「樫尾俊雄」といえば、カシオ計算機株式会社の創業メンバーであり、日本屈指の発明家として知られている人物。彼が開発した計算機をはじめ、時計などの電子機器は特に有名だが、音楽好きの間では「カシオトーン」という楽器を通じて広く認知されている。 そして、2020年はカシオが電子楽器事業に参入してから40周年にあたる記念の年。今回は、世界中で愛され続けてきたカシオトーンへの熱意を振り返るべく、世田谷区にある 樫尾俊雄発明記念館を訪れた。
カシオトーンは日本ではもちろん、世界中で愛されてきた電子楽器だ。美しい音質と、直感的な操作、コストパフォーマンスの高さから、これまで実に幅広いユーザーに親しまれてきた製品でもある。「たくさんの電子楽器が並んでいますが、『カシオトーン201』は音の自然さにこだわった、カシオ初の電子楽器です」と笑顔で語るのは、樫尾俊雄発明記念館の広報も務めている渡邉 彰氏(渡邉氏)だ。
樫尾俊雄発明記念館は、発明家・樫尾俊雄氏が世に送り出してきた製品の数々を現在でも見ることができる貴重な施設だ。カシオトーンシリーズはもちろん、彼が作った世界初の小型純電気式計算機「14-A」をはじめ、歴代の計算機や時計、そして電子楽器などが当時の面影をそのままに見ることができる。
「樫尾俊雄は4人兄弟の次男として生まれ、幼少期から考え事をすると夢中になってしまう性格だったと聞いています。彼が小学生のときにトーマス・エジソンの伝記を読んで感銘を受け、それが発明家を目指すきっかけになったといいます」と、話す渡邉氏。
やがて、樫尾俊雄氏は電気技術者となり、逓信省で電話交換機のメンテナンスをしながら技術を磨いていった。しかしその頃、兄の樫尾忠雄氏が町工場「樫尾製作所」を経営しており、樫尾俊雄氏は自分の発明家としての夢を果たすという目的から、逓信省職員の地位を捨てて樫尾製作所へ入社。4兄弟揃って、事業に励むことにしたのだという。
「町工場ですから、顕微鏡の部品や歯車などなんでも作っていたそうです。そんななか、樫尾俊雄は自分が目指していた発明という分野で兄を助けようと、生涯をかけて作れるものを探していたといいます。そんな彼がいきついた答えが『計算機』だったのです」と渡邉氏。
当時は計算といえば、そろばんか手回し計算機しかない時代。そんななかにあってデジタル計算機を作ろうとした発想力にすでに優れた資質が垣間見えていたのだろう。その後、4人は試行錯誤を続け、その7年後に冒頭で触れた世界初の小型純電気式計算機「14-A」を開発。以降の栄光の歴史は多くの人が知るところでもある。
「樫尾俊雄は優れた発明家でしたが、本人は『自分は考えることしかできない』と常に謙虚な姿勢でいました。ものを作ったり、売ったりすることが得意な兄弟がいるからこそ、自分は発明を続けられたと後に回想しています」と語る渡邉氏。
4兄弟の絆によって、カシオ計算機株式会社は順調に成長。世界をリードする日本有数の企業へと育っていく。
「そんななか、樫尾俊雄には有名なエピソードもあります。実は、彼はとても方向音痴でよく道に迷っていました」と話す渡邉氏。
朝の通勤のために兄弟が運転する車のすぐ後ろを樫尾俊雄氏も車で追走するのだが、いつの間にかはぐれてしまい、兄弟に「いま自分はどこにいるのだ?」と電話してくることもあったという。
「私自身、会社の中で迷っている樫尾俊雄を見かけたことがあるぐらいですから、決してオーバーな話ではないと思います(笑)。それもおそらくは、何か発明のヒントになるようなことが頭に浮かぶと、そのことばかり考えてしまうからでしょう」と当時をふりかえる渡邉氏。
そんな樫尾俊雄氏はもともと音楽が好きで自身も楽器を買っては試していたそうだ。しかし、なかなか弾けるようにならず、ならば「万人が好きな音色で自由に演奏できる楽器を作ってしまえばよい」と考えるようになった。
そして、音に対する樫尾俊雄氏の探求が始まった。音作りは、樫尾俊雄氏が生涯続けた研究テーマだ。後には専用のコンピュータシステムを部下に作らせ、周波数成分や波形を組み合わせて理想の音をつくることに、寝食を忘れて没頭していた。その探求の原点が一号機「カシオトーン201」で生み出した、独自の音源システム「母音・子音システム」である。
「音にはとてもこだわっていました。例えば、“カシオ”と叫んで録音した音声を逆回転させても“オシカ”にはならず、人の耳には“オイサ”と言っているように聞こえる。この不思議さをヒントに、独自の『子音・母音システム』というものを創り出しました」と渡邉氏。
これを簡単に説明すると、音の最初の立ち上がり、つまりアタック音を「子音」、そこから伸びて消えるまでを「母音」とすることで、それぞれを別々に再現するシステムを作り、それを組み合わせることで自在に音色を作る、という発想だ。このシステムを使い、具体的な楽器へと応用させたのが、後世に名を残すことになったカシオ初の電子楽器「カシオトーン201」である。
「楽器の形は一番多くの人が触れている鍵盤型で、鍵を押すだけで出したい音色が奏でられるものにしました。限りなく自然な音が出せる楽器が作りたかったのです」と、渡邉氏は語る。
電子楽器であることを意識させずに、様々な音色で自由に音楽が楽しめる。そんな楽器がカシオトーン201だったのだ。
「ちなみに初代カシオトーンには『201』という番号が付与されていますが、実はこれが“2つの音を組み合わせる子音・母音システムを使った、カシオの電子楽器の一号機”という意味が込められているのです」と解説する渡邉氏。
当時発売されていたシンセサイザーやエレクトーンは、とても高価で素人に手が出せるような製品ではなかった。そんななか、カシオトーン201は、音色が簡単に切り替えられて、なおかつそれぞれの音も心地よいと評判になった。
「当時存在していた電子楽器とは別に、カシオトーンは独自のジャンルを築きました。それ以降の製品が目指した、良い音を追求し、楽器を広く万人のためのものにするというコンセプトはこの初号機から受け継がれていったものなのです」と渡邉氏は最後に語ってくれた。
筆者はここで40年の時間を一気に戻り、カシオが2019年9月にリリースした最新の「カシオトーン」に会いに行くことにした。
最新の カシオトーンCT-S200の説明をしてくれるのは、本製品のマーケティングを担当した平手達也氏(平手氏)。彼はカシオトーンCT-S200を一言で言うと、「手に取りやすく、親しみやすいキーボードです」と笑顔で語る。
3.3kgという軽量ボディに独特の丸みを帯びたデザインが愛くるしい、個性とこだわりが感じられるカシオトーンCT-S200。
「特に大きな特徴にもなっているグリップは、いつでも、どこでも、持ち運んで気軽に弾けるという新しい楽しみ方を表現しています」と平手氏。さらに、このグリップによって、持ち運びはもちろん、片手で簡単に取って、しまえる扱いやすさがあり、壁掛けフックがあればそこに掛けておくこともできるそうだ。
「初代のカシオトーン201以降、カシオの電子楽器の総称となっていたカシオトーンという名前は、ある時点から使われなくなっていました。今回、あえてそれを復活させたのは、40周年という節目に発売するという製品にあたり、もう一度過去を振り返って原点に立ち返ろうという思いをこめたかったからなのです」と平手氏。
この製品が持つ、“いつでも、どこでも、良い音で、自分らしく音楽が楽しめる”というコンセプトは、まさに初代カシオトーン201と共通するものだ。
「もちろん、現代風にアレンジも変えてリニューアルはしましたが、再出発にあたってカシオトーンを名乗るのにふさわしい製品にしたいという願いもありました」と平手氏はいう。
生まれ変わった“カシオトーン”は、音色へのこだわりはもちろん、使いやすさと楽しさを追求した最新機能もふんだんに盛り込まれている。
「まず、CT-S200のボタンはとても少ないです。なるべく直感的に操作ができ、シンプルなデザインにしたかったということもありますが、難しそうなイメージを払拭して、誰にでも気軽に触ってもらえるようにしたかったのです」と語る平手氏。
音色の変更も大型の回転ダイアルを回すだけの簡単操作なうえに、他の操作をする場合でもホームボタンが設けられているので、どこかで迷っても必ず最初の設定に戻ってこられる仕様になっている。また、ダンスミュージックモードが搭載されており、50種類のパターンをベースに伴奏やボイス音などを重ねて、DJ気分で簡単にダンスミュージックを楽しむことができる。
「子供から大人まで、クラシックから現代風のダンスミュージックまで、簡単に楽しめますから、楽器がとても身近になると思います。実際に20代、30代のお客様も多いのですが、40、50代の方々への人気も高まっていますね」と、カシオトーンCT-S200への手応えを語る平手氏。
カシオが40年間紡いできた思いと、その間培ってきたノウハウを生かし、現代の技術を惜しみなくつぎ込んだこだわりのキーボードカシオトーンCT-S200はすでに世界中の幅広い層のユーザーに受け入れられているのだ。
「カシオトーンCT-S200は1万円台後半でお求めいただけます。(※)今ステイホームでこの機会に楽器演奏を始めたい、過去に演奏されていて、もう一度再開したいという方がたくさんいらっしゃいます。そういった方々に、場所を選ばず、手軽に、気軽に、年齢を問わずに楽しめるカシオトーンはぴったりだと思います。世界中でみなさんが楽しんでいただいたカシオトーンですから、これからも、さらに、その期待にお応えしていきたいと思っています。」と平手氏は笑顔で語ってくれた。※2020年8月現在、1万8,000円前後(ライター調べ)
樫尾俊雄氏の発明は、兄弟の力で結晶となり、それは連綿と現在のカシオへと受け継がれている。なによりも気軽に音楽を楽しんで欲しいという思いがカシオトーンには息づいているのが印象的だ。興味をもった方は、ぜひカシオトーンCT-S200を手に取っていただきたい。
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