6月8日にカシオ計算機から発売された「OCEANUS Manta OCW-S4000C」(価格:20万円/税別)は、世界限定1,500本の特別モデル。その新しいコンセプトは「伝統と革新の融合」。サファイアガラスのベゼルに伝統工芸「江戸切子」の技術を用い、なおかつMantaシリーズ初のConnectedエンジンを搭載。Bluetoothによるスマートフォン連携と標準電波、2種類の時刻取得と、アプリ連携を実現。「Elegance,Technology」の哲学がTOKYO Designとして具現化されました。
今回は、その外装のキービジュアルともいえるベゼルの製作を担う江戸切子職人、三代秀石 堀口徹氏の工房を訪問。OCEANUSの新しい美のたたずまいに込められた、想いと背景について伺います。
「江戸切子=カット装飾が施されたガラス製品のこと。そう思われている方が意外に多い。しかし正しくはそれだけではなく、今回のシンプルな装飾(カット)加工のことも指すんですよ。したがって、実は皆さんの想像以上に様々な形やデザインがあるんです」と堀口氏。
たしかに、あのキラキラ輝く赤や青のグラスやぐい呑みを漠然と思い浮かべる人も少なくないはず。何を隠そう、筆者もその一人でした。
堀口氏:「ちなみに、グラスなど(の製品素材)は、自分では作りません。ガラス自体を作る作家さんや職人さんが作ったものを納品してもらい、それを僕ら江戸切子の職人が加工しています。例えるなら、漁師さんとお寿司屋さんのような関係。完全に分業制です」
また、江戸切子の「江戸」は、「江戸時代から続く」という意味に加え、産地指定としての意味もあるそうです。現在、江戸切子の職人は100人ほどで、その6割が江東区、4割が東京近郊の工場、工房で作業をされているのだとか。
堀口氏:「江戸切子であるためのルールは、江戸切子協同組合が規定しています。素材がガラスであること、手作業であること、そして、加工で主に回転道具を使っていること。意外とざっくりしているでしょう?
確認できる文献では1834年、つまり江戸時代後期に江戸切子の記述が登場します。が、皆さんが江戸切子と聞いて思い浮かべる模様は、実は昭和後期に流行ったものなんです。江戸時代のものとは、色も形もまったく違う。先人が残してくれた作品を数多く読み解いていくと、その共通要素は先に挙げた4つ(産地指定を含む)くらいしかありません。
江戸切子は伝統工芸であると同時に、180年以上続く産業です。使う人のニーズは時代やライフスタイルとともに変化するし、産業はそれに応えて行かなければならない。すると当然、用途やデザインはどんどん多様になって、色や柄、形ではくくれなくなるんです」