3月に発売されたカシオ計算機のコンパクトデジタルカメラ「EXILIM EX-FR100L」(以下、FR100L)。FRシリーズはこれまで、コントローラー部とカメラ部が分離する特性を生かし、アウトドアやスポーツに親しむユーザーをメインとして商品展開を行ってきた。それが最新モデルのFR100Lでは、大きくイメージを変更。若い女性を意識したデザインや、印象的な自撮りを簡単にする機能を打ち出した。そんな開発の背景や苦労を、商品企画を担当した山田健人氏とUIデザインを担当した菅原若菜氏に伺ってきた。

FR100Lのカラーバリエーションはピンクとホワイト

Instagramからヒントを得た新機能

―― FR100Lはピンクとホワイトで、前モデルとずいぶん印象が変わりましたね。

カシオ計算機 コンシューマ開発本部 商品企画部 山田健人氏

山田氏:はい、女性を意識した配色です。また、SNS映えする自撮り写真を簡単に撮影できる「美脚ガイド」と「メイクアップアート」機能も追加しました。

―― 今回のFR100Lをつくることになったきっかけを教えてください。

山田氏:現行モデルのFR100はアウトドアユースが大半だと考えていたのですが、調べてみると、実はInstagramなどでは圧倒的に女性の自撮り用途での利用が多かったんです。しかも16mmの超広角レンズと分離する形状を活用し、全身の自撮りや背景の構図、加工にこだわっていて。カメラ部を離して置き、コントローラー部で構図を確認しながら撮影されることもわかってきました。彩度やコントラストを変えたアート調の写真も多く見られたので、そうしたアイデアを機能化してはどうかと考えたのが始まりでした。

FR100Lは写真のように本体とコントローラを分割できる形状が特徴だ

―― 海外向けのTRシリーズなど、カシオの女性向けカメラが自撮りに強いとアジアで評価されていることも関係ありますか?

山田氏:そうですね。InstagramでFR100のハッシュタグを見ると最近では日本の方の投稿もかなり増えてきていますが、開発当初は台湾を中心にアジア圏の方の投稿が多かったので、台湾でも調査を行うなどしました。

―― そして完成したのがFR100Lだと。

山田氏:その通りです。FR100Lは、FR100を女性の自撮りに特化させたモデルと言えます。加工アプリを使わなくても、SNS映えする写真が簡単に撮影できるように進化させました。超広角レンズを活かして簡単に脚長撮りができる機能の「美脚ガイド」、自動で自然な美肌と鮮やかな背景を両立させるように調整し、簡単にSNS映えする写真になる機能の「メイクアップアート」を新搭載しました。

数万枚の自撮り写真から導き出した黄金比「美脚ガイド」

※美脚ガイドとは……

ベージュ部分に顔、ピンク部分に足を置くだけで、簡単に美しいプロポーションになる「美脚モード」。画像左は座り、右は立ちのガイドとなる。詳細は後述

―― 「美脚ガイド」に落とし込むためにはどんな分析を?

山田氏:Instagramで評価の高い脚長写真を複数枚参考にして、脚長撮りの研究から始めました。超広角レンズなので、適切な撮影方法を知らないと顔が伸びたり胴長になったりして、バランスの良いかっこいい脚長写真を撮影するのは意外と難しいんです。何万枚も自撮りして、最終的にカメラの高さと距離、カメラのヒンジの角度を調整していくうちに、角度90度、高さ100cm(腰の高さ)、距離100cmという黄金比を見つけ出しました。

失敗例あれこれ。顔が大きい、バランスが悪い、短足に見えるなど、ヒンジが自由に動く分ベストな位置を見つけるのは大変だったそう

―― 立ちと座りのモードがありますよね。

山田氏:座りのほうが分析は楽でしたね。身体の写る面積が減ってバランスが崩れにくいのもあると思います。少し身体を引いたりと、被写体のポーズにも自由度がありますし。黄金比を見つけ出すのに、半年ほどかかったでしょうか。真夏の技術センターの駐車場で倒れそうになりながら毎日撮影をしていたんです。

―― お疲れさまでした。ご自身の体験をフィードバックされているのが本当によくわかります。その分析とガイドなどのデザイン作業は平行して行われたのですか?

山田氏と今回UIデザインを担当した菅原氏

山田氏:ターゲットとやりたい機能の大枠が決まった時点でお願いしました。そこからは一緒に進めていく感じですね。美脚ガイドであれば、ベージュ部分に顔、ピンク部分に足といった領域があり、それだけこちらで決定し、あとのデザイン部分を女性向けに考えてもらいました。

菅原氏:ガイドはREC画面に出てくるのですが、枠外に人型ピクトを用意し、顔はベージュ、足はピンクにして関連づけました。画面に情報を乗せすぎるとかえって撮影の邪魔になるので注意し、シンプルでかわいい色を選びました。また光が強いリゾートでも見えやすいよう屋外で実験し、REC画面上の被写体も見づらくならない透明度を調整しました。

実際に人物がいる状態のREC画面。このようにガイドが出るので、とてもわかりやすい

―― 印刷物とREC画面では色表現も違っていそうですね

菅原氏:かなり違います。印刷だと沈んでしまう色も、画面ではキレイに表現できるので、デザインの幅は広いのですが、FR100Lで使えるカラーパレットに限りがあるため、その中で色数を納める必要があるんです。ガイド色の候補にはグラデーションで表現するものもありましたが、視認性や色の連続性がなくなる恐れも考慮し一色としました。