よく「映画に比べるとテレビドラマはスケールが小さい」という声を耳にするが、そんな人こそ『LEADERS』を見てほしい。2014年に二夜連続で放送された同作は、「ナショナルドラマ」とも言うべき、日本人の誇りを詰め込んだような名作だった。
それから3年の歳月を経た今年3月26日(日)、まさかの続編『LEADERS II』の放送が決定。そのニュースを聞き、「あらためて同作の魅力を多くの人に知ってもらいたい」と思い、コラムを書かせてもらうことになった。
カリスマと社員たちの固い絆
『LEADERS』は、戦後、日本の未来のために、国産自動車開発に人生を賭けた人間たちの生き様を史実に基づいて描いたオリジナルドラマ。主人公の愛知佐一郎(佐藤浩市)が「欧米諸国より技術力が50年遅れている」という逆境の中、国産自動車の開発に挑む姿が描かれた。
「国産車の話は100人中99人が無理だというのさ。でもな、誰にでもできることをやる人生に何の意味がある。簡単にはできないことだからこそやる意味があるんじゃないかな。技術者だったら俺と一緒にいい夢見ないか?」
このセリフが物語るように、同作が佐一郎のリーダーシップを主軸にしたドラマであることは間違いない。しかし本当に描きたいのは、一人のカリスマではなく、同志としての信頼や絆。外国車を解体することからスタートしたゼロからの開発は挫折の連続だったが、佐一郎と社員たちの関係性は揺るがなかった。
たとえば、部下の三宅(高橋和也)は、「大変ではあるが、あの人の仲間に選ばれたことが誇らしくもある、一緒に苦労できることがうれしいのさ。あの人は社員すべてを家族だと考えてくれている」と語っている。
そしてエンジン開発が成功したとき、佐一郎と社員たちは「かかったぞ!」「やったー!!」と全身で喜びを爆発させた。汗と油にまみれた男たちの笑顔がまぶしく、声をあげて抱き合う歓喜のシーンに感動が押し寄せる。これと似たシーンが『下町ロケット』でも見られたことを覚えているだろうか?。
さらに振り返ると、これまでTBSでは多くのビジネスドラマを手がけてきている。つまり、「ビジネスシーンを描いたTBSのドラマは脈々と受け継がれ、作品ごとにドラマティックに進化している」ということだ。だからこそ、2017年に放送される『LEADERS II』への期待感は否応なしに高まっていく。
とにかく熱い。妥協なき福澤組
これまでにTBSのビジネスドラマを手がけてきたのは福澤克雄監督。そして、もうお気づきかもしれないが、このドラマを手がけたのはも福澤克雄監督なのだ。準備や天気などの労力がかかるロケを惜しまず、大量のエキストラを使い演技を求めるなど妥協のない完全燃焼型の演出で、迫力ある映像を生み出してきたTBSが誇る名監督だ。言わば、福澤監督もまた佐一郎と似たリーダーと言える。
『LEADERS』で印象深いのは、終戦を告げる玉音放送の直後、佐一郎が打ちひしがれる群衆に熱く問いかけるシーン。「われわれの本当の戦いはこれからだ。自動車でこの国を復興させる。それがわれわれの使命だ」「われわれの車を世界に売って日本を豊かにする。これからは自由経済の時代が来る。自動車産業でアメリカに負けない国を作る機会がやっと訪れたんだ」というメッセージで群衆に生気が戻る瞬間が、広角からの映像でとらえられていた。
登場人物のやり取りからは、このようなとてつもない熱量を感じるのだが、背景となる映像は、のどかな昭和の風景、古き良き工場の作業場など、どれも懐かしく温かい。当作から押しつけがましさや暑苦しさを感じないのは、背景へのこだわりと美しさによるところが大きいだろう。熱さと美しさのコントラストもまた福澤演出らしさと言える。
初めての悪役に挑む郷ひろみ
一方、『LEADERS II』で描かれるのは、国産自動車の開発に挑む佐一郎と、彼を販売面で支えた人々との物語。佐一郎と自動車販売店『日の出モータース』支配人の山崎亘(内野聖陽)の関係を軸にした熱き挑戦が見どころとなっている。
さらに、山崎の部下・日下部誠(東出昌大)、ピンチの佐一郎に手を差し伸べる菊間武二郎(大泉洋)や大島磯吉(山﨑努)など新キャストの熱演も期待大。そして、もう一人とっておきの目玉キャストがいる。それは「今回は人生で初めての“嫌な役”になります」と語る郷ひろみ。郷が演じる酒田健太郎は外車専門販売店の社長で、「国産車を軽視して佐一郎たちを苦しめる」役回りだけに、終盤の爽快感を左右するキーパーソンになりそうだ。
もちろん、『LEADERS』で好演した太田耐介(緋田康人)、高瀬善造(須田邦裕)ら、福澤監督作品の常連俳優も健在。福澤監督らしいハイテンポなセリフまわしとタイトなカメラワークの中で、生き生きとした姿を見せている。その他にも、石山又造(橋爪功)、北川隆二(吉田栄作)、神田征太郎(神保悟志)、近藤利郎(萩原聖人)ら、実績十分の俳優がそろい、魂をぶつけ合うような芝居が見られるだろう。
ビジネス作はそれだけで貴重
ここまで手放しで同作を称賛してきたが、その根底にあるのは、希少価値の高さ。そもそも日本にはビジネスの世界を描いたドラマそのものが少ない。骨太なビジネス作は視聴率競争のないNHKとWOWOWの独壇場で、民放各局は「事件解決」「医療」「ホーム」「恋愛」がテーマのドラマばかりを手がけている。
3年前に『LEADERS』を見た人は、「民放にもこんなドラマが作れるんだ」と驚いたのではないか。あるいは『LEADERS』を見逃して『下町ロケット』を見た人も似た心境だったのではないか。TBSは「高視聴率は期待できない」と言われ、民放各局が敬遠してきたビジネス作に挑戦し、熱い人間ドラマにこだわることで見事に結果を収めてきた。『LEADERS II』は挑戦TBSが手がけてきたビジネスドラマの現時点における集大成。それだけに、続編の品質に疑いの余地はない。
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
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