2月29日に迫った「第88回アカデミー賞授賞式」。今回は、その作品賞部門にノミネートされた8作品全てをイチ早く鑑賞した映画ライターの田嶋真理が、知っておくと映画をより楽しめるトリビアを交えつつ、ガチンコ予想。果たして、今回作品賞を受賞する作品の大本命はどの作品なのか。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』2016/3/4日本公開
出演者:クリスチャン・ベイル、スティーヴ・カレル、ブラッド・ピットほか。
寸評:リーマンショックの前にいち早く経済破綻の危機を予見。ウォール街を出し抜いた4人の男たちの実話をスリリングに描く。主演級のスター俳優たちをズラリ揃えた上に、大人の事情(※ブラピが共同経営するプランBも映画製作会社のひとつとして参加している)で、ブラピも参戦。豪華キャストとテンポの良いストーリー展開で、地味になりがちな風刺の効いた社会派映画にエンタテインメント性を持たせている。毎回、徹底した役作りで、誰だか分からなくなるほど外見を変えてしまうクリスチャン・ベイルが珍しく通常の姿で"なりきり演技"を披露。彼に負けず劣らずの熱演を見せたが、アカデミー賞のノミネーションを逃したスティーヴ・カレルの同情票もあいまって、受賞のダークホースと言えるだろう。
【受賞の可能性☆☆☆】
『ブリッジ・オブ・スパイ』日本公開中
出演者:トム・ハンクス、マーク・ライランス、スコット・シェパードほか。
寸評:スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演、ジョエル&イーサン・コーエン脚本と、アカデミー賞受賞歴を持つ才能が結集。米ソ冷戦下で起こったスパイ交換の実話を描く。トム・ハンクス演じる主人公の弁護士が弁護を通じて、アメリカ中から憎まれているソ連のスパイと心を通わせていく過程が秀逸。主人公が敵国で事態の収拾に暗躍するサスペンスフルな展開もあって、飽きさせない。ソ連の職業スパイを演じたマーク・ライランスは、英国ドラマ『ウルフ・ホール』のトマス・クロムウェル役でも有名だが、本作では全く別の顔を見せ、職人技を見せつけている。助演男優賞をシルヴェスター・スタローンと争っているのも納得。作品の評価は彼が持っていきそうだ。
【受賞の可能性☆】
『ブルックリン』2016年7月日本公開
出演者:シアーシャ・ローナン、ジュリー・ウォルターズ、ドーナル・グリーソンほか。
寸評:映画『つぐない』で当時最年少のアカデミー賞助演女優賞候補となった美少女も現在21歳。本作では1950年代にアイルランドからニューヨークのブルックリンにやってきた移民の少女が、洗練された大人に成長していく姿を表現している。起用の当初はシアーシャの実年齢が役に比べて若過ぎると判断され、彼女の成長を待って撮影が行われたそう。撮影期間は、わずか8週間。その短い時間で彼女は目立たない性格の少女が自立した大人の女性に変わっていく様子を見事に演じ切っている。現地の批評家からも絶賛されており、映画『ルーム』のブリー・ラーソンという最強の本命がいなければ、彼女が主演女優賞を獲得する可能性はより高かっただろう。こちらも『ブリッジ・オブ・スパイ』同様、評価は俳優が持っていくため、作品賞の受賞は難しいだろう。
【受賞の可能性☆】
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』日本公開済み
出演者:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルトほか。
寸評:ストーリーはシンプルで、資源が底を突き荒廃した世界を舞台に、マッドなキャラクターたちが生き残りをかけて戦うというもの。ほとんどCGを使わず、80%以上をロケ、メイクアップ、スタント、セットで表現したという驚異のアクションは必見!説明もセリフも極力省いてあるため、リアルなアクションを思う存分楽しめる。「マッドマックス」シリーズの生みの親ジョージ・ミラーは現在70歳。撮影した映像素材は480時間以上に及び、編集者のマーガレット・シクセルは内容を確認するのに3カ月を要したそう。ちなみに、マーガレットは監督の愛妻で、その手腕が評価され、編集賞の最有力候補となっている。アカデミー賞は映画業界の関係者がお互いの功績を褒めたたえるもの。功労賞の要素も濃いため、作品賞だってひょっとするかも!?
【受賞の可能性☆☆☆】
『オデッセイ』日本公開中
出演者:マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、クリステン・ウィグほか。
寸評:アンディ・ウィアーのベストセラー小説「火星の人」を映画化。火星にひとり取り残された宇宙飛行士のサバイバルを描く、と書くと、なんだか深刻な物語を想像してしまうかもしれない。観てみると、主人公の状況に即した絶妙な歌詞のディスコ・ミュージックが流れる、陽気で前向きなSFサバイバル・アクションに仕上がっており、良い意味で裏切られる。今年のゴールデン・グローブ賞ではコメディ部門にノミネートされたことが物議を醸し、授賞式でジョークのネタにされていたが……。水と酸素を作り出し、ジャガイモを育てる、科学技術に裏打ちされたサバイバル術にも目を見張る。ちなみに、リドリー・スコット監督は、これまでに監督賞に3度ノミネートされたことがあるが、受賞経験は無し。しかも、作品賞でノミネートされるのは今回が初めてだ。誰もが認める名匠だが、果たして受賞なるか!?
【受賞の可能性☆】
『レヴェナント 蘇えりし者』2016/4/22日本公開
出演者:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ドーナル・グリーソンほか。
寸評:ゴールデン・グローブ賞で3冠を獲得し、アカデミー賞では最多12部門でノミネートされた、作品賞の大本命。舞台はアメリカ西部の広大な未開拓の荒野。狩猟中に熊に襲われて瀕死の重傷を負ったハンターのヒュー・グラスが体験した過酷なサバイバルの旅を描く。実在の出来事をベースにしているが、ヒュー・グラスには息子がおらず、結婚した記録すらないため、その部分はフィクション。復讐劇に終わらず、妻子のドラマを肉付けすることによって、主人公の旅に更なる意義を持たせている。ヒューを演じたレオナルド・ディカプリオは、極寒の川に飛び込み、本物の馬の死がいの中に入り、親友トム・ハーディに格闘シーンで鼻を折られ、ベジタリアンなのにバイソンの生の肝臓を食べさせられるという、数々のドM演技を展開。こちらも主演男優賞で大本命となっている。
【受賞の可能性☆☆☆☆☆】
『ルーム』2016/4/8日本公開
出演者:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレンほか。
寸評:実際の監禁事件をベースにしたベストセラー小説「部屋」を映画化。監禁された女性と、監禁部屋で生まれ育った息子が脱出し、社会へ適応していく過程を描く。ありがちな監禁モノとは異なり、性的なシーンは最小限に留められ、5歳の男の子ジャックのファンタジックな視点で物語が語られているところが特長。さらに、本作は母子が監禁部屋から脱出して終わるのではなく、その後、母親が周囲やマスコミによって傷つけられていく様まで追っている。ヒロインのブリ-・ラーソンは主演女優賞の大本命。ジャックを演じた子役のジェイコブ・トレンブレイが助演の候補を逃したのは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のシャーリーズ同様に予想外の事態。ただ、本作は実験的な要素が強く、アカデミー賞会員の票が分かれると思われる。
【受賞の可能性☆】
『スポットライト 世紀のスクープ』2016/4/15日本公開
出演者:マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムスほか。
寸評:2002年1月、アメリカ東部の新聞「ボストン・グローブ」の記者たちがカトリック教会のスキャンダルを暴いた実話を描く。神父という絶対的な権力者による児童への性的虐待を、カトリック教会が組織ぐるみで隠蔽していたという衝撃的なスキャンダル。カトリック教徒の多いボストンではそのことを追求するのはタブーだった。本作は犯罪の糾弾よりも、ジャーナリズムに焦点を当てることで、真実に迫っていくスリルと同時に記者たちの心の葛藤を如実に炙り出す。本作の監督・脚本を手掛けたトム・マッカーシーは、監督賞を『レヴェナント 蘇えりし者』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥに持っていかれるかもしれないが、脚本賞の受賞は固いだろう。作品賞では、『レヴェナント 蘇えりし者』を脅かす唯一の対抗馬だ。
【受賞の可能性☆☆☆☆】
いかがだっただろうか。なお、2月29日行なわれる「第88回アカデミー賞授賞式」の様子はWOWOWで生放送する。果たして、今回の予想が当たるか。この番組をみながら楽しんでみてはいかがだろうか。
『生中継! 第88回アカデミー賞授賞式』
WOWOWプライムにて2月29日(月)午前9:00~[同時通訳]、2月29日夜9:00~リピート放送[字幕版]
田嶋真理
映画・海外ドラマのライター、セレブウォッチャー。TV番組にハリウッド・エンタメ企画のコメントを提供するほか、雑誌やWEBでコラムを執筆。昨年、今年はAXNのゴールデン・グローブ賞授賞式の生中継番組にコメンテーターとして連続参加した。3歳になる娘がいるため、最近は親子の人間ドラマに涙腺が緩みがち。
(マイナビニュース広告企画:提供 WOWOW)
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