ワコムから4月18日に発売される液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 16」。昨年12月には、同シリーズの「Wacom Cintiq Pro 13」が発売されているが、一回り大きなサイズの16インチ(15.6型)版の発売を心待ちにしていた人も多いのではないだろうか。最大3,840×2,160ドットの高解像度と、RGBカバー率94%を実現したディスプレイを搭載し、ペンの精度も従来の「プロペン」と比較し、4倍(8,192レベル)に進化したという本モデル。
今回、発売間近の同製品を体験することができたので、その使用感をレビューしたい。なお筆者は日頃、ペンタブレットはIntuos 5シリーズを使用している。「板タブ」ユーザーの視点から感じた操作性の違いや、液晶タブレットの魅力についても紹介していきたい。
デザイン面での進化
パッケージを開け、タブレットを手に取ると、その薄さと軽さに驚いた。「液晶タブレットというと、重くてかさばるのでは?」という先入観を持っていたが、日頃使っているIntuos 5のLサイズのペンタブレットとサイズ・厚みはほぼ変わらない。デザインも非常にすっきりとしており、洗練されている印象だ。Wacom Intuos Proシリーズとの大きな違いとして、ファンクションキーやタッチホイールが取り払われ、スクリーン表面に一切物理的なボタンがついていないということが挙げられる。ワコムの"板タブ"ユーザーにはおなじみのキーやホイールがないのは驚くが、その分デザイン面で大きな進化を獲得したと言える。
タブレット背面には、角度調節のためのスタンドが内蔵されており、このあたりのプロダクト設計も、従来の製品に比べると非常にコンパクトですっきりとした印象だ。スタンドは指で軽く押すと立ち上がり、描画に適した20度の角度にセットできる。
※ショートカット操作については、17のボタンとタッチホイールを搭載した「Wacom ExpressKey Remote」(別売り)をアクセサリとして組み合わせることでカバーできる。
USB Type-Cに対応
パッケージ内には、電源用のACアダプタのほかに、PCとタブレットを繋ぐためのケーブルが3種同梱されている。どのケーブルで繋ぐかは、PC側の環境に応じて異なる。Type-CのUSBポートがあれば、ポート1(※ポート1以外に繋ぐと、2K表示になる)にType-Cケーブル1本での接続が可能だ。PCがUSB-Cに対応していない場合は、同梱のWacom Linkアダプタを使用し、通常のUSBとmini Display Portのケーブル2本で接続する形となる。
なお、対応システムとして、USB Type-CポートないしはMini Display PortとUSBポートを標準装備したPCもしくはMacで、Windows 7以降(最新のSP適用)もしくはOS X 10.10以降が動作する環境が必要であるため、購入前に作業環境は確認しておきたい。
※3,840×2,160の解像度の場合はUSB Type-Cでの接続が必須。Wacom Link経由で接続した場合は、最大解像度2K(2,560×1,440)までの表示となる。
ペンの書き心地は?
実際にPhotoshopを開いてペンで描画をしてみる。ペン先にしっかりとカーソルが追従し、線にブレがまったく無い。マットな質感のガラス面は、さらっとしていて、手のひらを置いた時のすべりも良く、またガラスの厚みをほとんど感じさせないのが印象的だ。ガラス面の厚みを感じないということは、つまり視差が小さいということであり、思い通りの位置に思った通りの点や線が描けるということだ。
筆圧感知については、従来の「プロペン」も既に高度な筆圧感知レベルを持つので、正直なところはっきりとした変化は感じなかったのだが、わずかな力の増減も細かく反映されている印象を受けた。線の太さだけでなく、色の濃淡などの着彩での作業にも筆圧感知機能が欠かせない筆者にとっては、小さな力の差異もキャッチしてくれるのはうれしいポイントだ。
線画の精度がアップする
日頃は「板タブ」を使用している筆者が「液タブ」を使ってみたときに感じた一番の大きな違いは、単純ではあるが「手元を見ながら描き込める」ことの安心感である。板タブに慣れすぎていたので、普段もはやストレスにも感じていなかったが、描いている手元と実際にポインタのある画面とが離れた距離にあるということは、紙に描く動作に比べるといくらかは精度が落ちるはずだ。
例えば、一度引いた線の上にもう一度線を重ねて太くしたい場合や、狙った場所に小さな点を打ちたいときなど、通常のタブレットでは場所やストロークの角度がずれてしまい、「Ctrl+Z」を押して一段階前に戻ってやり直す、ということも多いように思う。対して、液晶タブレットでは絵の上に直接ペンを下ろして動かすことができるため、精度がぐっと上がり描き直しが減る。線のブレも減り、イラストの線描はもちろん、細かな文字を書き込む際にも、なめらかさの差を感じた。線画を描く作業、いわゆる漫画の“ペン入れ”の作業をデジタルで行う必要があるクリエイターにとっては、液晶タブレットに移行することで得るメリットは非常に大きいと思う。
マルチタッチの直感的な操作
画面右上にあるキーでタッチ機能をONにすると、タッチジェスチャーでの操作が可能になる。指2本以上での「マルチタッチ」にも対応しているため、右手でペンを使いつつ左手を画面に添えてカンバスを拡大・縮小したり、回転させたりといった操作ができる。
この「マルチタッチ」は、Intuosシリーズにも搭載されている機能だが、実際のところ筆者はOFFにしてほとんど使っていないのが現状であった。タッチによる誤操作が起きるのが怖かったのと、視線は画面上にあるのでタッチジェスチャーのために手元に視線を移すのが面倒に感じられたからだ。しかし、液晶タブレットだと、不思議なことに「マルチタッチ」を自然と使いたくなってくる。液晶に直接触れてカンバスを拡大したり、回転させたりという動きが、机の上で実際に紙を動かしている感覚と非常に近いからだろう。
また、ペンを画面に近づけている間にはペンの挙動が優先され、手のひらで触れても誤認識することがほぼ無いのにも驚いた。常時ONにして使ってみたが、ストレスに感じる部分は無く、タッチの感度やレスポンスの速さも優れている。今までショートカットキーを使って拡大/縮小モードや回転モードに切り替え、またブラシモードに切り替え直し……と操作していたものが、直感的なタッチジェスチャーで代用できるようになるので、今まで以上に作業に集中できるように感じた。
ディスプレイの精度
「Wacom Cintiq Pro 16」の強みとして、4K解像度のディスプレイ性能が挙げられる。画面は非常に高精細で、細かな線描や緻密なレタッチ作業の際にもその威力を発揮する。従来のCintiqシリーズとの比較はできていないので、あくまで個人の主観的な印象として書かせて頂きたいが、日頃、板タブと一緒に使っている4K出力が可能な27インチiMacのディスプレイと比較しても、さほど遜色が無いように感じた。ディスプレイの明るさや色味は、画面設定でも細かく設定できるので、自分の持っているPCモニターに更に近くなるように調整が可能だ。
どのような人に適しているか?
従来のCintiqシリーズ13HD/22HDの各サイズ、最高峰モデルの大型スクリーンCintiq 27QHDなど、ワコムの液晶タブレットの中にも様々な種類のものがあるが、その中で今回使用した「Wacom Cintiq Pro 16」は、まさに筆者のように「板タブ」から「液タブ」への移行を検討している人にとって最適なモデルであると感じた。
筆圧感知やディスプレイの精度など、高いスペックを持ちながらに、デザインはコンパクトにまとまっており、趣味での使用からプロフェッショナルなユーズまで対応できる。サイズの面でも、Cintiq 22HDやCintiq 27QHDでは大型すぎると導入を迷っていたユーザーにとって、大きすぎず小さすぎないサイズ感もうれしい。特殊なケースとして、出張先や屋外など、場所を選ばない創作活動の必要があるクリエイターは、Wacom MobileStudio ProのようにCPUを内蔵したタイプのモデルが必要かもしれない。しかし、そのようなケースを除いては、値段の面でWacom Cintiq Proに軍配が上がる。
創作環境で重視する面と、目的を明確にして製品を選んでほしいが、これから液晶タブレットに切り替えたいと考えているユーザーや、現在Cintiq 13HDを使っているが作業環境をアップグレードしたいと考えているユーザーには、検討の価値が大いにあるモデルと言えるだろう。
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