11月16日、17日の両日、第83回 日本皮膚科学会 東京・東部支部合同学術大会が、京王プラザホテル(東京)を会場に開かれた。会場には大勢の皮膚科関係者が集まり、情報収集や意見交換で盛り上がった。本稿では5月にカシオから発売された、ダーモカメラ「DZ-D100」関連のセミナーや展示ブース等をレポートする。
皮膚観察用の撮影に最適化し、一般医療機器(クラスⅠ)として登録したダーモカメラ「DZ-D100」が5月に登場して半年が過ぎた。DZ-D100は専用レンズを交換せずに通常撮影と接写撮影の両方に対応し、偏光/非偏光/紫光(UV)がワンシャッターで連続撮影できる。
片手で撮影できるコンパクトカメラとして、臨床写真などの通常撮影もこなせるので、皮膚科医ならずとも使い勝手の良さが実感できる製品だ。
16日に実施されたランチョンセミナー「日本発のAI診断サポート開発とダーモカメラの活用について」は、皮膚がんのAI診断サポートシステムの開発状況の報告と、このDZ-D100の有効活用を巡る二本柱の内容となった。
登壇者は信州大学の古賀弘志先生と千葉大学の外川八英先生。司会進行役の座長は東京女子医科大学東医療センターの田中勝先生が務めた。
トップバッターの古賀先生は、「人工知能(AI)実用化時代の画像管理とAIを用いた皮膚がん診断サポート」と題して、AI学習に適した画像管理の方法や、皮膚科領域におけるAI開発の世界的な動向について講演した。日本ディープラーニング協会のG検定をパスしている古賀先生は、AIを利用した医療用画像診断支援システムの開発に真正面から取り組んでいる医師の一人だ。
これまでも古賀先生は「ダーモカメラで撮影した画像をいかに効率良く機能的に管理するか」という視点から、画像管理ツール「D'z IMAGE Viewer」の開発に協力してきた。講演ではこのビューアの開発が、医療用画像診断支援システムのAI開発の礎となることが分かる内容になっていた。
「医療用AIの開発と言っても、研究論文の作成と医療機器の開発は、ルールは似ているが目指すところも、クリアすべき課題も異なり、まったく違うことをしなくてはならない」と、古賀先生は指摘する。そのため、医療機器の開発は研究者が主導するよりも、企業が主導したほうが比較的実現しやすいという訳だ。
また、診断補助AIで実現したい機能によって、医療機器のクラス分類が変わり、該当する規制の違いによって開発戦略が大きく変わると言う。
AIを活用した医療診断システムや医療機器を開発するには、個々の皮膚科医が患者画像を適切に撮影・収集し、管理できなければならない。ここで言う「適切」とは、患者のプライバシーを守りながら、医療機器開発向けに活用できる撮影パラメータや、紐付けした臨床データ、画像を加工した場合の処理内容などといった情報が、詳細に保持された状態を指す。
古賀先生はこうしたプロセスを、「皮膚科専門医試験を受ける際に、必須講習受講歴と症例一覧、研修記録の提出が必要なようなもの」と表現する。
ここで役に立つのが、冒頭から触れているダーモカメラ DZ-D100であり、DZ-D100で撮影した画像を容易に管理できる「D'z IMAGE Viewer」だ。ちなみに、D'z IMAGE ViewerはカシオのD'z IMAGE STOREから無料でダウンロード可能だ。
皮膚がん診断サポートシステムの開発状況についても触れた。古賀先生の所属する信州大学はカシオと共同で、2017年3月に「ISBIチャレンジ2017」に挑み、部門1位を受賞する快挙を成し遂げた。その時はマイナビニュースでも記事に取り上げた。コンテストでは学習用の画像2,000枚でAIを学習させ、試験用画像600枚の判定を行ってスコア平均で勝負するというものだ。
2020年開催の「ISIC 2020」では、AIが変化するほくろを検出できるかどうかに焦点を合わせたコンテストも開催される。臨床写真の比較機能で優劣が付くが、D'z IMAGE Viewerの臨床写真比較などに使われるエンジンはAI学習にも役立ちそうだ。
最後に古賀先生は、カシオが開発中のAI診断サポート装置をデモンストレーションし、カシオと信州大学が共同研究中の「イメージングデータを用いた皮膚がん診断ソリューション開発」が、AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の「先進的医療機器・システム等開発プロジェクト」に採択され、今後最長5年間、国から研究費用の支援を受けることになったと紹介した。
古賀先生は「このプロジェクトは『医療機器』なので、先述のとおり実臨床で使用できるものにすることが目標になる。皮膚がん診断のソリューションは、ハードウェアが出たことで良質な症例データが集まり、今後開発が加速する。AMEDからの資金調達も得て、ノーベル化学賞受賞者の吉野 彰教授が言うところの『死の谷』を越えようとしている」と述べ、今後の展開に期待を寄せた。
続いて、登壇した千葉大学の外川八英先生の講演は「ダーモカメラを有効活用しよう! 」と題するもので、試作機から開発に関わってきたDZ-D100の上手な運用方法について紹介した。
外川先生がDZ-D100について最初に説明したのは、辺縁解像度の解像力が極めて優秀だという点だ。他社のカメラとチャートの撮影を比較し、チャートの端を見ても中央と変わらない歪みのない画像が得られることをスライドで示した。
外川先生はDZ-D100の特徴として、以下の7点を挙げたうえで、AI診断にも対応していると強調する。
2. 広範囲のダーモ撮影が可能(従来品の面積比1.4~3.4倍)。
3. 偏光・非偏光・紫光(UV)の同時撮影、動画撮影がワンボタン。
4. 辺縁まで高解像度、隆起した病変にもピントが合いやすい。
5. ゆらぎテスト、疥癬の診断も簡単にできる。
6. HDMI端子で大画面に投影可能。
7. しかもコンパクトで軽い。
講演ではスライドを用い、これらの特徴を分かりやすく具体的に説明した。たとえば、偏光・非偏光・紫光(UV)の同時撮影によって何が分かるのか。
偏光像には光輝性白色線(shiny white lines)がアーチファクト(ノイズ)として写り、非偏光像では写らない、Blink signと呼ばれる現象が確認しやすくなる。動画撮影時に偏光と非偏光を切り替えれば、Blink signが動画でより分かりやすく見られる。また、紫光(UV)像では、周囲の色素斑がはっきり視認でき、メラノーマの可能性の高い病変を識別しやすくなる。病変が小さいとどうしても診断が難しくなるが、DZ-D100を使えばまだ小さなメラノーマでも見つけやすい。
また、DZ-D100を有効活用するうえで重要なのが、外川先生が「簡易版Kittler法」と呼ぶ、メラノーマの判別Chaos and Cluesアルゴリズムだ。ざっくり説明すると、色素性皮膚病変に非対称性があり、9つの手がかりのうちの少なくとも1つに当てはまるときは、生体検査が必要(パターン分析で脂漏性角化症の診断が明確でない場合)という内容になっており、DZ-D100での撮影は、こうしたメラノーマの兆候を見逃さないことに繋がるとする。
展示会場では協賛各社がブースを設け、関連商材や研究成果を展示していた。DZ-D100を大きく打ち出すカシオブースでは、DZ-D100の実機やオプションにも触れられるようにし、来場者の注目を集めていた。
カシオブースでは医療現場で実際にDZ-D100を使う医師の声を聞くことにより、開発や改良に役立てている。ブースに展示していたオプションは、医師の困り事を解決するために開発されており、今後も医療現場とのコミュニケーションを積極的にとっていく考えだ。
ブースでは「広波長帯域カメラ」を参考出展していた。これは可視光LEDに加え、近紫外線LED、近赤外線LED、遠赤外線カメラを搭載し、目では見えないものまで撮影しようというもの。
近紫外線で撮影すれば、肌のシミの強調や日焼け止めのチェックができる。近赤外線を用いれば手や足などの血管静脈を見やすくしたり、飲み物や包装袋の透過撮影が可能。遠赤外線では熱分布(サーモグラフィ)の撮影に対応する。
発売時期や想定価格は未定だが、DZ-D100をベースに開発が進んでいるそうだ。
さらにブースの一角で「AI診断サポート装置」も参考出展していた。古賀先生のプレゼンテーションの中でも触れていたが、カシオと信州大学がAMEDからの支援を受けることになったプロジェクトだ。
病変部の写真を読み込ませると、考えられる疾患名を確率と共に提示する。病変には悪性のものだけでなく良性のものもあり、医師がAIの提示した可能性を診断の参考にすることで、見落としや誤診を防ごうというものだ。
ハンズオンセミナー「スマホ必携! ダーモスコピークイズ 2019」が実施された。ダーモスコープで見た病変の見方を学習するプログラムで、クイズ形式のミニレクチャーを通じて参加者に楽しみながら診断スキルを向上してもらおうという内容だ。
最初に田中先生が「メラノサイト病変」に関して、外川先生が「非メラノサイト病変」に関して、ミニレクチャーを行って続いてクイズとなる。今回は参加者が自身のスマートフォンかタブレットを持ち込み、配布資料中のQRコードを読み込んで専用のWebサイトにアクセスして臨む形式を採用した。
ミニレクチャーやクイズに真剣な眼差しで臨む参加者を見ていると、ダーモスコピーはもはや皮膚科の医療現場に欠かせない診断技術であることがひしひしと伝わってくる。若い先生の参加が多いことからも、近い将来のスタンダードであることが伺われる。
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DZ-D100は病患部の画像を正確に効率良く撮影できることで、ダーモスコピー診断やその学習における重要な役目を果たすツールとして認知を広めつつある。だが、導入したすべての先生方が上手に使いこなせるようになるには、ハードもソフトも共にまだまだブラッシュアップが必要だろう。
AIによる診断支援の開発も道のりは長い。先生方の理解と協力を得て、一歩ずつ進んでいくことで、日本の医療の発展に必ずや貢献するものと期待したい。
[PR]提供:カシオ計算機