近年、電動キックボードによる事故が急増しています。
値段もお手頃で、自転車よりも負担なく移動ができる電動キックボードは、一見すると非常に優れた乗り物かもしれません。
しかし、実際は走行性能に対して貧弱なブレーキや、法整備の甘さなどから来る事故が多く、まだまだ問題のある乗り物となっています。
今回は電動キックボードによる事故が増加する背景や、万が一事故に巻き込まれた場合の対処法を紹介します。
無免許運転、歩道でのひき逃げ……増加する電動キックボードのトラブル
町中を軽快に走る電動キックボードを見る機会が増えた、という方も多いことでしょう。
まるで板のような薄いフォルムが特徴の電動キックボードは、見た目からは手軽な乗り物というイメージがあるかもしれません。
ところが、実際には電動キックボードを運転するには原付免許が必要です。そうと知らずに運転することで、無免許運転やひき逃げ事故などのトラブルも発生しています。
電動キックボードとは?
電動キックボードとは、キックボードと呼ばれる車輪の付いた板に、電動式のモーターが取り付けられたものです。
キックボードの前部に取り付けられたハンドル部分を両手で持って、左右の足をキックボードの前後に置くのが一般的な乗り方です。
見た目からは、手軽な乗り物というイメージのある電動キックボードですが、実際には電動キックボードによる交通事故が発生しています。
2021年5月22日、大阪市中央区の繁華街において、歩行者の女性を電動キックボードではねた男性が逃走するというひき逃げ事故が発生しました。
女性は首の骨を折るケガをし、ひき逃げをした男性は逮捕されました。男性は道路交通法違反などにより、罰金50万円の略式命令を受けています。
電動キックボードによる事故が増加する背景
電動キックボードによる事故が増加し、インターネットなどでも電動キックボードによる事故の記事が掲載されるようになりました。
なぜ、電動キックボードによる事故が増えているのでしょうか?
電動キックボードの事故が増加する背景について、様々な角度から検証していきます。
格安製品がインターネットで気軽に買える
電動キックボードは都市部を中心に普及してきています。町中をふと見渡すと、電動キックボードで軽快に走っている人の姿を見かける機会もあるかもしれません。
電動キックボードが普及してきている背景には、インターネットなどで格安のキックボードを手軽に買える、という実態があります。
試しに大手のネット通販サイトなどを「電動キックボード」で検索してみると、数万円で購入できる電動キックボードが数多くひっかかってくるでしょう。
安価なものであれば、2万円程度で購入できる電動キックボードもあります。
コンパクトに折り畳めたり、数段階で高さを調節できたりなど、利便性も低くないようです。
時速30km以上で走行できたり、坂道を登りやすかったりなど、比較的に性能に優れたモデルであっても、一般に5万~6万円程度で売られています。
新車の原付を乗り出すのに10万円ほどの予算が必要なことを考えると、2万円程度で購入できる電動キックボードは費用面で手軽なので、普及の一因になっている可能性があります。
電動キックボードでの走行に原付免許が必要なことが知られていない
あまり知られていない事実ですが、電動キックボードを適法に運転するためには、原付免許が必要です。
原付(原動機付自転車)と聞いてまず思い浮かぶのは、黒塗りのスクーターだという方は少なくないでしょう。
原付の代表格であるスクーターは、二輪車として見ればコンパクトなほうですが、両足をプレートにしっかり乗せて運転する必要があるなど、全体的なフォルムや構造は決して小さくはありません。
一方、電動キックボードはサイズが原付よりも圧倒的に小さいです。
加えて、一枚の板の上に両足を前後させて搭乗するので、運転時の全体的なフォルムは原付よりもさらにコンパクトになります。
サイズや運転時のフォルムの違いなどから、電動キックボードが法律上は原付に分類されるというのは、一般にはなかなかイメージしにくいところ。
そのことが、「電動キックボードに原付免許が必要なんて知らなかった」ということの一因にもなっています。
とはいえ、法律上は電動キックボードは原動機付自転車の一種として位置づけられており、免許なしで電動キックボードを公道で運転すれば、法的には無免許運転になってしまいます。
原付なので電動キックボードにヘルメット着用は必須
また、原付にあたることから、運転する際には免許だけでなく、ヘルメットの着用も必須ということです。
本来は免許が必要な乗り物である電動キックボードを、そうと知らずに未熟な運転技術で乗り回してしまうことが、事故の増加の一因になっている可能性があります。
ブレーキ性能の貧弱さを指摘する声も
電動キックボードによる交通事故が増えている要因として、ブレーキ性能の貧弱さを指摘する声もあります。
電動キックボードのブレーキは大きく分けて2種類あります。自転車と同じような構造のハンドブレーキと、カバーを足で踏んで車輪をおさえるフットブレーキです。
確かに、モデルによっては時速30km程度のスピードを出せる走行性能がありながら、仮にブレーキの制動機能が自転車並みであるとすると、いざというときにブレーキが十分でなく、交通事故につながる可能性は否定できないところです。
電動キックボードによる交通事故にまきこまれた場合どうなる?
電動キックボードによる交通事故に巻き込まれてしまった場合にどうなるか、法的な視点から解説します。
電動キックボードの交通事故は原付バイクの事故に準じて処分される
電動キックボードで交通事故を起こした場合、電動キックボードが原付に分類されることから、基本的には原付で交通事故を起こした場合に準じて処分されることになります。
代表的な処分内容は以下のとおりです。
- 乗用車ヘルメット着用義務違反(ノーヘル):違反点数1点
- 信号無視(赤信号):違反点数2点、反則金6,000円
- 信号無視(黄色点滅):違反点数2点、反則金5,000円
- 免許不携帯:反則金3,000円
無免許運転や歩道走行による事故なら、その分、罪状・罰則は重くなる
無免許運転や歩道走行をした結果、事故を起こしたなどの悪質なケースは、その分だけ処分は重くなりがちです。
- 無免許運転:違反点数25点、3年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑事罰)
- 通行区分違反(歩道走行):違反点数2点、反則金6,000円
特に注意したいのが無免許運転です。
無免許運転は2013年に罰則が強化されたので、3年以下の懲役または50万円以下の罰金という重い刑事罰が規定されています。
電動キックボードに原付免許が必要ということを知らないケースがありますが、万が一無免許運転で事故を起こせば、上記のような重い罰則の対象になる可能性があります。
新しい乗り物で法整備が追いつかず野放しの現状
現行法においては電動キックボードは原付の一種に位置づけられていますが、国による規制緩和の動きがあります。
規制緩和として検討されている主な内容は、以下のとおりです。
- ヘルメットの着用を任意とする
- 自転車道を走行できるようにする
- 一方通行の道路での双方走行を認める
最終的にどのような規制緩和が実施されるかは今後の流れによりますが、電動キックボードの規制を緩くして、より手軽な乗り物として位置づけたい姿勢がうかがえます。
いずれにせよ、規制緩和の対象になるということは、電動キックボードは法整備がまだ途中の、新しい乗り物としての認識が強い状況にあります。
増加する流通に対して、どのように取り締まるべきかの姿勢がなかなか定まらず、野放しのようになっている現状がうかがえます。
まとめ
車輪付きの板に電動式のモーターが取り付けられた電動キックボードは、見た目や軽快な走行からは、手軽な乗り物というイメージがあるかもしれません。
しかし、安価な製品を手軽に購入できることや、走行性能に比べて貧弱性が指摘されるブレーキ性能などから、電動キックボードによる交通事故も発生しています。
電動キックボードは法整備が十分になされてない新しい乗り物なので、実際に電動キックボードによる交通事故に遭ってしまった場合に、思いもしない対応をされる可能性もあります。
電動キックボードによる交通事故でトラブルに巻き込まれてしまった場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
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