、2019年には日本国内で「プラスチック資源循環戦略」が策定されるなど、今では大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済から循環経済へ徐々にシフトしていますが、実に20年以上前からシャープは大きな一歩を踏み出していました。
2001年に家電リサイクル法が施行されるのと同時に自己循環型マテリアルリサイクル技術を実用化。再生プラスチックの利用量は、20年間で累計約2万トン近くに及びます。プラスチックを大量に用いる家電メーカーとして、世界に責任を果たしたい。そんな想いがひしひしと伝わってきました。
究極の目標は「地産地消のマテリアルリサイクル」!
昨今の社会情勢が追い風となり、注目を集める自己循環型マテリアルリサイクルですが、課題は山積みと気を引き締めます。
繁忙期を迎えると夜間も操業するのですが、人手不足が深刻です。そのうえ、家電の大型化に伴い、現状の設備では対応できないケースも出てきました。 各ラインが抱える課題の解決に向け、設備の導入・メンテナンスを担当する立場から支援していきたいです。 |
省力化・自動化を図りつつ、省人化を視野に入れ、リサイクル率を高めながら高品位のプラスチック回収を続けていきたいですね。 そして、シャープさんの要望に応えながらアップグレードリサイクルにも貢献できればと思います。 |
立ちはだかる課題に直面するも意欲的な2人の言葉を受け、荒井さんが展望を語ってくれました。
今は日本国内での活動ですが、ゆくゆくは海外展開に挑戦したいと考えています。 生産現場の中心が海外である今、現場の近くでリサイクル材を作ることができれば輸送コストを削減でき、使用量も拡大するでしょう。 |
究極の目標は「地産地消のマテリアルリサイクル」。シャープ×関西リサイクルシステムズの自己循環型マテリアルリサイクルが、天然資材の枯渇に苦しむ世界の救世主になるかもしれません。
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