マシンパワー命のゲーミングPCにおいては、性能と静音性は相反する関係にある。さらに省スペース性を追加すれば、静音性はぐっと犠牲にならざるを得ない。小型で高性能、かつ静かというPCの設計は難しいのである。しかしデルの「ALIENWARE X51 プラチナ」(以下、X51)は、百科事典サイズの省スペースボディーにCore i7-6700K(いわゆるSkylake)にGeForce GTX 960を組み合わせ、かつ静音性も確保した意欲的な製品だ。本来ミドルタワー型のデスクトップ機でもおかしくないスペックのマシンだが、その実力はしっかり発揮できるのだろうか。早速チェックしてみたい。

小型の水冷ユニットを搭載

X51のボディーは幅わずか95mm、奥行きも318mmと通常のタワー型PCと比べ段違いに省スペース。だが本機の凄いところは、この百科事典クラスの省スペースボディーに、Core i7-6700Kと簡易水冷ユニット、さらにGTX 960搭載ビデオカードも組み込んである点だ。ALIENWARE X51シリーズは本機を含め全4モデルが用意されているが、簡易水冷はCore i7-6700Kを搭載する本機"プラチナ"と最上位の"スプレマシー"にしか搭載されない。ただ、簡易水冷ユニットは場所をとる関係上、本機には光学ドライブは内蔵できない。もし光学ドライブを使うようなゲームを楽しみたいのであれば、別途USB接続のものを用意しよう。

スリムなブック型ケースでも静音性を実現した「ALIENWARE X51 プラチナ」(海外ではX51 R3とも呼ばれている)。通電時は正面のエリアと両側面の三角形の部分がライトアップされる

縦置きはもちろん、横置きも可能だ。同社直販サイトで179,980円(税別)で発売中

X51の内部構造。上側の約半分を占める黒い物体が簡易水冷ユニット、下側がビデオカードのスペースだ。中央やや右寄りの小さなファンは、マザーボードのVR部を冷却するための専用ファンだ

装備よりもコンパクトさを重視した製品なので搭載ポート数は厳選されているが、外付けユニットでGPUを強化する「Graphics Amplifier」対応のほか、10GbpsのUSB3.1ポートも搭載しているなど、小さいながら拡張性も確保されている。またX51は電源ユニットを内蔵せず、ACアダプタで給電するため電源ユニットの分ファンが少ないというメリットがあるが、ACアダプタはちょっとした弁当箱サイズ。ただこのおかげで机の上の専有面積が劇的に小さくなっているので痛し痒しといったところか。

X51のフロントパネルにはUSB3.0が2基配置されている

背面には青いUSB端子が4基あるが、写真左側の2基はUSB3.0、右側の2基(よく見るとアイコンに「10」という刻印がある)は転送速度最大10GbpsのUSB3.1となっている。その中間の細長いスロットはGraphics Amplifierを接続するためのものだ

X51のACアダプタは写真のように非常に大きい。ただACアダプタは机の裏などに転がしておけばよいので、本体を設置するスペースは最小限で済む、というわけだ。ハイパワーなCPUとGPUを採用しているため、ACアダプタの出力は330Wと非常に大きい

X51のビデオカードはライザーカード経由でボディー下部に設置されるが、このライザーカードに"いい仕事"が施してある点にも注目だ。ビデオカード装着部の裏にM.2スロットが用意されているが、CPUのPCI Expressレーンを単純に分岐する設計ではなく、M.2スロット用に専用のレーンが割り当てられるような設計になっている。M.2スロットにPCI Express接続のSSDを装着しても、ビデオカードは16レーンフル帯域が利用できるのだ。搭載されているGTX 960は冷却にブロワーファンを利用するため静音にはやや不利だが、GPUの熱を奪った空気をケース外に排出する"外排気"仕様なので、X51の設計コンセプトにはピッタリといえる。

スチール板で囲われている部分を外すとライザーカードとビデオカードがごっそりと外れ、隠されていたHDDにアクセスできるようになる

ライザーカードのスロットは、ビデオカード用のPCI-Express x16スロットにx1スロットを継ぎ足したような形状になっている。このエクストラの部分でM.2 SSDへの帯域(おそらくx4)を確保しているのだ。中央の小さな基盤は802.11ac対応の無線LAN+Bluetooth 4.0のコンボカード

M.2スロットはライザーカードの"裏"に用意されている。ここに最大512GBのPCI-Express接続のSSDをBTOで組み込むことができる

テスト機のハードウェア情報を「CPU-Z」(左)および「GPU-Z」(右)でチェック。GPUはブースト1178MHzの完全リファレンス準拠仕様になっている。

「CrystalDiskInfo」による内蔵ストレージの情報。X51プラチナのストレージは7200回転のHDD1基のみなので、ゲームのインストールや起動はちょっとモタつく印象。快適さを考えるならBTOでSSDは追加しておきたいところ。

OCも可能な設計

ALIENWAREシリーズに欠かせない要素のひとつが"AlienFXライティング"、つまりイルミネーション機能だ。このX51にもフロントのエイリアンエンブレムと両側面にフルカラーのイルミネーションが仕込まれており、常駐する「コマンドセンター」を利用して発光色やパターンを自在に設定できる。コマンドセンターではさらに省電力設定を変更する「AlienFusion」、CPUやGPUの負荷をチェックする「AlienAdrenaline」といった機能を備える。ここまでは他のALIENWAREシリーズとほぼ共通の機能だ。

本体3箇所のイルミネーションをカスタマイズする「AlienFX」。発光パターンの組み合わせは自由に保存できるため、起動するゲームの種類によって発光パターンを細かく変えることもできる

システムの省電力機能を直接変更する「AlienFusion」。コントロールパネルで設定できることをそのまま持ってきただけなので、実用性はやや疑問が残るところ

AlienFX同様にユニークなのが「AlienAdlenaline」。起動するゲームとAlienFXの発光パターンを関連付けたり、図のようにCPUやGPUの負荷を監視する機能がある

だがX51 プラチナのコントロールセンターを開いたなら、Core i7-6700KをOCする「OCControls」と温度やファン回転数を監視する「ThremalControls」もチェックすべきだ。出力330Wの大型ACアダプタに簡易水冷ユニットがセットになっている理由は、CPUを4.4GHzにオーバークロック(OC)する機能が付いているからだ。Core i7-6700Kは定格4GHz、TB時最大4.2GHzなので、4.4GHzという数値は極めて"気休め"的なOCにすぎないが、CPUに負荷をかける作業をする時にほんのちょっと急かす気持ちで使うとよいだろう。

「OCControls」右上の「オン」と「オフ」をクリックするだけで定格とOC設定を切り替えることができる。非常にわかりにくいが、オフ(左)状態では画面下方にある「CPU比率」が「42」倍に、オン(右)では「44」倍に設定される。これはそれぞれ4.2GHzと4.4GHz動作であることを示すものだ

「ThermalControls」はCPUの温度やファンの回転数などを監視できる。画面上に出ている温度情報だけを常時デスクトップ上にウィジェット化する機能もあるが、時々落ちることもあるなど、少々荒削りな印象がある