4月から始まる新生活に向け、新しい家具を探している方も多いだろう。家具は部屋の印象を大きく左右し、値段も安くはない。納得した上で気に入ったものを購入したいところだ。

「家具選びは、まず自分の部屋の状況を把握しておくことが重要です。服を選ぶときに『このトップスは、家のクローゼットのあのパンツと合うな』と考えると思います。同じように、家にすでにある家具をまず把握することで、新しい家具を置いたときのイメージがしやすくなるんですね」

こう話してくださったのは、HERMÈS petit h(エルメス・プティ アッシュ)・アディダスといった有名ブランドとのコラボレーションを多数手がけ、海外での評価も高いプロダクトデザイナー・藤城成貴さん。新生活を迎えるにあたり、大きな家具の購入を検討している人も多いと思いますが……。

藤城成貴(ふじしろしげき)
1998年より株式会社イデーに入社、定番商品および特注家具のデザインを担当。2005年に退社し、自身のスタジオshigeki fujishiro designを設立。HERMÈS petit h、アディダス、2016/aritaなどとのコラボレーションで国際的な注目も集めている

「例えばダイニングセットを選ぶとしたら、テーブルをシンプルに。逆にイスで遊ぶなどして、バランスを取ることが大切ですね。ソファは特に大きな家具なので、空間全体の印象を左右します。なるべく主張しすぎないシンプルなものがいいと思います」

藤城さんは、インテリアブランドIDÉE(イデー)から「シエラ ソファ」を発表している。シンプルな中でも、アームが特徴的なこの「シエラ ソファ」。今回マイナビニュースでは、藤城さんのデザインへのこだわりと、「シエラ ソファ」のデザインコンセプトに迫った。

正面から見ると直線的で、横から見るとカーブに見えるアーム部分が特徴。見る角度によって違う顔を見せる山脈を思わせることから「SIERRA(山脈)」と名付けられた

──本日はよろしくお願いします。藤城さんは現在フリーのデザイナーとして活躍されていますが、以前はイデーに在籍されていたそうですね。

イデーでは特注家具のデザインを担当していました。個別のお客さんに対して、お客さんが欲しいものをデザインする仕事です。その後、個人で独立し、展示会やブランドとのコラボレーションなどを経て、徐々に名前を知ってもらい、最近は色々なメーカーと一緒に仕事をさせていただけるようになりました。

使う人、空間との調和を考えたデザイン

──藤城さんがデザインをされるときのこだわりを教えていただけますか。

僕は「誰もが買えるもの」をデザインしたいと思っています。だからこそ、こだわる部分にはこだわりつつ、買いやすい値段になるようにしています。そしてデザインを通して僕個人を表現するのではなく、お客さんがどんなものを欲しがっているのか、ということを大切に考えています。

──お客さんのことを考えるというのは、イデー時代に特注家具を作られていたご経験からなのでしょうね。お客さんが欲しいもの、というのはどのようにイメージしていくのでしょうか。

既製品は、特注家具のように特定の相手が存在するわけではないので、「見えない相手」の欲しがるものをデザインしなければならない難しさがあります。なので、僕が何かをデザインするときには、どういう場所でどんな人が使うのか、ということをイメージするようにしています。決してひとりよがりなデザインになってしまわないよう、第三者的視点を持つようにも心がけています。

──第三者的視点ですか?

デザイン図を描いたあと、実際にミニサイズの模型を作っているのも、いったん距離をおいて第三者的視点で自分のデザインを見直すためです。模型を作って客観的に見ることで、形としておかしな部分はないか、他のものとの調和が取れるデザインになっているか、というのを確認することができます。実物のようにリアルに作れば作るほど、自分がデザインしているものの完成形が明確にイメージできるので、時間の許す限り精密に作るようにしています。

『シエラ ソファ』のコンセプトとは

──確かに、藤城さんのオフィスにはたくさんの模型が置いてあります。こちらは、今回ご紹介させていただくイデーの「シエラ ソファ」の模型ですが、実際に座面にはクッションが入っているし、本物と見間違うほど精巧です。「シエラ ソファ」は、どのようなコンセプトでデザインされたものなのでしょうか。

もともとはイデーから「都市に住む若者世代や、コンパクトな空間向けのソファを作ってほしい」と依頼されたのがきっかけです。そこで狭い部屋に置いても圧迫感がなく、コンパクトだけれども広く座ることができるソファを作りたいと思いました。

──「シエラ ソファ」は、この背もたれから続くアーム部分が特徴ですが、どうしてこのようなデザインになったのでしょうか。

狭い部屋でも広く座れる、ということを突き詰めていった結果、必然的にこのような形になりました。まずはアーム部分をなくすことで座面の横幅を確保しようと考えましたが、アームがないと、ソファではなくベンチになってしまう。そこで背もたれ部分を少し前側に延長し、包み込まれるような形状にしました。同時に、背もたれ部分はなるべく薄くして、座面に奥行きを持たせてあります。

──先ほど、こだわる部分にはこだわる、とおっしゃっていましたが、「シエラ ソファ」で一番こだわられたポイントはどこですか。

やはり、「SIERRA(山脈)」という名前の由来でもある、見る角度によって違う形状に見えるアーム部分です。この背もたれからアームにつながるところ、ここに縦に線が入っていますよね。この部分は張地を内側から糸で引っ張って線を出しているのですが、きれいに表現するのは難しく、職人の技術で実現しました。

反対に、このアーム部分以外はなるべくシンプルにしました。横から見たときにもスッキリと見えるよう、座面部分は極力薄くデザインしています。薄すぎると座ったときの重さでたわんでしまうので、ギリギリのところを設計するのに苦労しました。スッキリとしたデザインながら、座り心地が気に入って購入される方も多いと聞いています。うれしい限りですね。

──ちなみに、こちらの模型は、同じくイデーで発表されたばかりのサイドテーブルですね。

サイドテーブルシリーズ「リブ」

サイドテーブルには、ソファやベッドといったメインとなる家具を引き立てたり、調和したりする役割があります。そこで、なるべくデザインに余計な理由を持たせない、要素をそぎ落としたデザインにしました。結果的に丸、正方形、直角二等辺三角形という、シンプルで基本的な3種類の形になりました。

デザインのポイントは、丸パイプを何本も組み合わせたフレーム部分です。このパイプは、縦横すべて同じ径のものを使っています。

──サイドテーブルばかりに目を奪われてしまわない、空間に溶け込むデザインなのですね。

模型と同じ縮尺で雑誌の模型を作り、実際に使用シーンをイメージしながらデザインしました。3種類の形状も、丸は空間の真ん中に置いて、正方形は壁際に沿って、直角二等辺三角形は部屋の四隅に寄せて使用することを想定しています。僕の部屋にも何種類か置いてあって、使い分けていますよ。

藤城さんからは「相手のため」「シンプル」という言葉がよく聞かれた。実際、どちらの家具も、シンプルで使い勝手のいいものに仕上がっている。それ以上に、言葉の端々から感じられるものづくりへの真摯な姿勢が印象的だった。こうした丁寧なアプローチから、自然と空間に溶け込むデザインが生まれているのだ。新生活に備えた新しい家具選びに悩んでいる方は、一度イデーに足を運び、藤城さんの家具を実際に見てみてはいかがだろうか。

[PR]提供:イデー