山梨県北杜市の山中に、コピーライターの廣澤昌さんを訪ねた。甲斐駒ヶ岳と富士山の両方が見える自宅で、悠々自適な生活を送っている廣澤さん。実は数々の広告賞を受賞した経歴の持ち主だ。

広告でなくても、プレゼンテーションなどの資料作りに悩んだことのあるビジネスマンは多いはず。今回は大学でコピーの作り方を教えていた経験もある廣澤さんに、「人の心をつかむキャッチコピーの作り方」についてお話を伺い、私たちでもまねができそうなノウハウを教えていただいた。

また、三井製糖の「スローカロリーシュガー」のキャッチコピーを実際に作成してもらった。砂糖と同じ感覚で使え、しかも時間をかけて吸収されるため、糖質が気になる方でも使いやすいスローカロリーシュガー。廣澤さんはどのように、その特長を伝えてくれるのだろうか。

廣澤 昌(ひろさわ まさる)
コピーライター。1943年生まれ。一橋大学卒。サントリー入社後、宣伝部制作課に配属され、ウイスキーを中心に商品広告や企業広告作りに携わる。同社の企業理念「人と自然と響きあう」も作成した。広告電通賞、フジサンケイ広告賞、朝日広告賞など受賞多数。
サントリー二代社長・佐治敬三のスピーチライターとしても活動し、同氏の伝記「新しきこと面白きこと―サントリー・佐治敬三伝」も著す。
創業期のサントリーを知る人物として、社内教育用の小冊子執筆にも携わっている。

パラチノース配合のスローカロリーシュガー。詳細はこちらから

広告は、お客さんへのラブレター

-廣澤さんはコピーライターとしてご活躍されていました。本日は一般の方にもまねできるような、キャッチコピーの作り方を伺えれば、と思います。

あんまり自分自身でも社内でも、コピーの作り方って総括したことないから、うまく説明できるか分からないけど(笑)。

-まずは、廣澤さんがキャッチコピーを作る時の流れを教えていただけますか?

広告っていうのは「商品や会社がお客様へ宛てた手紙」だと思うんです。伝えたい・知ってほしいものがあって、それをどう伝えるか。商品や社長の代わりに、僕たちコピーライターがその素晴らしさをお客様に向けて発信してあげるんですね。ちなみに普通の人には馴染みのない言葉だと思うけれど、広告は「キャッチコピー」と「ボディコピー」(※)から成り立っています。

※キャッチコピー:人の注意を引くための、一言二言の短い宣伝文句。広告に、大きな字などで目立つよう配置されている。
ボディコピー:訴求したいものの魅力を伝えるため、長めに書かれた宣伝文章。広告で、キャッチコピーの下などに、小さい文字でたくさん書かれている。

手紙の本文にあたる大切な部分と見なして、僕はボディコピーを先に書いています。キャッチコピーはそのボディコピーを要約したもの、もしくはボディコピーと付かず離れずのもので、僕の場合はボディコピーを書きながら、キャッチコピーにつながる「ヘソ」はどこだろう、というのを考えていきます。

-先にボディコピーから作っていくのですね。では、ボディコピーはどのように考えていくのでしょうか?

まず、その商品を知ること。そして深く考えることが必要ですね。僕は長らく、ウイスキーの広告コピーを作っていたのですが、ウイスキーの新製品が出たら、チーフ・ブレンダー(ウイスキーの味を設計する人)に、味の特徴やコンセプトをまずは聞いていました。そして、実際に自分でもウイスキーを見て、香りをかいで、味わって、ということをしていましたね。

-ご自分で実際に試されるんですね。

結局言葉というのは、自分自身の体験の中からしか生まれてこないですからね。例えば香りの表現を、「華やかな」と適当な一言でごまかすことはできる。でも、お客様の心には届かない。もっと分かりやすく、想像力をかき立てるように表現する必要があるわけです。でもにおいに名前はないから、「スミレの花のような」とか「ハチミツのような」とか、記憶の中の何かの香りに例える必要がある。それは個人的な経験からしか出てこないんですよね。

-個人の体験が元になるというと、商品のことを深く知るだけでなく、他のことも体験していないといけないですね。

そうそう。いいコピーを書こうと思ったら世の中のいろいろなことを分かっていないといけないんです。むしろ、商品そのもの以外に思いをはせてイメージを広げていったほうが、豊かなコピーになると思いますよ。

-なるほど。そこから、感じたこと・思い浮かんだことを実際に文章に落とし込んでいくのですね。ボディコピーを書くコツのようなものはあるのでしょうか。

こういうと元も子もないけれど、とにかくたくさん書くしかないんですよね。商品を知ることによって頭の中に生まれたイメージがあるでしょう。このイメージはなんだろうなぁ、と思いながら書いていくと、形になるというか、自分の言葉が心から浮かんでくるんです。

-たくさん書いていく中で、次第に固まっていく、ということでしょうか?

それもありますね。いざボディコピーを書こうと思っても、スラスラと書けることはなくて、原稿用紙に何行か書いたところですぐに行き詰まってしまいます。行き詰まったら、別の紙にまた違うコピーを書いて……ということを繰り返すんです。その中から良いと思ったものを見比べて検討して、さらに修正して、最終的なコピーを完成させていきます。

皆さんにひとつアドバイスをするとしたら、コピーをパソコンで書く場合も、先に手書きでちょっと書いたり、出来上がったものをプリントアウトして確認してみたほうがいいです。パソコンは、勝手に文字を予測変換してくれるし、修正する時もコピー&ペーストできるから、作業自体は楽だし早いんです。でも手書きのように言葉の流れや響きを意識しながら、いくつかの案や修正前後を比較・検討することは難しいですから。

-確かに紙に書いたほうが全体をふかんできるし、客観的に見ることができますよね。そして、ボディコピーが完成したら、そこからキャッチコピーを作られるんですよね。

ボディコピーの中の至るところに、キャッチコピーの骨みたいなのが転がっているんです。それを集めながら、またひたすら手を動かします。ひとつのキャッチコピーを作るのに、100個の案を出す人もいます。いろいろな視点から考えて、違った発想で書かなくてはいけないので、100本書くのは大変なんですよ(笑)。

-コピーを作るのには頭の中で考えるだけでなく、実際に体験したり、手を動かしたりするのが何よりも大切なんですね。

この後は、いよいよスローカロリーシュガーのコピーを作っていただきます