毎年、1月の成人の日になると、インタビューで新成人が「20歳になったので大人としての自覚と責任を持ちたい」と回答している姿をよく見かけます。これは私たちの日常に密接に関わる法律「民法」で成年年齢が20歳と定められており、「20歳になったら大人の仲間入り」という社会通念があるからでしょう。ですが、その年齢がこれからは「18歳」に変わることをご存知でしょうか?
実は、2022年4月1日より「民法」で定められている成年年齢がこれまでの20歳から18歳に引き下げられます。成年の定義が変更されるのは実に140年ぶりで、来年18〜19歳になる人はもちろん、お子さんのご両親や祖父母も未体験のこと。そのため、成年年齢の引き下げで何が変わるのか、生活にどんな影響がもたらされるのか、不安に感じている人も少なくないと思います。
ここでは、その影響を具体的に説明しながら、「大人」になるからこそ心掛けておきたいことや注意すべきことを紹介していきましょう。
未成年の場合、スマートフォンを契約するにも保護者の同意が必要になります。新規契約や機種変のために、保護者と一緒に携帯ショップに出向いたことのある人は多いのではないでしょうか。しかし成年年齢の引き下げによって、2022年4月1日からは18歳以上であれば保護者の同意を得なくても、自己責任でスマートフォンの契約ができるようになります。ほかにも1人暮らしのためにアパートやマンションを借りたり、クレジットカードを作成したりといったことが、18歳から可能になるのです。
一方で飲酒や喫煙、競馬・競輪などの公営競技のように、健康被害や依存症への懸念が大きい事柄に関してはこれまで通り20歳からとなっています。
ここでは、成年年齢の引き下げによって18歳、19歳を迎える子たちが具体的にどんなことができるようになるのかをまとめて紹介しましょう。
・保護者の同意なしでのローンの契約(返済能力によっては契約できない場合があります)
・1人暮らしのためのアパートやマンションなどの賃貸借契約
・自分の意志での進学や就職などの進路決定
・10年有効のパスポート取得
・公認会計士や司法書士などの国家資格の取得
未成年であれば、保護者の同意を得ずに契約した場合は民法の規定により原則として契約を取り消すことが可能です。しかし、成年ではそうした法律上の保護がなくなり、自分で交わした契約に対する責任が生じます。
安易な契約は、悪徳商法や詐欺などの消費者トラブルに巻き込まれてしまう可能性を招くもの。成年になりたてで社会経験の浅い18歳、19歳の人は、とくに注意が必要になります。ここでは実際にどんなトラブルがあるのか、具体的な例を挙げて紹介していきましょう。
10代・20代によくあるのが、タレントやモデルなどの華やかな職業に関するトラブルです。たとえば、ネットで見つけた芸能事務所のオーディションを受けて合格し、契約したところ、「芸能スクールに通うために必要だ」と言われて、高額な入学金や月謝を払ったにもかかわらず、ほとんど仕事はまわってこなかった、というケースがあります。
また、モデル募集の広告を見て面接に行ったところ、アダルトビデオへの出演を強要されるというケースも。華やかな職業への憧れに付け込んで言葉巧みに近づいてくる業者がいるため、被害に遭わないためには十分な注意が必要となります。
コロナ禍で合コンなどに参加する機会が減ったことで増えつつあるのが、出会い系サイトやマッチングアプリを利用した詐欺です。たとえば、マッチングアプリで知り合った異性から仮想通貨の売買を勧められて海外の取引サイトで口座を開設したところ、高額な手数料のみ騙し取られたという事例があります。
また、出会い系サイトで知り合った人物から投資に誘われて、何度か少額投資したあとに多額の入金を勧められ、入金したとたん相手が音信不通になってしまったというケースも。オンラインのやり取りは手軽な反面、本人確認や実在するかどうかの確認が難しいため、詐欺に利用されやすいという特徴があります。
ネット通販などで「ギャンブルで儲ける方法を教えます!」や「自宅で1日数分作業するだけで月数百万円稼げます!」のように、サイドビジネスや投資で高額収入を得るためのノウハウが販売されていることがありますが、こうした情報のことを情報商材と言います。しかし、実際に購入してみると説明と内容が異なるうえに、まったく儲からないということが往々にしてあります。
また、情報商材の購入をきっかけとして、より高額なソフトウエアやビジネスセミナーなどの契約を勧められることも。こうした商材は事前に内容を確かめることができず、無価値なものを高額で売りつける詐欺などに利用されることが多いので注意が必要です。
自分で住むのではなく、他人に貸し出して家賃収入などを得るためのマンションを投資用マンションと言いますが、その勧誘による被害も年々増えています。なかには電話や街頭アンケートなどで勧誘されて契約したところ、事前の説明と違って赤字で利益が出なかったり、高額なローンを組まされて返済ができなくなったりというケースも。高圧的な態度でしつこく勧誘する業者もあり、断りきれずに契約してしまう人も少なくないようです。
電話勧誘販売や訪問販売(キャッチセールス等を含む)等の場合は、一定期間内であれば違約金などなしに解約できるクーリングオフという制度が適用できますが、投資用マンションは高額なため業者側としては簡単に解約に応じてくれず、あの手この手で思い止まらせようとする場合があり、深刻なトラブルに発展することもあるので十分に注意が必要です。
二重まぶた手術やレーザー脱毛、包茎手術、豊胸、植毛など、容姿に関する医療施術のことを美容医療と言います。最近では雑誌で特集が組まれるほど一般に浸透し、ネガティブな印象は薄れつつありますが、それにともなって美容医療サービスをめぐるトラブルも急増しています。
たとえば、手術を受けて二重まぶたにしたけれど仕上がりに納得がいかなかったり、効果があると言われて植毛手術を受けたのにほとんど毛が生えてこなかったり。術後に火傷や腫れなどの症状が出たりすることもあります。また、広告を見て想像していたよりも代金が高過ぎるなど、販売方法や金額に関するトラブルも。そのため、施術の必要性があるかどうかの検討はもちろんですが、事前の情報収集や医師からの説明をしっかり受けることも大切になってきます。
健康食品や化粧品など、一定期間以上の定期購入が前提となっている商品の場合、初回購入を通常価格より大幅に割り引いて販売していることがあります。こうした商品を「お試し」や「1回だけ」のつもりで購入したところ、自動的に定期購入になってしまい解約できずトラブルになることがあります。
業者によってはWebページなどに契約内容をわかりづらく記載していることもあり、金額を請求されてから初めて被害に気づくことも。そのため事前に契約内容や解約・返品ができるかどうかをしっかり確認しておくことが重要です。
ここまで見てきたように、成年になると自分の意思でできることが増える一方で、消費者トラブルに巻き込まれるリスクも高くなってきます。こうした被害に遭わないためには、どういった知識をつけ、また成年になる子どもがいる親はどんなことに注意すればいいのでしょうか。
まず、知っておくべきことが「契約」についてです。契約とは、「申込」と「承諾」という形で、自分と相手が合意したときに成立します。つまり私たちが「買いたい」と申し込み、相手が「かしこまりました」と承諾した時点で成立してしまうのです。その際、契約書は必ずしも必要とならず、たとえ口約束した場合でも原則として契約は成立します。いったん契約してしまうと簡単に取り消すことはできず、解約の際の違約金やキャンセル料なども基本的には契約当事者の合意がそのまま法的な拘束力を持つものとなるので、初めてやり取りする人はもちろん、面識のある相手でも軽い気持ちで契約せず、事前にその内容や条件などをしっかり確認するようにしましょう。
十分納得したうえで契約する場合も、解約条件やリスクなどは事前にしっかり検討しておくことが大切です。また契約の際に、証拠となる記録を必ず残すようにすることも重要。怪しい話やクレジットカードでの高額決済がともなう契約、借金してまでの契約はキッパリ断るようにしましょう。契約を急かされても、不安や迷いがある場合は絶対契約しないこと。とくに儲け話や美容に関わる話は注意が必要です。慎重に行動しても慎重過ぎるということはありません。
契約や買い物で「困ったな」と思ったときや、トラブルに巻き込まれてしまった場合は、ひとりで悩まず「消費者ホットライン(全国共通の電話番号:188)」に電話しましょう。地方公共団体が設置している身近な消費生活センターや消費生活相談窓口に繋がるので、具体的な内容を相談してみてください。
なお、消費者庁では『「18歳から大人」特設ページ』を設けて、契約やお金、暮らしの安全などについて学べる冊子「社会への扉」の配布をはじめ、さまざまな形で関連情報を公開しています。新しく成年になる方、そのご保護者の方は、ぜひチェックしてみてください。
成年年齢引き下げについて、当事者である子どもたちはもちろんですが、保護者の方も正しい知識を持ちトラブルに巻き込まれないよう気をつけていくことが大切です。「契約」について無闇に恐れる必要はありませんが、そのリスクや対処法をきちんと身につけて「大人」への1歩を踏み出していきましょう。
[PR]提供:消費者庁・一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会