取引先が倒産してしまうと、売掛金を回収できなくなるなど、自社に様々な悪影響が生じるおそれがあります。 経営に余裕があまりない中小企業などの場合は、取引先が倒産することで自社の資金繰りが困難になり、連鎖的に倒産してしまう可能性も少なくありません。
取引先の倒産による悪影響を防ぐには、適切な初期対応を取ることが重要です。 また、中小企業の場合は、資金繰りが苦しくなったときのための貸付制度や保証制度を利用することも検討できます。
今回は、取引先が倒産した場合の取るべき初期対応などについて解説します。
取引先に関する正確な情報把握
取引先が倒産したとの情報を入手した場合、まずは正確な情報を把握することが重要です。
正確な情報を入手するには、取引先を実際に訪れて、本当に倒産状態にあるかをきちんと確認しましょう。
取引先が倒産したという情報が、単なる推測や噂にすぎない可能性があるため、本当に倒産したかを確認しなければなりません。
倒産が本当か、取引先へ実際に行って確かめる
確認するために、取引先の本社や倉庫などに急行しましょう。
取引先の代表者と連絡が取れるか、取引先の社員から話を聞けるか、取引先の今後の見通しを把握できるか、などが重要なポイントになります。
取引先が本当に倒産したのかをきちんと確認せずに、一方的に取引を打ち切ることは避けるべきです。
一方的な取引打ち切りはNG。賠償責任を負うリスクも
もし取引先が倒産していなかったにもかかわらず、取引を打ち切ってしまうと、法的には取引を打ち切ることができない状態であるのに、一方的に取引を打ち切ってしまった、という事態になる可能性があるからです。
誤って取引を一方的に打ち切ってしまった場合、打ち切りによって取引先が受けた損害について、賠償責任が生じる可能性があります。 倒産の事実について、まずはきちんと正確な情報を把握した上で、取引先との対応協議に進めることが重要です。
自社と取引先での債権の確認
取引先の倒産が確実な情報だとわかった場合は、自社と取引先の間にどのような債権(未回収)があるかを確認しましょう。
取引先が倒産した場合、自社が有する債権をどのくらい回収できるかが重要になるからです。 債権を少しでも多く回収できれば、取引先の倒産による自社へのダメージを防ぐことにつながります。
債権を確認するにあたっては、以下のような情報を把握してリストアップしましょう。
- 債権の種類
- 債権の金額
- 債権の支払時期
- 債権を証明する契約書類があるか
- 債権に担保があるか
取引先と交渉の段階で債権回収漏れを起こさないよう、現在の契約・債権がどうなっているか、状況を正確に把握しておきましょう。
相手方との交渉
自社と取引先の債権の確認が終わって、相手と連絡が取れる場合は、相手方と交渉をしましょう。
相手と交渉をして、必要な取り決めや実行をすれば、自社が有する債権を回収しやすくなるからです。
債権を回収したり、債権のかわりになるものを回収したりできれば、取引先の倒産による自社への被害を最小限に抑えやすくなります。
相手方との交渉においては、以下のポイントが重要です。
未納品がある場合は、納品を止める
倒産した取引先にこれ以上商品を納品すると、代金を回収できない可能性が非常に高いという場合は、納品をストップします。
相手から納品を求められた際は、現金による前払いのみに応じる方法があります。
納品した商品の引き渡しを求める
すでに取引先に納品した商品がある場合は、商品の引き渡しを要求しましょう。
相手に黙って商品を持っていってしまうと、トラブルになる可能性が高いので、必ず相手の同意書をもらってから回収します。
代物弁済や相殺をする
代物弁済とは、代金のかわりに小切手や商品を回収するなど、本来の債権のかわりとなる資産をもらうことです。
相殺とは、自分の債権と相手の債務を差し引きして、帳消しにすることです。
いずれも債権の回収と同等の効果を得られます。
担保や保証を請求する
担保権を設定している場合は、担保権を実行して債権を回収する方法があります。
保証人がいる場合は、保証人に支払いを請求して回収を検討することが可能です。
突然倒産した場合
取引先が突然に会社更生や民事再生などを開始し、裁判所から債権届出の通知が届いた場合についてです。
債権届出は破産手続に参加するための届出書で、債権の種類や金額などを記載します。
会社更生や民事再生などの法的な破産手続が開始されると、債権を個別に取り立てることはできません。 債権を少しでも回収したい場合は、債権届出を提出しましょう。
取引先倒産の影響で自社の資金繰りが厳しくなった場合
取引先が倒産したことで、自分の会社の資金繰りも厳しくなってしまう場合があります。
たとえば信用取引で取引先に商品を卸していたところ、取引先が突然に倒産して連絡が取れなくなってしまい、商品の代金を回収できなくなってしまうケースです。 商品の代金をあてにして新規の借り入れをしたところ、代金を回収できなくなったので、借入金の返済ができなくなってしまう可能性もあります。
取引先の倒産によって資金繰りが厳しくなった場合に、役立つ可能性がある2つの制度について解説します。
セーフティネット貸付制度(経営環境変化対応資金)
セーフティネット貸付制度とは、日本政策金融公庫が実施している貸付制度であり、主に中小企業や小規模事業者を対象にしています。
中小企業は一般的に財政基盤が弱いことから、経済状況などによって経営への影響を受けやすいのが特徴です。 取引先の倒産は、まさに経営への影響を受けやすいケースといえるでしょう。
セーフティネット貸付制度は、社会的・経済的な変化によって、会社の業績が悪化してしまった場合に貸付を行うことで、中小企業などを保護することを目的とした制度です。
セーフティネット貸付制度の利用の要件
セーフティネット貸付制度を受けるためには、以下の2点の両方を満たす必要があります。
- 社会的・経済的な環境の変化などによって、一時的に経営状況が悪化していること
- 中長期的にみて業況の回復・発展が見込まれること
融資される資金の使いみちは、会社を維持するために緊急に必要な設備資金と、経営基盤を強化するために必要な運転資金があります。
融資限度額は7億2,000万円(中小企業の場合)であり、融資期間は設備資金が15年以内、運転資金が8年以内です。
経営安定関連保証制度
経営安定関連保証制度とは、信用保証協会が実施する中小企業・小規模事業者向けの保証制度です。 取引先が破産の申請をしたり、台風などの災害に遭ったりなどの要因によって、経営に支障が生じてしまった中小企業・小規模事業者が対象となります。
保証制度を利用するには、市区町村の担当窓口で認定を受ける必要があります。 保証制度が適用されるのは、以下の8種類のいずれかに該当する場合です。
- 1号認定:大型倒産の発生によって影響を受けている
- 2号認定:取引先企業のリストラなど、事業活動の制限によって影響を受けている
- 3号認定:特定地域の災害などによって影響を受けている(特定業種の場合)
- 4号認定:特定地域の災害などによって影響を受けている
- 5号認定:全国的に業況が悪化している業種を営んでいる
- 6号認定:金融機関の破綻によって資金繰りが悪化している
- 7号認定:支店の削減など、金融機関の合理化によって借入が減少している
- 8号認定:整理回収機構などに貸付債権が譲渡された、再生可能な中小企業者である
保証限度額は無担保の場合8,000万円、担保のある普通保証で2億円です。
まとめ
取引先が倒産するとの情報を入手した場合は、まずは取引先の本社や倉庫に急行し、本当に倒産するのかをきちんと確認しましょう。
倒産するとわかった場合は、自社が持っている債権をリストアップして把握し、相手と交渉してできるだけ債権を回収することが重要です。
ただし、交渉がうまくいかなかったり、不安を感じたりする場合もあります。 取引先の倒産による影響を会社が大きく受けそうな場合は、企業法務に詳しい弁護士に相談し、適切な対応方法を提案してもらうことをおすすめします。
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