ある日、突然の相続。故人には大きな借金が……
もしも、ご家族が突然亡くなり、遺産として大きな借金があることがわかったら、あなたはどうしますか? 相続といえば、亡くなった方の預金や持ち家をもらえるもの、という印象を持っている方も多いでしょう。しかし逆に、亡くなった方の借金を相続人が背負ってしまうケースもあります。
相続をするということは、故人の財産のうち預金などの「プラスの財産」だけでなく、借金などの「マイナスの財産」も受け継ぐということなのです。
20~30代くらいの方には、相続の話はなかなかイメージしづらいかもしれません。それでも、相続はいつ起こるかわからず突然やってくるもの。あなたが亡くなったご家族の財産を相続したくないなら、「相続放棄」という方法があります。
相続放棄とは
相続放棄というのは、故人の残した遺産を少しも相続しないということ、つまり相続人ではなくなる、ということです。
故人の残した借金は、原則的には相続人が返さなければなりません。例えば、父親が亡くなって息子が相続したとき、借金が残っていれば息子が返済しなければならないのです。しかし相続放棄をすれば相続人から外れることができ、故人の息子であっても借金を返さなくてよいことになります。
相続放棄が有効なケース
相続放棄を有効に使えるのは、借金を相続した場合だけではありません。たとえば、以下のようなシチュエーションにも有効です。
相続自体に関わりたくない
「相続自体に関わりたくない」という方もいらっしゃいます。「そもそも疎遠だから」、「他の相続人との関係がよくない」など、さまざまな事情があることでしょう。「相続手続きが煩わしい」「めぼしい財産がないのに、面倒な手続きをしたくない」というお気持ちもわかります。
相続放棄をしたら、相続手続きに関わる必要はなくなりますし、遺産分割の話し合いにも参加しなくてよくなります。
自身の取り分を他の相続人に相続させたい
「相続放棄をすることで、自身の取り分を他の相続人に相続させたい」というケースもあります。例えば父親の相続で、母親に家を相続させたい長男がいたとします。父親には住み慣れた家以外に財産がなく、母親自身の現預金もほとんどないため、遺産分割するとなると、家を売らなければなりません。長男は家を相続放棄することで、自分が持つ相続の権利を他の相続人に割り振ることができます。
ただし、複数人の相続人のうち1人だけが相続放棄をしても、残りの相続人全員の持ち分が増えるだけです。相続放棄した財産を誰に相続させるか、指定できるわけではありません。そのため、長男だけが相続放棄したとしても、母親だけに家を相続させるには不十分です。他の兄弟が相続放棄せずに取り分を求めてきたら、現金化が必要になり、結局家は売却することになります。
母親だけに家を相続させるには、長男は自分の兄弟姉妹など母親以外の他の相続人全員に相続放棄してもらう必要があります。
相続放棄で生じる2つのデメリット
相続放棄をすると、一切の相続財産を取得できなくなります。家や土地などの不動産、貴金属なども相続できないことは、大きなデメリットといえるでしょう。
相続放棄したら財産を受け取る権利は一切ナシに
相続放棄をして父親の相続人から外れた息子は、借金を背負うリスクがなくなる代わりに、父親の相続に関するあらゆる権利を失います。相続放棄をしたあとに、家族の知らない通帳やタンス預金、絵画・骨とう品など資産価値のある財産が出てこないとも限りません。
一度相続放棄をすると撤回はできませんので、慎重に判断すべきでしょう。
相続放棄しても、財産管理義務は残る
また、あまり知られていませんが相続放棄をしても、財産管理義務は残ります。他に相続人がいる場合や、管理が必要になる遺産がなければ問題ないのですが、相続人が全員相続放棄をしてしまい、空き家の管理が必要なケースなどでは大きな負担になることがあります。たとえば「田舎にある実家(不動産)を相続放棄するケース」などです。
相続放棄をしたのですから、登記などの手続きも必要ありませんし、固定資産税もかかりません。それでもこの家に関する財産管理義務は残ります。雑草が生い茂ってしまい、苦情がくるかもしれませんし、家屋が老朽化して倒壊してしまう危険が生じることもあるのです。
つまり、相続放棄をすれば一切の手間がなくなるとは限らない、ということです。相続財産の内容によっては、財産管理義務が大きなデメリットとなる場合があります。
財産の一部だけ受け取る方法も
また、借金はあるけれども、他の資産もあるので、プラスとマイナスの資産のどちらが多いかよくわからない、ということもあるでしょう。このような場合に考えられるのが、「限定承認」です。相続放棄のように初めからすべての財産を放棄するのではなく、「取得した相続財産の範囲内でのみ、借金の弁済をする」という条件で相続します。
例えば、マイナスの資産として500万円の借金があった場合に、プラスの資産の総額が不明瞭なために限定承認を選択した場合、プラスの資産が600万円あれば500万円の借金を弁済した残りの100万円を手にできるというイメージです。プラスの資産が400万円しかなかった場合は、500万円全額を返済する必要はなく、400万円の返済義務だけになりますから、借金が残る心配はありません。
ただし、実際に限定承認を選択するケースは多くありません。限定承認の手続きは相続人全員で行うものだからです。つまり、「普通に相続したい」と考える相続人が一人でもいれば、限定承認は選択できません。
判断の期限は3カ月。3カ月を越えると相続を承認したことに
相続放棄の期限は、故人の亡くなったことを知った日(相続発生日)から3カ月間です。 この期間は民法で熟慮期間と定められていて、
- 単純承認(相続をする)
- 相続放棄(一切相続をしない)
- 限定承認(プラスの財産の範囲で相続する)
の中から1つを選択することになっています。
単純承認には特に手続きは必要なく、3カ月をすぎると単純承認を選択したとみなされます。すると相続放棄はできなくなります。また、相続財産を一部でも受け取ると、相続をすることを選択した(単純承認)とみなされます。まだ熟慮期間内だからと故人の預金を生活費に使ってしまったり、遺産を売ってしまったり財産に手をつけてしまうと、相続放棄できなくなりますから、注意しましょう。
ご家族が亡くなられたあとの3カ月は長くありません。葬儀やその他の手続きに追われているとあっという間に過ぎてしまいますから、できる限り早く考え始めることをおすすめします。
相続の悩みは抱え込まずに弁護士に相談を
相続で借金が見つかったとしても、慌てる必要はありません。ご家族が亡くなってから3カ月の間に、プラス・マイナスの財産をすべて洗い出し、相続放棄が妥当かを判断すればよいのです。とはいえ、大切なご家族が亡くなり、葬儀や遺品の整理をしなければならない中で相続放棄の手続きをするとなると、3カ月はあっという間。
しかも一度相続放棄の手続きをすると、後戻りはできません。相続人には、短い時間で、慎重な判断が求められます。「相続で借金を抱えるのが怖い」「相続放棄をして本当に損をしないのか」など、相続に直面し、どう対処してよいのか不安な方は、抱え込まずに弁護士に相談することをおすすめします。
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