平成最後の年となった2018年。年の瀬を迎え、時代の移り変わりを感慨深く感じている人も多いのではないだろうか。

そこで今回は2018年の音楽シーンを振り返るべく、今年1年に海外で最も再生された国内アーティストのSpotifyランキングをチェック。その傾向をニッポン放送のアナウンサーで、さまざまな音楽ジャンルに精通する吉田尚記さんに分析してもらった。

\吉田尚記(よしだ・ひさのり)さんとは?/

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。『ミュ~コミ+プラス』(月~木曜日24時より放送中)のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞。「マンガ大賞」発起人および選考委員。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計13万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーに。近著に『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』(太田出版)がある。マンガ・アニメ・アイドル・落語・デジタルガジェットなど、多彩なジャンルに精通しており、年間100本におよぶアニメ・アイドル・ゲームなどのイベントの司会を務めている。

■公式Twitter:@yoshidahisanori

想定内? 想定外? ランキングを一挙紹介!

まずは、「2018年に海外で最も再生された国内アーティスト」、「2018年に海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」の各ランキングを紹介していこう。

◆2018年に海外で最も再生された国内アーティスト by Spotify

◆2018年に海外で最も再生された国内楽曲 by Spotify

以上の結果となっている。これを踏まえ、吉田尚記さんはどのような分析をするのだろうか。

日本に求められるのは“クオリティ感”と“アニメ”


―――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、吉田さんはこのランキングを見てどういった印象を持たれましたか?

吉田さん:『海外の方が日本のアーティストに求めているものは“クオリティ感”と“アニメ”なんだな』というのがわかるランキングだと思いましたね。

―――坂本龍一や久石譲など、世界的に著名なサウンドクリエイターや、小瀬村晶といったSpotifyのプレイリストによくピックアップされるポストクラシカルのアーティストはまさに“クオリティ感”が求められたもの。そして、それ以外のアーティストについては、アニメの主題歌や劇中歌など多くがアニメと紐づいていますね。

吉田さん:「クオリティとアニメの両方を兼ね備えたAimerが入ってくるのはすごく理解できる気がしますね。RADWINPSもアニメ映画の主題歌がヒットしましたし、『Unravel/TK from 凛として時雨』や『Peace Sign/米津玄師』もアニソンですから。

米津玄師の中でもなぜこの曲か、というのもアニメ『僕らのヒーローアカデミア』の主題歌だからだと思います。“ヒロアカ”は海外でもものすごく人気なんですよ。FLOWもアニメ『NARUTO』の影響が大きく、南米に行くと大スターなんですよね。

あとは、『あんまりニコニコしていない楽曲の方が海外ではウケるのかな?』という印象ですね。アニソンと言っても、アニメファンが喜ぶ楽曲というよりも、しっかりと聴かせることのできる楽曲が多い気がします。


日本だともっとベタベタな曲が入ってきそうですけど、ちょっと傾向が違うんですね。海外から日本に求められているのは、“クール”なのかもしれませんね

―――たしかにランキングの結果からは、日本のアニメがジャパニーズカルチャーとして海外に受け入れられていることがうかがえます。

吉田さん:「ただ、日本のランキングになるとまた違ってくると思います。日本の場合、本当に今は聴いている音楽がそれぞれでバラバラです。

米津玄師さんは、ボカロP時代の“ハチ”から名前を変えたくらいのタイミングでお会いしているんですが、世間的には昨年から今年にかけてブレイクしたという印象ではないでしょうか。しかし、まだ知らない人もいるような感じですよね。

ONE OK ROCKも若い世代には人気ですけど、多分50代60代の方は知らない人が多い。『昔は紅白歌手なら全世代が知っている』というような感じでしたが、今は良くも悪くも分断されていますね」

―――日本の中では、世代や嗜好によって聴かれる楽曲がバラバラで、全世代が聴いているという楽曲というのはほとんどない。アニメなどのフックがあったうえで聴かれている海外のランキングとは事情が変わってくるんでしょうね。

吉田さん:「そうですね。しかし、アーティストの1位になっているONE OK ROCKについては、アニメ云々というよりも、彼らがもともと洋楽志向だったことが大きいでしょう。そもそも海外しか見ていなかったところはあります。

そういう意味で、BABYMETALとは対照的。今は海外に向けた戦略も進めていますが、最初は演奏がメタルでボーカルスタイルがアイドルっていうスタイルがこれまでになくて、海外とか全く考えずに日本でひたすら面白がっていた。それを海外の人が“なんだこれは!”と興味を持たれて、浮世絵みたいな感じでヒットしたわけです。

BABYMETALはメンバーの卒業もあって、今年は変化がありました。先日、さいたまスーパーアリーナでのコンサートを観てきたんですが、ステージのつくりがレディー・ガガとかそういう志向で出来上がっていましたよ。ゲストにスウェーデンのメタル・バンドSABATONが出てきたりして、僕自身はメタルには詳しくないですけど、ものすごくエンタメバンドでメチャクチャ面白かったです!」

>>ONE OK ROCKのプレイリストはこちらをクリック!<<
>>BABYMETALはこちらをクリック!<<

―――最初から狙うか、国内で盛り上がったものを海外に出すか。きっかけはどちらにせよ、海外の本格派と渡り合えるほどのパフォーマンスを作り上げたアーティストがやはり人気となっているといえそうです。ここからも、やはり“クオリティ感”が求められていることがわかりますね。

2019年にブレイク!? 声優×ヒップホップの異例プロジェクト


―――それではランキングを離れ、2018年の音楽シーンで吉田さんが印象に残っているエピソードを教えていただけますか?

吉田さん:「別のアーティストファンの盛り上がりから、相乗効果でヒットにつながった『U.S.A./DA PUMP』は面白いなと思いました。

アイドルって半分はファンが作品でもあるんです。自分の好みじゃないものは徹底的に排除するファンもいるんですけど、目当てのアーティストが予想外のことをしても、そのアーティストを気持ちよくして帰すファンっているんですよ。今年、その典型となったのが『U.S.A./DA PUMP』でしょうね。

この曲は、当初からどこかハロプロっぽいと言われていて、池袋のリリースイベントも半数がハロプロファンだったそうです。でも、実は聴き手側がより面白くしてアーティストに返しちゃうパターンは、アイドルやアニメファンにはよくあること。お客さんがより面白くして返すのはオタクの得意技です(笑)」

>>DA PUMPのU.S.A.プレイリストはこちらをクリック!<<


―――それは面白い文化ですね! ちなみに吉田さんが2019年に注目するアーティストはいらっしゃいますか?

吉田さん:男性声優キャララップバトル『ヒプノシスマイク』は、2019年、ものすごいことになると思いますよ。まさに今、盛り上がりが始まったところです。

これは男性声優によるキャラクターラップのプロジェクトで、アニメではなく、キャラクターの絵と音楽と声優さんの声があるだけなんですが、これがもう女子に刺さりまくっているんですよ。

さらに彼らのすごいところは、普通クオリティの高いものだけを音源にすると思うんですが、あえて下手な場合もそのまま音源にしちゃって。それがこの1年でどんどんうまくなってきていて成長を感じられるんです。

楽曲の作り手側もかなり本格的な人が入っていますが、そこも面白いところ。彼らが自分でやるとディスになりそうなことも、キャラクターとして歌うためだからと手加減しない作りになっているんです」

吉田さんの予想では、「ヒプノシスマイク」はすでにCDの売り上げが10万枚を超え、イベントなどでは1万人を動員するほどの人気となっているが、ブレイクとしては2019年とのこと。

吉田さん:「これが日本の枠を超えていけるかどうかはまだわからないですが、事実として今日本のHIP-HOPで一番売れているのではヒプノシスマイクですね。それでも、今みんなが気付いたくらいの状態です。

そして、アニメ化とゲーム化という彼らの得意分野であるカードをまだ切っていない。ゲーム化は発表になりましたが、アニメもやらないわけがないんですよね。あとは日本語の壁がどうなるか、ですが……。

ただ、先日シンガポールでアニメイベントの司会をしたんですが、そこに来ていた韓国人の方が『日本語はオタクにとってのラテン語です』と言っていたんですね。海外の気合の入ったオタクにとって、もはや日本語は出来て当たり前なんですよ。ヒプノシスマイクがそこに乗れるかは、これからですね」

>>ヒプノシスマイクのプレイリストはこちらをクリック!<<

また、最後に超個人的に気になっているアーティストがいるということなので、その方について教えていただいた。

吉田さん:「fhánaというここ5年くらい活動しているアニソンバンドなのですが、メンバーの佐藤純一くんが、とんでもないほどのサウンドクリエイターで。作っている曲はアニソンなんですが、同じような曲を作らないんですね。毎回、信じられないようなところから文脈を持ってくるんです。

最近だと、『STORIES』という曲の中に、One Directionみたいなニュアンスの部分を入れ込んできているんです。アニソンとOne Directionの要素ですよ? アニソンをベースに置いたまま、いろいろなものを混ぜる。ものすごく音楽的な視野が広いんです。『次はなんだろう?』って毎回期待しちゃうんですよね」

>>fhánaの『STORIES』のプレイリストはこちらをクリック!<<

―――それは、2019年が楽しみですね! 吉田さん、本日はありがとうございました。

***

ランキングの分析で言えば、fhánaもクオリティとアニメを兼ね備えたアーティスト。小さなきっかけが大きなムーブメントとなり、2019年はランキングに食い込んでくるかもしれない。

SpotifyではいまSNSで話題の曲をランキングにしたバイラルチャートや、人気プレイリストに入ることによって、思わぬムーブメントが起こることがある。今回ランクインしたアーティストや楽曲はもちろん、気になるチャートやプレイリストをチェックして、あなたも次のブレイクアーティストを見つけてみてはいかがだろうか。

[PR]提供:Spotify