14.4% この数字、何だかわかりますか?
これは、日本の難聴者のうち、補聴器を所有している人の割合です。聞きづらさを実感しつつも、補聴器をつけることへの抵抗感、価格面でのハードルを感じる――。日本には、そのような人がたくさんいるのです。
そんな悩みに着目したのが、大手家電メーカーのシャープ。「視力が落ちたらメガネをかけるように、聴力が落ちたら補聴器を気軽に使ってほしい」との願いを込めて、軽度~中等度難聴者向けの新しい補聴器「メディカルリスニングプラグ」を開発しました。
今回は、補聴器の常識を覆す「メディカルリスニングプラグ」の特徴に迫ります。
「手間」「価格」「見た目」。補聴器の課題を一気に解消した画期的な商品!
取材を受けてくださったのは、「メディカルリスニングプラグ」を企画・開発した磯部さんと立木さん。
主に企画畑を歩んできた磯部さんは、同製品の企画を担当。プロモーションから物流・EC・サイトの立ち上げまで、幅広く手がけています。一方、立木さんは、5Gをはじめとした様々な先進技術に携わる傍ら要素開発部に所属し、今回「メディカルリスニングプラグ」の技術開発を担いました。
お二人ともシャープの独創性やユニークさに感銘を受けて入社を決めたそうですが、新しい補聴器「メディカルリスニングプラグ」は“シャープらしさ”が凝縮した商品と自信をのぞかせます。その開発は、補聴器の常識を疑うことから始まりました。
歳を重ねると、聞こえづらくなるのは自然なことです。50代や、早ければ40代から聞こえづらさを感じる人も。また、今はマスクを着けるのが当たり前となり、パーテーション越しやリモートでのコミュニケ―ション機会が増え、聞こえづらさに拍車がかかっている状況です。にもかかわらず、1,000万人以上とも推定される難聴者のうち、たった14%しか補聴器は使用されていない。このことを不思議に思いました。 |
視力が低下するとメガネをかけるのに、補聴器は敬遠される。その理由を紐解くと、「手間」「価格」「見た目」の3つの課題が浮き彫りになったそうです。
通常の補聴器の場合、調整(フィッティング)や使い方、アフターサービスの相談のために何度も店舗に足を運ぶ必要があります。そのため、商品価格には調整や相談等の長期間の技術料が含まれ、高額になっていると考えられます。価格は両耳で平均30万円程度。中には50万円を超えるものもあり、誰もが気軽に手を伸ばせるとは言えません。そして、何より大きいのが補聴器特有の「見た目」。「補聴器は高齢者がつけるもの」というイメージが浸透してしまっているため、着用に対する40代や50代の心理的な抵抗は決して小さくないのです。 |
これらすべてにメスを入れ、「メディカルリスニングプラグ」は誕生しました。
まず「リモートフィットサービス」により、スマホを通じて自宅にいながら補聴器の調整(フィッティング)やサポートが受けられます。対応するのはプロ※の認定補聴器技能者や言語聴覚士。このオンライン対応によりコストを大幅に削減し、両耳で10万円を切るリーズナブルな価格を実現しました。さらに、今や定着しているワイヤレスイヤホンスタイルを採用し、ビジネスシーンにも溶け込むスタイリッシュなデザインにしています。従来の補聴器には目立たせないための工夫がされていますが、むしろスマートに見せるのが「メディカルリスニングプラグ」の提案です。 |
「メディカルリスニングプラグ」は、補聴器に横たわる課題に正面から取り組んだ、“シャープらしさ”の詰まった商品なのです。
例を見ない完全リモートによるワンストップサービスを創出し、コストを大幅に削減!
ただ、完成までの道のりは平たんではありませんでした。例えば、プロ※の認定補聴器技能者や言語聴覚士による「リモートフィットサービス」を提供する「COCORO LISTENINGサービス」についても一筋縄ではいかなかったと言います。
一般的なスマートフォンのアプリケーション、サービス開発には知見がありましたが、補聴器の分野は未知の領域です。どういったアプリを作れば良いのか、目標とする姿を設定するのに苦労しましたね。お客さまがどういった流れで補聴器を購入し、フィッティングを行うのかなどを細かく分析し、プロ※の認定補聴器技能者や言語聴覚士の方々にレクチャーをしてもらいながら開発の要件を定義していきました。 |
また、医療機器としての品質・安全性が求められる点も未知の領域でした。第三者認証機関による医療機器認証を取得するまでには、想定外のやりとりが何度もあったと磯部さんは笑いました。
購入後の完全リモートによるワンストップサービスは、これまでの補聴器にはないものです。コストを大幅に削減し、新しいビジネスモデルを創出したと考えています。 |
苦労のすえ立ち上げた「COCORO LISTENINGサービス」のおかげで、「手間」と「価格」の2つの課題を乗り越えることができたのです。
補聴器のネガティブイメージを一新!デザインや形状に光るこだわり!
最後に残った3つ目の課題。補聴器特有の「見た目」は、使用を阻む最大の要因かもしれません。磯部さんや立木さんらは、どういったデザインであれば40代や50代の人たちが耳につけたくなるのか、喧々諤々の議論を重ねたそうです。
補聴器本体のデザインについては社内外でアンケートを続け、数カ月は揉めましたね(笑)。最終的には、落ち着いたマットブラックに仕上がりました。 |
箱にもこだわり、本棚に並べたくなるようなデザインにしました。アクセントになっているオレンジは、現役のビジネスパーソンが元気に活躍するアクティブさを表現しています。 |
もちろん、注力したのは「見た目」のデザインだけにとどまりません。耳にしっかりフィットする形状を目指し、試作を繰り返しながらブラッシュアップしていきました。加えて、フィット感が聞きやすさに影響することから、サイズ別の5種類の専用イヤチップから選べるようになっています。
耳穴の形状は個人差があるため、できるだけ多くの人の耳にフィットするよう、5種類の専用イヤチップをご用意しています。同じサイズだったとしても固さでフィット感が異なることがわかったので、イヤチップをどの程度の固さにするのかといったことにも頭を悩ませました。 |
5種類のイヤチップを色分けしているのは、「リモートフィットサービス」をスムーズに進めていただく狙いもあります。フィッター(調整者)も「次は赤色の専用イヤチップを装着してみてください」とご案内できるので、お客さまもわかりやすいと思います。 |
他にも、充電ケースにUSBコネクタを内蔵し、ケーブルレスでPCからダイレクトに充電できるのも現役のビジネスパーソンから高い評価を得ているのだとか。「補聴器は年寄りくさい」。そんなネガティブイメージを一新するだけのインパクトが「メディカルリスニングプラグ」にはあります。
デザインだけでなく、仕様についても企画メンバーと喧嘩に近い激論を日々交わしました。でも、それは喜ばれる商品を作りたいと強く思っているからです。互いの熱意をぶつけ合える環境が心地良いですね。 |
「誰も挑戦したことがない道なき道を切り拓いていくことにやりがいを感じる」と、立木さんは目を細めました。
こうして、50代前後の現役ビジネスパーソンをメインターゲットに開発された「メディカルリスニングプラグ」ですが、従来の補聴器にはない機能も付加価値として備わっています。それが「ストリーミングモード」と「ハンズフリー通話」です。
ワイヤレスイヤホンをつけて英会話や音楽を聴いたり、通話をしたりしているビジネスパーソンが増えているので、生活支援の一環で「メディカルリスニングプラグ」にも同様の機能を設けることにしました。「COCORO LISTENINGサービス」と同じく、ストリーミングやBluetoothの搭載自体は難しくありませんでしたが、いかに利便性とわかりやすさを両立できるかがポイントでしたね。 |
結果、タッチセンサーを3秒間長押しすることでリスニングモードとストリーミングモードを切り替える方法に行き着きました。センサーに触れるだけで反応する案もあったそうですが、何かの拍子で意図せず触れて切り替わってしまうと補聴器利用に支障をきたすことから見送られたそうです。
「メディカルリスニングプラグ」は性能的に何かが突出しているという商品ではありませんが、補聴器市場におけるポジショニングが、まさに“Be Original.”だと感じています。スマホやアプリ、クラウドなどの開発で技術を培い、ユーザー視点を追求してきたシャープだからこそ、それらを総動員して生み出すことができました。多くの人たちに支援いただき、とても感謝しています。 |
部門の垣根を越え、一丸となって助けてくれたと磯部さんは嬉しそうに振り返りました。
“Be Original.”な「メディカルリスニングプラグ」が補聴器の世界を変える
「メディカルリスニングプラグ」の登場により、今後、補聴器の世界は様変わりする可能性があります。磯部さんも立木さんも市場での存在感に手応えを感じつつ、さらなる飛躍に向けて力を込めました。
我々の仕事は作って終わりではありません。より多くの人に「メディカルリスニングプラグ」を使っていただけるよう、これから認知を広めて補聴器の所有率やお客さまの生活の質の向上に貢献したいです。 |
ほとんどの人が聞こえづらさを感じつつも補聴器を使用していない状況ですが、そこには「フィッティングをしてみたけど、諦めた」というケースも含まれていると思います。どうすれば技術によって救えるかを考え、今までにない発想やアイデアで聞こえやすさと使いやすさを高めていきたいです。 |
補聴器を英語に訳すと「hearing aid(ヒアリング エイド)」。けれど、新しい補聴器は、“ヒアリング”ではなく“リスニング”という言葉を使って「メディカルリスニングプラグ」と名付けられました。ただ漫然と“聞く”のではなく、耳を傾けて積極的に“聴く”。メガネのように補聴器を気兼ねなく“普通に”つけることで聴く力が健康な状態である期間「健聴寿命」を伸ばし、人生を長く活躍してほしいとの願いが込められているのです。
※「認定補聴器技能者」や「言語聴覚士」の資格をもったフィッター(調整者)や専門フィッティングスタッフを指します。
Photo:Nagayama Masakatsu
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