こんにちは、ライターの工藤寛顕です。まだまだ気軽に外に出かけられない世の中ですが、オーディオ好き&音楽好きの皆さんなら、そんな時間を利用して“おうちオーディオ”を楽しんでいる人も多いのではないでしょうか。ただ、ポータブルオーディオがメインの人は、せっかくのお気に入りの製品を持ち運ぶ機会が少なくなり、歯がゆい思いをされているかもしれません。
しかし、何もポータブルオーディオは屋外で使うだけがすべてではありません。音楽再生はもちろん、動画を観たりゲームで遊んだりするときなど、イヤホンやヘッドホンは家で使うのにもピッタリ。むしろ、コロナ禍に至る前からそれがメインだという人も多いことでしょう。それならば「自宅でイヤホンやヘッドホンをガッツリ楽しむ」ための機器をそろえてみるのも面白いのではないでしょうか?
そんなわけで、今回はデジタルオーディオプレーヤー(DAP)で有名なAstell&Kernより発売された「ACRO CA1000」を紹介します。
およそポータブルでは考えられないサイズ感ながら、バッテリーとデジタルオーディオ機能を内蔵し、単体でプレーヤーとしても駆動する「キャリアブルヘッドホンアンプ」と銘打たれたユニークな一品。果たしてどのような仕上がりになっているのか、さっそくチェックしていきます!
DAPとヘッドホンアンプの“良いとこ取り“から生まれたACRO CA1000
まず、この製品がどういった立ち位置の製品なのかを簡単に説明します。 今回のCA1000を含む「ACRO」シリーズは、Astell&Kernブランドによるデスクトップオーディオに特化したシリーズ。ヘッドホンアンプ「L1000」やパッシブスピーカー「S1000」など、ポータブルオーディオ製品の開発で培われた技術を生かし、ハイクオリティかつ、Astell&Kernならではのカラーを感じさせる独創的な製品をいくつも発表してきました。
そんななかでも、今回のCA1000はこれまでのDAP製品の流れを色濃く受け継いでいるように感じます。DAP製品とほぼ同一のタッチパネル液晶やシステムが組み込まれており、操作感も似通っているので、さながら「超ゴツくなったDAP」というような印象。そしていったい何ができるのかといえば、これまた「超ゴツくなったDAP」そのもの。本体ストレージやmicroSDに入れたハイレゾ音源の再生はもちろん、USB DAC機能、Bluetoothレシーバー機能、Open APPでの各種音楽ストリーミングサービスアプリのインストール……などなど、できることは同ブランドのほかのDAPとほとんど変わりません。
「それならDAPでいいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、あくまでCA1000の主体はヘッドホンアンプ。RCA入出力や光デジタル入出力など、据え置きのオーディオシステムに組み込めるような設計でありつつ、そこから持ち出して単体で駆動させる、その手段としてDAPに近いシステムが組み込まれているに過ぎないわけです。つまり、「超ゴツくなったDAP」と書きましたが、より正確には「DAPばりに多機能なヘッドホンアンプ」なのです。
実際、ESS Technology社のオーディオ用DAC「ES9068AS」を4基も積んだクアッドDAC構成に、ハイインピーダンスなヘッドホンも楽々駆動させる高出力なアンプ、それらを支える8,400mAhもの大容量バッテリーと、設計の規模感としては一般的なポータブルDAPに落とし込めるレベルをはるかに超えています。
ポータブルオーディオでは実現不可能なスケールの製品設計と、据え置きヘッドホンアンプでは実現し得なかったフレキシブルな運用への対応。それらを両立させたことでどのような魅力が生まれたのか、というところがこのCA1000の見どころ。製品の具体的な特徴とともに見ていきましょう。
ユニークなACRO CA1000の外観をチェック
火星探査用のローバートラックをイメージしてデザインされたという本体の形状は、従来のAstell&Kernの設計思想を踏襲しながらも、まったく新しい印象を与えてくれます。細部まで美しく作り込まれたアルミボディはCNC精密加工によるもので、高級感と存在感にあふれていますね。
同じくアルミ製のボリュームホイールはきめ細やかに彫り込まれたパターンにより、指に吸い付くような感触で、確実な操作が可能。正面にボリュームが備えられていることが多い一般的なオーディオ製品と異なり、右側面に設置され、前後に回すような構造になっているのもユニークです。
正面から見て、まず目に飛び込んでくるのはズラリと並んだヘッドホン出力端子でしょう。シングルエンド用に6.3mmと3.5mm、バランス用に4.4mmと2.5mmの計4種類が搭載されており、現行のほとんどのイヤホン/ヘッドホンに対応します。ポータブルオーディオメインの人が運用するにも、その資産を余すことなく楽しめるのはうれしいポイント。
DAP同様に高精細かつレスポンスの良いタッチパネル液晶と、その手前に並ぶ電源ボタンと再生操作用のボタンも備えており、直感的に扱えます。
画面サイズは4.1型で、Astell&Kern製品のなかでは「SP1000M」などとほぼ同一。自由な角度に調整できるチルト式で、まるでDAPをスタンドに立て掛けているかのように快適に操作できます。
背面には多数の入出力端子を備えており、これもデスクトップオーディオならでは。USB Type-Cや光/同軸などのデジタル入出力だけでなく、RCA入出力まで備えているのはポータブルオーディオ製品にはなかなかない構成で、後述するプリメインアンプなどとの組み合わせにもピッタリです。
設置に必要な面積は幅104.9mm×奥行148.8mmと、デスクトップに設置するイメージで考えていると結構小柄。CDケースの横幅が142mmと書くと、そのコンパクトさがイメージしやすいでしょうか。「キャリアブルヘッドホンアンプ」の名の通り、持ち運びやすいサイズ感でもありますね。
ちょっとしたスペースに気軽に設置できるので、デスクトップだけでなく、リビングや寝室などさまざまな場所で据え置きヘッドホンアンプ並みのサウンドが楽しめます。バッテリーを内蔵しているので外出先での使用もOK。単体での使用はもちろん、USB DAC機能やBT Sink機能でノートPCやスマートフォンと接続すれば、使い方の可能性はさらに広がります。
マニアックな聴き比べから、音楽サブスク・動画再生まで楽しめる!
さあ、それでは実際に試聴してみましょう。
最初はキャリアブルヘッドホンアンプの本領発揮ということで、単体でプレーヤーとして使ってみます。まずはUltimate Earsの高級イヤホン「UE Reference Remastered」を3.5mmシングルエンドで接続(アンプ設定は「低ゲイン」)。Astell&KernらしいSN感の良さで、感度の高いカスタムイヤホンであってもクリアに鳴らしてくれます。このあたりの対応力は、ポータブルオーディオで培われたノウハウが遺憾なく発揮されているといったところでしょう。
再生していてひしひしと感じるのは、やはりフォーカスの定まった音像の描写力の高さ。バランスとしてはナチュラルでありつつ、腰が据わっていてブレのないサウンドには、どこかドッシリとした安定感を覚えます。fhána「愛のシュプリーム!」を再生してみると、華やかで厚みのあるブラスセクションとリズミカルなドラムの立ち上がり、躍動感のあるツインボーカルが楽しく表現されており、音色の質感の丁寧な描写が印象的でした。
また、Acoustuneのイヤホン「HS1551 CU」を用いて、3.5mmシングルエンド/2.5mmバランス/4.4mmバランスの聴き比べも試してみました。バランス駆動にすることで左右のセパレーションがさらに良好になり、かつドライブ感も向上。さらにいうと、左右方向のレンジ感がやや広く感じられる2.5mmと、音の粒立ちや奥行き感がやや強く感じられる4.4mm……というように、各出力のわずかな音色の違いも楽しめました。こだわる人なら、ケーブルやイヤホンによって相性の良いプラグを選ぶ、なんていう使い方もできるかもしれませんね。
続いて、USB DACとしての使い勝手もチェック。MacにUSBで接続すると、すぐにサウンド機器として認識されました(Windows向けには専用のドライバーが配布されています)。
ここでは普段使っているTAGO STUDIO TAKASAKIのモニターヘッドホン「T3-01」や、少しパワーが必要なゼンハイザーのオープン型ヘッドホン「HD 700」を6.3mmシングルエンドで接続。標準プラグもアダプタを挟むことなく接続できるのは使いやすくて良いですね。
アンプ設定を高ゲインや超高ゲインに設定すれば、高インピーダンスなヘッドホンも楽々駆動してくれます。DAP的なカジュアルさも持ちつつ、そのパワフルな性能は一般のヘッドホンアンプにも引けを取りません。もしこれがキャリアブルでなく、シンプルにデスクトップに置いて使う製品だったとしても第一線で活躍してくれるでしょう。
RCA入出力端子も備えているため、そのままプリメインアンプに接続することも可能。ヘッドホンを取り外すと自動的にRCA出力に切り替わるため、普段と同じようにスピーカーとヘッドホンを切り替えて使えました。スピーカーのサウンドも(普段と比べて)より細やかで立体感のある響きに変化し、単純なDACとしての性能の高さも感じられます。ただ単に「システムに組み込んでも使えるよ」というだけでなく、その水準を引き上げられるポテンシャルが窺えますね。
さらに、Open APP Serviceによって各種音楽ストリーミングサービスやYouTubeなどのアプリも快適に動作します。
Apple Musicアプリでは、スマートフォンと変わりない快適な操作性でロスレスやハイレゾの音源を気軽に楽しめます。やはり音質もスマートフォンで聴いているときより格段に良く、ロスレス/ハイレゾストリーミングが本格化し始めた今だからこそ高い価値のある機能になってきていると感じました。また、PCやスマートフォンを必要としなくとも、オーディオシステムのみでストリーミングサービスの操作/再生を完結できるというのはかなり実用的です。
そしてYouTubeアプリは公式ライブ映像やアニメ、ストリーマーによる「歌ってみた」やゲーム実況など、ありとあらゆるコンテンツを高音質で楽しむことができるので非常に面白く、少しだけ試すつもりがついさまざまな動画を観てしまいました。ディスプレイもチルトで自立するので、スタンドを用意する必要もなく便利です。画面を横にして楽しむことはできませんが、ライブ配信など、映像とコメントを同時に追うような場合にはピッタリですね。
多彩な機能が魅力的。デスクトップオーディオ入門にも良し
個人的にお気に入りの機能として、同じくAstell&Kernから発売されている「AK CD-RIPPER(MkII)」と組み合わせれば、CDプレーヤー/CDリッピングにも対応します。リッピングに関しては以前のDAP製品でも対応していましたが、個人的にうれしいのがCDプレーヤーとして使用できること! 単純にリッピングの手間なくコンパクトな環境でCD音源を楽しめるという利便性もさることながら、オーディオシステムに組み込むCDプレーヤー/トランスポーターとしてもきわめて省スペースなので、設置のしやすさも非常に魅力的でした。今でもCDを活用している人であれば、合わせて導入するのもイチオシです。
ほかにも、AK Connectでネットワークオーディオプレーヤーとして使ったり、BT Sink機能でBluetoothレシーバーとして活躍したりしてくれます。最近の据え置きヘッドホンアンプにも搭載されていることが多い機能ながら、それをキャリアブルで好きな場所で楽しめるとなるとさらに魅力的に感じます。端末内の音源に縛られることなく、自由な形で音楽やメディアを楽しめるのがいいですね。
これだけ広く運用できるのであれば、おうち時間だけでなく、さまざまなシーンで活躍してくれる1台となるはず。リスニングスタイルによってはポータブルDAPよりしっくり来る人もいるのではないでしょうか。
ほかのオーディオ機器との親和性も高いので、「デスクトップオーディオを始めてみたい!」という人の最初の一歩にも良いでしょう。デスクトップオーディオとポータブルオーディオの「良いとこ取り」を高い水準で実現したACRO CA1000は、そのユニークなコンセプトとは裏腹に、多くの人にとっての魅力的な選択肢となるかもしれません。
[PR]提供:アユート / Astell&Kern