遺産相続をするときに必要な手続きは多岐に渡り、非常に複雑です。 財産などをめぐって相続人同士でのトラブルも起こりがちで、相続全体をスムーズに完結させていくには、必要な手続きの流れをふまえた事前の準備が重要となります。

この記事では相続手続きの流れとスケジュール、注意点などを解説していきます。 相続についてわからないことは弁護士など専門家に相談してサポートを得つつ手続きを進めていくのが良いでしょう。

遺産相続とは?

遺産相続とは、分かりやすく説明すると亡くなった人が遺した遺産を別の人に受け継がせることを指します。

日本では私有財産が認められていますが、所有者が亡くなると、その財産は誰かが受け継ぎます。 所有者が死亡した財産をすべて国有化することは出来ませんし、場合によっては死亡した人が借金をしていることもあります。

債権者が誰にも請求ができなくなるのは不合理ですので、これらの相続財産を次の世代の親族など別の人に受け継がせることで、私有財産性を維持し、取引の安全をはかります。

手続き前に押さえておきたい5つのポイント

遺産相続の手続きをトラブルなく進める上で、押さえておきたいポイントは5つです。

  • なにを相続するか(相続財産)
  • 誰が相続するか(相続人)
  • 誰が、どれだけ相続するか(遺産の分割割合)
  • 相続税への対応
  • 遺産相続手続きの期限

おおまかに言えば、相続手続きとはこれら5つのポイントをすべてカバーできるよう対応することが全てです。

手続きの順序や期限もあるため、実際はこれら5つのポイントをある程度まとめて把握しながら、並行して対応していくことになります。

遺産相続の手続きの流れとスケジュール

相続が起こったら、どのような手続きが必要になるのでしょうか? 以下に、だいたいの項目と流れ、期限をまとめたので、まずは確認しましょう。

遺産相続手続き一覧(スケジュール順)
7日以内に必要な相続手続き 死亡届の提出
葬儀を行う
14日以内に必要な相続手続き 年金・健康保険の手続き
※厚生年金保険の場合10日以内
3ヶ月以内に必要な相続手続き 保険会社に連絡する(死亡保険金の受け取り)
金融機関に連絡する
遺言書の確認
遺言書の検認
相続人調査をする
相続財産の調査をする
遺産分割協議の開始
相続方法の選択~単純承認、限定承認、相続放棄
遺産分割調停(協議が不調に終わった場合)
遺産分割審判(調停が不調に終わった場合)
4ヶ月以内に必要な相続手続き 所得税の準確定申告
10ヶ月以内に必要な相続手続き 遺産分割協議書の作成
不動産の相続登記、遺産の名義変更・解約など
相続税の申告
1年以内に必要な相続手続き 遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)の期限
3年以内に必要な相続手続き 配偶者相続税軽減の手続き

上記の各手続きについて、下記ページで詳しく解説しています。あわせてご参照ください。

遺産相続の手続きについて詳細はこちら >>

相続人の条件

法定相続人の範囲

民法では、遺産相続が起こったときに誰が相続すべきかについて定めています。 法律上相続権のある人のことを、法定相続人と言います。

具体的に法定相続人になるのは以下の4者です。

  1. 配偶者
  2. 第1順位:子ども
  3. 第2順位:親
  4. 第3順位:兄弟姉妹

夫や妻はいつでも法定相続人

まず、亡くなった人に配偶者がいたら、配偶者はいつでも相続人になります。

配偶者以外の法定相続人には、順位があります。

第1順位の相続人は子ども

第1順位の法定相続人は、子どもです。 養子縁組をしていたら養子も相続人になりますし、別れた妻や夫との間に子どもがいたら、その子どもも法定相続人です。

結婚していない女性との間に子どもがいて、認知していたら認知した子どもも相続人となります。 子どもが親より先に死亡していたら、孫(死亡した子どもの子ども)が法定相続人となります。

第2順位の相続人は親

子どもや孫がいない場合には、親が第2順位の法定相続人となります。 両親が生きていたら両親とも法定相続人ですし、片親しか生きていなければ、生きている親が相続します。 両親ともなくなっていて、祖父母が生きていたら、祖父母が法定相続人となります。

第3順位の相続人は兄弟姉妹

被相続人に子どもも親もいない場合には、第3順位の相続人は兄弟姉妹です。 兄弟姉妹が被相続人より先に死亡していたら、その兄弟姉妹の子どもである甥や姪が相続をします。

親族以外にも財産を渡せる遺贈・死因贈与

被相続人に相続財産を家族・親族以外にあげたい意思がある場合は、相続にはなりませんが、遺贈または死因贈与として第三者に財産を渡すことも可能です。

遺贈とは遺言書で指定することで相手に財産を渡すもの、死因贈与は被相続人の生前に相手と財産を渡す契約を結ぶ方法です。

遺贈が被相続人からの一方的な意思で財産を渡すものである一方、死因贈与は被相続人と受遺者の双方で同意して契約を結ぶという違いがあります。

遺贈・死因贈与は相続税の対象

遺贈・死因贈与で受け取った財産には相続税がかかります。 双方とも、受遺者が一親等の血族または配偶者でない 場合、相続税額は2割加算となります。

相続人がいない場合

被相続人に配偶者も子どもも親も兄弟姉妹もいない場合には、相続人が不存在となってしまいます。 その場合には、相続財産を管理するための相続財産管理人を選任してもらい、相続財産を精算してもらう必要があります。

相続財産管理人とは >>

遺産相続の対象となる財産

遺産相続の対象となる財産を、具体的に確認していきましょう。

相続では預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金といったマイナスの財産も相続の対象となります。 マイナスの財産を相続するということは、その借金・債務を相続人自身が引き継ぐことになります。

マイナス財産が多いケースでは、相続放棄や限定承認を選択したほうが良いケースもあり、相続の進め方を判断する上でも、被相続人の財産全体をしっかり把握することが重要です。

プラスの財産

プラスの財産となる主なものは以下のとおりです。

  • 現金・預貯金
  • 有価証券:株式、投資信託、国債、地方債、社債、小切手など
  • 債権:売掛金、貸付金、立替金
  • 不動産:宅地、建物、店舗、賃貸用の土地・建物、農地、山林、空き地、借地権・借家権など
  • 動産:自動車・家具・貴金属・宝石・宝飾品・時計・美術品・骨董品・船舶・飛行機など
  • デジタル資産:暗号資産(仮想通貨)・NFT
  • 各種権利:特許権・著作権・電話加入権・ゴルフ会員権・慰謝料請求権・損害賠償請求権・電話加入権など

基本的に、被相続人が保有するあらゆるものは相続の対象に含まれます。

預貯金・有価証券・債権・不動産はもちろん、自動車や宝石、絵画、家具、家電製品やカメラ、衣服なども家財(家庭用財産)として評価の対象となります。 すべての財産は1個または1組ごとに評価するのが原則ですが、5万円以下のものについては、家財一式としてまとめて評価することができます。

高価な楽器やブランドものの衣服など5万円以上の価値が認められるモノについては財産として、個別に評価するのが良いでしょう。

近年はネット銀行や証券会社、仮想通貨等の口座をインターネット上のオンラインで開設することも一般的です。

デジタル化された資産の場合、相続人が口座の存在に気づきづらいケースもあります。 遺言書やエンディングノートなどでの言付けもない場合、被相続人のスマホやPCのメールや郵便物も細かくチェックし、調査漏れがないよう注意深く対応することが大事です。

マイナスの財産

マイナスの財産となる主なものは以下のとおりです。

  • 借金
  • ローン
  • クレジットカードの未払い分
  • 買掛金
  • 未払い分の水道光熱費・電気代
  • 未払いの税金(住民税、所得税、固定資産税など)
  • 未払い家賃・地代
  • 未払いの医療費
  • 未払いの慰謝料・損害賠償金
  • 保証債務

被相続人に借金・債務・未払いのお金がある場合は、弁財の義務も相続することになります。

遺産相続の対象にならない財産

一方、遺産相続の対象にならない財産は以下の通りです。

一身専属的な権利・義務

一身専属的な権利・義務とは、たとえば以下のようなものを指します。

  • 年金受給権
  • 生活保護受給権
  • 親権
  • 扶養請求権
  • 使用貸借における借主の地位
  • 国家資格
  • 本人の責に帰すべき罰金

「一身専属」の文字通り、被相続人本人に対してのみ認められる権利や義務は、相続の対象にはなりません。

生命保険の死亡保険金・遺族年金・死亡退職金

相続人が受け取る生命保険金や遺族年金、死亡退職金は、相続財産には含まれません。 被相続人自身が保有していた財産ではなく、被相続人の死亡により受取人や遺族が受け取る権利を持つお金であるためです。

ただし、これらの相続人・遺族が受け取るお金は「みなし相続財産」として、相続税の課税対象となります。

祭祀財産

墓地や墓石、仏壇・位牌などの祭具、系譜(家系図)などは、相続の対象にはなりますが、遺産分割の対象からは外されます。 これら宗教的・祭祀的な要素を含むものは、民法第897条にて「祭祀を主催すべき者」が承継するものとされ、分割せず祭祀主催者ひとりが引き継ぐことになります。

相続税の支払い

相続税が発生するケース

遺産相続で相続した財産の評価額が大きい場合には、相続税の支払が発生します。相続税には「基礎控除」があり、相続税評価額が基礎控除の範囲内に収まっていれば相続税は発生しません。

基礎控除の計算方法は、以下のとおりです。

3,000万円+法定相続人数×600万円

たとえば、法定相続人が3人なら4,800万円、4人なら5,400万円が基礎控除の金額です。

都市部に高額な評価額の土地建物を所有している場合、昔からの資産家の家庭、普通の家庭でもがんばってお金を貯めたケースなど、基礎控除を超えるケースは珍しくありません。 相続にともない相続税の支払いが発生する可能性のある家庭では、被相続人の生前の間から相続税の節税方法を考えておくことが大切です。

相続税の課税対象となる財産

国税庁は、相続税の対象となる財産について「金銭に見積もることができる経済的価値のあるものすべて」と表現しており、被相続人から相続したすべての相続財産が相続税の課税対象となります。

前章「遺産相続の対象となる財産」でご紹介したお金に換算できる財産は、すべて相続税の課税対象として相続税評価に組み込まれます。

みなし相続財産

また、上述の通り、生命保険金・遺族年金・死亡退職金など、被相続人の死亡により遺族・相続人が受け取った財産も「みなし相続財産」として、相続財産とあわせて相続税の対象となります。

生命保険金・死亡退職金には500万円x法定相続人分の非課税枠を利用できます。

死亡前3年以内に生前贈与された財産

被相続人が亡くなる直前3年以内に贈与された現金、土地、有価証券などの財産は、相続税の課税対象に含まれます。

相続税が非課税の財産

相続税の対象外となり、非課税となる財産は、たとえば以下のようなものとなります。

  1. 墓地や墓石、仏壇、仏具などの祭具
  2. 公益事業用財産の相続
  3. 心身障害者共済制度の給付金を受ける権利
  4. 生命保険金の一部(500万円x法定相続人の数)
  5. 死亡退職金の一部(500万円x法定相続人の数)
  6. 個人経営の幼稚園・盲学校・ろう学校・養護学校の財産で一定の要件を満たすもの
  7. 国や地方公共団体への寄付

公益性の認められる事業のための財産の相続は、事業継続を条件に相続税の非課税が認められるケースがあります。

いずれの項目でも、非課税と認められるためには一定の条件を満たす必要があります。

上記の非課税財産の相続については、弁護士や税理士など、相続の専門家に相談の上、手続きを進めることをおすすめします。

相続税を軽減する手続き

相続税には、いろいろな軽減措置が設けられています。

相続税の配偶者控除

配偶者であれば法定相続分または1億6千万までの相続分に対しては相続税がかかりません。

小規模宅地の特例

遺産が小規模な宅地の場合には、小規模宅地の特例として、土地の評価額を50%~80%軽減してもらうことができます。農地の場合にも相続税軽減措置があります。

小規模宅地等の特例まとめ >>

ただし、これらの相続税軽減を受けるためには期限があります。

具体的には、まずは相続税の申告期限内(相続開始後10ヶ月以内)に相続税の申告をする必要があります。 そして、このとき、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を作成して一緒に提出します。

相続税の軽減措置は相続税申告・遺産分割協議を終えた後、更正請求手続きをして受ける

申告期限後3年以内の分割見込み書とは、相続税の申告である10ヶ月から起算して3年以内に遺産分割協議ができる見込みがあるという書類です。

これらの書類を提出して、実際に相続税申告期限後3年以内に遺産分割協議ができたら、その後4ヶ月以内に税務署に対し、「更正請求」という手続きをすることによって、相続税の軽減措置を受けることができます。

これを過ぎると、各種の相続税軽減措置を受けることができなくなって、相続税が高額になるおそれがあるので、注意しましょう。

まとめ

遺産相続をスムーズに進めるなら弁護士に相談を

以上のように、遺産相続の流れは非常に複雑ですし、やらなければならないことがたくさんあります。 また、遺産分割協議をはじめとして、各場面で非常にトラブルが発生しやすいです。

遺産相続の手続きをスムーズに進めたい場合は、プロである弁護士に相談することをお勧めします。

遺産相続弁護士相談広場 >>

[PR]提供:株式会社Agoora(アゴラ)