私たちの暮らしに無くてはならない電気。24時間365日使い続けられるのは、発電所で働く人々が居るからこそだ。なかなか接する機会のない、発電所で保守や工事を担当している方々に直接話を伺う機会があったので紹介しよう。

  • 岐阜県大野郡白川村にある御母衣ダム(奥の山の間に雪が積もっている白いところがダムの提体)

  • 夏のダムの様子。日本屈指のロックフィルダム、その存在感は圧倒的だ

御母衣ダムは「20世紀のピラミッド」

1952年9月に国によって設立された電源開発株式会社(J-POWER)。2004年に完全民営化、全国に約100カ所の発電所を有し、地域の電力会社を通じて私たちに電気を届けてくれている。

そんなJ-POWERが運用している発電所のひとつに御母衣発電所がある。「御母衣ダムが完成し、同発電所が発電を開始したのが1961年。つまり、今年で57周年を迎える施設です」と話すJ-POWER御母衣電力所長の足立健治氏。

J-POWER御母衣電力所長の足立氏

世界遺産の「白川郷」から車で約30分の位置にあるこの地域は古くから水力発電のためのダムが作られていた経緯がある。「ひるがの高原を分水嶺として、日本海側へは庄川、太平洋側へは長良川が流れています。御母衣ダムは庄川に作られました。庄川流域は急峻で水力発電に適しており、大正時代からダムがたくさん作られてきました」(足立氏)

足立氏は「御母衣ダムが白山連峰から流れ出る雪解け水の大きな受け皿となり、下流のダムでも効率よく水資源を使えるようになったのです」と話す。

流域の要衝ともなっている御母衣ダムは、日本屈指のロックフィルダムとしても知られている。「ダムには大きく分けてコンクリートダムとロックフィルダムがあります。ロックフィルダムを簡単に説明すると、土と岩を使って水を堰き止めるダムのことを指しています」と解説してくれたのは所長代理の原口繁樹氏。

  • J-POWER御母衣電力所長代理の原口氏

出来上がったダムは約3億7000万立方メートルという膨大な水量を受け止めており、建設当時は日本初の大規模ロックフィルダムであったことから、当時は「東洋一のロックフィル」、「20世紀のピラミッド」などと呼ばれていた。

御母衣ダムのシンボルは「荘川桜」

もうひとつ、御母衣ダムを語る上で欠かせないエピソードがある。それは湖畔に凛とそびえる2本の老桜だ。「樹齢450年余りの『荘川桜』は私たちJ-POWERのエネルギーと環境の共生のシンボルでもあるのです」と足立氏は話す。

ダムの建設が決まり、当時の白川村と荘川村に住む約1,200名の人々は移転を余儀なくされた。そこへ訪れた初代総裁である高碕達之助氏が水没によってふるさとを失う人々を想い、村が大切に守ってきた2本のアズマヒガンザクラの移植を決意。移植は困難とされていたが、多くの人の尽力によって奇跡的に湖畔への移植に成功したのだ。足立氏が「地域の人々との共生を第一に考えるという意味を含め、荘川桜はこれからも大切に守っていきます」と胸を張って語っていたのが印象的だった。

  • 春の雪融けを待つ老桜、荘川桜

なお、御母衣ダムの歴史や発電所の仕組みを紹介する「MIBOROダムサイドパーク 御母衣電力館・荘川桜記念館」という施設が御母衣ダムの隣接にある。現地を訪れる機会があれば、荘川桜とあわせてぜひ立ち寄って欲しい。