働き方や生き方の多様化が進む現代社会。女性が抱える悩みも、人によってまったく異なるものになっています。妊娠や出産、職場復帰後など、ライフステージが変わるたびに新たな悩みに直面してきたことでしょう。

『マイナビ子育て』編集長の川島輝美さんも、そんな女性のひとり。ワーキングマザーを取り巻く環境が変化していく過程を、身をもって経験してきました。仕事と子育てに関する現代ならではの悩み、そして女性たちがライフキャリアを実現するために必要な考え方とは? 川島さんが抱く想いを語っていただきました。

川島輝美

『マイナビ子育て』編集長。WEBディレクターなどの勤務経験を経て、2005年にマイナビ入社。2007年からは『マイナビウーマン』の前身となる『escala café』の編集長を担当した。2011年に妊娠・出産。2013年に職場復帰し、マイナビ女性向けメディアの立ち上げや編集に携わっている。

女性の悩みはライフステージごとに違う

――川島さんは『マイナビ子育て』をはじめとするメディアの編集長を担当されてきました。そのなかで女性が抱える悩みとは、どのようなものがあると感じますか?

川島:悩みの内容はライフステージごとに異なります。たとえば未婚女性が抱える悩みのひとつが結婚。「結婚しない自分は他人にどう見られているのだろう」と、他人からの評価である「他人軸」を気にしている印象を受けます。現代は自分らしさを大切にする考え方に回帰し始めているとはいえ、やはり他人軸は気になってしまうようです。

『マイナビ子育て』の読者であれば、妊娠中の悩みが多く見られます。妊娠中は子どもという「まだ見えないもの」と一緒に過ごす時期です。きちんと成長しているのか、無事に生まれてくるのかなど、子どもの健康状態を気にする傾向にあります。また、出産後に夫との協力体制をどう構築したらいいかなども、悩みのひとつです。家庭内や職場の受け入れ体勢によって、職場復帰したあとの環境が大きく変わってきます。

――出産後の女性が職場復帰することは、現代では当たり前になってきました。川島さんがマイナビに入社された2005年当時と比べて、周囲の考え方などに変化は見られるのでしょうか?

川島:ここ10年ほどでワークライフバランスを重視する考え方が日本に浸透していき、仕事とプライベートをどちらも大切にする人が増えました。そのためワーキングマザーを取り巻く環境も変わってきたと感じます。

15年ほど前は産休や育休を取得できる人はごく一部でした。「モーレツ社員」という考え方が一般的で、仕事中心の人生を送ることが求められていた気がします。私も出産前は毎日のように朝早くから終電まで働いていました。

10年ほど前から産休や育休の取得率が上がりはじめ、職場の制度が整ってきたと感じています。すると今度は「子どもを預ける保育園が足りない」という社会的な問題が浮き彫りになりました。さらに育児も家事も仕事も女性が一手に引き受ける「ワンオペ問題」など、キャリアを積んでいきたい女性が思うように働けない状況が続きます。社会全体で改革をしようと動いた結果、以前よりは状況が改善されはじめ、ワーキングマザーの悩みは「社会」から「個人」に向くようになりました。社会的な制度が成熟されてきたからこそ、自分自身の持つ細かな悩みを考えられるようになったのです。

――すると女性たちが描くキャリアも多様化しつつあるのでしょうか?

川島:キャリアの展望も多様化してきました。育児に軸を置くために出世はあまり考えていない人もいれば、バリバリ働きたい人もいます。「自分らしいキャリアの探し方ってなんだろう」と模索している方からの相談も増えてきたように感じます。

「他人と違う」が当たり前になってきた

――社会では多様性を尊重する考えが広まってきました。生活の中で実際に多様性を感じたことはありますか?

川島:多様な生き方や人生の選択が、以前に比べて自由にできるようになったと感じます。自分らしさを重視する傾向も強まり、「他人と違っていい」から、「他人と違うことが当たり前」という考え方に変化してきました。

とくに私のような昭和生まれは、周囲の目から見て「~すべきである」、「~しなくてはいけない」といった考えに捉われてきたと思います。ランドセルひとつとっても、昔は女の子が赤、男の子が黒だと決められており、選択の余地はありませんでした。しかし今は性別に関係なく色を選んでいいですし、赤や黒以外の選択肢もあります。若い世代が多様性を当たり前に考え、肯定的に受け入れていることが大きな変化だと感じました。

――多様性が浸透してきたことで、働き方や子育てへの変化を感じることもありますか?

川島:「仕事と育児どちらを選ぶのか」から、「仕事も育児もこなすにはどうすればいいか」に考え方が変わってきたと思います。共働き世代が6割を超え、かつて存在した性別役割分担は成り立たなくなりました。だからこそ男女がチームになり、協力して仕事と子育てに臨むことが大切です。

キャリアについても夫婦が別々に考えるのではなく、ファミリーキャリアとしてお互いに伸ばしていくことが求められていると思います。私は子どもが3歳になるまでは育児に軸を置いて、仕事のキャリアはセーブしてきました。その期間は夫にキャリアを伸ばしてもらうことにしたのです。そして子どもが4歳になったときに役割を逆転させ、私が仕事に専念し夫が育児を中心に行うようにしました。家族全体で収入やキャリアを伸ばしていくことも、お互いの多様性を尊重するうえで大切だと思います。

――ファミリーキャリアを実現するためには周囲の協力も必要です。パートナーや職場の協力体制はどうなっていると感じますか?

川島:夫が協力したくても、社会的環境が整っていないと実現するのは難しい。しかし2022年4月から法律が改正され男性も産休を取得可能になったので、もっと活用されるようになるといいですね。

あと、世代観で語るのはあまりよくないとは思いますが、20代や30代の若い共働き夫婦は価値観や働き方が柔軟で、お互いに協力している傾向が強いです。一方で40代以上の夫婦はなかなか男性側の理解を得られずに苦労していると感じます。この世代は母親が専業主婦で「男子厨房に入らず」が当たり前だと思っている人も多い。長年培ってきた価値観をいきなり変えるのは難しいので、夫婦間で課題を洗い出し、それを解決するためにお互いがどう動けばいいのかロジカルに説明するなど、工夫をしながら協力体制を築いていくのがよいと感じます。

大切なのは「自分軸で生きること」

――川島さんは、ご自身のライフキャリアについてどう考えていますか?

川島:趣味や生きがいを実現させるためには、他人軸ではなく自分軸で生きることが大切だと思いました。今の時代は「自分らしさ」に帰結します。個としての自分やオリジナリティーが重要視されるからこそ、他人軸に惑わされずに生きていくことが、人生を花開かせることにつながるのです。

――自分らしく生きることが、今のキャリアにもこれからのキャリアにも大事なのですね。

川島:そうだと思います。ただ、「自分がなにをしたらいいかわからない」と質問されることも多いです。先ほども言ったように、私たちの世代は他人軸で生きてきました。自分の意見を後回しにして時代に合わせてきたからこそ、自分自身について知らない人も多いと思います。そんな方は、自分がやりたいことや楽しさを感じること、好きなことや嫌いなことなどをすべて紙に書き出してみるといいでしょう。すると自分の強みや、「小学校の頃はこれが好きだった」など忘れていたオリジナリティーに気づくと思います。頭の中だけで考えるとすぐに忘れてしまいますが、紙に書けば「これは似ている」などグルーピングして考えやすくなるはずです。

――川島さんは現在45歳とのことで、セカンドキャリアについても考える年代になってきたと思います。今後はどのようなセカンドキャリアを築いていきたいとお考えですか?

川島:これまで得た経験や知識を次世代にバトンタッチしていくような活動に興味があります。今の仕事はとても好きなのですぐに辞めたいとは思っていませんが、65歳くらいになったとき、仕事以外になにもない状態ではいたくない。

もともと旅行が好きで世界遺産に興味を持ったので、ライフワークとして歴史や美術などを勉強しています。世界遺産検定にも挑戦しました。ただ、これは資格取得が目的というよりも、知ったことを誰かに伝えるための過程にすぎません。いつか世界遺産のよさを人に伝える、ガイドのような活動ができればと思っています。長く楽しんでいる生きがいなので、セカンドキャリアというより、ライフキャリアに近いかもしれません。

――周囲の人とセカンドキャリアについて話し合うことはありますか?

川島:私の周囲もセカンドキャリアを考えるくらいの年齢になってきましたし、先が見えない世の中なので「将来どう過ごしていこうか」などをよく話します。ただ、将来に関して一番多く話題になるのは健康の悩みです。「○○の成分がいいらしいよ」とか(笑)。私も健康情報や美容系の情報を集めて周囲と共有しているので、『セゾンのくらし大研究』のようなメディアを読みふけっています。

――悩みが多様化している中でも、美容や健康は関心が高いテーマなのですね。

川島:健康が維持できなければ、生きがいも楽しみもキャリアも実現できません。また、健康の一環として美容を意識する方も多いです。歳を重ねてくると、「誰かのためにきれいでいたい」というよりも、自分のために美しさを保とうとする気持ちが強まります。鏡を見たときに「気持ちがいい」と感じたいんです。内面も外見も、自分のために磨いていきたいと思っています。

――最後に、これからのライフキャリアを考えている女性たちにメッセージをお願いします。

川島:自分らしく生きていくことが、これからの人生を豊かにすると思います。ぜひ生きがいとなるような趣味などを見つけてほしいです。

とくに私と同じ40代の方や、先輩である50代の方々は、ライフステージごとの悩みを乗り越えて、置かれた場所で花を咲かせようとがんばってきたと思います。しなやかでホスピタリティーや包容力があり、尊敬できるところだらけです。こうした方々が活躍できる場所はきっとあります。「周囲にどう見られるか」といった他人軸や「~すべき」という固定概念を捨てて、人生を楽しんでほしいです。健康で幸せに長生きし、自分だけの人生を勝ち取っていただけることを願っています。

健康、お金、家族……50代からの悩みにお応えするメディア

川島さんも注目していた、ライフステージごとに変化する悩み。50代前後になり、健康やセカンドキャリアなど、これまでは意識しなかったテーマに関心を持ち始めた人もいるでしょう。

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