世界では数学の時間に関数電卓を自由に使える国が増えており、特に欧米では授業だけでなく試験でも関数電卓を使用できるのがスタンダードだ。それには計算式を解く労力に時間を費やすより、なぜその計算が必要かといいう課題解決力を養うという背景があるのだという。そんな国際的な流れを率先して取り入れている教育機関が東京学芸大学附属国際中等教育学校になる。同校では、カシオ計算機のグラフ関数電卓を1年生(中学1年生に相当)から使い始め、授業や試験にも日常的に活用しているという。どのような使われ方をしているか伺ってきたので紹介しよう。
IB(国際バカロレア)教育の流れを汲み、グラフ関数電卓を積極的に活用
東京学芸大学附属国際中等教育学校(以降、学芸大附属国際中等)は、国際バカロレア機構(IBO)が提供する教育プログラムを実施している中高一貫校で、帰国生徒、外国籍生徒が多く通う、国際感覚を養うのに適した教育機関だ。「当校は創立当初から関数電卓を取り入れた授業をしています」と語るのは同校数学教諭の内野浩子氏だ(以降、内野先生)。
「IB自体がグラフ関数電卓の使用を推奨しています。私なりの解釈になりますが、計算はメインではなく、あくまでも手段であって、人間は問題解決のほうに力をいれるべきだからだと考えています。私自身も授業でその方針を大切にしています」と同校教諭の新井健使氏は語る(以降、新井先生)。
もちろん、同校でも計算のやり方や計算式の立て方は教えられている。しかし、それよりもなぜその計算が必要になるのか、計算の結果をどう受け止めるのかといったことを考える方に時間を使うのがグラフ関数電卓を授業や試験で使う最大の理由なのだ。
「当校で教えている数学には“事象を探究する”という大きな目的があるので、公式や数式が使えるかというスキルだけではなく、社会や個人が抱える問題を解決していくことを学ばせたいのです」と内野先生。課題への解決力を養うために、人間は道具を使って早く結果を導き出す。それを学生のうちから学べるのが学芸大附属国際中等なのだ。
1年生(中学1年生に相当)から使うグラフ関数電卓
学芸大附属国際中等では、グラフ関数電卓をいつ頃から使うのだろう?「1年生から通常の電卓機能は使わせます。次に“繰り返し”を計算する際に初めてグラフ関数電卓の機能を使いますね」と新井先生。例えば、毎年人口が一定の割合で増えていく、といった状況を数式に表すだけではなく、グラフ関数電卓のボタンを押すたびに上がっていく数値や表から増加状況を読み取らせるといった具合だ。
「大人ならエクセルで解決してしまう問題ですが、子供たちはグラフ関数電卓を使いながらボタン一つで人口が増加する様子を見て一喜一憂しますよ」と笑顔で語る新井先生。「それが4年生(高校1年生に相当)になると漸化式で答えを導くところにグラフ関数電卓を使用します。値を表でみることもありますし、グラフでも見ます。導き出した値を視覚化することで、課題への理解が進むのです」と言葉を続ける内野先生。つまり単純なリプレイから漸化式を使ってのグラフ描画まで、一貫校ならではの生徒達の成長に合わせた実践的な数学が学べるのが同校のメリットなのだ。
実際の生徒たちはどのように感じているのだろうか。授業にも参加させていただきながら2年生(中学2年生に相当)の高田結愛さん、5年生(高校2年生に相当)の及川太滝さんに率直な感想を聞いてみた。
連立方程式の問題を自分たちで作成
カシオのグラフ関数電卓を始めて使ったのは1年生です。数値を打ちこむだけでグラフが作れるのでびっくりしました。それに電卓なのに色分けまでしてくれるのでとても見やすいです。授業や宿題でも「この問題はグラフ関数電卓を使用しなさい」という指定はないので、どの問題でグラフ関数電卓を使ったら楽なのかを自分で考えて活用しています。まだ分からない機能がたくさんあって、特にボタンの意味を覚えるのが大変ですが、グラフ関数電卓は楽しいです。
モデリングを授業に採用
最初にグラフ関数電卓に触れたのは前の海外の学校でしたが、グラフや表が簡単に出てくるのが驚きでした。数学をやるうえですごく便利になると思ったのを覚えています。計算にとらわれず、他のことに集中できるので、グラフ関数電卓を使うのは好きです。理系科目では数学以外の授業でも使っています。
グラフ関数電卓はプログラムを入れることもできるので、ぼくも試してみたいと考えています。数学の授業も楽しめていますし、グラフ関数電卓があることで、自分がやりたいと思っていることが実現できていると思います。
課題解決力を持った人材を育成
度々触れているように、学生が社会に出て必要とされるのは課題に対する解決力だろう。それが分かっていながら、日本では今も計算を解く部分に重点が置かれてしまい“なぜその計算が必要なのか”になかなか繋がらないのはなぜなのだろう?
「私の個人的な意見ですが、やはり入試は大きいかなと思います。センター試験などでは関数電卓を使わせませんから、学校側も受験対策として計算力の強化をしなければならない。ゴールが入試になってしまうので、なかなか関数電卓を使った授業に目が行かないのだと思います」と内野先生はいう。
「私の考えとしては、教材・授業展開・評価など具体的に授業をイメージさせるようなパッケージも必要かなと思っています。関数電卓やICTが教育に役立つことは、どの先生もご存知だと思いますが、具体的に授業に活かすには?といったところになるとハードルが上がってしまう。例えば私たちがやっているグラフ関数電卓を使った授業をパッケージにできれば導入しやすくなると思います」と新井先生は言葉を続ける。
実際に同校がグラフ関数電卓の授業を行っている様子を見学しにくる他校の先生方もいるので、積極的に関数電卓を教育に盛り込もうという動きは活性化し始めているといえる。
「AI時代と言われていますが、これからは身の回りがさらに便利になってそれに頼っていく社会になっていくでしょう。そんな時代にあっても、人間に備わっている頭脳を使って、思考する力や、問題を解決する力を生徒たちには養ってもらいたいと考えています。グラフ関数電卓はその力を育成するのにとても役立つツールだと思うので、これからも授業の中でうまく活用していきたいですね」と、両教諭は最後に語ってくれた。
将来を担う若者の課題解決力の向上に大きく貢献しているグラフ関数電卓を活用した授業はこれからさらに広がっていくだろう。東京学芸大学附属国際中等教育学校の取り組みを今後も注目していきたい。
[PR]提供:カシオ計算機