生活習慣病を予防する上でも、理想の体重や体型をキープする上でも、運動が大切なのはなんとなく分かる……とはいえ、なぜ運動が大切なのでしょうか?
今回は「健康の基本は、ちょっと大変と感じる運動を生活に取り入れること」と語る、名古屋市立大学大学院 理学研究科の髙石鉄雄教授に聞いてみました。
髙石鉄雄教授
運動習慣を身につけるのが大切な理由は?
ライターのスズキナオです。 本日はよろしくお願いします。 |
こちらこそよろしくお願いします。 |
私は現在40代で、普段は運動もあまりできておらず……このままではいけないのかなと思っています。 やはり、年齢的にも気をつけるべきでしょうか? |
そうですね。 健康づくりの基本は、運動を通じて「このカラダはまだまだ使うから頑張れ」と自分自身に教えてあげることです。 せっかくなので年代別にお話ししましょう。 |
ありがとうございます。 |
大学で学生のみなさんによく言うんですけど、20~30代前半は過度に健康を意識しなくても大丈夫です。 特に20歳前後は活動的なので、基本的にBMI※も適正で、動脈硬化の心配もまずないという方が多いですから。 ※BMI:肥満度を表す体格指数 |
たしかに若いころは、健康のための運動なんて意識していませんでした。 |
それが30代半ばになりますと、一般的には運動をする機会も減り、暴飲暴食をされていた場合には、そのツケが大きく出はじめます。 肥満や糖尿病に悩む方も出てきますし、そこに仕事や人間関係などのストレスがかかり、心筋梗塞や脳梗塞になるリスクも高まってくるんです。 |
たしかに大人になるにつれて、運動をする機会が減っている気がします……。 |
そのまま40~50代になるとメタボ※の影響も出てきますからね。 また、女性ですとホルモンバランスの変化によって更年期症状が出たり、骨密度の低下がはじまったりというケースもあります。 これらに備える意味でも、生活に運動を取り入れて、肥満の進行を抑えておきたいところです。 ※メタボ:メタボリックシンドローム(内臓脂肪型の肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり、心臓病や脳卒中などを引き起こしやすい状態) |
なるほど……。 |
さらに60~70代になれば動脈硬化も進んできますので、心疾患や脳血管疾患のリスクがより高くなります。 運動をしないと筋肉が減り、体内に「糖」を取り込むスペースがなくなるので糖尿病のリスクも増大します。 歳をとると、暴飲暴食をしたつもりがなくても血糖値が上がりやすくなってしまうというのも覚えておきましょう。 |
生活に運動を取り入れ、肥満の進行と筋肉の減少を抑えるのが大切なんですね。 |
そう考えると、20~30代の元気なうちから運動習慣が身についていると、後々にもいい影響がありそうですね。 |
そうですね。ただ、学生時代に部活をやっていたような方でも、就職して会社に務めるようになると、運動する仲間がいなくなるケースが多いんです。 仲間がいなくなり、運動をしなくなったものの、食べる習慣だけが残ってしまう。 だから学生時代に運動していた人の方が、メタボ率が高いなんて場合もあります。 |
では、やはり進学するとか就職するとか、そういう生活の変わり目で、新しい生活にあわせた運動習慣を身につけるのが大切なのかもしれませんね。 |
その通りです。歳を重ねても「元気に働きたい」「食べたいものを食べたい」という方は、特に運動習慣を身につけるべきかと。 ただし、運動といっても様々で、体にとって「楽」な運動を続けていてもあまり意味がないんですね。 運動負荷、つまり心拍数が上がるような運動を意識する必要があります。 |
運動負荷ですか? |
「ちょっと大変」と感じるような運動負荷を意識する
たとえばウォーキングは、エネルギーを消費しますし、ストレス発散という効果もありますが、運動負荷は低いんですね。 負荷が低い運動では、メタボや動脈硬化の予防につながるような身体の反応を引き起こせないんです。 |
健康を維持するための運動という観点だと、心拍数が上がるくらいの負荷が必要なんですね。 |
はい。特に平坦な道では相当な距離を歩かないと、効果が少ないです。 そこで、たとえばウォーキングの代わりに自転車に乗って、しっかりとペダルを踏み下ろし、時速15~16kmを出して走ると心拍数もかなり上がります。 |
楽なウォーキングをするのであれば、自転車の方が負荷は高いんですね。 |
そうですね。それに加えて自転車に乗っていると、スピード感や風を切る心地よさを感じるため、精神的な負荷を感じにくいメリットもあります。 |
たしかに、自転車でスピードが出てくると気持ちいいですもんね。 |
ただ、自転車も楽に乗っているだけでは、運動負荷があまりありません。 平坦な道をのんびり走っているだけでは不十分なんです。 |
やっぱり「ちょっと大変だな」というぐらいの運動負荷が大事なんですね。 |
はい。自転車でいえば、先ほどお話した、絶えずペダルを踏み下ろすような乗り方が効果的ですね。 また、自転車はウォーキングの3分の1程のエネルギーで同じ距離を移動できますから、ウォーキングと「同じ距離」ではなく「同じ時間」動くというのを意識しましょう。 |
運動負荷を作り出すために効果的な自転車の乗り方
生活に自転車運動を取り入れる場合、おすすめの乗り方はありますか? |
やはり、あえて運動負荷を作りながら乗ることですね。 毎回しっかり漕ぎ出し、しっかり加速するとよいでしょう。 |
乗り方にメリハリをつけるようなイメージでしょうか? |
はい。たとえば「信号に引っ掛かりたくないから」と、速度を調整して停止を避けることがありますよね? そうではなく、信号まで走り切り、停止するたびにしっかり漕ぎ出し、しっかり加速する。その繰り返しが大切ですね。 人間はロスを嫌いますが、むしろ積極的にロスを作るわけです。 |
楽してしまいたいところをむしろ逆にするという。 |
意識しないと、なかなかそういう乗り方はできませんけどね(笑) 変速機を使って、普通は漕ぎ出す時に軽いギアにするところを少し重めのギアで漕いでみたり、平坦な道で軽いギアにして脚の回転数を増やしたり……といった工夫もできますね。 ただ、あくまで無理のない程度で、膝などを痛めないよう心がけましょう。 |
変速機の使い方を工夫するのも、運動負荷を高める方法の1つ。
健康を意識して運動をする上では、どの程度の頻度を心がけるといいでしょうか? |
健康づくりの基本は、できれば毎日、少なくとも1日おきぐらいの運動です。そして1日最低でも30分は運動すること。 ただ、その効果は運動負荷によります。 ウォーキングでも自転車でも、楽な状態で1時間するのと、坂道を30分かけて上るのでは、運動負荷がかかる坂道の方が効果的なわけですね。 とにかく心拍数が上がるような負荷を意識するのが大切です。 |
それぐらいの負荷をかけようと思った場合、自転車でいうとどれぐらいの距離を走ることになりますか? |
心拍数が上がるような負荷で言うと、少なくとも片道6kmは欲しいですね。 通勤などでそれだけの距離を行って帰ってくれば、ある程度の負荷になります。 自転車で通勤すれば、お酒を飲んで帰れませんから、そういう意味でも健康的かもしれませんね。 |
たしかに……(笑) 最近だと電動アシスト機能付きの自転車も増えていますが、こういった自転車で上手に運動負荷をかけるにはどうしたらいいでしょうか? |
運動負荷をかけたいときは、アシストを切ったり、アシストのレベルを1つ下げたりと、目的に応じて使い分けるといいですね。 電動アシスト自転車は重量があるので、アップダウンのある道を走ると、よりよい運動になるでしょう。 |
やはり心拍数が上がるような運動負荷を作り出すのが重要なんですね……。 ちなみに自転車を選ぶ上で、意識すべきポイントはありますか? |
サドルを高くできる自転車で、ギアの段数が多いものを選ぶといいでしょう。 車種で言えばスポーツバイク、中でもクロスバイクがおすすめですね。 |
その理由はなんでしょう? |
まず、日本では子どもの頃から、サドルは座った状態で足がつく高さが正しいとされてしまっているんですが、サドルは高くして、止まった時はお尻をサドルから外して立つというのが正しい乗り方なんです。 |
え?そうなんですか? |
はい。サドルを高くすると踏み込む際に膝の曲がり方が浅くなり、少ない負担でスピードを出しやすくなるんです。 たくさん漕いでスピードが上がるにつれて、走行中の空気抵抗も増すので、運動負荷も高まるといった具合です。 |
適切なサドルポジションを取るだけで運動量も変わってくるんですね。 |
そうなんです。変速機については、上手く使えば運動負荷を作れるというお話をしましたが、クロスバイクはシティサイクル(一般的な自転車)よりギアの段数が多いので負荷の調整もしやすいです。 また、同じスポーツバイクのロードバイクほど前傾姿勢にならないので初心者でも乗りやすく、運動負荷という面では空気抵抗が多くなるというメリットがあります。 |
生活に自転車運動を取り入れる場合は、正しい乗り方で、運動負荷を意識するのが大切なんですね。 |
おっしゃる通りです。また、継続するという意味では、名前を付けたくなるような自転車を購入するとよいでしょう。 |
自転車に愛着が湧けば、乗る機会も増えますもんね。 今日は「健康の基本は、ちょっと大変と感じる運動を生活に取り入れること」というのがよく分かりました。 |
冒頭でお話した通り、健康づくりの基本は運動を通じて「このカラダはまだまだ使うから頑張れ」と自身のカラダに教えてあげることです。 自転車に限らず、自分に合った方法で運動を取り入れてください。 |
はい!本日はありがとうございました! |
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今回は「運動をおすすめする理由」と「自転車を使った効果的な運動方法」についてお送りしました。これを機に、あなたも生活に運動を取り入れてみてはいかがでしょうか?
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