あなたは「フェムテック(Femtech)」という言葉をご存知でしょうか?
フェムテックとは「Female」と「Technology」を掛け合わせた造語で、テクノロジーの力で女性特有の健康課題を解決するサービスや製品のことを指します。例えば、女性の月経周期を管理するアプリや婦人科領域のオンライン診療が、その一例です。
官民一体となってフェムテックが推進されている中、家電メーカーのシャープは「生理用品のIoT収納ケース」を開発しました。
経済産業省の「令和3年度『フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金』」にも採択された同製品は、商品化に向けて事業が進められています。
シャープは、どうしてフェムテック製品を開発するに至ったのでしょうか?
企画・開発しているスタッフに話を伺いました。
若い感性が生み出した「生理用品のIoT収納ケース」に込められた想い
今回、取材を受けてくださったのは、Smart Appliances & Solutions事業本部の新規事業企画開発部に所属する谷村基樹さんと寧静(ねい・せい)さん。
同部署では、谷村さんが中心となって商品化を実現した咀嚼回数を計測する「バイトスキャン(bitescan)」をはじめ、ヘルスケア領域の企画・開発を手がけています。UXデザイナーの寧さんは、昨年8月に参加。平均年齢28歳ほどの社内で際立つ若さが、このチームの特徴です。
若い感性が生み出した「生理用品のIoT収納ケース」は、生理用品の使用状況のセンシングとアルゴリズムの分析により、アプリを通じて「生理用品の在庫管理」と「月経周期の自動記録」ができるという便利なもの。生理用品の買い忘れ防止や、月経記録管理の負担軽減につながります。
まだネットサービスが主流の日本のフェムテック業界においてプロダクトであることが珍しく、その点が評価されたのか経済産業省の「令和3年度『フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金』」に採択されました。
今後の展開として、生理用品の自動注文機能や使用状況を元にした商品アドバイスサービスの提供を検討しています。 |
ちなみに「生理用品のIoT収納ケース」は、まだ開発途中段階。チーム一丸となって、商品化に向けて試行錯誤を繰り返しています。「できれば来年には発売したい」と、寧さんは力を込めました。
なお、課題解決の手法に「収納ケース」を選んだのは、生理用品を買って収納する“普段の生活パターン”に余計な手間を加えたくなかったからなのだとか。また、暮らしの中で蓄積した情報を活用する発想は、シャープがAIoTのビジョンを掲げているからこそ辿り着いたものだといいます。
誰もが気軽に月経記録管理が自動でできるように考えました。 プロトタイプの利用者に、社会人になってから月経記録を付けるようになった方がいましたが、生理周期によって自分の体調と心に大きな変化が起きることに気づき、「しんどいのは自分のせいじゃなかったんだ」と安堵したそうです。 生理に関する悩みについては女性自身が「しょうがない」「つらいのが当たり前」とあきらめがち。今回の「生理用品のIoT収納ケース」が、そんな思い込みを払拭する第一歩になれば嬉しいです。 |
「もっと気楽でいいし、我慢しなくていい」。
生理周期を簡単に把握することで身体の状態を知り、健康維持に役立ててほしいとの想いが込められているのです。
難しい生理予想の現実。一人ひとりの声を尊重し、高精度を目指す
この「生理用品のIoT収納ケース」は、シャープにとって初めてのフェムテック製品。開発に着手したのは、寧さんが感じていた生理にまつわるストレスがきっかけでした。
生理用品を買い忘れたり、月経記録を入力するのが面倒になったり、私自身がストレスを感じていました。 これから開発するプロダクトへのアイデアを出すディスカッションで、それを提案したのがきっかけです。 |
課題を知った谷村さんは、社内アンケートの実施を提案。すると、共感する意見が多数集まりました。
実は、前もって仲の良い友だちに聞いてみたのですが、あまり手応えはありませんでした。「別に、そんなのいらない」と(笑) 自信はなかったので、社内アンケートでは思っていたよりもポジティブなフィードバックをいただけたという印象です。でも、やはり意見は二極化していましたね。 |
寧さんは生理についての考え方やニーズが人それぞれであることを改めて実感したそうです。
実証実験に取り組む中で、生理用品の種類は豊富で、その使い方は多種多様であることがわかりました。月経の自動記録の難しさを痛感しています。 アルゴリズムのパーソナライズにより、さらに精度を高めていきたいです。 |
今も社内外の女性にヒアリングを続けていますが、一人ひとりの声を尊重する姿勢は当初から変わっていません。
企画段階では「心の苦労」も。みんなで助け合うのが理想の姿
企画段階では「心の苦労もあった」と寧さんが明かしてくれました。日本社会において「生理」は、まだまだ触れづらいセンシティブなテーマであることは否めません。
最初にアイデアを出すときは憚られました。谷村さんたちを信頼して、思い切って話したのを今でも覚えています。 |
勇気が必要だったと思いますが、話してもらえてうれしかったです。 |
プレゼンテーションすると、上の世代の上層部もすぐに理解を示したそう。「率直に驚いた」と寧さんは振り返りました。
正直、僕も上層部も当時はフェムテックという言葉さえ知りませんでしたが、この事業に意義を見出してくれました。ヘルスケア領域全般にいえることですが、未来の健康リスクを自分事化してもらうのは容易ではありません。 でも、だからこそより簡単に、より便利に月経の記録ができるなら、シャープが取り組む価値があります。常にチャレンジングな製品を世に出しているシャープらしさを感じましたね。 |
谷村さんは、学会に参加したり論文を読んだりするなどして積極的に知識を深めていきました。すると、家庭内で変化が起きたそうです。
生理中の妻に「ゆっくりしてね」と声をかけると、知識を得る前と後では彼女の反応が違っていました。彼女いわく「本当にゆっくりしていていいんだと思えた」というのです。 「わかってくれている」という安心感なのかもしれませんが、知識があるのとないのとでは、同じ言葉でも相手の受け取り方がまったく異なるのを学びました。 |
こういったエピソードは、谷村さんの家庭に限ったものではありません。
実験に協力してもらっている社員たちから「『生理用品のIoT収納ケース』が自宅にあることで、夫婦間で生理に関するコミュニケーションが増えた」という話をよく耳にします。 生理についてフラットに語れる時代が来るといいなと思います。 |
このテーマは、女性だけが取り組むものではありません。 さまざまな考え方や感じ方に配慮する必要はありますが、みんなで助け合う方向に変わっていくのが理想なのではないでしょうか。 |
「生理用品のIoT収納ケース」が、生理の話題をタブー視していた従来の価値観に一石を投じることになるかもしれません。
女性の健康課題の解決には異業種との連携が鍵を握る
ヘルスケア関連事業は、シャープの中でも重点強化分野。それだけに、初挑戦となるフェムテック製品にかかる期待は大きいものがあります。
谷村さんは現状を冷静に分析しつつ、今後の展望を語ってくれました。
女性の健康課題は多岐にわたるうえ、年代やライフスタイルによって様変わりします。シャープだけの力で、それらすべてを解決するのは不可能です。 例えば、生理用品メーカーや、オンライン診療システムを展開する企業などとの異業種連携も視野に入れています。 |
発売が待ち遠しい「生理用品のIoT収納ケース」ですが、まだまだブラッシュアップが期待できそうです。
ケース自体のサイズやデザインについても改良の余地があります。自宅に置きやすい形を探っていきたいです。 |
「いずれ家電のような身近な存在になってほしい」。
そう願いながら、家電メーカーならではのアプローチを活かして今日もブラッシュアップに邁進しています。
Photo:ビレッジピクス
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