交通事故では「むちうち症」になることが非常に多いです。むちうち症になったときの慰謝料の相場や、損をしないための対処方法を押さえておきましょう。
むちうち症とは
むちうち症とは、交通事故に遭い、首がむちのようにしなることで起こる頸部外傷の局所症状の総称です。自動車の追突や急停車などの際に、首の頸椎が、むちのように不自然な形でしなってしまい、ダメージを受けたために発生する症状です。
「むちうち症」というのは、医学的な傷病名ではありませんので、「外傷性頸部症候群(頸椎捻挫・頸部挫傷)」「神経根症(頸椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症)」「脊髄損傷」など医師の専門的診断を受けることが必要です。
(注)本ページの内容について
本ページに記載している症状や治療法は、一般的な知識として覚えておいた方が良いというもので、症状によって自分で判断を行うことや、記載した治療をお薦めするものではありません。必ず医師の診断を受け、適切な診断と治療を受けてください。
むちうち症の症状
交通事故に遭ったとき、「むちうち症になった」という話をよく聞きますよね? ただ、具体的にどのような場合に起こり、どういった症状が発生するのかを知らない方も多いでしょう。
むちうち症になると、非常にさまざまな症状が出る可能性があります。多いのは、首や肩、腕の痛み、肩や手のしびれ、吐き気などです。めまいや耳鳴り、息苦しさ、腰痛や眼精疲労が発生することもあります。食欲不振、脱力感が発生したりすることもありますし、意欲が低下してうつ病につながることもあります。
むちうち症になりやすい交通事故のパターン
むちうち症になりやすい交通事故は、追突事故です。後ろから急に追突されることで、頸椎や腰椎がS字型にしなるからです。横から急に衝突された場合、急停車した場合なども同じです。交通事故に遭い、首や腰が不自然な形に曲がった後、身体に異常を感じたら、まずはむちうち症を疑ってみる必要があります。
むちうち症で交通事故被害者が加害者に請求できる項目
むちうち症になったら、加害者に対してどのような損害賠償をすることができるのでしょうか? 請求できる項目をチェックしましょう。
治療費
まずは、治療費を請求することができます。入院費用、通院費用、投薬料、レントゲンやMRIなどの検査料などすべて、実費で支払いを受けられます。
通院交通費
通院のために交通費がかかった場合には、請求できます。電車やバスなどの公共交通機関を利用したときには実費の支払いを受けられますし、自家用車で通院した場合には、通常は1キロメートルあたり15円で算定したガソリン代を請求できます。
文書料、雑費
交通事故では、医師に診断書を作成してもらったり、病院から検査資料を取り寄せたりする必要がありますし、交通事故証明書を取得する必要もあります。そうした場合、文書料や手数料がかかりますが、そういったものも、損害として加害者に支払いを請求することができます。
休業損害
むちうち症になると、体調が悪くなってしばらく働けなくなってしまうことがあります。通院日には仕事を休まなければならないこともあるでしょう。そのようなときには、休業損害を請求することができます。休業損害を請求できるのは、サラリーマンや公務員、自営業者やアルバイトなどの仕事をしていた人です。専業主婦などの家事従事者の場合にも休業損害が認められます。
入通院慰謝料
むちうち症になると、病院で治療を受けます。その場合、入通院慰謝料の支払いを請求することができます。入通院慰謝料は、交通事故で怪我をしたことに対する慰謝料であり、傷害慰謝料と言われることもあります。
後遺障害慰謝料
むちうち症になった場合、治療を継続しても完治せず、後遺障害が残ってしまうことがあります。その場合、後遺障害慰謝料が認められます。後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害の内容や程度により、異なります。
後遺障害逸失利益
むちうち症で後遺障害が残ったケースでは、逸失利益を請求することができます。逸失利益というのは、将来得られるはずだったのに、得られなくなってしまった収入のことです。
後遺障害が残ると、通常「労働能力」が低下します。以前と同じようには身体を動かせなくなるからです。そして、労働能力が低下すると、本来よりも収入が下がると考えられます。そこで、こうした失われた利益を「逸失利益」として相手に請求することができるのです。逸失利益を請求できるのは、サラリーマンや公務員、自営業者やアルバイト、パート、専業主婦などの人ですが、子どもや学生でも逸失利益の請求が可能です。
むちうち症の賠償金の相場
むちうち症になると、合計でどのくらいの賠償金を支払ってもらえるのでしょうか?
後遺障害が残ったかどうかや被害者の年齢、収入などによっても大きく異なります。後遺障害が残らなかったら数十万円までですが、後遺障害が残ったら200万円程度の賠償金を支払ってもらうことができます。後遺障害の程度が重く、事故前の収入が高かった人などの場合、1,000万円を超える賠償金を請求できるケースもあります。
むちうち症は自覚症状が現れにくい
事故直後は症状を感じない
むちうち症では、事故後すぐには痛みやしびれなどの症状が出ないことがよくあります。交通事故直後、被害者は「自分が怪我をした」ことに気づきません。そこで、被害者は、警察に「物損事故」として届出をしてしまいます。また、怪我をしていないと思っているので、病院にも行きません。しかし、その後2、3日が経過すると、だんだんと痛みやしびれ、めまいや耳鳴りなどが発生してくるのです。
しかし、そうなると多くの問題が発生します。
物損事故にすると、慰謝料を支払ってもらえない
1つは、物損事故として届け出ていることによる問題です。物損事故になると、物損事故の賠償金しか支払ってもらえなくなります。治療費や慰謝料、休業損害などの費用はまったく請求できません。治療はすべて自腹になりますし、心身の機能に後遺障害が残っても、一切支払いを受けることができなくなります。
事故と症状の因果関係を証明できなくなる
もう1つは、病院に行っていないことによる問題です。事故後すぐに病院に行かないと、交通事故とむちうち症の症状の因果関係を証明することができなくなってしまいます。事故後数日してから痛みが発生したと言っても、相手からは「怪我は、交通事故後別の原因で負ったものだろう」と言われてしまいます。すると、やはり治療費や慰謝料などの支払いを受けられなくなってしまいます。
事故現場で痛みがなくても、「人身事故」にして「病院に行く」
そこで、交通事故時に衝撃を受けたら、たとえその場で痛みなどの自覚症状がなくても、必ず警察には人身事故として届け出るべきです。そして、現場での実況見分が終わったら、事故直後に病院に行って、受診しておく必要があります。むちうち症の場合に行く病院は「整形外科」です。
むちうち症の慰謝料相場
むちうち症になったら、加害者に対してどのくらいの慰謝料を請求できるものなのでしょうか? ここでは入通院慰謝料の金額を例に、確認していきましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、入院期間や通院期間が長くなると、その分高額になります。むちうち症の場合、通常入院はしないので、主に問題になるのは通院期間です。ただし、入院が必要になるケースもあります。その場合、相手から「入院は不要」「入院はむちうち症と因果関係がないから、入院費用を支払わない」などと言われることがあるので、事前に医師と相談して同意をとっておくことが必要です。
2段階の慰謝料計算基準
むちうち症でも、レントゲンやMRIの画像などに異常が見られない場合(自分が感じる痛みやしびれなどの自覚症状しかない場合)には、入通院慰謝料の金額が低めになります。これに対し、画像などで明確に異常が見られる場合、慰謝料が高額になります。では、もう少し具体的に見てみましょう。
慰謝料の算定基準には、後述するように、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準という3つの基準があります。 ここでは、弁護士基準によって、一般的な説明をすることとします。
弁護士基準は、いわゆる赤い本や青本に基づく基準で、訴訟になった場合に見込むことができる賠償額の基準になります。赤い本と青本でも多少の相違がありますので、以下の説明は、赤い本によっています。 弁護士基準では、入通院期間に応じて慰謝料額を算定します。赤い本の算定表には、下記のように、別表Ⅰと別表Ⅱの2種類があります。
入通院慰謝料については、原則として入通院期間を基礎として別表Ⅰを使用します。別表Ⅰでは、通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ、実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とされることもあります。
また、むちうち症で他覚的所見がない場合や、軽い打撲・軽い挫創(傷)の場合は、入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用します。別表Ⅱでは、通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ、実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とされることもあります。
なお、慰謝料算定の基礎となる入通院期間とは、症状固定時までの入通院期間をいいます。
【表の見方】 ・入院月数を上欄から、通院月数を左欄から求めて、両者が交差する欄の金額が求める慰謝料です。 ・入院のみの場合は、上欄の月数のすぐ下の金額が、入院期間に該当する慰謝料です。 ・通院のみの場合は、左欄の月数のすぐ横の金額が、通院期間に該当する慰謝料です。
交通事故によるむちうちをもとに後遺症が残った場合の後遺障害慰謝料慰謝料については、下記のページで詳しく解説しています。
むちうち症の慰謝料は、弁護士基準で請求する
交通事故の慰謝料の基準とは
むちうち症で高額な慰謝料を請求するためには、等級だけではなく算定基準も重要です。 交通事故の損害賠償額算定基準には、自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準の3種類があります。この中で、妥当な基準は弁護士基準です。弁護士基準は、訴訟になった場合に見込むことができる賠償額の基準だからです。 自賠責基準は、自賠法に基づく自賠責保険の支払基準であり、任意保険基準は、各任意保険会社が独自に定めている基準です。
弁護士基準で計算
3つの基準を比較するとき、金額的には、弁護士基準が圧倒的に高額です。他の2つの基準で計算したときと比べて、慰謝料が2倍、3倍になることも多いのです。
先にご紹介した入通院慰謝料や後遺障害慰謝料の金額は、すべて弁護士基準によるものです。もし自賠責基準や任意保険基準で計算をしたら、賠償金の金額が2分の1や3分の1程度まで、大きく減らされてしまいます。
たとえば、後遺障害12級の後遺障害慰謝料は、弁護士基準なら290万円ですが、自賠責基準なら94万円(2020年3月31日までの事故は93万円)、任意保険基準(現在は各社とも非公表ですが、統一基準があった当時の場合)なら100万円にしかなりません。14級の後遺障害慰謝料は、弁護士基準なら110万円ですが、自賠責基準なら32万円、任意保険基準(上記と同じ)でも40万円にしかならないのです。
むちうち症になって同じように苦しんでいるのに、算定基準1つのことで、賠償額を大きく減らされて、大変な不利益を受けてしまいます。そこで、むちうち症になって慰謝料請求をするときには、弁護士基準で計算する必要性が高いのです。
自分で示談交渉をすると、弁護士基準が適用されない
それでは、どのようにすると、弁護士基準を適用してもらうことができるのでしょうか?
実は、被害者が自分で任意保険会社と示談交渉を進める場合、弁護士基準を適用してもらえる可能性は低くなります。加害者の任意保険会社は、被害者と直接示談交渉をするために、任意保険基準を定めているからです。
被害者は、通常交通事故の損害賠償額算定基準について、知識がありません。そこで、任意保険会社は、「被害者が、安いことに気づかずに示談してくれたら良い」と考えて、さも当然であるかのような顔をして、任意保険基準を当てはめてくるのです。被害者自身が「その金額は低い」「納得できない」というと、「そんなことはない。この条件は、あなたのための特別な条件です。弁護士に依頼したら、もうこの条件は出せません」と言ったり、「それだったら、示談はできませんね」などと言ったりします。
そうして、被害者が「裁判するくらいなら、示談してしまおうか」と考えるのを待っています。
弁護士に依頼しましょう
むちうち症の被害者が弁護士基準で慰謝料を計算してもらうためには、弁護士に示談交渉を依頼すべきです。弁護士が示談交渉の代行をするときには、弁護士基準を使うものだからです。弁護士が使うから、弁護士基準と言われています。
加害者の任意保険会社も、弁護士相手に任意保険基準を主張することはありません。弁護士は、任意保険基準を受け入れることはありませんし、もし強硬に任意保険基準を主張したら、裁判をされてしまうだけだからです。
むちうち症の被害者が、加害者の任意保険会社から提示された慰謝料に納得ができずに弁護士に対応を依頼すると、それだけで慰謝料額が2倍や3倍に増額されます。弁護士費用を支払っても、十分におつりが来るだけの利益があります。
まとめ
むちうち症で対応に困ったら、弁護士に相談を
以上のように、むちうち症の被害者が困ったとき、弁護士のサポートを受けることが非常に有効です。交通事故対応でお悩みの場合には、まずは交通事故に専門的に取り組んでいる弁護士に相談してみましょう。
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