借金を返済する際に、法律で定められた金利の上限を超える金額を支払っていた人は少なくありません。このような過払い金の返還を請求する際、請求権の消滅時効が問題となります。
2020年の民法改正前の債権の消滅時効は、行使できる時から10年間でした。10年を過ぎると、一切請求できなくなるということです。しかし10年以上前に借入れした分についても、過払い金を請求できる可能性があるということをご存知ですか? 以下で詳しく解説します。
過払い金請求とはどういうものか
利息制限法の上限金利を超えるが刑事罰は科せられないグレーゾーン
そもそも過払い金とは、借金の返済のため、法律で定められた金利の上限を超えて支払われたお金のことです。
金利の上限を定めた法律としては、利息制限法と出資法があります。2010年までは、利息制限法の上限は元本の金額に応じて15・18・20%、出資法の上限は29.2%でした。そして「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」の刑事罰が科されるのは、出資法の上限を超えた場合のみでした。
つまり15~20%を超えていても29.2%以下であれば、"違法であるにもかかわらず処罰されない"ため、このグレーゾーンの金利での貸付が横行していたのです。
しかしグレーゾーン金利が大きな社会問題として認識され、2010年6月に改正貸金業法が完全施行されてからは、出資法も利息制限法と同じく上限20%に統一されました。したがって過払い金が問題となるのは、主に2010年6月以前に消費者金融等から借入れた分についてです。
そして現在でも、利息制限法で上限金利15%・18%と定められている元本について20%の金利を設定していた場合には、刑事罰は科されませんが無効とされ、行政処分の対象とされています。
過払い金は民法703条の不当利得に該当
グレーゾーン金利による貸付は、刑事罰を科されないものの違法であることには違いありません。法律上の原因なく支払ったお金ということですから、民法703条の不当利得に該当します。同条では「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」としています。
不当利得については、返還請求権が認められています。つまり、過去に利息の上限を超える金額を返済していた人は、支払いすぎていた利息分のお金を請求し、取り戻すことができるのです。
完済から10年過ぎた借金はもう帰ってこない?
返還請求権の消滅時効は完済日から10年
しかし不当利得の返還請求権(過払い金の返還請求権)にも、消滅時効があるため、注意が必要です。2020年4月1日に改正民法が施行され、債権の消滅時効が「権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間」に変更されましたが(民法166条1項)、2020年4月1日以前に借りたお金については、旧法の消滅時効である「権利を行使することができる時から10年間」が適用されます。
ちなみに債権とは、他人に対して義務の履行を求める権利のことを言います。所有権などの物に対する権利である物権とは大きく性質が異なります。
では過払い金請求権の消滅時効がいつから開始するのかということについてですが、これは"最後の取引日"とされています。借金を完済した日から起算して、10年間が経過していなければ、過払い金を請求できる可能性があります。
何度も繰り返し借金をしている場合は一連の取引として判断
ただし同じ貸金業者から何度も借入れと返済を繰り返している場合には、判例では一つひとつの取引について個別に消滅時効が進行するのではなく、一連の取引をまとめて考えるとされています。
具体的にどのような場合に複数の借金に一連性を認めるのかについて、最高裁判所平成20年1月18日判決では以下の基準に沿って総合的に判断するとしています。
- 貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さ
- 弁済から次の貸付けまでの期間があまり空いていないこと
- 基本契約についての契約書の返還の有無
- カードが発行されている場合にはその失効手続の有無
- 弁済から次の貸付けまでの貸主と借主との接触の状況
- 2回目以降の基本契約が締結されるに至る経緯
- 各基本契約における利率等の契約条件が同じであること など
たとえば、初めて借入れを行ったのが10年以上前であっても、同一の貸金業者から継続的に同条件の借入れと返済を繰り返し行い、最後の借入れについての完済日が9年前であった場合には、返還請求が認められる可能性があります。
過払い金請求した方がいい人の条件
これらをふまえ、過払金請求をした方がいい人の条件を整理すると、以下のようになります。
- 2010年6月以前にした借金を返済し続けている人
- 2010年6月以前に借金をした経験があり、その完済からまだ10年経っていない人
- 2010年6月以前に借金をして以来、同じ条件での借入れ・返済を繰り返している人
昔から継続して借り入れを活用してきた人の中には、意外と上記の条件に気づいていない方も少なくないようです。すでに完済し、今は借り入れのない方でも「借金をしてから10年」ではなく「借金を完済してから10年」である点に注意してください。条件が適合すれば、完済済みでも、支払ったお金が返ってくる可能性があります。
過払い金請求の手続き
正しい金額を算出して内容証明郵便で請求する
過払い金請求の手続きは、まず手元にある取引記録や契約書などの証拠をもとに適法な金利で計算し直してから、払い過ぎた金利分を内容証明郵便で請求するのが一般的です。内容証明郵便とは、差出人・受取人・文書の内容・日付を郵便局が証明してくれるサービスで、法律手続きの際には証拠として利用されています。
内容証明郵便で請求すると、相手が受け取ってから6ヶ月経過するまでの間は消滅時効が完成しないと定められています(民法150条)。これはあくまでも消滅時効の完成が猶予されているだけですので、6ヶ月が経過すると再び進行します。経過分がリセットされる訳ではありませんので、注意が必要です。
難しいと感じたら早めに弁護士に相談を
消滅時効の完成が迫ってきたら、早めに手続きを行いましょう。過払い金の計算方法や内容証明郵便の作成が難しいと感じる場合は、弁護士に早めに相談されることをお勧めします。
過払い金の総額によっては、法的措置を取ることで費用倒れになるおそれもあります。過払い金請求の手続きを弁護士に依頼した場合、費用対効果の面でも有効なのかどうかを弁護士に確認してみましょう。
まとめ
貸金業規制法改正前には、"違法だけれども刑事罰が科せられない"グレーゾーン金利での貸付けが横行していました。しかし違法であることには変わりないので、民法703条の不当利得として過払い金請求をすることが可能です。
しかし過払い金の請求権にも10年の消滅時効があるため、最後の取引日(一連の借金の完済日)から10年を経過すると、一切請求できなくなってしまいます。過払い金についてまだ請求できるかどうか知りたい、その他手続きに疑問がある方は、早めに弁護士に相談してみましょう。
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