自分が浮気・不倫をしたことがバレて離婚することになった場合でも、配偶者にお金を請求できることがあるのでしょうか? 離婚にまつわるお金といえば、慰謝料・財産分与・養育費などがあります。それぞれの特徴と注意点について解説します。
慰謝料は、離婚の原因を作った側が相手に支払うもの
慰謝料とは、他人に精神的苦痛を与えた場合に支払うべき損害賠償金のことをいいます精神的苦痛を正確にお金に換算するのは本来難しいですが、医師によるうつ病などの診断書や社会通念などに照らし合わせて、おおよその基準額が決められています。
不貞行為も、配偶者に精神的苦痛を与える不法行為なので、法律上慰謝料を請求することができるとされています。
男性でも女性でも、不倫した方がされた方に支払うのが慰謝料のルール
ちなみに不貞行為とは、"配偶者以外の人と肉体関係を結ぶこと"と定義づけられています。つまり、ふたりきりで食事やデートをしたり、手をつないだり、抱擁やキスなどの軽いスキンシップをするだけでは、法律上は不貞行為と認められない可能性が高いとされています。
以上のように、慰謝料は原則として不貞行為をした本人が配偶者に対して支払うべきものです。
中には「私は女性なので、自分が不倫をした場合でも離婚の際に慰謝料がもらえるはずだ」と主張される方が稀にいますが、それは勘違いです。女性であろうと男性であろうと、不倫をした方がされた方に慰謝料を支払うのが法律のルールです。
ただし、自分が不倫当事者であるからといって、一切のお金を相手に請求できなくなる訳ではありません。以下で詳しく見ていきましょう。
自分の不倫が原因でも、財産分与は請求できる
離婚の際に必ずしなければいけない手続きのひとつが、財産分与です。
財産分与とは、婚姻生活中に夫婦が築いた財産(共有財産といいます)を、貢献度合いに応じて公平に分け合う手続きのことをいいます。もちろん専業主婦も、育児や家事などを通して家庭を支えていますので、原則2分の1ずつ分け合うことになります。
ただし片方が経営者や芸能人やスポーツ選手など特殊な才能を活かして巨額の収入を得ていた場合には、その本人の努力と才能による貢献度が高いと評価され、2分の1ルールが例外的に適用されないこともあります。
財産分与は離婚原因とは無関係に必ず行われる
財産分与は、どちらが離婚原因を作ったかどうかは関係なく、必ず行われます。したがって、今回のように不倫をした側も、家計への貢献度に応じて公平に財産分与を受けることができます。
ただし、本来受け取れるはずの財産分与の金額から慰謝料分が差し引かれることもありますので、その点には注意が必要です(慰謝料的財産分与といいます)。
ちなみに財産分与の対象となるのは、前述のとおり共有財産のみですから、結婚前に獲得した財産や、実家からの相続や贈与により獲得した財産などの“特有財産”は含まれません。なぜなら、これらの特有財産は、配偶者の協力とは無関係に獲得したものだからです。
自分の不倫による離婚でも慰謝料を請求できるケース
自分の不倫がきっかけで離婚に至ったとしても、配偶者にも離婚原因があれば、慰謝料を請求できる可能性があります。たとえば、配偶者の方が長年不倫やDVを続けており、その態様もより酷いケースなどです。
配偶者による度重なる不倫やDVやモラハラなどに長期間苦しんできた女性が、その苦しみから逃れるために不倫を一度だけしてしまった場合には、不倫当事者であってもその女性が慰謝料を請求できる可能性があります。
"不倫による精神的苦痛の大きさ"を判断する具体的な基準とされているのは、以下の通りです。
- 不倫の長さ
- 夫婦の婚姻期間の長さ
- 不倫の頻度、回数
- 夫婦間における未成熟子の有無
- 不倫によって未成熟子に与えた精神的苦痛
- 不倫相手の妊娠・出産の有無
- 不倫に伴うDV・モラハラ など
子どもの親権を持つ場合は養育費を請求できる
子どもがいる夫婦の場合は、必ず親権者を決めてからでないと離婚できません。親権者となった親は、もう片方の親に養育費を請求することができます。
養育費とは、子どもが経済的に独り立ちするまでの生活費・教育費・医療費などの総称です。各家庭によって差はありますが、近年では4年大学卒業時まで養育費の支払い義務を認めるケースも増えています。
まさしく子どものためのお金ですから、親の離婚原因とは無関係に、親権者となった人が養育費を請求することが可能です。
不貞行為をした親でも、親権を持つことは可能
そして、不貞行為をしたからといって、親権者になれないということはありません。具体的には、それまでの子育て実績、子どもへの愛情の深さ、心身の健康状態、離婚後に良好な子育て環境を提供できるかどうかなどがチェックされます。
子どもがある程度の年齢に達しており、自分で判断できる能力がある場合には、子ども自身の意志も参考にされます。個人差はありますが、10歳前後からは子どもの意見を聞いて参考のひとつとし、15歳以降は原則として本人の意思が尊重されます。
親権者として養育費を請求する場合に気をつけたいこと
不倫当事者であっても、親権者となった場合には相手に養育費を請求できますが、注意すべきことがいくつかあります。
養育費は公正証書や調停調書で残す
一つ目は、養育費の取り決めは必ず公正証書や調停調書などの"債務名義"と呼ばれる書面で残すということです。"債務名義"がなければ、養育費不払いの際に強制執行をかけることができないからです。
受け取る養育費は減額される場合がある
二つ目は、離婚後の状況の変化により、養育費が減額される可能性もゼロではないということ。たとえば、養育費を支払う側のリストラやケガ・病気による収入減などが挙げられます。
父母のいずれかが再婚した場合も、養育費に影響を及ぼすことがあります。養育費を支払う側が再婚して、その再婚相手が専業主婦(主夫)であったり、新たに子どもが生まれたりした場合には、養育費の減額を求められるかもしれません。
また養育費を受け取る側が再婚して、再婚相手と子どもが養子縁組をした場合にも、元配偶者から減額を求められる可能性があります。
別居中の生活費(婚姻費用)も請求できる?
離婚を前提に別居をする場合、原則として収入が高い方の配偶者に対して生活費(婚姻費用)を請求できます。
正式に離婚が成立するまでの間は夫婦としての法的義務が継続しているため、別居中であっても、収入の高い方が少ない方の生活費を負担する扶養義務を果たさなければならないと考えられているからです(民法752条、第760条)。
不貞行為を理由に婚姻費用が減額される/認められないケースも
しかし不貞行為をした人が婚姻費用を満額請求できるかというと、判例はそれを認めていません。信義則違反(注:権利の行使は誠実に行わなければならないという法律のルール)や権利濫用にあたるとして、婚姻費用が減額されたり、場合によっては一切認められないこともあります。
まとめ
自分の不倫が原因で離婚することになっても、事情によっては慰謝料や婚姻費用、養育費などのお金を受け取ることが可能です。財産分与については、離婚原因関係なく必ず請求することができます。
きっかけは自分の不倫だったとしても、配偶者による不倫やDV・モラハラに苦しんでいたなどの事情により、不利な立場になるのが納得いかないこともあるかもしれません。
「不倫した自分も悪いが、配偶者に対して不満が沢山ある。」そんな時は、早めに弁護士に相談しましょう。
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