2回目の緊急事態宣言が出され、働き方も「テレワーク」前提にますますシフトしつつあります。このWithコロナの時代をふまえ、わたしたちは政府が掲げる「出勤者数の7割削減」という目標をどのように捉えるべきでしょうか。
本稿では「テレワークにおける生産性向上」をテーマに、総務省で働き方の見直しを進めてきた山内亮輔氏と、NVIDIAで「NVIDIA vGPU」(仮想化GPUソリューション)を担当している後藤祐一郎氏による対談の模様をレポートします。
――お2人の担当業務について教えてください。
山内:総務省に採用されて以来、人事制度や内閣の重要政策の調整、役所における仕事の仕方の見直しなどを担当してきました。いまは地方分権改革ということで、地方のご意見を伺いながら国の制度の見直し等に携わっています。総務省では、省内の働き方の見直しを、大臣以下、政務の方々のご理解とご協力も得ながら、若手職員が中心のチームで2回ほど行いました。
後藤:前職ではシステムインテグレーターでクラウド、仮想化やVDI、ITインフラ提案や設計、構築や運用保守などの仕事をしておりました。 2017年2月にNVIDIAに入社し、GPUを仮想的に分割して使うソリューション「NVIDIA vGPU」を日本市場に広げるビジネス開発を担当しています。
――NVIDIAの企業としての強みを教えてください。
後藤:NVIDIAはグラフィックスチップを提供する会社としてスタートしました。代表的な3Dポリゴンを動かすゲーム機に採用され話題となりました。 その後GPUを発明し、コンシューマー向けのゲーミング、CMや映画などの映像制作、自動車などの設計デザインのようなプロフェッショナルグラフィックス、地震や天気の予測、創薬の研究、ゲノム解析など、さまざまな用途で使われるデータセンターでの利用、AIを活用するロボットや自動運転、医療機器やセキュリティカメラなど、産業系の組み込み機器にもGPUが利用されています。GPUというハードウェアとそれに関するソフトウェア、さらに2020年はMellanoxを統合してネットワークにも事業の領域を広げています。
「出勤者の7割削減」は達成できているのか
――2020年4月7日の緊急事態宣言では出勤者の7割削減を目指すという要請がなされましたが、この目標をどのように捉えるべきでしょうか。
山内:2回にわたる緊急事態宣言の両方で「7割」という数字が出ていました。実際に出勤者を何割削減できたかの公式調査はなかったと理解していますが、報道によると、一番取り組んでいる東京都でも40数%くらいしか抑制できていないということだったかと思います。個人的な解釈になりますが、そもそも仕事の内容や組織によってできる割合が違うので、現状は可能な範囲で皆さまに取り組んでいただいているということかと思います。
――緊急事態宣言後、お2人の働き方はどのように変わったのですか?
後藤:NVIDIAは米国に本社があるため、2020年は緊急事態宣言が出る1カ月くらい前から国内におけるテレワークを本格化しています。出社やお客様への訪問する場合、事前に申請が必要になっている状況です。対面での打合せを希望される場合もございますが、テレワークの推進が進む昨今では、対面は控えてほしいと話される企業様、団体様が増えてきている状況を感じております。
山内:私の所属部署では出勤者の7割削減をおおむね達成できるようにシフトをつくっています。タイミングによっては7割削減を厳守することが難しいケースもありますし、業務内容等の違いから省庁によっても異なると思いますが、観測できる範囲ではおおむね7割を達成できていると思います。
ハードとチームワークが生産性向上のカギを握る
――出勤者7割を削減するためにはテレワークが肝になりますが、生産性が低下するという懸念があります。
山内:テレワークで生産性が落ちるという場合の原因として考えられることには、まずマシンパワーが足りない、あるいは回線が遅いといった「ハード面」に起因する問題があります。また、部下が何をしたらいいかわからない・間違った方向で作業している状態なのに上司がそれを発見できない「チームワークのありよう」が問題となるケースもあるでしょう。それから、業務のフローに紙のやり取りが入っていると生産性が落ちますね。とはいえ、いまや多くの会社で承認プロセスや契約の電子化が進んでいるので、こちらは徐々に解決されていくとみています。
後藤:そうですね。オフィス内と比べると、自宅はハードウェア面で生産性が落ちるという状況があると思います。
山内:どこでも同じ仕事環境を実現するのは非常に大事だと思っています。というのも、コロナ禍でなくとも、育児や介護との両立を迫られる状況は誰にでも起こりうるわけですから。そのときにオフィスに出てこられないからということで、仕事が続けられず、労働市場からの退出を余儀なくされるというのでは、ご本人にとっても企業にとっても不幸なことで、さらに社会的にも損失ですから、できる限り避けなければならないと思います。
後藤:たとえば建築業や製造業における設計者の方や開発者の方がそうした状況に直面し、仕事を辞めて地元に帰らなくてはいけないケースをけっこう見ています。テレワークができたら仕事を継続できただろうに……と非常に残念に思う気持ちがあります。
山内:オフィスの中でも外でも、いつでもシームレスに働ける環境を作らなくてはと思いますね。
――テレワークができない業務についてはどのように考えるといいのでしょうか。
山内:業種・業務内容によってはテレワークが難しいと申しましたが、イメージでざっくりと判断せず、業務のどの部分がテレワークできないのかまで、突き詰めて分析・判断する必要があるでしょう。テレワークに合わない業務を特定した上で、その業務は必要最小人数の交代制で行うなど、工夫できる余地はありますよね。
後藤:いまや「自分の業務で7割のテレワークが実現できるのか?」という問いに対して、9割以上を目指して、可能な限り定常的なテレワークの実現性を具体的に考える段階にきているのではないでしょうか。コロナが収束して出社できるようになっても、席や場所を固定せずに、会社や拠点、出張先、自宅など、どこからでも同じ生産性でテレワークできるのが理想ですよね。
山内:もともとテレワークはサブの位置付けだったと思います。つまり、メインは出社で、子どもの都合など、特殊な事情があって出社できない人がやむなくテレワークする……そういう認識だったと思います。それが、誰もが実施を迫られるといったこの状況で、メイン業務をテレワークで行うことも含めて、かなり真剣に考えられるようになりましたよね。
ビジネスユーザーの課題はWeb会議
――一般的なビジネスユーザーがテレワークする際、生産性に関してどのような課題が考えられますか?
山内:いちユーザー目線ですと、Web会議システムが相手方によってまちまちになるのが気になりますね。
後藤:いまWeb会議の重要性がとても高まっています。私は昨日、朝9時から夜7時まで30分の休憩を除いてずっとWeb会議でした。また、これまではオンサイトでセミナーに登壇していたのが、オンラインでのセミナーも増えていて、Web会議がコミュニケーションや業務の基幹システムになっていることを感じます。
その中でWeb会議、Webブラウザでの操作、動画再生、文字入力などがスムーズに行えない事態もよく見受けられます。Web会議でも最初だけWebカメラをつけて挨拶をして、その後は「負荷が重くて音声が途切れるからカメラをオフにしてください」と、Web会議を行う機能があっても使い方を工夫しなくてはいけない場面はよくみかけますね。
あと最近よく感じる課題は、Web会議で参加者の感触が見えないことです。カメラをオンにしている場合は、たとえばこの方は難しい顔をしているから話し方を変えよう、といった判断ができますが、カメラオフの場合はそういう判断がきかないですね。テレワークのパフォーマンスがもっと改善されたら、次は表情が見えるコミュニケーションを浸透させる、深く広げるということが重要になってくるのではないでしょうか。
――ワークステーションを使って仕事をしている設計者や研究者は、自宅PCの性能が足りなくて仕方なく出社しています。
後藤:クリエイター、設計者、解析者、研究者、HPCなどはリモートでできない業務が非常に多く、自宅で高性能なマシンを用意するとなると、場所も電力も必要になります。そのため緊急事態宣言で出社制限がかかっているときは、1カ月設計が止まってしまった企業もあったといいます。
山内:マシンパワー的に自宅ではできるはずがない、と諦めていたものがあると思います。しかし、連絡を頻繁に取り合わないといけない仕事と比べて、設計や研究は一人で集中して作業する時間が長いので、それが家でできるのなら、本来そのほうが効率的ではないでしょうか。育児や介護との両立を含めても、そうしたハイエンドな業務を在宅でできるようにすることは、社会的にとても意味があると感じます。
「vGPU+VDI」でWeb会議や動画再生がスムーズになる
――テレワークにおいて生産性を阻害する2つの課題に対し、どのようなアプローチがありますか。
後藤:テレワークでは「vGPU+VDI」というソリューションが役に立ちます。VDI(仮想デスクトップ)はビジネスユーザーには非常に浸透している技術かと思います。PCのデスクトップ環境が、電源やネットワークが整備されたデータセンターの中に収まっていて、それをリモートで手元のPCに操作画面イメージのみが転送されてきて使えるというのがVDIの概念です。手元のPCにデータが残らないのでセキュリティ的にも安心ですね。
また、データセンター側にあるGPUのメモリを複数に分割し、複数の仮想マシンで高いコア性能を効率よく使う技術がvGPU(仮想GPU)です。VDIとvGPUを組み合わせると、CPU負荷を軽減してWeb会議が快適に行えるようになり、文字入力の遅延がなくなり、さらに動画再生もスムーズになります。
ワークステーションのユーザー、たとえば設計者の方もリモートで高性能な環境が利用できるようになります。「vGPU+VDI」だと、複数台のワークステーションを並行して使用でき、たとえば手元のノートPC1台から性能や用途がわかれている3台のワークステーションを同時に使うことも可能です。マルチモニターも快適ですし、4Kや8K表示にも対応できます。
――経営者側のメリットも教えてください。
後藤:経営者側にとって「vGPU+VDI」のメリットは、幅広い業務での事業継続の実現、生産性の向上、管理運用面の改善だと思います。
今まで対象ではなかった部門や業務でも、テレワークが可能になります。データはセキュリティ高く、データセンター内のみでの利用となり、大きいサイズのデータファイルの読込や書込も早くなり、ユーザーの生産性が向上します。ユーザーの生産性が上がるということは、製品開発のスピード向上に繋がります。たとえば、新しい製品を6カ月の期間で解析、設計、デザインし、生産していたのを、5カ月に短縮できるわけです。もしくは、もっと深く製品開発に時間を費やすことができるようになるのです。
またVDIのメリットですが、OSや全アプリケーションのインストールや設定をした、新たな仮想デスクトップイメージを作成して検証、その後一気に複製して新しい仮想デスクトップを展開することも可能です。夜のうちに展開することで、翌朝ログインしたらもう新しい環境が使えるのです。これでバージョンアップ作業に関連する日程調整やユーザーの手を止める、待たせてしまうなどの、生産性を落とすことがなくなりますね。
また、日本の企業でも増えているのですが、昼間はワークステーションを設計者が使うけど、夜は誰も触らないので、コンピューティング(演算)に全リソースを回して、昼夜ずっと使い続けるという工夫されているケースもあります。また、夜は時差のある違う国の人に使わせたいという発想も広がってきています。そういったメリットが「vGPU+VDI」にはありますね。
山内:いちビジネスユーザーとしての感想ですが、スマートフォンがこんなに普及したのは、あれだけ持ち運びやすいのにできることが極めて多様だからこそだと思います。いまの話はオフィスと自宅の2拠点を想定したものだと思いますが、情報漏洩の懸念を払拭できれば、それ以外の場所も組み合わせて、多拠点で業務を行うパターンも視野に入ってくるでしょう。そのときにワークステーションを使わなければいけないような業務内容の人には何台ぶんも環境が用意される……夢みたいな話ですが、大きな可能性がありますね。また、メンテナンスやセキュリティ、そういう管理コストやリスクが低減するのは明確に経営側のメリットなので、導入を促すうえでは、その部分は強く打ち出していくべきでしょう。
後藤:実際、非常にありがたいことに「vGPU+VDI」の引き合いが増えています。それくらい現状のテレワークに対して困っていることが顕在化してきたのではないでしょうか。
国際的な競争のためにも重要なテレワークの基盤
――「vGPU+VDI」によってテレワークが次の世代に受け継がれることで、世の中はどのように変わっていくのでしょうか。
山内:いまは大変な時期ですが、テレワークの導入なども通じて、生産性が高いビジネス構造になることが、長期的な目線で今後の日本や国民のためになればいいなと思っています。
生産性向上というと、働く側からすると追い立てられる、嫌だなと感じることも多いかと思いますが、理論的に考えれば賃金も総付加価値の配分の問題なので、生産性が上がるのは社会全体や自分の生活をよくするという意味で、本来はポジティブなことです。それから現在はコロナ対策一色であまり注目されていないかもしれませんが、Society 5.0やIoTに向けた取組は地道に続けられています。いずれにしても、中長期的にはこうしたことに取り組まなければならないことに変わりはなく、国際的な開発競争のスピードについていくためのベースとしても、効率的な仕事の進め方が必要と考えています。
後藤:最近は新入社員の方も、転職する方も、働く側がテレワークできる企業や団体に入りたいという考えに変わってきています。
山内:すでに足元でもそうなっているわけですね。
後藤:はい、それがすごく見えてきています。テレワークがただできるだけじゃなく、生産性を落とさずにどこからでも学習できる、どこからでも仕事ができるというのは、アクティブ・ベースド・ワーキング(ABW: Activity Based Working)がすごく現実的になることです。プロアクティブに働き方を選んでいく時代……それが生産性の向上をもたらすのではないかと思っています。
個人や組織それぞれの方々が場所やデバイスを問わずにプロアクティブに学習、さまざまな業務に対応できるIT基盤がこれから重要になってくるでしょう。弊社としてもテクノロジーおよび情報発信などお手伝いさせていただきたいです。民間の方々へのご支援は製造業、自動車、建築、通信、医療、金融、メディア・エンターテイメント、小売、研究、教育などと広がってきています。
また、行政の方々に対しては、特に三層分離や、Web会議、Webブラウザ、動画再生、オフィスアプリケーションなどの生産性やパフォーマンス改善に関して非常に多くの相談をいただいています。昨今は今まで以上に行政サービスの重要性が高まっていると感じています。働き方改革、行政サービスの継続はもちろん、都市整備やまちづくり、防災、公共インフラ、環境・エネルギー、観光など、行政サービスのデジタル化、テレワークなどのご支援を通して、日本全体の生産性向上に寄与して参りたいと考えております。
山内:国もそうですが、地方公共団体の業務環境の整備も重要で、その際、セキュリティの面が非常に重要ですね。というのは、実は地方のほうが住民の個人情報に触れる機会が多いからです。地方公共団体のデジタル化については、この秋に発足するデジタル庁なども加わり、これまで以上に積極的に進めていくことになると思っています。
――最後に日本の生産性向上への期待などのメッセージをお願いします。
後藤:「vGPU+VDI」で生産性が向上するテレワークが実現可能となります。通常のオフィス業務のパフォーマンスを改善し、グラフィックスやコンピューティング業務のテレワークも実現します。Deep LearningやAIでの医療、ロボット、自動運転、セキュリティ、5Gやエッジコンピューティングなどのネットワークも含めた社会インフラなど、さまざまな分野での研究開発、利用に向けた未来社会に貢献できればと考えております。
山内:日本は産業大国だといわれていた時代がありましたが、この10年、20年間は遅れを取っている感覚があるので、巻き返しを図っていくうえで今日お話いただいたような環境が浸透していくとよいと思います。「働き方改革」のさまざまな取組は、次の競争に打って出る際の基盤としても、なるべく早く実現していかなくてはと思います。生産性の向上そのものについては、主に民間セクターの方々のご活躍に期待することになるのですが、あわせて規制や社会モデルの見直しも行う必要があるだろうと思います。官民がそれぞれの状況や考えを聞きながら進めることが大事だと感じています。
後藤:おっしゃる通りです。生産性が向上して業務スピードが上がるシステムが整備された後は、仕組み作りや業務プロセスの改善を繰り返すことで、巻き返しが図れるのではないでしょうか。NVIDIAはテクノロジーを通して、行政や民間の方々、そして日本全体を底上げするためのご支援を続け、生産性の向上に貢献して参ります。
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