綺麗にしているつもりなのにトイレがにおう
洗濯物を部屋干しすると嫌なニオイが残る
キッチンから生ごみ臭がする
何かと多いニオイの悩み。
最近ではニオイだけでなく、菌やウイルスにも注意を払っている人が多いでしょう。
より職場や生活空間において”清潔さ”が重視される中、「光が当たることで消臭・抗菌・抗ウイルス効果を発揮する」という「光触媒スプレー」が注目を集めています。
開発したのは、独自の空気浄化技術「プラズマクラスター」を生み出したことで有名なシャープ。
同社が「光触媒」に目を付けた理由とは?
今回は、その着想のきっかけと開発秘話を紐解いていきます。
屋内照明でも効果が!シャープの光触媒がすごい
取材を受けてくださったのは、スマートビジネスソリューション事業本部に所属する岡崎真也さんと堤之朋也さん。
岡崎さんは「国内で販売するテレビを2005年までに液晶に置き換える」という当時の社長宣言に感銘を受け2000年に入社。長らく液晶・太陽電池などのデバイス生産技術を手がけてきました。
2013年からは光触媒の開発に着手し、基礎研究から量産化、商品化に至るまで幅広く担当されています。
一方の堤之さんは2010年入社。複合機のトナーを開発する部門に配属され、2017年に現在の部署に異動となりました。
トナー開発で培った粉体技術の知見を活かし、光触媒の量産化・商品化を推し進めています。
そんなお二人が中心となって世に出した光触媒とは、ニオイ成分や有害物質などを分解する粉状の物質です。
光触媒は光を吸収すると、空気中の水や酸素と反応し、活性酸素を生成。活性酸素の強力な酸化力によって、接触したニオイ成分や有害物質を酸化分解します。
実はこの光触媒自体は50年ほど前に発見されたもので、真新しいものではありません。しかし主に屋根や外壁といった、太陽光が当たる屋外でしか使えないという問題があり、活用シーンが非常に限られていました。
近年になって屋内でも効果を発揮する光触媒が登場するようになったのですが、シャープの光触媒がすごいのはその中でもトップレベルの可視光応答性を誇っていることです。
屋外の紫外線だけでなく波長約480nmまでの可視光にも反応する光触媒を開発し、太陽光が届かない屋内や夜間での使用を実現しました。 |
これにより、光触媒の利用シーンは爆発的に増加。洗ったり拭き取ったりしない限り消費されない光触媒は、一度の使用で効果が長期間持続するといいます。
例えば、あらかじめ衣服に吹きかけておけば、居酒屋や焼き肉店に行っても付いたニオイを部屋の光で低減できます。 そのほかタバコやペット、トイレなどの気になる生活臭の低減や、付着する雑菌やウイルス作用の抑制にも効果を発揮(※1)しますよ。 |
※1 すべてのニオイ・菌・ウイルスに効果があるわけではありません。
新規事業を模索する中で誕生!「光触媒スプレー」開発秘話
なぜ家電メーカーのシャープが、光触媒に力を入れ始めたのでしょうか。 きっかけは2013年にさかのぼります。
新規事業を模索する中で当時社内で掲げられていた「食/水/空気の安全安心」というキーワードに注目しました。 「新しい技術を開発し、人々の健康的な暮らしに貢献したい」。 |
早々に光触媒の基礎研究をスタートしたそうですが、屋内での利用実現を目指すとなるとそこはまさに未知の領域――。
ゼロからのスタートでした。
どういった素材を採用すれば屋内照明などの可視光に反応する光触媒を作れるのか……。 実験を繰り返したり、文献を読み漁ったりして、手探りで試行錯誤を続けました。 |
苦労の末、約2年をかけてようやく満足できる性能に近づきますが、1日に作れる光触媒の量に問題がありました。その量、僅か1g。これではサンプリングすらできないと量産化に向けて動き出します。
工場の一角にパイロット設備を導入し、1日数kgの生産を目標に掲げましたが、トラブルの連続で……。 性能にバラツキがあったり、装置が止まったりして「今日は大丈夫かな」と毎日不安でしたね。ただ品質で妥協したくなかったので、当初の目標を達成できるまで何度も改善を重ねました。 ここで得られた知見が、生産ノウハウとして蓄積され、現在の安定稼働に繋がっています。 |
ひとつひとつのトラブルを次々に解消できたのは、長年にわたる複合機のトナー開発を通して培ってきた粉体技術があってこそ。
同じ粉状の光触媒の量産化を実現するうえで、その技術が大いに役立ったと岡崎さんと堤之さんは口を揃えます。
けれど、安堵したのも束の間、消費者に届けるにはクリアしなければならない壁がもうひとつありました。
光触媒の粉そのものだと使い勝手が悪かったんです。そこでスプレーにすることを考えたのですが、これがまた難しくて……。 というのも、光触媒と水を混ぜ合わせて適当なスプレーにしてみたところ、全くうまく噴射されなかったのです。 |
ピンポイントで凄まじい噴射力を発揮する殺虫剤の素晴らしさを痛感した瞬間でしたね(笑)。 調合の割合も影響しますが、スプレーのボタン部分はさまざまなパーツが組み合わさり、緻密に設計されているんだと勉強になりました。 |
あらゆるパーツを取り寄せ、さまざまな調合液を作製し、光触媒の噴射に適したスプレーを作るため、再びトライ&エラーの日々。「実験室にはスプレー缶の山が出来ました」と堤之さんは笑いますが、まさに執念の賜物といえるでしょう。
数々のハードルを乗り越え、光触媒スプレーは誕生したのです。
オフィスやホテル、レンタル会議室まで。活用の場が広がる光触媒技術
2020年7月に光触媒スプレーをリリースすると、その2か月後の9月には「光触媒オフィス抗菌サービス」の提供を開始。
光触媒の活用の場がどんどん広がっています。
光触媒オフィス抗菌サービスでは、吹き付け用工具を使って壁や床、机、椅子などにムラなく液剤を噴霧し、コーティングを行ないます。 現在はオフィスをはじめホテルやレンタル会議室に導入されていますが、学校や医療機関、公共機関など今後はさらに利用シーンを増やしていきたいですね。 |
光触媒を目にしたクライアントは「どうしてシャープが材料を?」と一様に驚きの声を上げるのだとか。しかし、こうも言われるそうです。
「シャープが作ったのだから大丈夫だろう」
光触媒は後発ですが、それでも受け入れてもらいやすいのはシャープが築いてきた信頼の証です。 とはいえ、光触媒の効果は目には見えないもの。第三者機関に検証を依頼し、引き続き数値の見える化をしていかねばなりません。 具体的にどういったメリットをもたらすのか、それを掘り下げて提示できるかどうかが課題だと認識しています。 |
光触媒を入れた匂い袋が無臭に――。
実験当初に受けた衝撃が今も忘れられないと岡崎さん。
たくさんの人々に光触媒を体感してほしいとの思いは日に日に強くなっているそうです。
光触媒を次の常識に!いつの時代も変わらないシャープの技術力と情熱
液晶テレビやカメラ付き携帯電話など、今の常識を先駆けて創造してきたシャープ。そんな姿に憧れて入社した堤之さんは、今度は自分たちの番とばかりに言葉に力を込めました。
シャープの良いところは、チャレンジを否定しないこと。笑いが起きそうなアイデアも、とりあえずやってみる環境が根付いています。 例えば、光触媒スプレーの開発に苦しんでいる最中も、必死になって絞り出した突拍子もないアイデアが突破口を開いてくれました。 スマホにカメラが付いているように、人と人との接触がある場所には光触媒が噴霧されている状態を当たり前にしたい。そして、自社製品にも光触媒を搭載していきたいですね。 |
シャープに脈々と受け継がれるチャレンジ精神については、岡崎さんも身に染みて感じているそう。
ずっと研究開発に携わっていますが、光触媒に関しては商品化に至るプロセスや営業活動まで幅広く経験させてもらっていて、自分のキャリアにすごくプラスになっています。 |
除菌や抗ウイルスに対する意識が高まりを見せる今、シャープの光触媒が果たすべき役割は決して小さくありません。
いつの時代も変わらない高い技術力と熱い情熱。この両輪で、これからも世の中に新しい常識を創っていくのでしょう。
Photo:photographer_eringi
[PR]提供:SHARP