この数字が何を示すか、あなたはわかりますか?
これは、日本人が1食で噛む平均回数※1を表したものです。昭和初期には1420回も噛んでいたのに対し、現代では620回と半数以下にまで減少。食事内容や生活習慣の変化に伴い噛む回数が減ったことで、心身にさまざまな悪影響が出ているともいわれています。
噛むことで健康になってほしい――
そんな思いから生まれたのが、咀嚼回数を計測するシャープの「bitescan(バイトスキャン)」です。新商品誕生のきっかけは、なんと当時入社3年目だった若手技師の発案でした。小さなアイデアの種はどのようにして花開いたのでしょうか。
入社3年次研修で発案。噛む回数を計測する「bitescan」
bitescanを生みだしたのは、現在入社8年目を迎える谷村基樹さん。大学で機械工学を学び、就職活動を経てシャープに入社することになります。
世の中の人々が日常的に使うものを作りたいという思いがあり家電メーカーを志望していました。常に新しいことにチャレンジするシャープの姿勢に惹かれ入社を決意しました。 |
入社後、寒冷地向け給湯器の研究開発に取り組み始めた谷村さんは、フランスやスウェーデン、ドイツなどを訪れ、最先端の技術に触れながら知見を深めていきました。「海外出張を認めてもらえたため、とても良い体験ができました」と当時を振り返ります。
そんな中、谷村さんも参加した入社3年次研修にて、あるアイデアが突然舞い降ります。それが後のbitescanでした。bitescanは、耳にかけるだけで食事中の噛む回数、噛むテンポ、食事時間を計測できる画期的なヘルスケアデバイス。この研修で実施されたグループワークにおいて、谷村さんたちのチームは「噛む」ことに着目したのです。
当時、シャープの健康関連商品は、外側からアプローチして健康をサポートするものが殆どでした。例えば、空気を綺麗にしたり、乾燥しないように保湿したり。しかし、健康を維持していくためには、人が持つ本来の力を引き出すための内側からのアプローチも必要なのではないかと考えたんです。 |
調べてみると、よく噛むことは身体だけではなく、心にも頭にも良い影響を与えることが判明(脳の活性化、消化補助、情緒の安定など)。噛む回数を「見える化」することを軸に、グループワークでの発表準備を進めていきました。
同じチームのメンバーとは寮で一緒に暮らしていたので、就業後も自主的に集まり議論を重ねました。次々にアイデアが飛び出し、bitescanについて同期の仲間と話す時間は有意義で楽しかったですね。 |
あくまで研修内容のひとつだったにもかかわらず、谷村さんたちは時間を惜しまず没頭しました。その甲斐あって、グループワーク最後の提言発表会で高い評価を獲得。その後に開催された全社大会では見事優勝を果たします。
すると、もう少し研究を続けてみてはどうかと会社から言ってもらえまして。あらゆる部門からメンバーを募る『R-CATS(アールキャッツ)』という制度を活用し、それぞれの本来の業務と兼業しながら推進していくことになりました。 |
まったく新しいbitescanに、多くの“シャープ人”が何かを感じ取ったのでしょう。
手探りの状態から商品化を模索。仲間の応援が励みに
谷村さんはリーダー的存在としてbitescanの商品化に向けて取り組み始めますが、まさに手探りの状態からのスタートでした。
これまで世の中には無かった商品であるがゆえに、bitescanがビジネスとして成り立つのかどうかを判断できる人が社内にも社外にもいませんでした。 |
「暗闇を歩いているようだった」と回顧する谷村さんですが、そこに一筋の光を灯したのは仲間の頑張りでした。
あるメンバーが日本咀嚼学会の懇親会に飛び込みで参加し、たくさんの人と名刺交換をしてきてくれまして。そこでの出会いが現在の新潟大学大学院での研究にもつながっているのですが、社外からも知恵を拝借できたことでbitescanの仕様が徐々に明確化していきました。 |
その仕様をもとに、当時シャープにあった「戦略投資枠」に応募することに。これは「新しい取り組みに対し投資を行う」というものでしたが、書類審査や面談などをクリアしなければ採択されません。谷村さんは厳しいハードルを何とか乗り越え、会社から投資を受けることに成功しました。「ここがターニングポイントだった」と指摘します。
この投資のおかげでプロトタイプのアプリとハードウェアを作れたことが、商品化にとって大きな追い風となりました」 |
それからはトライアルを継続する地道な日々が続きます。けれど、谷村さんは一人きりではありませんでした。
一斉メールを通して社内でモニターを募集すると、何人もの人が手を挙げてくれました。忙しい仕事の時間を割いてでも応援してくれる人たちがいるのは心強かったですね。 |
部門を越え、事あるごとに手を差し伸べてくれる会社の仲間たち。「絶対にあきらめてはいけない」。谷村さんは次第にそう思うようになっていったそうです。bitescanが商品化に至り、まず抱いた感想は「これで仲間に顔向けできる」というものでした。入社3年次研修での構想から約5年。決して平坦な道のりではありませんでしたが、仲間の支えがあったからこそ実現できたと谷村さんは強調しました。
bitescanはシャープじゃないと生まれていなかった
谷村さんの活動に刺激を受けたのか、今では後輩たちも新ビジネスの検討を始めているようです。ボトムアップで新たな価値を提供する。そんなシャープの風土はますます進化しています。
シャープには、業務には関係なくても関心を寄せてくれたり興味を持ってくれたりする人がたくさんいます。自分のアイデアで誰かに貢献したいという前向きな人ばかり。何か困ったとき、誰かに相談すれば詳しい人を紹介してくれますし、おかげで社内外に知り合いが随分と増えました。 |
自分が応援してもらったように後輩たちの手助けができればと話す谷村さんですが、もちろん、現状に満足しているわけではありません。専任となった今、その視線はbitescanが描く未来に向けられています。
bitescanは、子どもから高齢者まで幅広い年代の人々に貢献できる可能性を秘めたデバイスです。子どもたちの食育やビジネスパーソンのダイエットなどにも役立てていただけるでしょう。商品化とはいえ、現状はまだ企業や大学等研究機関向けのBtoB製品。bitescanの商品価値を高め、噛むことで健康を引き出す世界観を世の中に普及させていきたいですね。 |
シミュレーションや実験装置での検証をはじめ、企画、営業、研究活動などbitescanにかかわる全工程に携わることで経験を積んだ谷村さんは、「チャレンジできる土壌でこれからも取り組んでいきたい」と話します。
bitescanはシャープじゃないと生まれていなかった――。谷村さんは、こう断言します。柔軟な若者だから思いつく新鮮なアイデアを無下にせず、みんなで支え応援する。そのような風土が根付いているからこそ、シャープは新しい価値をどんどん生み出すことができているのでしょう。
健康にとって、噛むことの大切さを気づかせてくれるbitescan。小さなアイデアの種が花開いた背景には、若手技師のただならぬ情熱と同じ価値観を共有する仲間たちとの強い絆がありました。
※1 出展:よく噛んで食べる忘れられた究極の健康法 斎藤滋著
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