OCEANUSの藍染シリーズ、プレミアムライン「Manta(マンタ)」の 『OCW-S5000AP』 『OCW-S5000APL』、クラシックラインの 『OCW-T2600ALA』 『OCW-T2600ALB』。今年の春に発表されて以来、発売延期となっていた4モデルがついに発売されました。
今回は、日本の伝統的な染料「天然藍」を用いてダイヤルを着色した『S5000』、同じく天然藍の絞り染めでバンドを彩った『T2600』についてよりディープな開発秘話を初出ネタ満載でお送りいたします。
【参考】 カシオ2020年秋冬の時計新製品を実機写真で! 「OCEANUS」編
―――さて、今回お話を聞くのは、カシオ計算機の藍染シリーズの商品企画を担当された佐藤貴康さんとデザインを担当された梅林誠司さんです。
佐藤氏・梅林氏: よろしくお願いします。
―――写真だけでも十分に美しさが伝わってくる藍染シリーズ4モデルですが、今回のシリーズのベースモデルにMantaのプレミアムラインのS5000とクラシックラインT2600を選ばれた理由は?
佐藤氏: MantaはやはりOCEANUSを代表するモデルなので、これは当然とお分かりいただけると思います。一方、クラシックラインは、OCEANUSの世界観を知って頂くエントリーモデルとして大切にしているシリーズです。ですので、オシアナスブルーをはじめとするOCEANUSのエッセンスを凝縮したシリーズになっているんですね。そういった意味で、今回ぜひMantaとともにラインナップに入れたいと思っていました。
―――確かに、こういった特別なモデルは目を引きますし、OCEANUSという製品を知っていただくきっかけにもなりますね。
佐藤氏: そうなんです。そもそも今回の藍染シリーズは、好評だった江戸切子シリーズと同じ“伝統と革新の融合”という文脈にあります。この文脈の上で、何かまた新しい驚きをお客様にご提供できないかと考えていました。
梅林氏: そこで考えたのがOCEANUSのブランドカラーである“青”のルーツでした。これを探っていくうち、日本に古くから伝わる伝統の染色技術“藍染”にたどり着いたというわけです。
―――なるほど、そう説明していただくと、藍染シリーズ誕生のストーリーがすっきりと腑に落ちました。ではまず、Manta S5000の方から見て行きましょう。やはり真っ先に目に入るのは、藍色の白蝶貝ダイヤルですね。
佐藤氏: 藍の染料を生成する方法はいくつかあるのですが、今回は2種類の方法を使っています。簡単に説明しますと、ひとつは、藍の成分が抽出できる蓼(たで)の葉から伝統的な手法で「すくも」という染料を作り、微生物の発酵によって、藍の染液を作って染める方法で、一般的にいう藍染めの方法です。もうひとつは蓼の葉から直に、藍の成分を抽出する方法で、蓼の葉を水に浸し発酵させて、藍の成分を水の底に沈ませて抽出する“沈殿法“という手法です。
今回のMantaの白蝶貝ダイヤルは、後者の沈殿法で作った藍で着色しているので、厳密にいうと“いわゆる藍染”とは少々違います。
―――そもそも、白蝶貝の表面には染料が染み込まないようにも思えますが。
梅林氏: はい、そこで藍の染料を顔料化して塗布しています。実際には様々な方法を試していて、もちろん染料を使った藍染もやってみました。でも、やはり思ったような藍の色味が出なくて。
佐藤氏: 加えて、社内基準に達しないという事情もありました。電波ソーラーモデルなので、長時間紫外線に当てても退色しないか、塗料が剥がれないか等の厳しいテストに耐えられなければなりません。
梅林氏: さらに、より藍を感じられるよう、ダイヤルにブルーのグラデーション塗装をして色の変化をつけました。藍の深さとともにブランドの起源である海の青さや時の移ろいを表現しています。藍が徐々に染まってゆくイメージを感じていただけたら嬉しいですね。
―――藍染シリーズのもうひとつの柱が藍染の革バンドですね。Mantaの『OCW-S5000APL』はクロコダイルのレザーを藍で染めたバンドを採用していますが、クロコ革の藍染というのは初めて見ました。
佐藤氏: 実は藍染シリーズは、この藍染クロコ革バンドの開発から始まっているんです。「Mantaと藍染」というキーワードを組み合わせてインパクトのある時計の表現方法を探したとき、当然革バンドを藍で染めるという発想がありました。ですが、プレミアムラインであるMantaに牛革では面白くない。高級時計に用いられるクロコ革が相応しいと。
それを実現するために、革を藍染めする技術をお持ちだった、藍の本場、徳島の老舗呉服屋の『絹や』(※)さんとのご縁がありました。絹やさんもクロコ革の藍染は初めてだったようで、いろいろとムチャを聞いてもらいました。
※創業100年を超える老舗呉服店。藍で皮革を染めた『AWA AI』ブランドで商品展開をするほど、藍染の高い技術とノウハウを持つ。
梅林氏: クロコ革には腑(ふ)と呼ばれる鱗のような四角や丸の目があって、独特の凹凸感があり、コシのある素材のため色が染まりにくい。そこを妥協なく染めて行くことで色が入ってくるんです。なお、バンドに関しては、前述のすくもで作られる伝統的な藍で染めています。
佐藤氏: そうです。ワニ革はほかにも難しい点があって、たとえば大きい腑から小さい腑へ流れていく方が時計のバンドとしては綺麗なんです。なので、裁断の方向が限られて一枚の革から取れる本数が少なく、限られた条件でベストな柄になるよう試行錯誤を重ねました。
――― 一方、T2600の藍染バンドは絞り染めの牛革を使用していますね。
梅林氏: 藍で染めた牛革からバンドの形状に革を取っていくのですが、これもまた単純にはいかなくて……。T2600の藍染バンドは、絞り染めのラインが斜めに入るようにバンドの型を取っているんですね。絞り染めのラインが縦や横に入ると、一気に和柄の雰囲気になってしまう。江戸切子デザインもそうですが、技術は伝統的なものであっても、デザインは現代的なものにしたいですから。
この“斜めに入る絞りの線”がこのバンドの見せ場なんです。なので、時計を腕に付けたとき、この斜め線が見える位置にあってほしい。そのためには線がケース付近に来るよう裁断する必要があります。つまり、線が入っていない部分の生地はなるべく使わないようにして……。これは正直ちょっと計算外でしたね。
―――T2600にはもう一本、単色の藍染バンドが付属しますが、こちらもいい色ですね。
佐藤氏: 個人的にはほとんど黒だけど、よくよく見ると青いくらいもっと濃い色にしたかったんです。でも、職人さんにこれ以上は何回染めても色が変わりませんよと言われてしまいまして……。
―――それが冒頭の 参考記事にも出てくる「留紺(とめこん)」!
佐藤氏: そうです。ビジネスファッションがカジュアル化していく中、主にビジネスシーンでお使いいただいているOCEANUSもその方向性を採り入れていくという流れがあります。T2600に2本のバンドをお付けする意味も、カジュアルまたはビジネスカジュアルでは絞り染めバンド、スーツで決めるべきシーンやフォーマルなシーンでは精悍な留紺のバンドと使い分けていただくことを想定しています。
―――バンドが簡易着脱式なのも、そのコンセプトをわかりやすく伝えていると思います。この機構、ノーマルのT2600でも採用してほしいくらいです。
佐藤氏: 今回のように替えバンドが付属する商品ではどんどんやっていきたいという思いはあります。ただ、現実的な話をしてしまうと、電波ソーラーモデルはやはりメタルバンドが人気なんです。ビジネスはもちろん、どこに着けて行っても大丈夫という堅実性に加えて、正確な時刻を知るツールとしての側面が重視される傾向が強いからです。一方、レザーバンドの時計はよりファッション重視で着けていただきたいし、それはOCEANUSの商品性にも符合します。ただ、その認知は舶来時計などと比べてまだ足りません。これについては、私たちがもっと啓蒙していく必要があると思っています。今回の藍染シリーズもその一環と捉えていただけると嬉しいですね。
―――ちなみに、革バンドのお手入れについて教えていただけますか?
佐藤氏: カシオの製品は社内の厳しい製造基準をクリアしていますので、藍染シリーズも風合いを保ったままコート剤で色落ちなどを防いでいます。したがって、普通にお使いいただければ、革製品としての特別なお手入れは必要ありませんが、細かいお手入れに関しましては当社ウェブサイトなどでもご案内させていただいております。
―――今回の藍染シリーズ、一見時計部分はベースモデルと変わらないように見えますけど、実は細かいところにも気が配られていますよね、すでにお話した部分以外にも『OCW-S5000APL』のグリーンの見切りも本作のオリジナル要素ですね。
梅林氏: グリーンの見切りなんですが、これは藍染の生地が甕から上げてすぐは緑色をしていることからイメージしました。
実際に、絹やさんで藍染めをするところを見せてもらったのですが、最初は本当に緑色で、それが水洗いや酸化で次第に青くなっていくんですよ。見切りにはその様子を緑から青へのグラデーションで表現しました。これはその現場を見たからこそ生まれたデザインと言えますね。
実はT2600も藍染をイメージして、オリジナルモデルとは違う青を使っているんですよ。 というのは藍が留紺に達するまで、青は無限ともいえる色の変化をします。また、和の伝統色には、濃さや色味の違いで実に60色を超える青の名前がある。OCEANUSも日本のブランドである以上、そうした細やかな感性を大事にしていきたいと。そこで、藍に染まっていく青の変化をパーツの色に振り分けました。『OCW-T2600ALA』『OCW-T2600ALB』ともにダイヤルの色味もオリジナルモデルとは変えています。『OCW-T2600ALA』はギリギリまで黒に近い濃紺、対して『OCW-T2600ALB』はギリギリまで白に近い水色です。
―――バンドを含め、藍をルーツとして広がる「青の世界」を時計全体で表現しているのですね。
梅林氏: そうです。OCEANUSをデザインすることは、ストーリーを時計に落とし込んでいく作業といえます。言い換えれば、この藍染シリーズはどこまで藍の世界を表現できるかという挑戦。そのためには実際の現場に行って、自分の五感で感じることが必要でした。職人さんたちの熟練した技、発酵させる甕(かめ)の温度や匂い、徐々に色濃くなっていく青とそれに費やされる時間の長さなどは実際に見ないとわかりません。それらを知らずにデザインした商品が“藍染シリーズ”を名乗るのは、私は違うと感じたのです。
―――今まさに、モデルそのものの設計を大きく変えずに商品の世界観を広げていく、カシオのCMF思想にぴったりと符合しましたよ!
梅林氏: まさにCMFの考え方ですね。江戸切子の『OCW-S5000D』では琥珀色を対比色として使うことで、青を意識するデザインを追求しました。そして今回は、反対に青だけを存分に追求して、またひとつ青の進化の可能性を感じました。デザインしていて楽しい商品でしたね。
―――ただ青というだけでなく、背景にストーリーを湛(たた)えた青。まさに、新しいオシアナスブルーですね。
佐藤氏: 今、市場ではブルーダイヤルの時計が流行っていて、色々なメーカーさんの商品が並んでいます。そんななかでも、おかげさまでOCEANUSは青い時計として認知を頂いているからこそ、中途半端なものは出せない。『さすがはOCEANUS、一口に青と言ってもここまでやるか! 』と感じていただける商品にしたい。藍染シリーズは開発に苦労しましたが、それだけの価値が込められたものに仕上がったという自負があります。
藍は、世界的なスポーツの祭典のロゴマークの色にも使用され「ジャパン・ブルー」として注目された。
「本当は、これを国内外のお客様に見て、買っていただいて、話題になることで日本を応援する一助になればと思っていたんです」と佐藤氏。OCEANUS藍染シリーズは、エピソードの端々に至るまで、アイに染まった時計なのです。なお、4モデルとも限定品なので、購入を検討される方はお早めに店頭へ!
[PR]提供:カシオ計算機