コロナ禍でも、テレビやスマホを通してスポーツ観戦を楽しんでいる人は多いのではないでしょうか。最近では画面越しでも非常にきれいな映りでスポーツが楽しめますが、実は昔からそうだったわけではありません。 これは画面越しの話だけではなく、現地観戦でも同じでした。かつてはスタジアムでスポーツ観戦をすると、明るさや色の見え方にムラがあって、今ほどきれいには見えていなかったそう。
その理由は「照明」にあります。スタジアムに設置されている照明はここ10年で大きく進化し、見やすさはもちろん、観戦の没入感や選手のパフォーマンスにも影響を与えています。
そんな照明の秘密について、スタジアム照明のリーディングカンパニーであるパナソニック ライフソリューションズ社の小西俊樹さんにお話を伺いました。
2017年よりパナソニック ライフソリューションズ社 ライティング事業部に所属し、 屋外照明の営業企画を担当。 パナソニックインパルス(アメリカンフットボールチーム)の主将も務める。
LEDで飛躍的に進化! 見やすさだけでなくエンタメ要素も
――スタジアム照明はどのように進化してきたのでしょうか。
大きな進化はLEDが採用されたことです。住宅ではすでに当たり前となっていますが、非住宅分野で採用され始めたのは2010年頃のことでした。それから約5年程遅れて、スタジアムで使えるだけの明るさがLEDで実現し、現在は多くの会場で置き換えが進んでいます。当社もスタジアム向けの製品をラインナップしており、もっとも明るい製品が「味の素スタジアム」などでも採用されている「スタジアムビーム」です。
――スタジアム向けの照明となると、どれくらいの明るさが必要なのでしょうか。
一般的な住宅用の照明の明るさは4,000ルーメン程度です。一方でスタジアムビームは15万ルーメンとなります。
――約40倍ですか! まさに桁違いの明るさですね。LEDになる前のスタジアム照明には何が使われていたのでしょうか。
メタルハライドランプや水銀燈が一般的でした。しかし水銀燈は、条約の関係で今年から製造禁止となったので、多くがLEDに置き換わっています。
――そうした従来の照明と比べて、LEDのメリットはどこにあるのでしょうか。
まず、自然な色が再現できることです。照明の種類によって照らされる物の見え方は変わります。特に水銀灯などでは、色の見え方に偏りがありました。
LED照明は光の質を細かく調整できるため、自然光に近い正しい色を出すことも可能です。長年、テレビでスポーツ中継を見ている人であれば、昔と比べて自然な色が出ていると感じられるのではないでしょうか。映像技術はどんどん進化しており、4Kや8Kなど高解像度の映像も増えてきました。以前よりも細かい色まで見えるようになったので、色再現の重要性は増しています。
――スタジアム照明がLEDになったことで、テレビ観戦の体験価値は大きく向上したのですね。
これは映像だけでなく、施設を使用する人にもメリットがあります。従来の照明は、一度消灯するとランプ内の熱を冷ます必要があり、点灯しても時間をかけてじわじわ明るくなるため、完全に点灯するまでに15分程待つ必要がありました。しかし、LEDなら瞬時に再点灯が可能です。小学校の体育館などを思い出すと、わかりやすいかもしれませんね。
――瞬時に再点灯できることで、どんなメリットが生まれたのでしょうか。
それまではスタジアムを明るく照らすだけだった照明に、エンタメ要素が加わりました。たとえばサッカーでゴールを決めるとスタジアム内を光がぐるっと回ったり、選手入場時に会場全体を暗くして、光が次々に灯ったり……。このようなエンタメ性の高い演出は、瞬時に再点灯が可能なLEDだからこそ可能です。
――最近のプロスポーツでは当たり前になった光の演出も、従来の照明では不可能だったのですね。
メリットはまだまだあります。LEDは従来の照明と比べて省エネ効果が高く、光源寿命も約5倍と長持ちするので、コストが抑えられます。スタジアム照明の交換にはクレーンでの高所作業が必要で、メンテナンス費用がとても高いですからね。
また、光源寿命に達してもいきなり光が消えるわけではなく、徐々に光量が減っていくという消え方です。そのため、取り替えるタイミングもある程度融通がききます。
「ボールを見失いにくい」パナソニックの独自技術
――パナソニックのスタジアムビームならではの特徴はありますか。
当社独自の配光設計技術により、照明を見たときのまぶしさを低減できます。選手が見上げた際、視線の先にボールと照明が重なってしまっても、ボールを見失いにくいです。選手にとってプレーしやすいスタジアムになります。
――配光設計技術とはどのようなものですか。
スタジアム照明は、スタジアムビームを各所に配置してフィールドを照らします。このとき、LEDの光が重なると、フィールドにいる選手はまぶしさを感じてしまいます。そこで、光の照射範囲を狭め光の重なりを減らし、ばらばらの方向に照射してまぶしさを低減するのが当社の配光設計技術です。照射範囲は電球を覆うレンズで調整しています。
――光を絞ってばらばらに照射すると、フィールドの明るさにムラは出ないのでしょうか。
それが当社の独自技術です。綿密なシミュレーションの上で照明を配置することで、フィールド全体の明りが均一になります。照明や様々なレンズを開発しているパナソニックだからこそなせる業です。
――小西さんもアメリカンフットボールチーム「パナソニックインパルス」の選手としてフィールドに立っています。プレーしていて、まぶしさを感じることはありますか。
いろいろなスタジアムでプレーしていますが、会場によってまぶしさが異なります。手前味噌ですが、当社の照明が導入されているスタジアムでまぶしいと感じたことはありません。
競技者だけでなく、観客者も。利用者ファーストの照明づくり
――スタジアムビームはどのような会場に導入されていますか。
「東京ドーム」や「パナソニックスタジアム吹田」、「花園ラグビー場」、「味の素スタジアム」、「FLAT HACHINOHE」など多くの施設に導入されています。
――有名な施設ばかりですね! そういった施設からはどのような要望があったのでしょうか。
「FLAT HACHINOHE」からは「競技者の視点だけでなく、観戦者側の視点に立った照明設備の導入」という要望がありました。客席を暗くして、アリーナは明るく。空間を明と暗にわけることで、従来の国内スポーツ施設になかった「劇場空間」を作りたいとのことでした。
――「FLAT HACHINOHE」に導入した反響はいかがですか。
「東北フリーブレイズ」(アイスホッケークラブ)のホームゲームや3人制バスケットボール3x3のプロリーグを開催した際、オープニングや得点シーンなど、試合が盛り上がる瞬間に合わせて光の演出が行われました。ビジョンやプロジェクションマッピングの映像、音響演出とも連動でき、観客の方から「他のアリーナでは味わえない空間」と高評価をいただいているそうです。
「FLAT HACHINOHE」でのこうした演出は、一般の方でも体験できます。観戦はもちろん、アイススケートの一般開放もされているので、ぜひ実際に体験していただきたいですね。
「街づくりにも貢献」照明が持つ可能性
――他の事例についても教えてください。
スタジアムだけでなく、公共施設でもパナソニックの照明は活躍しています。東京都足立区にある「東綾瀬公園野球場」では、それまで使用していた照明と同等の明るさを維持した上で、省エネとCO2削減による環境性の向上、近隣住宅への光漏れの軽減に成功しています。光漏れ対策は、まさに当社の配光設計技術が活きた例です。
また、この施設でもまぶしくない照明の配置にこだわり、実際に施設のご担当者様からもまぶしさを感じにくいと驚きの声をいただいています。
――今後の展望についても教えていただけますか。
照明技術の進化で、街づくりに貢献していきたいと考えています。スタジアムができれば、スポーツはもちろん様々なイベントが開催でき、街に付加価値が生まれます。私たちもできるだけ協力し、スポーツを通して全国を盛り上げていきたいですね。
――ありがとうございました。
普段スポーツを観ていても、「照明」に注目している人は少なかったのでは? スポーツ施設の照明はどんどん進化しており、私たちもいつのまにか恩恵を受けていたのですね。 今後、テレビでスポーツ観戦をしたり、実際にスタジアムに行ったりする際には、進化した照明にもぜひ注目してみてください。
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