春になり、10代や20代をはじめ、入学や就職をきっかけに上京してくる人も多いなか、気をつけたいのがうぶな若者を狙う悪質なスカウト被害。「タレントやモデルに挑戦したい!」「自分にもチャンスが!?」と夢見る人も多いではないでしょうか。
そんな気持ちにつけ入られないためにも、実際に相談のあったトラブル事例を知って、スカウトトラブルに注意できる知識を身につけておきましょう。
消費者庁や独立行政法人国民生活センターでは、タレント・モデル契約のトラブルについて注意喚起をしています。
芸能事務所の関係者と称してスカウトを行い、数十万もするレッスン料金を支払わせておいてある日突然連絡がつかなくなったり、なかにはアダルトビデオへの出演を強要したりする……「スカウトトラブル」とも呼ばれるもののなかには、こういった深刻なケースもあります。
スカウトというと繁華街などで目についた通行人に声を掛け、眠った才能を発掘する印象がありますが、最近はスマートフォン等からアクセスするオーディションサイトを作り、SNS等にタレント事務所の募集広告を出すなどして、被害者が自分から連絡を取るよう仕向けるケースも増えています。
特にタレントやモデルに憧れを抱いていたり、地方から出てきたばかりの若者は、悪質な業者からすると、「業界や都会はこういうものだ」とすりこみやすく、ターゲットになってしまうので注意が必要です。
なお、スカウトが実在しない芸能事務所を騙っているケースは言語道断ですが、実際存在する芸能事務所のスカウトの場合でも、トラブルに発展することもあります。夢や希望に舞い上がる気持ちもわかりますが、「うまい話には裏がある」と思って契約条件などを冷静に確認するように気をつけてください。
スカウトをきっかけにした金銭トラブルにあった方からの生々しい相談事例が、国民生活センターの報告書に掲載されています。
被害者は平成28年9月、路上でスカウトマンに「芸能界に興味はないか」と呼び止められ、連絡先を教えました。その夜に相手方から電話があり、事務所での面接に呼び出されます。
面接はすんなり進み、1年間のタレント契約を結ぶことになりました。その際、撮影料の名目で4万円を支払いましたが、この時点では、1度撮影料を払えば何度も撮影でき、売り込み用に毎月必ず撮影するという話でした。
数日後、事務所に呼び出され、仕事がある前提で有名な先生による演技指導のワークショップを受けるよう勧誘されました。費用は半年の期間で32万円。その場での決断を回避しようとしますが、「費用はすぐに回収できる」「人数制限があって今しか入れない。」「ワークショップ期間も最低でもエキストラの仕事があるが、大きい役はワークショップを受けないともらえない」「判だけは押してください」と畳み掛けられて、契約に応じてしまいました。
結局、数日後に解約を求めて連絡するも不可とされ、仕方なくワークショップを半年受講しますが、最後まで仕事の話が出ることはなく、毎月撮影するはずのプロフィール写真も最初の1回のみで終わり。被害者は地元の消費者生活センターに相談して、代金回収の交渉を試みることになりました。
ここで注意したいのは、被害者に考えさせる時間を与えず、その場での契約を強く求めるという事業者の手口。事業者の勢いに押されてその場ですぐ契約せず、活動内容や費用をよく確認してください。冷静に考えれば、契約のサインが1日や2日遅れただけで機会が失われるのは不自然だと気が付くはずです。
性的被害のスカウトトラブルは、内閣府男女共同参画局のWebサイトに様々な事例が報告されています。
たとえば、先述の金銭被害の時と同じように、街でモデルやアイドルにならないかと誘われて、個人情報を聞き出されるケースが。ただ、その後紹介された事務所がアダルトビデオに出演する女優を派遣しているプロダクションだったと判明するというものです。
個人情報は簡単に教えてはなりません。どうしても気になるなら、相手の名刺だけ受け取り、よく調べて周囲にも相談してから判断しましょう。
「絶対バレない」「顔は映さない」「目線を入れる」といわれて出演したけれど、いざ販売されると顔がはっきり映っていて友達や知人に知られてしまったというケースも報告されています。出演すること自体は個人の自由ですが、「周りの人はみんな気がつかない」という言葉には何の保証もありません。むしろ誰かに気づかれると、身内のなかでのゴシップとして広まってしまい、引き返せなくなると考えたほうが良いです。
続いてインターネットで検索していて「高収入」「チャットで話すだけ」「パーツモデル」などの言葉が並んだ募集広告から応募したら、アダルトビデオの撮影だったというケース。チャットで会話するだけで高収入などまず考えられません。こういったフレーズの広告に引っかからないよう注意しましょう。
また、「契約書や同意書などの書類にサインするよう強く求められた」「よくわからずサインした」という報告も少なくありません。「単なる登録だから」といわれ、会員になるだけだろうといった軽い認識で書類をよく読まずにサインしたところ、あとになって実はアダルトビデオへの出演契約書だったというケースも。
契約書の言葉が難しいと感じたら「持ち帰ってよく考えてからサインする」と伝えましょう。契約時に聞いていない性的な行為をするよう求められ、拒否しても契約を盾に出演するか、多額の違約金を支払うよう脅される場合もあります。このような時はすぐ周囲の方や公的機関に相談してください。
さらに、街で「テレビ番組の撮影に協力してほしい」と声を掛けられ、近くの車へ誘導されて書類にサインしたら、性的な行為の写真や動画の撮影を強要されたという事例もあります。被害者が断りづらくなるよう、先に食事を奢ったり、悩みの相談を聞いたりして親切を装う手口もあるので気をつけましょう。
内閣府による興味深い調査をご紹介します。
平成29年に中学生を除く15歳から39歳までの2万人の女性を対象に実施された「若年層を対象とした性暴力被害等の実態把握のためのインターネット調査」(※)によると、「モデルやアイドルなどの勧誘経験」が「ある」と回答した人は24.2%でした。このうち「モデル・アイドル等の勧誘等を受けた後に契約をした経験」が「ある」と回答した人は7.7%となっています。
「契約時に聞いていない・同意していない性的な行為の要求」が「ある」という回答は26.9%。「契約時に聞いていない・同意していない性的な行為等の要求」に対して「求められた行為を行った」という回答は32.1%でした。
調子の良い勧誘のセリフは、決してあなただけのために口から出てきた言葉ではありません。甘い言葉に釣られないようにしましょう。
※アンケート名:「若年層を対象とした性暴力被害等の実態把握のためのインターネット調査」
対象者:15歳(中学生を除く。)から39歳までの女性
調査地域:全国
調査方法:インターネット調査
スカウトトラブルの事例を見てわかることは、大切なのはスカウトマンに声掛けされた直後の対応です。繰り返しになりますが、個人情報を安易に伝えてはなりません。不審と感じたら返事をせずに通り過ぎてください。
つい反応してしまったとしても、きっぱり断って軽々しく相手についていかないこと。「気が弱い」「押せば落ちる」と見られれば、しつこく声を掛けてきます。断ったからといって負い目に感じる必要はありませんし、振り切ってしまえば2度と会わない相手に嫌われることを恐れてはいけません。
それでも、思わぬ手口でスカウトトラブルに巻き込まれてしまった場合は、「自分1人で解決しなければ」と決して考えないこと。問題が大きくなれば、ますます周囲に相談しづらくなるでしょう。騙されたと気が付いたら、すみやかに公的機関の運営する相談窓口に連絡してください。
契約・金銭トラブルは最寄りの自治体の消費生活センター等を案内する「消費者ホットライン」の「188」に電話して相談しましょう。アダルトビデオなどへの出演強要についてのトラブルは、警察専用電話「#9110」、もしくは法務省の用意する「女性の人権ホットライン」の「0570-070-810」に助けを求めてください。
冒頭述べたとおり、春先はスカウトトラブルに一層注意が必要なシーズンです。気分が前向きになり、新しいことにチャレンジするには良い時期だからこそ、落とし穴には気をつけましょう。街中での声掛けだけでなく、ネットを利用して被害者から連絡するよう仕向けるケースが増えている点も注意が必要です。
あの手この手で勧誘してくる言葉をさえぎって逃げるのは、「怖い」と感じるかもしれません。しかし、悪徳業者も彼らなりに事業の継続性を考えているので、いきなり乱暴して言うことを聞かせるよりは、さっさと切り替えて違う相手を探すほうが効率的と考えます。
だからこそ、早ければ早いほど断りやすいし、最初に断る小さな勇気こそが、あとに続く大きなトラブルを回避するもっとも有効な手立てになるのです。
そして、もしトラブルに巻き込まれても、助けてくれる人は必ずいます。1人で悩まず、周囲に助けを求める勇気を忘れないでください。
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