普段、何気なく利用している自転車。いったんコツをつかみさえすれば、転ばずに走れます。しかし、自転車はなぜ倒れずに走れるのでしょうか?

  • 自転車イラスト

燃料を必要とせず、子どもから大人まで気軽に乗れる乗り物だけに、なんとなくシンプルな構造と考えがちですが、実は、自転車には発明から200年以上におよぶ先人たちの創意工夫と、さまざまな科学技術が詰め込まれているのです。

今回は、そんな自転車について詳しく知るべく、リニューアルオープンしたばかりの「シマノ自転車博物館」にやってきました。

  • シマノ自転車博物館

    2022年3月、展示面積を3.5倍に拡充し、生まれ変わった日本初の自転車博物館「シマノ自転車博物館」。

出迎えてくれたのは、「シマノ自転車博物館」の神保正彦さん。世界有数の自転車部品メーカーのシマノで、長年商品企画の仕事に携わってこられた自転車のスペシャリストです。

  • 神保正彦さん

    神保さんは、学生時代はロードレースにも参戦していたほど自転車好き。

古墳時代にルーツを持つ大阪府堺市の自転車産業

博物館の1階は、誰でも自由に入館できる無料ゾーン。歴史的価値のある貴重な自転車コレクションが展示されているほか、堺と自転車の深いつながりを解説した映像が上映されています。

  • 昔の自転車

世界遺産に登録された百舌鳥・古市古墳群。そのうち、世界最大級の墳墓・仁徳天皇陵古墳などを含む百舌鳥古墳群は、「シマノ自転車博物館」と同じ大阪府堺市に位置しています。5世紀、この巨大な古墳を造営するために鉄器が使われ、この地では金属加工技術が発達していきました。

  • 自転車の歩み展示パネル

    堺で自転車の部品づくりが始まったのは、今から120年以上も前。

16世紀になると、堺は海外との貿易の拠点になり商業が発達。脈々と受け継がれていた金属加工技術を活かして、刃物や鉄砲の産地となっていきました。

19世紀末には堺でも貸自転車が人気になりますが、当時の自転車は外国製で非常に高価。そのため、部品をつくって修理しながら大切に乗るようになったんです。それが、堺の自転車産業の始まりとなりました。


  • 説明する神保さん

    「堺の鉄砲鍛冶の流れをくむ技術者が自転車修理を始めたんですよ」と神保さん。

「シマノ自転車博物館」は、小学校の社会科見学で利用されることも多いんです。小学生のみなさんが、地元の優れた産業を知るきっかけになるとうれしいですね。


自転車とは、
行きたい場所へ好きなペースで行ける限りなく自由な乗り物

いよいよ入場ゲートをくぐって有料ゾーンへ。展示室の前には「自転車とは」というタイトルで、写真の言葉が掲げられています。

  • 展示パネル

    「自分の力で思うがままに進み 行きたい場所へ好きなペースで行ける 限りなく自由な乗り物 自転車」

この言葉は、私たちが考えた自転車の定義であり、博物館として大事にしていきたいテーマでもあるんです。

洗濯機や掃除機などができた20世紀は、自動化の時代といわれました。でも自転車は、家電やほかの乗り物とは違い自動化はされていません。自分の力で進むものなんですね。

自転車の発明は約200年前。
さまざまな発明家の力で進化を遂げた

世界で初めて自転車が発明されたのは、今から200年以上も前の19世紀初頭です。当時の乗り物には馬車などがありましたが、それは貴族階級のもの。庶民でも乗れる馬のように速い乗り物をめざして、さまざまな発明が行われていました。

そんななか、現れたのがドライジーネです。

  • ドライジーネ

    2つの車輪を前後に配置し前輪操舵させた姿は、今の自転車とほとんど同じ。

ドライジーネは、1817年にドイツのドライス男爵により発明されました。当時はフレームも車輪も木製。ペダルはなく、足で地面を蹴って進んでいたんですよ。


その後も自転車は改良が繰り返され、ペダルがついたミショー型、前の車輪が巨大なオーディナリー、ギアとチェーンがついたビシクレットへと進化していきます。「シマノ自転車博物館」では、それらの貴重なクラシック自転車を展示しています。また、市内にある大仙公園「自転車ひろば」ではレプリカの体験試乗もできるので、気になる方はぜひ足を運んでみてください。

  • 館内の様子

    自転車の歴史がわかる展示室。大迫力のパノラマスクリーンでは、発明家たちの自転車にかける情熱が紹介されています。

重心にジャイロ効果…
自転車は多様な科学や技術の結晶

自転車はやがて移動手段としてだけでなく、郵便や出前を運ぶ運搬、旅や遊び、オリンピックや自転車レースなど、スピードや技を競うスポーツへと用途が広がっていきます。

ところで、こちら、なんだかわかりますか?


  • クランク

実はこれ、すべて1台のロードバイクの部品なんですよ。


  • 自転車のパーツ

ロードバイクとは、スピードが速く長距離走行も可能な自転車で、自転車レースなどに使われます。最新のタイプは、外からは見えないところも含めて約3,200個もの部品で構成されており、まるで精密機械のようです。

  • 自転車の展示

また、フレームの素材にも注目。一般的な鉄やアルミのほか、近年では軽量で変形しにくいチタンやカーボンを使った自転車も製造されているそうです。展示室には、カーボンフレームの重さ6.8kgの自転車が展示されていました。この6.8kgというのは、UCI(国際自転車競技連合)によって定められた競技用のロードバイクの最低重量。技術的には、もっと軽くすることも可能なのだそうです。

自転車自体が軽い方が、上り坂でも少ない力で進めますからね。ロードバイクにとって軽さは重要な要素なんですよ。


  • 神保さん

    カーボン素材のロードバイクは、大人であれば片手でも軽々と持ち上がる。

そして「自転車はなぜ倒れないのか」、その答えも映像で詳しく解説されていました。関係するのは…

 ●人のバランス感覚
 ●自転車の構造
 ●ジャイロ効果

まず、「人のバランス感覚」には、自然と体を動かしたり、ハンドルを操作したりして、倒れないように姿勢をコントロールする働きがあります。

  • 自転車に乗る子供のイメージ

次に「自転車の構造」。通常モノは、地面との接地面の中に重心があるときにはバランスが取れて倒れません。ただ自転車は、走っているうちに重心が接地面の外に出てしまうことがあります。そのままでは倒れてしまうのですが、自転車は構造上、倒れかかった方向へ自然とハンドルを切れる仕組みになっています。ハンドルが切れることで接地面が移動し、再び重心を取ることができるため倒れずにすむのです。

  • 自転車

最後に「ジャイロ効果」。ジャイロ効果とは、コマまわしのコマのように回転する物体が、その姿勢を保とうとする性質のこと。速くまわればまわるほど姿勢が安定するコマと同様に、自転車もある程度のスピードで走ると姿勢が安定します。

  • 自転車に乗る女性

文字にすると少し難しいですが、さまざまな科学原理の相乗効果で、自転車は倒れずに走れるわけですね。


神保さん曰く、シマノ自転車博物館は、自走式の博物館。館内は自転車の仕組みを体験したり、映像を見たり、タッチパネルでより詳しい情報を確認したりと、個々人の興味に応じて楽しめるように設計されています。

  • 神保さん

    館内のいたるところにタッチパネルが設置されており、気になることはどんどん深掘りできます。

また、吹き抜け空間に沿って続くギャラリー兼収蔵庫では、さまざまな自転車を展示。

  • 展示される自転車

    貴重な自転車の数々を鑑賞できるギャラリー兼収蔵庫。

  • 世界のめずらしい自転車

    世界のめずらしい自転車をじっくり鑑賞できます。

4階には自転車部品の歴史展示やマルチメディアライブラリーも。自転車にまつわるさまざまな展示を通じて、より深い情報を手に入れられます。

  • パーツの展示

    展示スペースの奥で実際に自転車を修理することもあるのだそう。

  • マルチメディアライブラリー

    ⾃転⾞に関する専⾨書籍や映像を閲覧できるマルチメディアライブラリー。

ほかにも、シマノ自転車博物館には、自転車のギア変速を体験する展示や、「自転車はなぜ楽に走れるの?」「自転車に乗るとどんないいことがあるの?」といった疑問の答えを見つけられる展示が多数。

  • 変速の様子が分かる展示

    変速機の操作にあわせてギアが変わる様子を確かめられる展示。

サイクリストの方はもちろん、普段、何気なく自転車を利用している人や、夏休みの自由研究のテーマを探す子どもたち、誰もが楽しめるつくりになっています。

限りなく自由な乗り物・自転車で、
サスティナブルな社会へ

英語のbicycleの語源は、1879年に登場したビシクレットで、二つの輪という意味があります。ヨーロッパではこのように形状や機能から名前がつけられたケースが多いんです。

一方、日本語の自転車は自分との関わりを表現していて「自分が転がしていく車」です。自分の行きたい場所へ自由に行けることが伝わる、いい名前だなと思います。


近年では、誰もが行きたい場所へ自分で自転車を運転して行けるように、ユニバーサルデザインの自転車も登場しています。

  • 車いす自転車

    前輪と手で回して前へ進むハンドバイクのアタッチメントを取りつければ車椅子が自転車に。

実は、社会人になってから体を壊した経験があるという神保さん。

昔のようにスピードを追求する自転車の乗り方はできなくなりました。だからこそ、スピードだけではない、「行きたい場所へ好きなペースで行ける」自転車の魅力に改めて気付いたんです。今では、以前よりももっと自転車が好きになりましたね。


心身の健康づくりに役立ち、温室効果ガスを排出しない環境に優しいサスティナブルな乗り物としても注目を集める自転車。

  • 展示パネル

お気に入りの自転車を探して、のんびり自分のペースで走りながら、四季折々の自然の風を感じたり、街の魅力を発見したり、ときには歴史や科学技術に思いをはせながら、自転車のある毎日を楽しむのもいいかもしれませんね。

シマノ自転車博物館の詳細をチェック

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シマノは、世界中の自転車を愛する人の感動に寄り添いたいと願い、品質にこだわった本当に信頼されるものづくりをめざしています。
今までもこれからも「こころ躍る製品」を皆様にお届けしてまいります。

もっと自転車のことを知る

  • 展示している自転車
【施設情報】
シマノ自転車博物館
[開館時間] 午前10:00~午後4:30(入館は午後4:00 まで)
[休館日] 月曜日、祝日の翌日(土、日の場合は開館)、年末年始
〒590-0073 大阪府堺市堺区南向陽町2-2-1
代表:072-221-3196
https://www.bikemuse.jp/

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