たくさんの思い出が詰まったものとお別れするのは、いつだって切なく寂しいもの。それが住み慣れた住居であれば、なおさらのこと。そんな感慨深いイベントが10月27日に開催された。ここでは、都内最大級の団地の建替えにともなう解体作業のスタートにあわせて行われた「石神井公園団地建替プロジェクト 団地お別れイベント」の模様をレポートしよう。

  • 「石神井公園団地建替プロジェクト 団地お別れイベント」会場

3つの時代を生きた都内最大級の大型団地

今回訪れた石神井公園団地は、西武池袋線「石神井公園駅」徒歩20分・西武新宿線「上石神井駅」から徒歩11分ほどの閑静な住宅街にある団地。緑豊かな公園や川に囲まれており、耳をすませば鳥のさえずりが聞こえてきそうな落ち着いた雰囲気に包まれている。木漏れ日の中を会場に向かいながら、つい都内にいることを忘れてしまいそうになったくらいだ。

団地が竣工されたのは1967年なので、昭和・平成・令和の3つの時代を生き抜いてきたことになる。総戸数は490戸で、都内に現存する団地としてはもっとも古く規模も最大級なのだとか。実際、イベントが始まる前に周囲を散策してみたけれど、とてつもなく広い!

  • 右の白い塀(仮囲い)で囲まれた場所が石神井公園団地。延々と塀が続いている

半世紀を超える時間が流れて建物や設備の老朽化と住民の高齢化が進み、10年ほど前から団地の再生について真剣に検討が重ねられてきたという。そして昨年4月、ついに建替えが決定。今回のイベントは、その建替プロジェクトの本格始動に合わせて行われるものだ。

団地のシンボル・給水塔前でイベントがスタート!

会場となったのは、団地のシンボルとして半世紀以上住民たちを見守り続けてきた給水塔の前に広がるスペース。毎年夏になるとここで夏祭りが行われて住民の団結心が育まれていったそうだ。

今回のイベントでは、その給水塔の取り壊しも実施されるという。塔は古さを感じさせないユニークなデザインで、パッと見はそんなに長い歳月を経ているとはとても思えないのだけれど、本当に、本当に取り壊しちゃうの!?

  • イベント会場。35mある給水塔がひときわ目を引く

イベントは、石神井公園団地管理組合の岡崎登理事長の挨拶でスタート。岡崎理事長は、敷地内で桜や紅葉を楽しめる自然環境のよさや団地の思い出などに言及しながら建替えが決定した経緯を説明し、表情に一抹の寂しさをのぞかせながらも「来るべき素晴らしい新しいマンションができることを期待したい」と将来への希望に満ちた眼差しでコメントした。

  • 岡崎理事長と黒河内理事長の合図で給水塔の取り壊しがスタート!

続いて、事業協力者である東京建物株式会社、旭化成不動産レジデンス株式会社、株式会社URリンケージの代表者による挨拶が紹介され、いよいよ建替スタートセレモニーが開始! 岡崎理事長と石神井公園団地マンション建替組合の黒河内剛理事長が合図のボタンを押し、給水塔の取り壊しが始められた。

  • 巨大なクレーンが給水塔を解体していく

粉塵の飛散を防ぐため散水しながらクレーンが少しずつ塔のテッペンを取り壊していったが、コンクリートが剥がれ落ちるたびに振動が伝わってき、まるで給水塔が声にならない声で「さようなら」と叫んでいるかのよう。元住民の方々のような思い入れがないにもかかわらず、取材しながらつい目頭が熱くなってしまった……。

  • オンラインでそれぞれの思いを胸に解体作業を見守る元住民の方々

ちなみに、今回は昨今の新型コロナウイルス感染拡大防止のため、元住民の方はライブ配信される会場の映像を見ながらオンラインで参加するスタイルが取られた。会場の巨大なスクリーンには、それぞれの思いを胸に団地のシンボルの解体を見守る元住民の方々の表情が映し出され、こちらの胸まで締め付けられる思いだった。

三世代にわたって住み続けた人も!元住民が語る団地の魅力

会場では、このあと関係者によるトークセッションが上映された。元住民の方によると、団地では日頃からサークルやお祭りなどの住民による活動が活発に行われていたとのこと。とくに35年前から毎年続いている夏祭りは神輿まで自分たちで作ってしまうほどの熱の入れようだったという。会場ではその祭り風景を収めた写真も紹介されたが、子どもから大人までみんなイキイキとした表情。すごく楽しそう!

  • 35回毎年続けられてきたという夏祭りの様子

こうしたお祭りは、子どもたちに団地が故郷となってほしいという思いで始められたそうだが、それが結果的に住民同士の親睦を深めることにつながっていったという。なかには子どもが独立するときに団地を買って入居し、さらにその子どもが……という具合に、三世代にわたって住んできたという人も。

  • 住民が退居した後の石神井公園団地の内部

団地ができてすぐ入居したという岡崎理事長と黒河内理事長によれば、当時の管理組合のメンバーによって川沿いの敷地内に80本ほど桜が植えられ、年々大きく成長していくのが楽しみだったとのこと。川に面した方は剪定しなかったため、春になると桜のトンネルができて、それはそれは見事な眺めだったという。そんな環境のよさも、何世代にもわたって住民たちに愛されてきた理由なのだろう。

  • 住居の内部。かわいらしい壁画にほっこり

イベント終了後に部屋の一部を内覧する機会があったが、住民の方によってペイントが施されたかわいらしい壁やドアなどもあって、つい頬が緩んでしまった。こんな素敵な部屋に住んでいるのは絶対いい人たちのはず!

なお、住民の方は既にすべて退居され、大半が2023年に生まれ変わる新マンション(8階建て/8棟、計844戸)に戻るのを待っているところだという。閉会式で黒河内理事長は「夢を持って未来に向けて進んでいきたい」と力強く宣言していたが、そのことばは元住民の方々に共通する思いだろう。ぜひ今後の動向にも注目したいところだ。

「お別れイベント」を詳しくみる>

[PR]提供:石神井公園団地管理組合/石神井公園団地マンション建替組合