20代で子宮頸がんを気にするのって、早すぎる?
あなたは、子宮頸(けい)がんの検査を受けていますか? おそらく若い女性の中には、「がんの検査なんて、年をとってからで大丈夫」と考えている人も多いのではないでしょうか。実は子宮頸がんは、セックスを介して感染するウイルスが原因であることがわかっており、成人女性の多くに罹患(りかん)する可能性がある病気です。
そのウイルスが「ヒトパピローマウイルス(HPV)」。もともとイボを作るウイルスとして知られるありふれたものですが、実はたくさんの種類があり、その一部が子宮頸がんの原因になります。これをハイリスク型HPVと呼びます。
ハイリスク型HPVに感染してもすぐに子宮頸がんになるわけではなく、9割以上の人は自然に治癒すると考えられています。一方で、治癒せずに持続的に感染した場合や、治癒しても何度も感染を繰り返した場合には子宮頸がんに発展してしまいます。
子宮頸がんになるにはある程度の時間がかかるので、かつては40歳以上の人の病気だと考えられていました。ところが、近年は20~30歳の女性の子宮頸がんが増えています。その理由の一つに、セックス体験の低年齢化傾向が挙げられます。この対策として、子宮頸がん検診は他のがんより早い20歳から受診対象となっているのですが、残念なことに20代の検診受診率は22%程度(「平成25年厚生労働省国民生活基本調査」より)しかなく、この受診率の低さも子宮頸がんが若い年代で増えている理由の一つでしょう。
若い女性たちにもっと検診を受けてもらうには、「20~30代での罹患数が増加している」という事実の他に、「子宮頸がんという病気の怖さ」をお伝えしていく必要があると感じています。
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子宮頸がんにはがん化する前の病変がある
子宮頸がんはある日突然なってしまうのではなく、「異形成」や「上皮内新生物」と呼ばれる「がんではない病変」(前がん病変)を経由してがん化します。がんではない、という意味は、転移などせず治る可能性がとても高い、と考えてください。つまり、早期発見できれば大きな手術などせずに完治することが可能です。
子宮頸がんがどの段階(ステージ)で発見できるかによっても、検討される治療法は異なります。主な治療法を見ていきましょう。
・ごく早期の子宮頸がんや前癌病変の場合
子宮頸部のがんのある部分だけを円錐(えんすい)状に切り取る「円錐切除術」を行います。ただ、切り取った部分を検査した結果、術前に考えていたより進んでいることが判明するケースもあり、円錐切除術は治療だけでなく診断の意味も含みます。レーザーで表面だけを蒸散させる方法もあり子宮へのダメージは最小限にできますが、診断が不十分になる可能性があります。
・進行した子宮頸がんの場合
がんが表面を超えて広がってしまった場合でも、わずかであれば子宮の摘出と膣、基靭帯の一部を切除する「準広汎子宮全摘出術(じゅんこうはんしきゅうぜんてきしゅつじゅつ)」を行います。最近では妊娠できる可能性を残すために「広汎子宮頸部摘出術(こうはんしきゅうけいぶてきしゅつじゅつ)」を行う病院もありますが、非常に限られています。
さらに進行した子宮頸がんでは、子宮だけでなく膣の一部、周辺の結合組織、リンパ節まで切除する「広汎子宮全摘術」を行います。手術以外の選択肢として、放射線治療や化学療法を行うこともあります。
手術をしても、後遺症に苦しむ場合も
前がん病変やがんの早期の段階で発見でき、治療法が「円錐切除術」であれば、子宮そのものは残すことができて術後も妊娠が可能です。ただ、妊娠した場合の流産や早産の可能性が高くなることが多く、頸管狭窄により不妊になってしまうこともあります。
一方、子宮を含めた広範囲を取り除く「広汎子宮全摘術」を行った場合は、妊娠・出産の可能性は原則的になくなってしまいます。リンパ節を切除するため、足に治りづらいむくみが出現する「リンパ浮腫(ふしゅ)」や、排尿の感覚がなくなってしまい自分で導尿しなければならなくなる「排尿障害」が残る場合もあります。また、膣を大きく切除した場合はセックスができなくなりますし、「子宮がなくなった」という事実が精神的なダメージとなることも多いようです。進行した子宮頸がんの手術は、うまくいっても女性のその後の人生に大きく影響します。
大きなリスクを避けるためには、早期発見が大切
子宮頸がんの手術により妊娠できなくなってしまったり、後遺症に苦しんだり……。そんな悲しい事態を防ぐために、一番大切なのは、「早期発見」です。子宮頸がんは、セックス経験があればどんな女性にもリスクがある一方で、検査により発見しやすい病気でもあります。前述のとおり、子宮頸がんは、原因となるハイリスク型HPVに感染した後、通常、5~10年かけて子宮頸がんへと進行していくと考えられています。20歳頃から定期的に子宮頸がん検診を受けていればがんになる前の状態で発見することも可能で、がんの早期までに発見できれば根治できる可能性が極めて高くなります。
「HPV検査」とは?
日本における「子宮頸がん検診」では、「細胞診」といって子宮頸部の細胞を器具で採取し異常がないかを調べる検査が行われます。これで異常な細胞が見つかった場合、「組織診」という、数ミリ角の組織を爪切りのような器具で切除採取して詳しく調べることになりますが、一般に痛みが強く出血も多くなることがあり、翌日も通院しなければならなくなることもあります。
近年は、HPVが子宮頸がんの原因ウイルスであることが判明し、ハイリスク型のHPVの存在がわかってきたことから、細胞診で疑わしい病変があった場合は、組織診の前に「HPV検査」が導入されるようになりました。
HPV検査はハイリスク型HPVの感染があるかどうかを調べるもので、。従来の子宮頸がん検診と同様に細胞を器具で採取して調べますので、細胞診と同時に施行することも可能です。HPV検査で陽性でも必ず子宮頸がんになるわけではありませんが、HPVの有無を知ることで検診の必要性を自分で知ることができるため、子宮頸がんの予防につながるでしょう。
2年に1度の子宮頸がん検診を習慣に
子宮頸がんのリスクや予防の大切さについて、おわかりいただけたでしょうか。もし子宮頸がん検診を受けたことがない人や、あるいは過去に受けてから何年か経ってしまったという人がいたら、ぜひ子宮頸がん検診を受けることをおすすめします。多くの自治体や職場で検診費用を助成していますので、自治体もしくは加入している健康保険組合に問い合わせをしてみましょう。
最近では子宮頸がん検診にHPV検査を取り入れている自治体もありますし、多くの産婦人科や検診施設でも希望すればHPV検査も追加できるようになっています(特定の細胞診異常があった例を除いて保険は使えず自費の検査となります)。
重大な病気と、その発見の遅れが、あなたの大切な未来に影を落とすことがないよう、20歳以上の女性は、ぜひ2年に1度の子宮頸がん検診を習慣にしてくださいね。
ご監修いただいた先生
井畑穰 先生
よしかた産婦人科 診療部長
婦人科腫瘍専門医
日本産婦人科学会専門医
東北大学卒業後、横浜市立大学附属病院、神奈川県立がんセンター、横浜労災病院などで婦人科腫瘍を専門として臨床に従事。
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