『前川清の笑顔まんてんタビ好キ』…この番組をご存知だろうか。ザ・ドリフターズや萩本欽一といったコメディアンたちと軽妙なやり取りを見せてきた前川が、お笑いコンビ・Wエンジンのえとう窓口を引き連れて、九州をはじめとする町を歩き、ノーアポ・ノープランで地元の人とふれあっていくという旅番組だ。九州朝日放送(KBC)をはじめとする九州・山口・沖縄のテレビ朝日系列7局で、毎週日曜正午という激戦区での放送ながら、どの地区でも視聴率は好調でKBCでは最高視聴率14.3%、2014年度の平均視聴率も11.1%と、絶大な支持を受けている。
そんな番組が、10月2日(13:55~15:20)に、テレビ朝日系で初の全国ネット放送されることが決定。沖縄の離島でのロケを終えた前川に、今回の見どころや番組の人気の秘密を聞いた。
――『タビ好キ』初の全国放送ということですが、心境はいかがですか?
だいたいこの番組を全国放送でやるというのは間違ってますね。正直申しましてKBCさんと私との間に、考え方に溝があります(笑)。九州の方たちに楽しんでもらおうという発想でやってますから、全国で流れてうれしい部分もありますけど、根本的にはそこまでやらなくてもという思いです。
――そんなことおっしゃらないでください(笑)。今回は沖縄の人でも名前を聞いたことがないという慶留間島(げるまじま)と阿嘉島(あかじま)を訪れたそうですが、いかがでしたか?
慶留間島には、子供たちが親元を離れて学習しに来る「留学」って制度があるみたいで、それで島に滞在してた東京の子がいっぱいいたんですよ。九州を歩いてると「あ、前川清だ!」って結構言われるんですけど、その子たちには「あんた誰!?」って(笑)。で、久しぶりに親に再会するときだったんですけど、子供たちが親を見るとみんな涙してるんですね。それを見て、長い間会わない間に生まれる感情を受け止めている島なんだなぁと思って。そんな出会いもありました。
――地元の人たちとはどんな出会いがありましたか?
沖縄の家って、みんな庭があってそこを通って中に入らないとピンポンを押せないんで、そこがちょっと怖かったんですけど、ある家に行っておばあちゃんと出会いました。そのおばあちゃんと亡くなった旦那さんの話になったんですけど、「好きで結婚した訳じゃないから寂しくない」って(笑)。酒癖が悪かったそうで、終始恨み節だったんですけど、最後にその旦那さんの写真を見せてもらったら、絶対悪そうな人じゃないんですよ。
ただ、「生きてる時に『タビ好キ』見てくれてました?」って聞いたら、「見てなかった」と言うんで、やっぱり悪いオヤジだったんでしょうね(笑)。でも、おばあちゃんが外出すると、いつも「どこに行くんだ?」ってうるさかったそうで、ヤキモチ焼いてるんだから、やっぱり好きだったんだと思いますよ。
――見どころはそのおばあちゃんですか?
そうですね。どんな旦那さんだったか、ぜひ想像してみてください。ほかにも、自分が経営する宿に泊まるお客さんの食事のために、1人で魚を釣りに行ってるっていうお父さんとも出会いましたね。沖縄では、子供たちもスマホなんか持たないで、1台のテレビでおじいちゃん・おばあちゃんと一緒に『タビ好キ』を見て、面白いと言っていただいてるんです。それに5~6人の家族が多いんで、躍動感を感じましたし、博多に帰ってちょっと寂しさを覚えたりもしましたね。
――今回はゲストに加藤茶さんと、えとうさんの相方のチャンカワイさんを迎えて旅をされたんですよね。
加藤さんは、最近いろいろ危ないこともありましたけど生きてました(笑)。加藤さんを見ると100人中100人が「加トちゃんだ!」って言うんですね。それで「加トちゃんペッ」とか「へーックション!」とかを一般の人にやらせたりして(笑)。やっぱり『8時だョ!全員集合』ってすごいですね。チャンカワイは、東京の子たちに一番人気があって、『イッテQ』の話になりましたけど、日テレの番組のことを放送したら、KBCも大したもんですね。
――南の離島ということで、景色はいかがでしたか?
今回ヘリで島に上陸したんですけど、これはすごいです! 上から見た海や島の緑のきれいさというものには、本当に幸せを感じましたね。
――この番組は、本当にノーアポ・ノープランで、仕込みも全く無いんですよね。
見た人には分かりますからね。田んぼのあぜ道に入って、5~6軒家があれば、この番組は成立します。観光化された店が並んでる表通りには、まず行かない。道を外れると、昔からそこに住んでる人の生活がありますから、そういったところをずっと歩いてるのが『タビ好キ』ですね。
――他の旅番組とは一線を画す点ですね。
僕がモットーにしてるのは、食べ物の店紹介はやめようということ。グルメはある程度視聴率は取れるっていうけど、マズかったら「マズい」って言いたいのに、自分も好かれたいから「おいしい」と言わなくちゃいけない。だからこの番組のメインは、場所じゃなくて”人”。金持ちじゃない、普通の一般の方と出会うと、「何でこんなところに来たんだ?」っていう会話が始まりますよね。(笑福亭)鶴瓶ちゃんや、博多華丸・大吉とかは、しゃべる力があるけど、僕なんかはそういう腕はないから、人頼りなんですよ。
――人が主役なんですね。
だから、人と会わないことには番組は成り立たないんです。旅番組というよりも、ドキュメンタリー、”人間の旅”という感じでしょうね。初対面の人との会話が多いんで、この番組のロケが終わると、すごく疲れます。だから、この町に来て良かったなとか、楽しかったなという思いは、正直言ってあまりないです(笑)
――今までの旅で、印象に残っている人はどんな方ですか?
水害があった町に行ったときに、みんな流されて何もなく、暗いところで、明かりがついてカラオケ屋がやってたんです。話を聞くと、娘さんを亡くされて、奥さんがあまりに悲しむもんだから、好きな歌ができるカラオケの店を作ったんだって。それを聞いて僕が涙を流しながら「哀しみの終わりに」って歌をいい雰囲気で歌ってたんですが、その時にお母さんが電話をとって「はい、予約ですね?」って(笑)。そういう悲しみの裏にも笑いがある人間像が面白いですよね。
――人間らしさがすごく出るんですね。
ほかにも、1人で寂しく生きていても明るい人柄のおばあちゃんが「シェー!」ってやりながらずっとついて来たり、介護施設に入る90歳過ぎのおじいさんが、新しく行くところにはちゃんとあいさつしなければいけないということで、きちんとスーツを着て入居するところに立ち会ったり。おじいちゃんやおばあちゃんに会うと、もう二度と会えないのかなと思ったりもしますが、そういう出会いは、人間がどう年をとっていくんだろうと考えさせられる部分もありますね。だから笑いはあんまり必要ないんです。頑張って暮らしている方を見て、それを見ている方が勇気づけられたり、励みになったりと、そういう“伝達係”を、この番組でできればと思いますね。
――番組を始めてから、前川さん自身いろいろ考え方が変わった部分もありますか?
僕は、もう歌手じゃなくて、「旅芸人」。この番組を始めて「昔歌やってたときは好かんかったけど、あんた良い人やね」と言われるようになったんです。今思うと、ヒット曲はあるけど、歌で人間性っていうのは出てこなかったなぁって。旅番組で人と会話ができて、人の悲しみも分かるようになったけど、歌は一方的に悲しい曲を歌ってるだけで、意外と交流できてなかったんだと思いましたね。だから、最近はショーをやっても、歌主体じゃなくて会話主体でやってます。「ヒット曲も2~3曲ありますから、ちょっと聴きますか?」っていう考え方に変わりましたね(笑)
(マイナビニュース広告企画:提供 九州朝日放送)
[PR]提供: