遺産分割を巡ったトラブルは、誰にとっても他人ごとではありません。 「大した遺産もないのでトラブルにはならない」「家族の仲が良いので心配ない」というのは大きな間違いです。
多額の遺産をめぐって争いになるケースはもちろん、遺産が少なくてもトラブルは起こります。 元は仲が良かった家族と、遺産相続がきっかけとなり疎遠になってしまうことも。
今回は、遺産分割でトラブルになりやすいケースと、親族間で揉めないための回避方法を紹介します。
遺産分割はなぜ揉める? 相続トラブルの原因
遺産分割でなぜ揉めるのかというと、次のような原因があります。
- 遺産について:遺産の内容が不透明・分割しにくい財産が多い
- 他の相続人との関係:疎遠・仲が悪い・お互いに不信感がある
- 寄与分や特別受益を主張する相続人・特別寄与料を請求する親族がいる
家族だからこその感情的な「ズレ」が顕在化
金銭・財産をめぐった損得はもちろんのこと、家族だからこそ感情的になりやすいという問題もあります。
普段は仲が良いように思えても、 「自分は高校までなのに大学まで出してもらったのだから少しは譲って欲しい」 「親の面倒を一切見なかったのだから遺産は受け取らないはず」 などと感じているかもれません。
相続は、家族が心の底で密かに感じていた互いへの感情的な「ズレ」が、実際の衝突として顕在化するきっかけになり得るのです。
相続でトラブルになりやすい家庭の条件
ここでは、特に相続でトラブルになりやすい家庭の特徴をみていきます。
相続する財産の種類が多い
相続するのが預貯金などの分けやすいものだけならよいのですが、家や土地などの分けにくいものや、価値のわかりにくい財産があると揉めやすくなってしまいます。
- 不動産と他の相続財産とのバランスが悪く、平等に分けられない
- 亡くなった方と同居していた家に住み続けたいが、他の相続人に分割を求められた
- 不動産の評価方法で意見が食い違う
不動産をどうしても分けられない場合には、それぞれが持ち分を取得して共有するという方法(共有分割)もあります。
一見公平な分割方法のようですが、管理や運用がしにくく、後の相続が複雑になってしまうため、さらなるトラブルを招いてしまうリスクがあります。
異母兄弟がいる
離婚歴のある方の相続では、前妻との間に子があれば、その子にも当然ながら相続権があります。今の家族からすれば、自分たち以外の相続人が遺産分割に加わるのですから、納得できずトラブルになる等、争続リスクはおのずと高くなります。
- 離婚後、前妻との子と長い間疎遠だった
- 今の家族が知らない異母兄弟が存在していた
- 前妻との子が、「生活が苦しかったから多く相続したい」と主張
- 今の家族が、前妻との子に「相続しないで欲しい」「相続するのは少しにして欲しい」と主張
このように、さまざまな原因でトラブルになることが考えられます。
争点になりがちな「法定相続人ではない人」の介護
たとえば「高齢の親を同居している長男の嫁が長年ケアしてきた」といった状況では「寄与分」をめぐり、相続が複雑になることがあります。
寄与分とは、亡くなった方を長年介護していた相続人が、他の相続人と同じ相続分では不公平なのでは? という問題に対処する制度です。
寄与分が認められると、他の相続人よりも多くの遺産を手にできます。
ただし、単に親の面倒を見ていただけでは寄与分は認められません。「亡くなった方の財産の維持または増加」に「特別の寄与」をしていると認められなければなりません。
法改正で「長男の妻」など法定相続人以外の人も寄与分の請求が可能に
介護していたのが相続人本人ではなく、その「嫁」だった場合などは、さらに複雑なことになります。 従来、寄与分は相続人以外には認められていないものでした。しかし、2019年の法改正により
- 6親等内の血族
- 3親等内の姻族
も特別寄与料を主張できるようになりました。
これにより、長男の妻など、法定相続人そのものではなくても被相続人の財産の維持・増加に特別な寄与をしていた人なら、遺産分割時に寄与分を請求できるようになりました。
- 嫁が特別寄与料を請求したが、貢献の程度が特別の寄与とは言えない程度のものである
- 特別な寄与といえる程の貢献をした嫁が特別寄与料の請求をしたが、相続人が合意しない
- 特別寄与料の金額で揉める
など、介護や看護などの貢献に対して、寄与分を認めるか否かは判断が非常に分かれやすい問題です。介護していた嫁が強く主張することでトラブルになることもあるでしょう。
家族同士が疎遠
それぞれが結婚して家庭を築いている、遠方に住んでいる、長年連絡を取り合っていないというようなケースでは家族とはいっても他人のように感じることもあるでしょう。 家族が疎遠な場合、次のようなトラブルが想定されます。
- 連絡がつかない相続人がいる
- 遠方に住んでいる親族と連絡が取りづらい
- 相続手続きに非協力的な相続人がいる
- 一方的な主張をして譲らない相続人がいる
法定相続人になるはずだった人が既に他界している場合、その人の子が相続人になります。他の子からみれば甥や姪にあたることになり、甥や姪とは疎遠ということは十分ありえます。
また、亡くなった方に子がいなかった場合、配偶者以外にも両親・祖父母や兄弟姉妹・甥姪などが相続人になるケースがあります。
家族同士が疎遠な場合、スムーズにいくはずの話し合いも進まないことがあります。
遺産分割でトラブルを回避するには?
十分な遺産を受け取っても、他の相続人よりも少ないと納得できずに揉めてしまうことも。
遺産分割トラブルは、他の相続人がもらう財産と自分がもらう財産を比較してしまうことからはじまります。「公平な取り分を取得できていないのではないか」という不安が、相続人の争いにつながるのです。
つまり、相続する財産が多くても少なくても、公平で妥当な取り分を取得したと当事者が納得すれば揉めにくいということです。
公平でわかりやすい遺言
被相続人が生前に行える、遺産分割トラブルを回避する一番の方法は、遺言作成です。
遺言内容で揉めないために、公平な内容にすることをおすすめします。
それぞれの相続人に相続させる財産を個別に指定しておくと、よりトラブルになりにくいでしょう。
相続財産を明確に
亡くなった方と同居していた人などが、勝手に亡くなった方名義の預金を下ろしたり財産を処分したりすると、他の相続人から不審に思われるかもしれません。
良かれと思って預金の引き下ろしをしたことが、兄弟など他の相続人からすれば怪しい行動ととらえられる可能性もあります。
使い込みや隠匿を疑われないように、相続財産の扱いには気を付けてください。
被相続人の生前に財産目録を作成しておくことが望ましいでしょう。
お互いの立場を理解する
大切な家族の遺産相続を争続にしてしまわないためには、お互いの立場を尊重して理解し合うことが重要です。
相手の主張にも理由があるはずです。自らの主張を通すことだけに固執せず、譲り合う姿勢を大切に、相続手続きを進めましょう。
弁護士に相談する
感情的になってしまい、話し合いが上手くいかないときや、本当に公平な遺産分割なのか不安になった際は、弁護士などの専門家へ相談すると良いでしょう。
遺産分割協議が難航した場合は調停へ進むこともできますが、ここでも弁護士のサポートがあれば安心です。
相続に精通した弁護士を介して協議を進めていくことで、過度の感情的な衝突を避け、公平な相続に向けて話し合いを進めていくことができます。
まとめ
遺産相続を揉め事の種にしないために、生前の対策としては遺言作成が有効です。財産目録を作成し、あとで揉めない内容の遺言にすると良いでしょう。
疎遠な相続人がいる、生前贈与や寄与分について主張が食い違う、異母・異父兄弟がいる場合など、揉めやすいケースでは早めに弁護士などの専門家へ相談するのが得策です。
遺言作成、トラブル解決はもちろん、将来の相続が不安な方も、弁護士に相談することをおすすめします。
[PR]提供:株式会社Agoora(アゴラ)