2016年5月、ウエスタンデジタルコーポレーション(以下、ウエスタンデジタル)は、フラッシュメモリ大手のサンディスクコーポレーションの買収を完了した。

サンディスクと東芝は、三重県・四日市市のフラッシュメモリ半導体工場を共同で運営しており、ウエスタンデジタルがそのままパートナーシップを引き継ぐ。去る7月14日には、四日市工場・新第2棟の竣工式に合わせて、ウエスタンデジタルの経営陣が来日。ウエスタンデジタルでコーポレートコミュニケーションディレクターを務めるJim Pascoe(ジム・パスコー)氏に、サンディスク買収の狙いや今後の戦略について話を聞いた。

写真左はウエスタンデジタル、写真右はサンディスクの主なコンシューマー向けストレージ製品

熾烈なストレージ市場でウエスタンデジタルが勝ち残ってきた理由

長年PCに触れてきたユーザー、特にPCを自作した経験のある人なら、ウエスタンデジタル(Western Digital)の名前を一度は耳にしたことがあるだろう。

ウエスタンデジタルは1970年に米国・南カリフォルニアのアーバイン市で創業し、電卓向けの半導体を製造して成長。1980年代にHDD事業に参入し、今日にいたるまで業界を牽引する存在であり続け、HDDでは世界シェアNo.1だ。2012年にはHGSTを買収(当時は日立グローバルストレージテクノロジーズ)。ちょうど同じ時期に、シーゲイト・テクノロジーがサムスン電子のHDD部門を買収し、HDD業界の再編が注目されたのも記憶に新しい。

サンディスク買収により、現在のウエスタンデジタルは、HDDからフラッシュメモリ製品まで幅広い製品ポートフォリオを誇る総合的なストレージメーカーとなり、以前からのHDD、フラッシュメモリともに垂直統合型のビジネスモデル戦略をとっている。

今後の急激なデータ量の拡大に備えて必要となるHDDの大容量ストレージに加えて、NANDフラッシュメモリを使った一般消費者向けの製品、エンタープライズ向けやデータセンター向けとなるPB(ペタバイト)クラスの大容量ストレージシステムまで、豊富なラインナップをそろえるにいたった。

もうひとつ、ウエスタンデジタルを語る上で注目したいのは、継続して利益を出し続ける経営の安定感だ。紆余曲折がなかったわけではないが、近年は先に挙げたHGSTやサンディスクだけでなく、様々な企業を買収して、いずれもスムーズな経営統合を成功させている。

―― ウエスタンデジタルが、ライバルひしめくストレージ業界でここまで勝ち残ってきた要因は、どこにあるとお考えですか?

ウエスタンデジタル コーポレートコミュニケーションディレクター Jim Pascoe(ジム・パスコー)氏

ジム・パスコー氏「HDD業界は、この10年間で極めて厳しい整理統合が行われてきました。ピークといわれた1980年代は100社近いメーカーが存在しましたが、今では数社になっています。

最大手といっても良いポジションでウエスタンデジタルが生き残っている要因はいくつか考えられますが、最大の理由は常にお客様を第一に考えながら、イノベーションを進めてきたことだと思います。

節目節目で、市場や顧客のニーズにあわせてビジネスを変えながら成長してきました。HGSTやサンディスクなどの買収もそうした判断のもとにあります。

サンディスクに関してはもうひとつ、会社の姿勢も挙げられると思います。ウエスタンデジタルには、メディア・アグノスティック(Media Agnostic)というポリシーがあります。これは『どのメディア(記憶媒体)にも依存しない』という意味。

どこにデータが記憶されていようと、常に正しいデータ、顧客のニーズにマッチした製品を提供するという考え方です。この考え方にもとづいて、フラッシュメモリ大手のサンディスクを買収したのです。

この買収により、ウエスタンデジタルはターゲット市場を2倍に拡大し、4つのメガ市場に対して製品を販売できるようになりました。(1)消費者、(2)モバイルとコネクテッドデバイス、(3)クライアントコンピューティング、(4)データセンター/エンタープライズの4つです」

ウエスタンデジタルのコンシューマー市場向けとモバイル&インダストリアルシステム市場向け、クライアントコンピューティング、データセンター向けのポートフォリオ。サンディスク製品が少なくない割合を占めていることが一目瞭然だ