経営戦略や人材の確保、社員の意識改革など、企業が直面している課題は多い。その一つひとつを解決するために、社内ルールの改正、新たなITツールやテレワークの導入など、さまざまな施策が検討されている。そんな中、いままではデザイン面しか重視されていなかったオフィスデザインも、捉えられ方が大きく変わってきた。月刊総務編集長の豊田健一氏はオフィスデザインが持つ力を次のように語る。
「オフィスデザインは企業の課題解決という意味において、さまざまな役割を担えます。まずあげられるのが、多様な働く場の創出という役割です。画一的な働く場ではなく、いま必要とされる働くモードに適した働く場があれば、当然ながら仕事の効率性は上がります。また、創造性の向上という、いわゆるイノベーション創出を目的としたオフィスの役割も担えます。コピーを1ヶ所に集めたマグネットポイントがあったり、リラックスした会話ができるリフレッシュコーナーをつくったりと、異なった部門の社員が偶発的に出会うようにすることで、イノベーションがより生み出されやすくなります。さらに付け加えるなら、採用力を向上させるという役割もあります。同じ仕事をするのであれば、健康的で多様性のある、綺麗なオフィスで働く方を選びたくなりますよね」
そこで、いまのオフィスが手狭になり引っ越しを考えている、レイアウトを変えたいなど、変化を求められている総務や経営者に、コニカミノルタジャパンが提案する、新しいオフィスデザインを紹介する。「オシャレ」「最先端」というデザイン面だけにとどまらない、企業課題への解決策として、有力な選択肢となるはずだ。
「理想のデザイン」からではなく「理想の働き方」からオフィスをつくっていく
複合機をはじめとする情報機器、ヘルスケア、計測機器といった幅広い事業を日本全国に展開するコニカミノルタジャパン。最近では、これまで培った豊富なノウハウを活かしたドキュメント管理事業やICTソリューション事業と合わせて、空間デザイン事業にも注力している。
同社 マーケティングサービス統括部 空間デザイン推進部の部長 宮本晃氏は、「当社自身が本社オフィス移転をきっかけに、新しい働き方が実現できるオフィスデザインにしているので、自社実践に基づいてお客様に提案や運用のアドバイスを行うことができます」と話す。
同社の空間デザイン部は2012年に事業を開始し、デザイン性の良さだけでなく、顧客が希望する「働き方」を実現するデザインにこだわっている。デザイナーやプロジェクトマネージャー(PM)、セールスなど、それぞれの分野のプロフェッショナル約20人が在席する少数精鋭の部隊だ。そんな経験豊富なメンバーがチームを組み、物件探しからデザイン、引っ越しに至るまで一貫して顧客と寄り添いながら、期日や予算に合わせて親身・丁寧なサポートを行っている。そうした姿勢が評価され、現在の案件は年間100~120件にもなるという。
「オフィスの引っ越しやリニューアルはさまざまなベンダーとやり取りが発生するため、総務部門がすべてを担うのは大変です。そこで我々がPMとして入り、コスト管理も含めてお客様のニーズに沿ってしっかりと代行します」(宮本氏)
什器等の選定においても、メーカーに縛られることなく、全体のコストと顧客の求めるデザインなどを踏まえて自由に組み合わせることができるのも同社の強みの1つだ。
「よくお客様から『オフィスづくりをしているうちに段々と自分の家をつくっているような気持ちになってきました』と言われるのですが、そういった気持ちになっていただけることが大切だと思っています。自分が愛着を持ち働きたいと思えるオフィスだからこそ、仕事のモチベーションが上がり生産性も向上するからです」と宮本氏は笑顔で語る。
自社オフィスの引っ越しプロジェクトから得た「財産」とは
コニカミノルタジャパンは、2014年8月に本社オフィスを日本橋から浜松町へと移転した。この引っ越しプロジェクトで掲げられた一大テーマが、コミュニケーションがより活発化するオフィスにすることだった。プロジェクトの事務局を務めた同社経営企画本部 人事総務統括部 総務部担当部長 神保榮一氏はこう振り返る。
「まずは自分たちがどのような働き方をしたいのか、さらには自身がどうなりたいのか徹底的に議論しました。やがてそれがコンセプトとして固まっていったのです」
プロジェクトのメンバーには若い社員に多く入ってもらい、ディスカッションでさまざまな要望を上げてもらいながら、それをデザインに落とし込んでいった。社内カフェもその1つだ。洗練されながらもゆったりとくつろげるデザインのカフェで、値段も格安とあって、近くのチェーン店を使う機会がめっきり減った社員も多いという。
オフィススペースはフリーアドレス制となっており、働き方が大きく変わったのに加え、部門を越えたコミュニケーションが活発化している。
「営業も技術もバックオフィスもどのメンバーもフリーアドレスで働いていて、お互いに隣どうしで働くことも普通になりました。最初のうちは抵抗のある社員もいましたが、さまざまなかたちの交流が生まれてきたことに加え、集中したいときは、ソロワーク席を使うなど、その日の自分に働き方に合った場所を選択して働くことが普通になっていますね」(神保氏)
自分たちが目指す働き方を追求した結果、会議室の予約もできる施設管理予約システムも独自開発してしまった。Microsoft Outlookと連携しており会議室の予約とメンバーの招聘が一気にできるほか、使われていない会議室は自動的にキャンセルされる仕組みも備えている。これにより以前はなかなか減らなかったカラ予約などもなくなり、会議室の稼働率は9割以上にもなっている。ちなみにそれぞれの会議室の名称は世界中の都市から付けられているが、これも社員投票によるものだ。
プロジェクトチームのメンバーでもあった宮本氏は、「これからのオフィスづくりというのは、単に『箱』を構築するのではなく、まず自分たちが目指す働き方を考えて、そこを基点にデザインするようになっていくでしょう。そのノウハウを自ら実践しながら得ることができたことはかけがえのない財産となっています。本社オフィスの後には、札幌、名古屋、大阪、福岡それぞれのオフィスでもリニューアルを実践しており、そのノウハウも蓄積されています」と語る。